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視覚障害者図書館および情報サービス事業の資金調達および管理システム:国際事例研究

第一部:概略報告書

資料の提供

読み物の製作と変換

サービス提供機関は、原本資料をどのように入手したか、誰が変換を行うのか、どのフォーマットに変換するのか、図書は保存のために変換されるのか、それともリクエストに応じて変換されるのか、あるいはその両方か、資料の提供に関してどのような目標があるのかなどを質問された。

サービス提供機関は、変換用の印刷物や電子テキストを購入したり、借りたり、寄付してもらったりしている。多くの場合、点字への変換を行う職員が組織内にいるが、この作業を契約機関(アメリカ合衆国の場合NLS、スウェーデンの場合TPB)に外注しているところもある。ボランティアを使っている機関も2,3ある(カナダのCNIBと日本)。オーディオカセットとオーディオDAISYについては、朗読ボランティアの利用がさらに一般的である。

図書館は、変換用の印刷テキストや電子ファイルの原本だけでなく、児童用のさわる本など専門の提供機関からの資料と合わせて、他国の図書館や、他の代替フォーマット提供機関、商業用大活字本出版社によって製作されたマスターDAISYファイルやオーディオファイル、あるいは出版社が製作したデジタルオーディオファイル(これらはその後DAISYに変換される)など、別の場所で製作された代替フォーマットも入手している。

製作されている最も一般的なフォーマットは、点字とオーディオカセット、およびオーディオDAISYである。オランダのDediconとスウェーデンのTPBでは、オーディオカセットや一般のオーディオCDはもう製作しておらず、アメリカ合衆国のNLSでは、今後5年以内に段階的にカセットテープを廃止していく予定である。CNIBも、蔵書用のオーディオカセットの製作を中止し、完全にデジタルへと移行した。

多くの事例において、専門図書館は大活字資料を提供しておらず、スウェーデンやアメリカ合衆国では公共図書館が直接これを調達している。

資料が保存のために製作されているか、あるいはリクエストに応じて製作されているかという問題は、明白に線を引いて分けることはできないが、各国での貸出数の比較と、ユーザーの満足度から判断すると、重要なことが明らかになる。つまり、リクエストに効果的に応じたサービスは、理論上、アクセシブルなフォーマットに変換される資料の割合が低くても、要求を100%満たすことができる、ということである。

しかしながら、これをもってしても、まだ平等な状況とは言えない。その理由の一つには、読み物を選ぶことができる世界が、平等に与えられていないことがあげられる。目が見える読者は物理的にも、またオンラインでも、書店や図書館をめぐることができる。将来的には視覚障害者にとってもこれが容易になるであろうが、今のところは、このギャップが残されている。ユーザーはリクエストしたものすべてを入手できるかもしれない(多くの場合それはまだ遠い目標ではあるが)。しかし、その場合でも、自分たちがリクエストしたいものが必ずしもわかっているわけではないのだ。

保存のみ

  • NLS
  • Dedicon(フィクション)
  • DBB

おもに保存

  • Blindlib
  • 韓国点字図書館
  • CNIB

リクエストのみ

  • Dedicon(学習教材)

保存とリクエストの両方

  • TPB(60%はリクエスト)
  • ビジョン・オーストラリア(高等教育用学習教材はすべてリクエストによる)
  • CNIB(15%はリクエスト)
  • 韓国点字図書館(40%はリクエスト)

製作レベルの目標

ほとんどの回答者は特に正式な製作上の目標はないと回答した。スウェーデンのTPBだけが、国内で製作されるすべての図書に対する割合として示される年間目標を持っていた。

TPB:
政府の決定によれば、スウェーデンで1年間に製作される図書の25%(現在年間3250)は録音図書として製作されなければならない。
DBB:
年間の製作割合はDBBにより決定される。

選択の基準

図書が保存目的で選ばれる場合、選択の基準に関する問題があることは明白である。多くの専門図書館が、蔵書の大部分、もしくはすべてが、司書チームや、あるいは司書たちからなる選考委員会によって、ガイドラインに従う場合もあるが、主として利用者が求めている図書に関する司書の知識と経験に基づいて選ばれると回答した。公共図書館が独自に大活字本などの蔵書を選ぶ場合は、地域の収集戦略や制約に従う。

イギリスのNLB(国立視覚障害者図書館)からは、ユーザーの意見という回答が特に得られた。ビジョン・オーストラリアは、利用者からの提案や、ジャンル、受賞作品であること、オーストラリア的内容と人気作家などの好みに加えて、利用者からのリクエストを予測し、これに従うと回答した。CNIBは、図書の75%が書評に基づいて選ばれるか、あるいは受賞作品から選ばれるとし、残りの5%はシリーズ本や紛失した図書の買い替えであり、5%は登場人物やテーマが特に視覚障害者の関心を引く図書、そして15%はリクエスト図書であると回答した。

一部の図書館では、リクエストに応じた製作が、図書館の活動の一部、またはすべてを構成している。オランダのDediconは、すべての学習教材をリクエストに応じて製作している。これは、それぞれの学生が特別な教材を必要とするからである。スウェーデンのTPBでは、点字図書の60%と、オーディオDAISY製品の一部をリクエストに応じて製作している。日本では、点字図書館が図書の40%をリクエストに応じて製作している。これに対して、アメリカ合衆国のNLSは、リクエストに応じた製作は一切しておらず、NLSの資料を利用して、NLS自身が選んだ資料のコピーを複数提供している。

リクエストによる製作は、将来さらに重要になる傾向にある。原則として、すべての図書のデジタルファイルを維持し、リクエストされたものだけを変換する方がずっと効率的である。しかし、これは出版社との緊密な協力と、迅速な変換プロセス次第である。また、年度の途中で資金がなくならないように、さまざまな財政上の制限が必要である。

年間製作タイトル数/全蔵書数

一年間に変換される図書のタイトル数と全蔵書数が明らかな場合、これらを比較することは興味深い。驚くべきことに、アメリカ合衆国などの非常に大きな国で、主要なサービス提供機関(およびその他の機関)が昨年製作したオーディオ図書のタイトル数は、オランダやスウェーデンなどのはるかに小さな国々で製作された図書の数よりも少ないことがわかる。(ただし、アメリカ合衆国では、学習教材はRFB&Dによって提供されるので、NLSが提供するサービスの範囲は、他国の主要なサービス提供機関とは異なっている。)これは、少数の図書のコピーを大量に製作し、それらをすべての地域図書館に配布し、エンドユーザーのもとに届けてもらおうというNLSの方針を反映している。図書一タイトルにつき、最高で2,000部近く、最低で約400部、平均して約900部のコピーが製作されている。これは、配布モデルが製作および複製に関する決定にどのように影響を与えるかを示唆している。NLSは、このモデルをデジタル録音図書に適用できるかどうか、あるいは、一部、または完全にリクエストによるコピーの製作へと変更するべきかについて、調査と協議を実施した。

カナダ
CNIB:CNIBは毎年600タイトルのDAISY図書を一から製作しており、別の場所で録音され、CNIBで製作された図書と合わせて2000タイトルを、毎年追加している。点字図書の数は320タイトル。
クロアチア
クロアチア視覚障害者図書館-全蔵書数は点字図書2,087、オーディオ図書2,092、大活字本6,296。
デンマーク
DBB
現在、オーディオ図書の蔵書数は、アナログ図書が約12,000タイトル、デジタルオーディオ図書(DAISY)が14,000タイトル。
現在、点字図書の蔵書数はおよそ4,200タイトルである。点字図書は2002年からリクエストに応じて印刷、配布されている。
日本
点字図書館には、495,327タイトルの点字図書があり、481,148タイトルはカセットテープで、267,090タイトルはDAISY図書として所蔵されている。
公共図書館は、カセットテープの録音図書を180,617タイトル、DAISY図書を10,367タイトル、点字図書を99,827タイトル所蔵している。市販のオーディオブックおよびカセットテープ、さわる本、手製の大活字本などもある。
韓国
韓国点字図書館による年間点字図書製作数は3,000、DAISY図書は1,200タイトル。すべての図書館の点字図書の蔵書数は合計で110,000。
オランダ
Dedicon:オーディオブックの製作数は年間3,500。録音図書の蔵書数は合計で115,000。フィクションの録音図書の製作数は年間1,200タイトル、フィクションの点字図書の製作数は年間450タイトル。
別の小規模な製作機関であるCBBによる録音図書と点字雑誌の製作数は500。
スウェーデン
TPB(2006)
新たな録音図書(DAISY)の製作数:5,629タイトル
過去のアナログ図書のDAISYへの変換:8,875タイトル
新規収蔵録音図書の合計:13,021タイトル
録音図書の全蔵書数:およそ40,000タイトル
2006年の新規収蔵点字図書:454タイトル
点字図書の全蔵書数:12,912タイトル
イギリス
RNIB-録音図書の蔵書数(2006年11月)は13,000タイトル。2005年度は450タイトルを追加。
カリブレ・オーディオ・ライブラリー-7,000タイトル。2005年度は269タイトルを追加。
NLB-2006年3月、NLBは42,000タイトルを所蔵(おもに点字)。通常年間1,000タイトルを追加。
(NLBおよびRNIBは2007年1月1日付で合併)
アメリカ合衆国
NLSは、2005会計年度、3,925タイトルのオーディオ図書および点字図書(このうち約2,000タイトルがオーディオ)、45タイトルの録音雑誌、33タイトルの点字雑誌を製作。蔵書数は合計で360,000タイトル以上。
RFB&D(学校の生徒および大学生のために教科書を録音):製作数5,134。蔵書数109,106。

著作権に関する例外

世界盲人連合が述べているように、

「アクセシブルなフォーマットは、著作権法上で何らかの例外あるいは制限が認められていない場合、著作権の観点からは複製と見なされるので、アクセシブルなフォーマットの製作機関は、著作権所有者の許可を得ていることを表明する必要がある。許可を得る必要性から、遅延が生じ、また障害者にサービスを提供する個人や機関に行政上の負担が課せられる可能性がある。著作権所有者も、許可が求められている理由を理解することができずに、許可を与えることを拒否する可能性がある。」

著作権法の2つの重要な局面が、視覚障害およびその他の印刷字を読めない障害がある人々のニーズに図書館が対応できる手段を制限している。一つは、アクセシブルなフォーマットを製作するために、著作権使用許可を得ずにコピーを作成することを阻む障壁であり、もう一つは、アクセシブルなフォーマットによる資料を、国境を越えて貸し借りすることを阻む障壁である。

国によって、代替フォーマットによる資料の製作を許可する範囲について、さまざまな例外が認められている。視覚障害者の利益のための著作権に関する例外と制限に関するWIPOによる包括的な研究が最近(本報告書のための調査終了後)発表された。http://www.wipo.int/meetings/en/doc_details.jsp?doc_id=75696

国による重要な違いの一つに、視覚障害者だけでなく、印刷字を読めない障害がある人々について、どの程度例外を認めているかということがある。これは、厳密に限定された一握りの人々から一般の人々へとコピーが流出してしまうのを管理する問題が認められる点で、出版社側が難しく感じていることでもある。

EUでは2001年の情報社会指令の結果、変化が見られた。EU各国は少しずつ異なる方法で指令を実施した。点字などの他のフォーマットの場合と異なり、音声で録音される図書の製作者と配布者とをはっきりと区別し、報酬についてもさまざまな規定が設けられた。指令の成果は、最近欧州委員会により研究され、一部見直されている。これらの研究結果は、オンラインで入手することができる。http://ec.europa.eu/internal_market/copyright/studies/studies_en.htm 指令の実施に関する研究の第二部には、加盟国で障害者のために設けられたすべての規定が詳しく記載されている。 http://ec.europa.eu/internal_market/copyright/docs/studies/infosoc-study-annex_en.pdf

ほとんどのヨーロッパの国々では(スウェーデン、デンマーク、オランダを含む)、視覚障害者と印刷字を読めない障害がある人々とが、著作物を楽しめるフォーマットでコピーを製作する権利に関して、区別されることがないよう、著作権法を改正した。この研究に関する例外はイギリスで、著作権法が改正されてから、印刷字を読めない障害がある人々の状況は、いくつかの点で悪化したといえる。視覚障害者用に、アクセシブルなフォーマットでコピーを製作する際には、(利用可能なバージョンが市販されていない場合)許可を得る必要はなくなったのに対して、印刷字を読めない障害がある人々のためのコピーの製作には、今後も許可が必要であるとされたのである。これは、図書館が印刷字を読めない障害がある人々にサービスを提供し続けるならば、許可を求め続けなければならず、改正著作権法のメリットを無効にするものである。また、改正された法律では、著作権使用料を取ることも認めている。

イギリス国家財政委員会の委託を受け、2006年12月に発行された、『知的財産権に関するガワーズ・レビュー』によるロビー活動では、電子ファイルのアクセシビリティに対するDRM(デジタル著作権管理)の障壁の除去について提言がなされたが、印刷字を読めない障害がある人々を対象とした例外の拡大は求められなかった。

カナダの状況もほとんどのヨーロッパ諸国と同様で、著作権に関する例外として、視覚障害者と認知障害者の両方が使用するための代替フォーマットによる資料の製作を認めている。しかし、大活字本や、映画の非商業用朗読作品については例外の対象とされていない。

オーストラリアでは、法務長官により法律の改正が検討されており、図書館側は、許可を求める負担の軽減に向けて改善を期待している。印刷字を読めない障害がある人々が使用するための電子ファイルの提供を、出版社側が渋ることがよくあるといわれている。

アメリカ合衆国では、視覚障害者に対する例外が1996年に認められるようになったが、印刷字を読めない障害がある人々に対しては、例外は適用されていない。

クロアチアの状況は非常に難しく、例外は一切存在せず、著作権所有者との契約がすべての場合において必要とされている。著者とコンタクトを取ることは難しく、また著者は非協力的であることが多い。著作権エージェントの料金も高い。

南アフリカでも、Blindlibは、オーディオ図書や点字図書のコピーを製作する際、個々の作品についてそれぞれ許可を得なければならないと回答した。Blindlibは、現行法が障害者を違法に差別しているとして、視覚障害者と印刷字を読めない障害がある人々の両方を対象とした例外規定を設けるよう、法律の改正を求めてロビー活動を行っている。

日本には、点字資料の製作について、製作者にかかわらず、例外規定がある。また、専門図書館が視覚障害者や盲学校のために録音図書を製作する場合も、例外が認められている。しかし印刷字を読めない障害がある人々については、例外は一切認められていない。

韓国の例外規定は日本と同様である。

世界盲人連合は、以下のような一般原則の多くが、各国の例外規定に盛り込まれることを希望している。

  • 従来の印刷物では困難がある人々すべてを対象とするため、例外規定から利益を得る人々は誰かを判断する、医学的ではなく、機能的な基準
  • 技術の変化はあまりに迅速であり、主流のフォーマットに作り替えても、おそらくすぐに時代の流れから取り残されてしまうと考えられることから、フォーマットに関する例外規定は明確にするべきではない。
  • 技術によって、アクセシブルなフォーマットの製作がさらに広い範囲で可能となることから、例外規定は特定のタイプの組織に限定されるべきではない。
  • 著者と出版社は報酬を得るべきであるが、アクセシブルなコピーの製作にかかる追加費用が専門機関や障害者個人の負担となる場合は、報酬は正当化されてはならない。

一般にこれらの原則のすべてが例外規定に含まれるわけではなく、場合によってはそのどれも含まれていないことは明らかである。

国境を越えた利用

アクセシブルなフォーマットを提供する機関は、国境を越えて資料を交換できるようにしたいと考えている。世界盲人連合の見解は、以下のとおりである。

「一つの国において例外規定のもとで製作されたアクセシブルな資料を、別の国の全盲あるいは弱視の人々のために輸入することも、可能とするべきである。このためには、少なくとも同程度の例外規定を持つ国々の間では、国内法に規定を設ける必要がある。」

この見解は、確かに多数の回答者の同意を得た。他国の製品へのアクセスは、おそらく英語圏の国々にとって最も有用であろう。また、北欧、インド、およびアフリカの数カ国など、英語が広く話されている国々でも、英語の作品が製作され、英語を使った資料に対するニーズが認められている。

出版社の参加

商業出版社が資料の提供にどれだけ密接にかかわっているかについては、状況は非常に複雑である。出版社の参加には、一部の市場を対象とした出版社による代替フォーマットでの資料の直接製作と、主流の読者のみを対象として製作している出版社に対して、代替フォーマットの製作者にデジタルファイルを提供するよう手配することの両方が含まれる。

大部分の商業出版社は、大活字版や完全版オーディオブックのいずれについても、利益をもたらす市場として取り組むべきであるとは考えていない。とはいっても、教育関係のユーザーや、ときには(たとえばアメリカ合衆国のように、このような活動を持続できる十分大きな市場がある場合)消費者のために、専門図書館および公共図書館への大活字本の支給に関与している専門出版社もある。

大活字本の支給は、デジタル化や、リクエストに応じて印刷する場合のコストの低下を受けて、大きく変化する可能性を秘めており、この結果、短期間での製作が以前よりも経済的に可能となり、個人的な要求にこたえられる範囲を広げ、対応を改善することができる。

完全版オーディオブックは、これまで一般商業市場の限られた範囲内で製作されてきたが、これはまた、視覚障害者や印刷字を読めない障害がある人々の要求にもこたえるものである。しかし、これらは範囲が限られている上、非常に高価でもあった。これもまた、iPodなどの個人用音楽プレーヤーで利用できるオーディオブックの販売に関心を持つ大手出版社の増加に伴い、技術の進歩とともに変化していく分野であるといえる。しかし、これは決して、たとえば学習を目的とした、構造化された録音図書へのニーズにとって変わることはできない。

デジタルファイルの提供については、多数のプロジェクトのもと、正規に運営されている場合もあれば、試験段階として実施されている場合もある。

スウェーデン-TPB:2002年以降、点字図書の50%が、出版社から(販売されるかあるいは無料で)支給されるファイルをもとに製作されている。DAISY3.0による図書も、出版社のファイルから製作される予定である。

デンマーク-DBB:出版社のデジタルファイルは、辞書や百科事典などの暗号化が必要な参考書以外、大手出版社から簡単に入手できる。小規模な出版社の方が、誤用がないことを納得させるのが難しい。出版社協会との協定は、二年ごとに再交渉することになっている。

アメリカ合衆国:視覚障害者のためのアメリカン・プリンティング・ハウスが、現在NIMAC(全国指導教材アクセスセンター)と呼ばれる、国内で出版される教科書の電子コピーのレポジトリを持っている。出版社は、ファイルを提出する前に、レポジトリによって提供されるツールを使用してファイルを検証する。これは、州の指導教材センターやその他の機関、あるいはボランティアによる断片的な代替フォーマットによるコピーの製作システムに比べて、教科書を学生にタイムリーに配布できるよう改善することを意図している。

試験的プロジェクト

カナダ:代替フォーマット製作のための電子ファイル交換所試験プロジェクトにより、出版社が、プロジェクトの信頼できるパートナーである代替フォーマット製作者に、リクエストされたファイルを提供するメカニズムが設立された。大多数の出版社がファイルの提供を快諾し、このプロジェクトは成功したが、ファイルの適切な構造化の確保という問題は残されている。交換所の機能は、長期資金が得られるまでの間、カナダ国立図書館・文書館(国立図書館)によって維持される。これがカナダにおけるサービス機関として提案される新たなモデルの一部となる可能性が高い。

イギリス:報告書の提言を受けて、試験的なレポジトリの設立が計画されており、3月に完成され、ロンドン・ブックフェアで発表される予定である。このイニシアティブを主導しているRNIBによれば、デジタルファイルの支給によるアクセシブルな資料の配布というコンセプトを妨げる障壁の大部分は解決されたが、出版社が負担するコストの問題は、現在進行中の試験的な変換作業を通じて、今後解決していかなくてはならないとのことである。

アメリカ合衆国:「出版社検索サービス」というサイトのベータ版が、昨年、アメリカ出版社協会の高等教育関係会員により立ち上げられ、障害のある学生を担当する短大・大学職員が、教材の電子コピーを入手したり、その他の許可を得たりするために、出版社のコンタクト先を探すことができるようになった。これは、より広範囲を網羅する、タイムリーに教材を提供する方法を確認することを目的とした、代替フォーマット解決策イニシアティブの一部となっている。

南アフリカ:Blindlibを、デジタルファイルに関して信頼できる環境として扱うということで、南アフリカ出版社協会(PASA)の同意が得られている。

ボトムアップの見解

本調査では、読者がどのように、フィクション、新聞、雑誌、児童書、参考書、学校教科書、学術書および科学雑誌などのさまざまな資料へアクセスしているかを尋ねることにより、サービスに関して、これまでとは若干異なった見解を構築することを試みた。

この見解は、それ自体必ずしも、幅広く、また突っ込んだ内容を多く語るものではないが、回答からは、常に予想可能であるとは限らない、数多くの相違点と類似点とが明らかになった。また回答からは、ユーザーにとってシステムをナビゲートすることが、いかに複雑であるか、あるいは簡単であるかについても、ある程度明らかになった。あまりに詳しくなってしまうので、このテーマについて、ここで記すことはできないが(事例研究を参照)、全般的な問題をいくつか述べることは可能である。

  • 予想通り、フィクションの新作は変換が普通難しく、最高で1年は遅れてしまうが、南アフリカおよびオランダなどの国々では、最も人気の高い本をスピーディに変換することを試みている。また日本は、ベストセラーの変換は約2ヶ月でできると回答している。
  • 学校教科書についての状況は、「非常によい」(デンマーク、オランダ)から、「局所因子によりかなり差がある」(イギリス)、「大変悪い」(南アフリカ)まで、さまざまである。学生がすぐに学習を始められるように、また一年間の作業量を均等化できるように、図書を分割して発送している機関もある。
  • 科学雑誌については、電子ジャーナルが広く利用可能であるとはいえ、明らかに多くの困難を抱えている分野である。スウェーデンとオーストラリアの大学図書館では、PDFを入手し、学生向けに変換しているが、ほとんどの電子ジャーナルはアクセシブルでないと言われている。
  • 雑誌については、スウェーデンの出版社の多くが、読者が購読できるアクセシブルなバージョンを製作しており、日本でもDAISY版の雑誌がますます利用できるようになってきてはいるが、一般に各機関は、ほとんど雑誌の提供はしていないと感じている。
  • 新聞については、いくつかの国で、完全に構造化された電子版の日刊新聞が現在製作されており、翌日には読者に配信されていることや、すでに録音版新聞が定着していたり、新たな電子メールサービスが始まったりしていることから、2,3の事例において、明るい状況が認められる。
  • オーディオについては、一般に大活字本や点字図書よりもずっと利用しやすくなっている。中途失明者のほとんどは、点字を学習することを難しいと感じており、オーディオの方がフォーマットとしては好まれることが調査からわかっているので、これは当然であるといえる。
  • 高等教育を受けているユーザーは、眼が見えるクラスメートに遅れないよう、必要不可欠な教材にもアクセスするために、通常、事前によく調整し、計画を進めておかなければならない。(職員が、授業に間に合うように図書リストを提供してくれないため、これができない場合もある。)
  • 教育システムの外にいるユーザーにとって、参考書および学術資料の利用は、非常に問題が多い。教育の場面以外では、専門的なノンフィクションはほとんど提供されていないようである。
  • デンマークには就労している視覚障害者のために、仕事に関係のある資料を提供する特別なサービスがある。

代替フォーマットで利用できる資料の割合に関する情報

目が見える読者が利用できる資料全体に対する、アクセシブルな資料全体の割合は、ほとんどの事例において、非常に低いものと予想される。ただし、多くの回答者は、これについて具体的な数字をあげることはできなかった。これらの数字を、各国でシステムがどの程度機能しているかを比較する直接的な基準として利用する場合、いくつか重要な注意事項があげられる(下記参照)。

図書:代替フォーマットの種類を問わず、利用可能なのは、通常5%から10%以下である。スウェーデン、クロアチアおよびオランダは、約10%と回答した。

2005年のイギリスにおける調査では、イギリスの出版社による印刷物のうち、アクセシブルなフォーマット/代替フォーマットで利用可能となるのは、たった4.4%であると推定された。

アメリカ合衆国では、NLSが、毎年すべての図書の約3.5%と推定している。

新聞:オランダは60-80%、スウェーデンは75%と報告した。カナダのCNIBは、有料の日刊新聞100紙のうち、電話やインターネットで利用可能な新聞を40紙以上製作している。イギリスの録音新聞協会によれば、同協会では、すべての日刊新聞・週刊新聞を代替フォーマットで製作しており、CDやカセットテープ以外にも、電子メールやインターネットなど、アクセス可能な手段を幅広く提供しているとのことである。

その他の回答者の多くは、利用可能なものは非常に少ないと回答し、南アフリカが最も少なかった。

インターネット上の新聞の多くが、視覚障害者にとって実はアクセシブルではなく、またナビゲートしやすいものではないことを考えると、新聞の提供における最も大きな進展は、本来、インターネットの利用性によってもたらされたのではなく、むしろ多くの国において、構造化されたXMLファイルへと製作方法が変更され、この結果、信頼できる中間支援組織が、視覚障害者のためのバージョンを製作できるようになったことによるといえる。

これらは従来の印刷版と同時に、あるいはそれよりも早く配布することができる。たとえばオランダでは、XML形式による電子版の読みやすい新聞と雑誌が200以上発行されている。

雑誌:利用可能な割合は、最高でオランダの10-20%とスウェーデンの50%であった。ほとんどの回答者が、利用可能な割合は非常に低いと回答した。

教材:学習中にもかかわらず、従来の印刷物を読むことができない人すべてに、適切に教材を提供することの重要性は、いくら語っても言いすぎということはない。また、本報告書で取り上げたいくつかの国では、このような教材を提供する責任の所在が明確にされておらず、その結果、教材の提供も十分ではなかった。

2005年、ラフバラ大学図書館情報統計部門(LISU)がRNIBのために実施した、イギリスにおける学校教科書の利用可能性に関する調査の結果、その複雑な状況が判明した。英文学の教科書の利用可能性が最高で80%に達している一方で、数学および科学については15-20%の範囲であった。また、特別な試験用の教科書よりも、一般の教科書の方が、利用しやすくなっていた。2006年にRNIBのために実施された研究の結果は、状況のさらなる悪化を示しており、イングランドのGCSE試験用の教科書のうち、点字または大活字本で利用できるのは、数学の場合、わずかに12%、科学の場合は8%だということである。同研究ではまた、14歳から16歳の生徒に最も広く使用されている辞書や地図帳は、一つとして、全盲または弱視の児童が読めるフォーマットで利用可能ではないことも明らかになった。

オーストラリアは、ほとんどの教科書が利用可能であると回答した。

オランダのDediconからは、教育出版社が市場に売り出す分の、およそ4分の1が利用可能であるとの報告があった。しかし、これらはリクエストに応じて製作されるだけなので、理論上は、すべてのユーザーのニーズが満たされているということになる。Dediconはこれに関して2つの点を注意事項として指摘した。第一に、ディスレクシアの学生が75,000人いると推定されている中で、Dediconの読者として登録しているのは、そのうちの5,000人にすぎず、そのため、ニーズが満たされていないユーザーがいることが予想されるということ、第二に、Dediconは主に教科書を制作しているので、ワークブックなどの副教材に対するニーズが満たされていない可能性が高いということである。

スウェーデンのTPBも、リクエストに応じて教材を製作しているため、ニーズを満たしている割合を計算することは適切ではないと考えた。

リクエストに応じてサービスを提供している場合指摘されるのは、このときの割合を相対的な成功の基準として使用することをめぐる概念上の問題である。さまざまな機関が、優先順位について異なる決定を下してきた。すでに見たようにNLSは、タイトル数は少なくても、そのコピーを大量に製作することを優先しているし、スウェーデンのTPBでは、政府によって目標率が設定されている。この問題はまた、言語が異なれば利用できるタイトル数が異なることから、さらに複雑になっている。たとえば、アメリカ合衆国やイギリスで出版されているタイトルの5%を代替フォーマットで利用できるようにするには、オランダの出版業界において出版物を同程度の割合変換するのに比べて、もともと出版されているタイトル数がずっと多いため、はるかに多くの時間と資源が必要となるわけである。一方、著作権に関する制限を克服することができれば、英語を話す読者は自国で変換される図書よりもはるかに多くの図書にアクセスすることができるようになるであろう。ほとんどの読者は、すべての図書のうち、100%にはとうてい満たない数しかアクセシブルにできなくても十分満足できるであろうが (リクエストに応じて出版されるタイトルのほとんどは、市販のものとは異なり、特別なニーズを持つ読者のために製作されているため)、冷静に考えれば、前述のように、それでもなお不公平の問題は残されるのである。

新聞と一部の雑誌については、利用可能なすべての印刷物の割合を出すことが、図書の場合よりも有用な目安となる。目が見える読者は、毎日広い範囲の新聞にアクセスし、そこから読むものを選ぶことができる。視覚障害者や印刷字を読めない障害がある人々でも、これとまったく同じことができるようにすることは、望ましいだけでなく、(スウェーデンとオランダの事例が示すように)十分実現可能である。新聞市場は各国で異なり、全国市場がある国もあれば、地域性の強い国もあるが、図書分野に見られるような、変換対象数の差はない。たとえば、世界新聞協会によれば、スウェーデンには日刊新聞が94紙、イギリスには112紙ある。有料の全国的な日刊新聞に限れば、イギリスには10紙、オランダには9紙、スウェーデンには4紙だけである。アメリカ合衆国の市場は非常に地域性が高いので、状況はこれらの国よりも難しくなっており、有料の日刊紙は1,452紙で、真に全国紙と考えられるのは一紙だけである。

サービス提供のスピードは、フィクションの新作について比較することが、おそらく最も適切であろう。新聞やテレビ、ラジオで絶えず論じられる受賞作品やベストセラー作品のアクセシブルなコピーを、ほかの人に遅れること1年以内に入手できないのは、実に、とても耐えられないことである。これに関しては、はっきりと他より優れているといえるモデルは一つも認められなかった。

教科書と学術書については、視覚障害や印刷字を読めない障害がある学生に、眼が見える同級生と同時に、同じ教材を提供することができるシステムがきわめて重要であると考えられている。これを実現することは非常に難しい。特に大学では、これはある意味、参考文献リストを事前にきちんと作成し、前触れもなく突然新しい教科書を紹介することによって学生を差別することがないよう、教員を教育する問題であるともいえる。しかし、他のシステムに比べて、タイムリーな資料をより効果的に提供しているシステムがあることも事実である。

さまざまな障壁が克服できた暁には、解決の糸口は、出版社のワークフローから取り出したファイルを利用した、自動化の進んだシステムにあるといえる。いくつかの製作過程において、テキスト音声合成装置も試されたり、利用されたりしている。これは製作時間を短縮することができ、その性能は著しく進歩している。デンマークのDBBは、合成音声を利用した録音図書製作ツールを販売しており、8時間分の録音を約1時間で製作できると主張している。これはさまざまな言語あるいは語彙を網羅する、互換性のあるスピーチエンジンを使って利用することができる。DBBは、これが参考書やマニュアルに最も適していると述べているが、おそらく、このようにして録音されたフィクションの作品を聞きたいと考える人は、まだ少ないだろうということを暗に意味していると思われる。

利用可能性の適切な評価とは何かに関する議論は、ほとんどのユーザーにとって、利用できる資料の割合が高くはなく、またリクエストに応じて資料を配布するシステムがない場合、概して無意味であると思われる。しかし、これはビジョンとしてはより現実味を帯びてきている。なぜなら、現在、デジタルファイルを出版社から直接代替フォーマット製作者に提供するプロジェクトや、グーグルやマイクロソフト、およびその提携先、そして欧州委員会などによるさまざまなデジタルライブラリーに関するイニシアティブが進行中であるからだ。この動きは、まず克服されなければならない技術的、経済的その他の障壁は多数認められるものの、将来のサービス提供方法に大きな影響を与えるであろう。

あらゆる注意事項を考慮したうえでも、なお、従来の印刷物を読めない人々が利用できる資料の割合にかかわるサービスの効率性を評価する試みには、価値があると考えられる。