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平成19年度パソコンボランティア指導者養成事業

セミナー
障害者IT支援とパソコンボランティアの展望
報告書

障害者IT支援とパソコンボランティアの展望

三崎●

講演する三崎氏

皆さん、こんにちは。三崎です。私は障害者教育との関わりは30年ぐらいになりまして、最初肢体不自由の学校に10年ぐらいいました。その後が盲学校で十数年、今はろう学校にいるのです。ここに「ICF」と書いてありますけれども、人間の生活機能と障害の分類法というもので、この考え方を採ると、例えば手が震えて文字が書けなくてもワープロやスイッチを使って文字が書けるようになるから、そういう障害は消滅しますよという考え方なのですね。私もこの考え方で進めてきたつもりなのですが、いろいろ、畠山先生が午前中に話されたように感動的な体験をしました。それは、手が震えていたり体が動かなかったりして、字や絵を書けなかった方が生まれて初めてできるようになったということで、大変生徒が喜んでくれたということがあります。でも、あえてそうしたことを抜きにして言えば、自分で自分の考え方を客体化して、客観的な媒介を通して自分とコミュニケーションするとか、他人とコミュニケーションするということが、教育的にすごく意味があるのだという。これも午前中、三宅なほみ先生の話として紹介されましたが、そういったようなこと、非常に教育の本質に関わるようなことを直接的に見ることができたので大変勉強になりました。そういうこともありまして、ずっと障害者の学校でいたということです。

障害者の学校と言うと、何かできない子どもたちが集まっているというイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、そうしたいろんな手段が手に入ると、彼らは普通の高校生よりもずっといろんなことを語ってくれます。例えばちょっと今思い出したのですが、ある肢体不自由の学校で生徒が「三崎先生なんかは障害者と同じだよ」って言ったのですね。これはどういう意味だか分かりますかね? 畠山先生、分からないですか? 続きがありまして「三崎先生は障害者みたいなものだ。何でかって言うと、同僚の先生たちから浮いているじゃないか」って言うのです。要するに周りの人に理解してもらえないのが障害者だというようなことを言って、そんなことを普通の高校生はたぶん発想できないと思うので、すごく勉強をさせていただけたというふうに考えているんです。

支援機器としてのコンピュータというのは、いろいろソフトウェアで併用ができますし、外部のスイッチなども取り替えられるので大変便利だということで、私たちはその頃は、その頃からかな、「障害者だってコンピュータ使えるんだ」じゃなくて「障害者こそコンピュータを使うんだ」という考え方を主張してきました。今でも東京都の予算付けなんかを見ると、なかなか、一般の高校に機械を入れてからその次に障害者の学校に入れるという順序があって、そうした考え方はなかなか定着していないのですけれども、少し変わってきたかなと思うのは、何か今度、東京都がコンピュータの予算を大幅に付けるんですが、支援機器などもその中に含めると言っていますので、だんだんちょっと変わってきたような気はします。

こうしたコンピュータを使った障害者支援というのは大きな壁がありまして、30年前にある保護者の方が私に言ったのですが、障害者に熱心な人というのはパソコンに詳しくない。あるいは機械が嫌いだ。たぶん、午前中の寺島先生の大学や、もしかしたら石川先生の大学でも、障害者に熱心な方はそういう方が多いのかもしれないです。逆にコンピュータのことに詳しい人は障害者のことに関心がない、あるいは障害者以外のところで仕事をしているということがあってうまくいかない。福祉の関係は文科系と理科系の狭間にあって、なかなかこういう問題が進まないと考えています。そういう意味ではパソコンボランティアという存在は両者をつなげているわけで貴重な存在だと言うことができると思います。

次に聴覚障害関係の事例を紹介したいと思います。そこで今パソコン字幕というのが行われておりますけれども、小学校や中学校の難聴学級などで勉強している方は、こうしたようなものを自分の机に置いてあるパソコンで文字を見ながら先生の話を聞くということをしている場合があります。そうした支援をされている方が今そちらにいらしているのですが、その方が、例えばこれは小学校の朝会の様子ですが、立ったまま字幕の情報保障を受けるにはどうするかというので、PSP(プレーステーションポータブル)を使った情報保障の実験をやっています。今ご当人がいらしていますので、ちょっと説明していただきたいと思います。よろしくお願いします。

宮下●

宮下と申します。貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。私たち普段は、皆様見たらお分かりになりますように、パソコンで文字を入力してスクリーンに表示をしております。これは「IPtalk(アイピートーク)」というソフトを使っているのですけれども、2~3か月ぐらい前にこれを無線でデータを飛ばしながら見ることができるように、別のボランティアの方が「IPtalkBroadcaster(アイピートーク・ブロードキャスター)」というソフトを作ってくださったのです。それが今、三崎先生からご紹介いただきました「PSP字幕」という、PSPに文字を出していくものです。今、会場のほうに1台回しておりますので、よろしければご覧になってください。スクリーン表示と同じ文字が出ています。これはPSPだけではなくて、本来であればDSとか、それからもしくはPDAのような小さなものにも文字を出すことができます。正確にはここに文字を出すのではなく、PSPやPDAからデータを読みにいって字幕を表示しているものなのです。

このPSPが文字を出す情報保障としていいなと思う点がいくつかありまして、一つにはまず軽いです。ものすごく軽くて200グラムないですよね、確か。

それから小学校などで見てもらうときには必ず、PSPは、最初に学校の先生はゲーム機であるということをとても心配されます。でもPSPのよいところは、裏にソフトを入れないこと、それから横にメモリスティックなどを入れないこと、こうすることによってPSPはただの箱になってしまうのです。無線のスイッチは上にありますので、それを入れるだけですけれども、今日も今この部屋の中で無線LANを飛ばしてはおりますが、ここの部屋だけであってインターネットには接続はできません。このPSPからはインターネットに接続はできません。それはとても大切なことで、今、携帯電話の会社の方々が小中学校に一生懸命回って、携帯電話の安全な使い方というのを説明していらっしゃいます。でもPSPであれば、インターネットに接続をしないで文字が出せるということで、安全面としてはいいのではないかと思っています。

ただ、いろいろ使っていただきたい場所はあるのですけれども、現在文字の大きさが、今お回ししている表示が、一番大きいのです。このPSPはとても軽くてコードが要りませんので、視野狭窄や、弱視と難聴を併せ持った方々が目の前で文字を確認したいときにも使えるものです。ただボランティアとして、ソフト開発者の森さんによると、できるのは今表示している文字の大きさまでで、これより大きくするのは、PSPを作ってくださっている株式会社ソニーコンピュータエンターテインメントの会社の方にかかってくるので、今お願いをしている最中です。

手軽に自分が見たい所で、自分の席でも立ってでも、朝礼でも校庭でも文字を見ることができたらいいなと思っています。このPSPのいいところは、今はスクール形式で、皆さん前を向いて、資料も話者も、みんな前を向いて、前を見れば見ることができます。ただ、円になって、グループになってのディスカッションとか、それから資料だけが真ん中に大きくあって端っこに講師がいらっしゃるときとか、いろんな場面があると思うのですけれども、それでもPSPを自分の見たい方向に向けて、その先を見ることができます。円になってしゃべっているときでも、発言している方のほうを見ることができます。

今、スクリーンに出してくださっているのはお花で飾ったPSPですけれども、これは結婚披露宴などに自分がお呼ばれしたときにいいかなと思いました。私たちは、披露宴のパソコン文字通訳にもお伺いさせていただいているのですが、自分の式であれば、ウェディング・コーディネーターさんと打ち合わせをして、好きなように情報保障の体制を組むことができます。でも自分だけが親戚の一人としてお呼ばれしたときなどは、ノートパソコンをもう1台置くとなると、お食事がテーブルの上にたくさん並んでいる所に、なかなか置きにくいのですね。そういうときに小さいものであれば、ちょこっとコップと同じように置くことができますし、どこかに会場内を歩いていって他の方にご挨拶をしているときでも、メインの司会者の方がお話されていることなどを見ることができます。

ただ今はまだ実証実験中です。いろいろ使えるようにはなると思うのですけれども、時々スクリーン表示と改行が違ったりするかもしれませんけれども、逆に気づいたことがあったら教えていただければと思います。文字の大きさ・背景の色などは、自由に変えることができます。今日は変えられないように設定してありますので、皆さんのお手元では変えることはできないのですけれども、実際にはいろいろな色に変えることができます。どうもありがとうございました。

三崎●

ありがとうございました。突然だったのですが、ありがとうございました。パソコンボランティアというのは、障害者とテクノロジーという、今の社会ではある意味では対極に位置するものを結びつけている重要な位置にあるという話をいたしました。障害者とあるいは開発者を結びつけるということもある。今のような話が出てくるわけです。

これから、午前中の話と関係あるのですが、バリアフリー社会を作っていくときに、障害者とテクノロジーの両方を知っているパソコンボランティアの方の存在というのは非常に大きくなっていくだろうと私は考えています。一つの事例を紹介します。ICタグによる情報保障ということで、これは国土交通省がやっていて、東京都も今熱心に取り組んでいるのですが、道路や電信柱とかにICタグとか赤外線の装置を付けて、障害者の方が自立的に移動することを支援するという実証実験です。

現在これは実証実験から実際の実装に変わろうとしているのですが、その際に、例えば聴覚障害者のために電車の中でどのような情報を何のために、いつどこに表示したらいいかといったようなことをつかまなくてはならないような状況になっています。つまりインターフェイスについて具体的な情報を集めている状態です。そういうときにパソコンボランティアの方からぜひ情報を入れていただきたいと思います。今日メールアドレスを置いてきてしまったのですが、このプロジェクトのチームリーダーの坂村健先生のところで、その情報を集めておりますので、後で別の方法で提示したいと思います。以上で終わります。ありがとうございます。