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視覚障害者図書館および情報サービス事業の資金調達および管理システム:国際事例研究

第一部:概略報告書

資金調達先およびその範囲

本調査では、これらのサービス事業に必要な資金の総額とその調達先(中央政府、地方政府、慈善団体、海外からの援助など)についての情報を求めた。理想としては、一人当たりの費用を計算し、有意義な国別比較ができればよかったのだが、残念なことに、それはほとんど不可能だと思われる。このような比較を実施するには、費用と関連人口の両方に関する一貫したデータが必要であるが、現在そのどちらも入手不可能である。

これは、システムの中に、公共セクターおよび第三セクターの多種多様な提供機関が存在しており、費用の総額を計算し、その調達先を把握している当局が、通常一つもないことが原因である。資金調達先が政府だけである場合は、費用の総額を決定することができる。しかし、カナダ、オーストラリアおよびイギリスなどでは、視覚障害者を対象とした一般図書館サービスは、主として第三セクターの機関が提供しており、さらに政府からの公共図書館への資金援助や教育制度を通じた援助、そして特別プロジェクトに対する援助などがあるので、きわめて難しくなっている。さまざまな公共図書館によって実際に運営費として使用される額は国によって異なり、イギリスやカナダなどの事例では、視覚障害者に対するサービス事業に費やされる額をまとめた数字はない。アメリカ合衆国では、NLSの予算が公表されているが、そのほかにも、公共(公共図書館、教育局、大学など)や民間/ボランティア(慈善団体の出資による代替フォーマット提供機関)など多数の機関が関与している。郵便料金の補助も、ほとんどの国で非常に重要となっている。

関連人口の計算は、これよりもやや簡単であるが、それでも、視覚障害や印刷字を読めない障害の定義が国によって異なっているため、数字を比較することはできない。

我々は主な資金調達先により、調査対象国を分類した。

主に国家政府から資金を調達している国

  • デンマーク
  • オランダ

主に地方政府から資金を調達している国

日本(政府からの資金援助がますます厳しくなってきているので、これまで以上に寄付が重要となり、期待されている。公共図書館のサービス事業も民間セクターに外注されている。)

国家政府および地方政府の両方から資金を調達している国

  • スウェーデン

政府からの援助、第三セクターの募金収入および収益により資金を調達している国

  • アメリカ合衆国(連邦政府、州政府、地方政府および第三セクター)
  • オーストラリア-第三セクターによる資金調達が中心
  • 南アフリカ
  • イギリス-第三セクターによる資金調達が中心。国家政府からの定期的な資金援助はない。
  • クロアチア-政府からの資金が中心
  • 韓国
  • カナダ-中央の専門図書館は第三セクターである。しかしユーザーは、公共図書館および教育制度からもサービスを受けている。

資金調達額はどの程度足りているか?

ほとんどの回答者は、サービス事業に必要な資金が十分に調達できていないと回答したが、どの程度不十分であると感じているかについては、大きな差が見られた。また、十分であるということをどう定義するか、つまり現在のサービス事業の範囲に関して定義するのか、あるいは、理想的なレベルおよび範囲に関して定義するのか、という問題もある。回答者は、回答にしかるべく意味を持たせる傾向があった。視覚障害者と印刷字を読めない障害がある人々に、他の人と同じように図書館サービスや資料へアクセスできるサービスを提供することは、どの国でも実現できていない。この点については、資金調達が唯一の解決策とはならないであろう。なぜなら、代替フォーマット版が確実に同時利用できるようにするためには、出版社からのファイルの支給を進める必要もあるからである。

本調査への回答者のうち、資金調達に関して最も満足度が高かったのはアメリカ合衆国とスウェーデンであった。また、資金調達額が十分でないとして最も満足度が低かったのは、おもに第三セクターと地方政府からの資金に頼っている国々であった。

資金が全く十分でないと回答した2ヵ国は、以下のとおりである。

  • デンマーク-完全に平等なアクセスのためには十分でない。
  • オランダ-既存のサービス事業にとっては十分であるが、サービス事業は拡大する必要がある。学習教材用に30%、一般図書館サービス用に10%の追加資金が必要である。

7カ国の回答者が、資金が非常に不十分であると感じていた。

  • カナダ-現在の額は、公平なサービスの提供に必要とされる額の10%以下である。
  • 日本-10倍の資金が必要である。
  • 南アフリカ-潜在的な利用者の1%にしかサービスが提供されていない。
  • イギリス-サービスが非常に断片的に提供されているため、現在の経費に関するデータがなく、どれだけの額が必要なのかを予測することは難しい。しかし現状は、非常に困窮していると考えられる。
  • オーストラリア-視覚障害者300,000人、およびサービスの受け手となる可能性がある印刷字を読めない障害がある人々140万人のうち、16,000人しかサービスを受けていない。各州は、視覚障害者のためのサービス事業に充てる資金として、少なくとも連邦政府からの資金に相当する金額を公共図書館に提供しなければならない(各州に1400万オーストラリアドル。これに対し、現在専門図書館への予算は合計で400万オーストラリアドル)。
  • クロアチア-資金は非常に不足しており、減少している。計画に従い、年間20-30$%増額する必要がある。
  • 韓国-十分ではない。-国立専門図書館に資金を提供する必要がある。その後、この専門図書館が、公共図書館による視覚障害者へのサービスの改善を主導していく。

当然のことながら、すべての国について客観的に資金調達レベルを評価することはできなかった。これは主観的な見解であり、資金がどの程度効率的に使用されているか、あるいはエンドユーザーがどれだけ満足しているかについては何もわからないということが議論される可能性もあるであろう。しかしこれらの評価は、最前線でサービスを提供している機関から得られたものである。

これらの回答からは、十分な資金のもとにサービスを提供するには、政府からの定期的な資金援助は、必要条件ではあるが、十分条件ではないということが結論付けられる。第三セクターの財源に、大部分、あるいは全面的に依存する場合、満足度は最も低くなるが、クロアチアや日本など、主として、あるいは完全に政府の資金に頼っている国々も、資金が非常に不足していると感じている。日本ではこれは、地方政府に特に深刻な打撃を与えた公共支出の全般的な縮小と関連している。

これらのサービス事業に対する資金が十分であるかどうかの判断は、総社会支出にあてられるGDPの割合と容易に関連付けられるものではない。この割合は、2001年、OECD諸国の中ではスウェーデンとデンマークが最高であり、韓国は(最下位のメキシコに次いで)低く、イギリスはオランダより高かった。しかしイギリスでは、これらのサービス事業の資金を、一般に政府からは得ていないので、この結果は概して重要ではないといえる。

このほかにも、地方の責任や地方政府の支出力などの問題が背後に存在している可能性がある。OECDのデータは(確かに2001年のデータではあるが、その割合が大きく変化した可能性は低い)、GDPに占める地方政府の支出の割合が、特に北欧諸国で高かったことを示している。具体的には、オランダの約17%に対して、デンマークでは30%以上、スウェーデンでは25%以上であった。イギリスでは、この割合はたったの約11%だった。

南アフリカには、アパルトヘイト時代から続く、地域によるサービスの不平等という負の遺産があり、公共図書館サービスは白人が住んでいた地域の方がはるかに良く、その後の改革でも、公共図書館への資金援助は中途半端に放置され、優先順位が低かった。ただし、教育や識字の改善を進めるうえで、図書館サービス事業をその中心に位置付ける取り組みは続けられている。