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在宅高齢者のための図書館サービス

ギッダ・スカット・ニールセン
デンマーク ソレレズ公共図書館

項目 内容
会議名 2002年IFLA(国際図書館連盟)年次大会<スコットランド グラスゴー> オープニングセッション
発表年月 2002年8月

 他の国々と同様、デンマークの高齢者も増加し続けています。従って、身体的、精神的理由により図書館に足を運ぶことのできない高齢者のための特別なサービスの必要性が高まっています。

このような人たちは自宅、またはケア施設で生活しており、図書館からの特別な配慮とサービスを必要としています。ここでは、ある程度の援助を必要としながらも、自宅で生活することはできるが、図書館には来ることのできない方々に焦点をあてたサービスについて報告したいと思います。また図書館に来ることはできても本を持って帰る体力のない人も含まれます。利用者の年齢は40歳から100歳くらいです。

現在のデンマークの社会政策では、高齢者を老人ホームに入れるより、できる限り自宅で生活をさせるようにしています。クリーニング、洗濯、身の回りの世話、買い物などを含めてホーム・ケア・システムがよく機能しています。食事の宅配サービス(Meals on Wheels)やデイケアセンターもあり、自分で行くことのできない人は送迎車を利用することができます。

しかし、高齢者で障害があったり、病気がある方には精神的な活動が必要です。デンマーク図書館法によると、公共図書館は障害や疾病のある人を含む全ての市民にサービスを提供する義務があります。デンマークでは歴史的に、高齢者や弱い立場にある人たちに図書館サービスを提供してきたという長い伝統があります。1960年代、”The Book Comes"(移動図書)または、"The Library Comes"(移動図書館)と呼ばれるアウトリーチ・サービスを始めました。ソレレズコミュニティでの最初のアウトリーチ図書館サービスを1966年、私がスタートさせ、デンマークでは最も早いもののひとつでした。

それまでは、赤十字やスカウトなどのボランティア組織が、限られた自治体で在宅の高齢者に書籍を提供していました。図書館と図書館司書による高齢者、障害者向けの図書館サービスの開始は、図書館サービスの主流に高齢者という大きな集団を取り入れる動きの中で一歩大きく前進しました。

今日では、デンマークの275の自治体のうち184の自治体が、在宅の市民にアウトリーチ図書館サービスを提供しています。しかしながら、サービスの提供方法は各図書館によって異なります。例えば、私の勤めている図書館であるソレレズ公共図書館では、月に一度図書や他の教材などが宅配サービスにより配達されます。宅配のスケジュールは3ヶ月ごとに発行されます。

アウトリーチ・サービスに参加するための基準

 一時的な障害であろうと慢性的な状態であろうと、図書館に来ることのできない市民は全てこのサービスを受けることができます。一時的に参加する人もであり、永久会員となる人もいます。アウトリーチ・サービスを利用する人の理由は様々です。移動を制限せざるを得ない歩行の問題、図書の持ち運びの問題、視覚的な問題、他の様々な身体的、精神的な問題などです。

また、ソレレズ公共図書館では、図書館に来ることはできても身体的に図書をもって帰ることができない高齢者の方のためにも宅配サービスを提供しています。このサービスを受けていても、図書館に来て図書を選んだり、また同時に図書館のスタッフやコミュニティの人たちととおしゃべりを楽しんだりすることも可能です。

大事なことは、デンマークでは、高齢者に提供されるサービスは、在宅であろうと施設で生活していようと無償であるということです。

高齢者とのふれあい

 利用者になりそうな人、その人の親族、友人、または介護者が図書館に連絡をとった2,3日後、アウトリーチ・サービス担当図書館員は家庭訪問を行います。この最初の訪問は、高齢の利用者と個人的な関係を築くために行います。個人的に知り合い、利用者の興味を把握することにより、図書館はその方のニーズを充たすのが容易になります。これは私の意見ですが、高齢者はいつも同じ図書館員が担当することが重要だと思います。(私たちは、これを”私の図書館員”と呼んでいます)そうすれば、利用者に安心感を与えることができます。

最初の訪問の後、利用者と電話や手紙で利用者と密接な連絡をとることが大切です。残念ながら、最初の訪問以外は時間をとることができません。たとえそうであっても、高齢の利用者と図書館員の関係は概してとても温かく、親しいものであり、電話や手紙をよく受け取ります。初回の訪問の後、図書館宅配サービスによって本が届けられます。

どのように図書を選ぶのですか?

 利用者の中には、図書館員に図書を選んで届けてもらうのを好む方もいます。その場合には、最初の訪問で得た記録をもとに図書を選びます。また、自分で図書館のコレクションの中から選ぶほうを好む利用者もいます。このような場合には、記入して図書館に出す用紙を用意しています。図書は、一般に定期的に届けるいくつかのカタログや、新聞や雑誌の書評から選ぶことができます。多くの利用者は月に一度、図書館員に電話をかけて連絡をとります。このように連絡をとりあうことは、両者にとって非常に重要です。ある利用者は、合理的で簡単な方法である、Eメールで図書を注文します。

現在では、インターネットでカタログを見て、オンラインで予約をすることも可能です。この新しい方法で、高齢者が貸し出しの最新の情報を得ることができます。しかしながら、多くの高齢者の方々は、古き良き交流の手段である手書きの手紙を送って下さり、連絡をとるほうを好んでおられます。

若い(モバイル)世代と高齢者には読書習慣に違いがありますか?

 在宅の障害者や高齢者は、人気のある文学しか読まないと考えるのは間違った認識です。事実、私が日々の体験から、”私の”利用者の読書の興味は図書館に自ら訪れることのできる人たちと同様に幅広いということを知っています。”私”の利用者たちは、人生で始めて読書に集中する時間を持つことができた人たちです。そして、自然科学、古代史、またゲーテ、キルケゴール、カントなど多様な興味を持つ方々である。外国語である場合も多く、特別な図書館から取り寄せなければならないこともしばしばである。

私の図書館人生を振り返ってみると、最近の高齢世代の学歴は高くなっているのは明らかで、従って図書館から提供されるサービスにも大きな期待を寄せていると言えます。多くの高齢者は英語が主ですが、フランス語、ドイツ語などの外国語を読むことができます。このような進歩は、まさに高齢者に仕える図書館員としての技量へのチャレンジでもあります。

非常に需要の高い図書として次のようなタイプのものがあります。

録音図書:印刷字を読むのに問題があったり、視覚障害や本を持つことができなかったり(リューマチなどにより)、またディスレクシアなど読むことに障害がある方々が利用しています。ソレレズ公共図書館では児童、成人向けに、またフィクション、ノンフィクションを含めて6000タイトルの録音図書があります。英語、フランス語、ドイツ語の録音図書もあります。興味深い事に、当図書館の50%の在宅利用者は録音図書を利用するか、印刷版の補足として利用しています。

カセットによる雑誌:歴史、文化、医学、芸術、その他のジャンルの雑誌のセレクションを録音図書に補足する形で用意しています。

拡大印刷図書:視覚障害のある利用者にとても人気がありますが、残念ながら需要に見合うだけの図書は製作されていません。

ミュージックCD、及びカセット:クラシック、オペラ、オペレッタ、ポップス、民謡、ジャズなど多様なジャンルの音楽があり、利用者に喜ばれています。もうひとつ興味深いこととしては、この地域の在宅高齢者が利用するものの50%以上は、ミュージックCDかカセットです。

ビデオ:主要映画作品、オペラ、その他のエンターテイメントは高齢の利用者に人気が高くなってきています。

録音新聞:高齢になるとしばしば視力に問題が生じてきます。申し上げましたように、録音図書と拡大印刷図書は印刷物を読むのに問題のある高齢者には欠かせません。このような方々にとって録音新聞は素晴らしい代用品です。デンマークの275のうち132の自治体は、録音地方紙を視覚障害者、読書障害者、身体障害者用に製作しています。いくつかの小さな自治体はテープの地方紙を共同で一紙製作しています。132の録音新聞は(2,3民間が発行している場合を除いて)公共図書館が製作し、無料で配っています。

リーディングサービス:ソレレズ公共図書館を含めて、いくつかの図書館は読むことに問題がある方々のために読むサービスを行っています。このサービスには、記事、個人的な手紙、説明書なども含まれており、こちらも無料です。

弱く、慣れていない利用者のために:私たちの在宅の利用者の中には、他の社会のグループでも同じですが、ディスレクシアや他の読みの障害など様々な理由により読書が困難な方々がいます。また、別の理由としては、たとえば働いているときには、読書をする時間とエネルギーがなく本を読むのに慣れていないという人もいます。このような利用者には特別なサービスの必要性があります。便利な図書としては録音図書や雑誌だけではなく、読みやすい図書があげられ、その中にはテープが付いているものもあります。

利用者をどうのように開拓するか?

高齢者向けのアウトリーチ・サービスを継続して宣伝することは重要なことです。効果的な宣伝方法としては以下のようなものがあげられます。

  • 地方紙に載せる。
  • 地方紙や高齢者や不利な立場にある人向けの様々な雑誌に記事を掲載する。
  • ニュースメディアとの接触
     図書館の広報活動は図書館サービスを促進させる上で効果的である。地域の図書館にとって、地元テレビやラジオもまた効果的である。
  • 図書館からのパンフレット:明確で読みやすい言葉で書かれたもの。全ての図書館、公共施設、市庁舎、病院、歯科医院、商店、高齢者向けコミュニティ・センターなど、高齢者がよく訪れる場所に置く。
  • 高齢者・障害者向けの施設、団体との密接な交流。
  • 在宅介護者(提供団体)との密接な交流:最後になったが、大切なことである。
  • 地域住民との日々の交流:例えば、親戚、隣人、友人が図書館サービスを”口コミ”で知らせることなど。

他のサービス提供者との連携

 日々の仕事の中で私は、社会福祉団体とよく連絡をとりあいます。そして、地区保健士、ホームヘルパー、ソーシャル・ワーカーなどのグループに当図書館のサービスについて話をします。このような関係を電話や直接話をすることにより続けていくことは重要なことです。2年ごとに私は地区保健士やホームヘルパーに会って、図書館が彼らの利用者に提供できるサービスをお知らせしています。社会福祉や保健医療に携わるすべての人たちが図書館に親しみがあるとは言えませんが、私の話によく耳を傾けてくれますし、その後は新しい利用者が明らかに増えます。また、地域のかかりつけの医師や聖職者と連絡をとることも、高齢者に図書館サービスのことがよく伝わります。

体験研修(ジョブ・シャドーイング)

 :何年か前に実施した、興味深く役に立つ体験について述べたいと思います。地域での社会福祉の現場をもっとよく知りたいと思い、社会福祉当局に、社会福祉局で3週間研修させてもらうことを提案しました。体験研修というアイデアは彼らにとって目新しいことでした。少なくとも、図書館員の(社会福祉分野での)体験研修なんて。反応は好意的で、最初の一週間は管理事務所で働き、あとの2週間は高齢者のための活動的なセンターで働きました。この体験により、異なる分野での高齢者のための仕事について多くのことを学ぶことができました。私にとって非常に重要だった体験。それは、後半2週間で高齢者と日常生活においてお会いする機会が与えられたことです。高齢者の方々に図書館のサービスについてお伝えする機会がたくさんありました。驚いたことには、ほとんどの方が(図書館サービスについて)ご存じありませんでした。その3週間の研修の後、新しい利用者がたくさん増えました。

利用者の話に戻りますと、地域の高齢者関係の団体(施設)はとても重要な協力者です。そこで働くボランティアの方々は大切な支援者であり、障害者関係団体も明らかに協力者となります。地域の視覚障害者協会とも連絡をとり、図書館サ-ビスを利用しそうな人を教えてもらいます。また、図書館で展示会やイベントを障害者団体と共催で開催します。

先ほど述べた地域のコミュニティセンターは、しばしば私を招いて利用者に図書館サービスのことを話す機会を作ってくれます。そこに訪れる人たちは外出に問題がない人たちがほとんどですが、図書館サービスのことを教えたい友人や近所の人、親戚などがいる場合が多いのです。

共同プロジェクト:何年か前に、ソレレズ公共図書館とアウトリーチ・サービス局と2つのコミュニティセンターの間で公式な契約を交わしました。1年に1回、担当者がアイデアを出し合い、共同イベントを計画するといういうものです。1ヶ月間のキャンペーン、コンサートプログラムやイベントなどを協力していくつか開催し成功しました。最初のプロジェクトは「元気に年をとる」というテーマで、健康で活動的な年配の成人が対象でした。その次には、「バルト諸国の隣人」と題して、3つのバルト諸国とポーランド大使館の協力によって開催しました。この10月には、「グリーンランド祭り」を計画しています。

年金生活者のためのオリエンテーション

 最近私は、社会福祉局が計画した新しく年金生活を始める人のためのオリエンテーションに、初めて参加しました。これは、高齢者に図書館サービスをお知らせするための絶好の機会となりました。今すぐにこのサービスを受ける必要性はないかもしれませんが、このようなサービスの存在を知っておくことは大切です。

インフォメーション:図書館が”手を差し伸べる”ための初めての一歩を踏み出すことが重要です。インフォメーションがキーワードです。なぜなら、一般に図書館と高齢者サービスを結びつけて考えられないからです。外出することができない高齢者の方々は、家で孤立した生活を送っています。図書館のサービスはそのような方々に生活の質という面で大いに貢献します。それこそ私が口にする「医療ではなく文化を」ということの本質なのです。

年在宅高齢者のための特別な配慮

 時に私たちは図書館で開催される特別なイベントに在宅利用者を招待します。芸術家による公演があり、デザートなどがふるまわれ、とても成功を収めています。
地域の録音図書利用者を2年毎に招いて、このようなイベントや、それに関連した娯楽などの話し合いに参加してもらっています。それによって、有益なフィードバックを得ています。

宣伝活動:図書館の活動を広く知ってもらうためには、多大な時間と努力が必要です。しかし、いったん図書館が世間の注目を集めるようになると、図書館経営側と、特に政府が高齢者向けのサービスに補助金と支援を提供してくれるよう説得することが容易になります。延いてはそれが医療費を減らすことにもつながると彼らは気づいてくれるのです。

挑戦とやりがいに満ちた仕事

 アウトリーチ・プログラム担当図書館員として働き、特に在宅の高齢者に図書館サービスを提供することは、大変な仕事ですが、やりがいがあり、価値のある仕事でもあります。2人として好みが同じ利用者というのはありませんし、今日もまた明日と同じということはあり得ません。何年間か通して観察すると、高齢者や障害者の方々の変化には目を見張るものがあります。最初の頃は、多くの方々はとても遠慮がちであまりあれこれと注文はすることはありませんでしたが、最近の高齢者の方々は学歴が高く、図書館が提供すべき図書や、どのような権利を自分たちがもっているのかについて非常によくご存知です。

高齢者や障害者に対する同僚の態度を変えることはとても大変なことです。高齢者や障害者に対しての興味があまりなかったのに、いったんこのような方々に対して理解することができると、以前は「地位の低い仕事」と思っていたのに、何かをなしとげたという達成感が得られるような高い地位の仕事に変わっていくのです。
最後に次のことを申し上げたいと思います。あなたの住む地域に高齢者向けの図書館サービスがないのなら、今すぐ始めなさい、ということです。必ずや努力してやってみるだけの価値があります。