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特別なニーズのある子どものためのコーナー「りんごの棚」を設置しました

川越市立高階図書館 新山順子

1.「りんごの棚」との出会い

 公共図書館の児童サービスはどこでもあたりまえに行なわれていると思いますが、「障害のある子どもたち」のためのサービスに取り組んでいる図書館はまだまだ少ないのではないでしょうか。

 私が「りんごの棚」というものを知ったのは、かつて児童サービス担当者だったときにお世話になった図書館界の先輩(埼玉県小川町立図書館)からの問合せがきっかけでした。 「町民の方から寄付の申し出があり、そのうち一部を、目の不自由な子どもが利用できる資料やそれに関係するものを購入するという条件で図書館にいただくことになりました。図書館ではそういう資料を集めてコーナーを作ろうと思うのだけれど、このコーナーに何かいいネーミングはないかしら?」

 日本図書館協会障害者サービス委員会委員であった私なら何か知っているかもしれない、と思われてのことでしたが、その時点では図書館の障害のある子どもへのサービスについて、情報を持っているわけではありませんでした。そこで、検索したところ、DINFで以下の記事を知りました。

「りんごの棚」物語
特別なニーズのある子供たちを公共図書館サービスの対象とするための一手段
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/jenny_nilsson/appelhyllan.html

 この記事を小川町立図書館に紹介し、同館からスウェーデン大使館を通して直接連絡してもらったところ、後日「りんごの棚という名称とロゴマークも使っていいと許可してもらえたよ」と報告をいただきました。担当の方からは「(問い合わせは初めてで)とってもうれしいです。もちろん使ってください」と返答があったとのことです。

 小川町立図書館では、マルチメディアDAISY、子ども向けの大活字本、さわる絵本、点字絵本、大型絵本、布の絵本、拡大読書器などを揃えて「りんごの棚」を開設し、全国でも初の試みとして新聞にも掲載されました。

 このことについて、ああ良かった、と安堵し自分も少しは関われたことに喜びを感じつつも、私は肝心の自分の図書館では「図書館利用に障害のある子どもたち」のために何もしていないではないかと後ろめたい気持ちになりました。その時から、いつかは自分の図書館でも「りんごの棚」を設置したい、というのが私の目標のひとつになったのです。

2.「りんごの棚」の設置

 そういったわけで図書館のシステム入れ替えで館内OPACが1台減り、一等地にぽっかりと空間ができたとき、「りんごの棚」を作りたいと思ったのは自然な流れでした。残念ながら、新たに書架を購入する費用は認められなかったので、これまで別の場所で使っていた木製のブックトラック1台、スチールのブックトラック1台が書架の代わりになりました。児童サービス担当者が、親しみやすいよう、ポップな表示とぬいぐるみで周囲を飾ってくれました。資料はなるべく面出しで見てもらえるよう、透明なプラスチックの展示用棚も用意しました。

 まずは資料を集めなくては、と「障害のある子どものための資料」として考えうるものを少しずつ収集しました。布の絵本は「ふきのとう文庫」のキットをボランティアグループが完成させてくれたもの、LLブック・点字絵本・さまざまな障害をテーマにした絵本、大活字資料、「全日本手をつなぐ育成会」などの図書館の通常の仕入れルート以外からの資料購入、その他「障害」に関する児童書あれこれ・・・。私の乏しい知識で「こういうものがいいのではないか」と思ったものを蔵書としましたが、この、棚を作成する作業が案外難しいものでした。当初は障害を持った子ども自身が読める本だけをと考えていたのですが、そういった本自体の出版点数がまだ少ないのと、子どもの場合は周囲の大人や友達も含めた理解が必要であることから、児童書一般書を問わず障害についてなんらかの参考になるものを含めたラインナップとすることにしました。

 また、児童向け資料については児童室にあるものをそのまま移動させるのではなく、複本として新たに購入することを原則としました。子どもたちが資料と出逢える場所をなるべく増やしたかったからです。反対に、児童室には置かないけれど、「りんごの棚」だからこそ蔵書にした、というものもあります。児童の選書会議では購入しないとなったものを「りんごの棚」に置くためにはどうかということを改めて検討してもらい、購入しました。

 ところで、「障害のある子どものためのサービス」は誰がやるのか、という論議があります。児童サービス担当者がやるのか、障害者サービス担当者がやるのか。これは図書館界の中でまだ統一した見解がなされていないように思います。日本図書館協会障害者サービス委員会の佐藤聖一氏が、研修の中で「子どもに対しては子どもの本の専門家である児童サービス担当者が接し、その子が持つ図書館利用の障害を解消する方法を障害者サービス担当者が提供すべきではないか」と述べておられましたが、私もそれが一番いい方法であると考えます。付け加えるならば、障害者サービスは全国で充分なサービス体制が作れていないが、児童サービスはほぼ全ての図書館が行っている。そういう意味でも、児童サービス担当者に、「障害のある子どもも、自分たちのサービス対象者である」という意識を持ってもらいたいところです。一番困るのは、双方の担当の狭間で誰も関わらない、という状態です。

 「図書館利用の障害」はあまりにも多様で、自分に特別なニーズがあることそのものを知らない利用者もいると考えられます。そのため「りんごの棚」を作ったからと言っても、その利用者にマッチした本につなぐことができるのかどうか大きな不安があります。りんごの棚の対象は「特別なニーズのある子ども達」となってはいますが、実際には「子ども」という枠でくくる必要はないかもしれません。

 そして、いわゆる障害者を扱った本ばかりを前面に押し出してしまうと「自分は障害者ではないから関係ない」と思って手にしてくれないかもしれないので、「教室はまちがうところだ」「みんなのためのルールブック」「学校と勉強がたのしくなる本」といった、タイトルで惹きつけられるようなものを面出しするようにしています。また「ルイ・ブライユ」「ヘレン・ケラー」などは敢えてコミック版を揃えました。そのほか、誰でも借りられるマルチメディアDAISY(著作権許諾済)を置き、障害者サービス登録をしなくても試してもらえるようにと考えました。それに関連づけてマルチメディアDAISY教科書の案内、特別支援教育・育児についての一般書の案内などもパンフレット架に入れました。ここには当館の「障害者サービス」の利用案内も入れ、障害者サービス登録をした場合に受けられるサービスを示しました。

書架の様子
書架の様子

コミック版「ルイ・ブライユ」、布の絵本
コミック版「ルイ・ブライユ」、布の絵本

マルチメディアDAISYわいわい文庫
マルチメディアDAISYわいわい文庫

 最近知った読書補助ツール「リーディングトラッカー」は市販のものを紹介文とともに置き、使ってみてくださいと表示してあります。これは自分で使ってみても集中力が上がるなと感じたので、黒画用紙をくりぬいたものを手づくりで量産し、自由にお持ち帰りいただけるようにしました。

リーディングトラッカー、マルチメディアDAISYパンフレット
リーディングトラッカー、マルチメディアDAISYパンフレット

 「りんごの棚」については全て手探りの試みですので、何が功を奏するかまだわからない、というのが正直なところです。「図書館が成長する有機体」であるならば、今まさに生まれたばかりの赤ん坊ですので、これからどう育てるか、ということになります。

 図書館のカウンターでは、ここ数年の「発達障害」に関する資料の出版点数の増加、貸し出しの増加を肌で感じています。それでも「ディスレクシア」などの単語は、まだまだ一般的ではないようです。障害者差別解消法を取り上げるまでもなく、これまで図書館を縁遠いと思っていたご利用者に対して「図書館は全ての人のためにあるんだ」というアピールをすることができれば、それが第一歩になるのではないかと思っています。

りんごの棚の様子


DINF英語版に、当コンテンツの英訳版を掲載しています。

Niiyama, Junko. Newly established Apple Shelf, a library space for children with special needs. DINF, http://www.dinf.ne.jp/doc/english/access/appleshelf.html (accessed 2016-04-28).