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発表会:「言語的コミュニケーションが困難な重度障害児・者の自己決定・自己管理を支える技法」

講演2 「自己決定やコミュニケーションを引き出すことで変化した例」

講師 中野泰志・坂井 聡

○中野
 それでは引き続きまして、具体的な研究の成果のお話しをしていきたいと思います。 私、東大先端研の中野泰志と、それから坂井さん。ちゃんと聞いておいてください。

○坂井
 坂井です。よろしくお願いいたします。

○中野
 今、中邑さんがお話しくださった自己決定、それから自己選択というのを考えていくときに、 我々のテーマになっているのは、言語的なコミュニケーションが困難な重度障害児・者の場合に、 この自己決定をどういうふうに考えていけばいいかという話になります。これから事例を通して、 我々の研究というのを紹介していきたいと思うんですけれども、我々自身、これを2年間かけて研究してきました。 考えるに当たって、やはり出発点を事例にもってきました。言語的なコミュニケーションが困難な障害のある人たちといっても、 さまざまな状況があるわけです。そのさまざまな状況というのは、今回、研究に加わってくださった方から出していただいて、 そこにある問題点というのを構造化していくというような手順で研究を進めていきました。 前半では、坂井さんに自己決定のさまざまな技法に関するお話をしていただきます。 それから後半、私のほうで、その自己決定が行えるためには環境を整備していく必要があると。 その環境整備に関わるお話をさせていただきたいと思います。それではまず前半、坂井さん、お願いします。

○坂井
 よろしくお願いいたします。対象の子供さんですけれども、無発語の知的障害をもっていらっしゃる 2年生の男の子です。生活年齢が7歳2カ月で、K式検査の認知が3歳0カ月。言語は1歳9カ月。S-M社会生活能力検査の意志交換は 2歳0カ月。社会生活年齢は4歳3カ月でした。

VOCAをこの方に導入していったわけですけれども、VOCA導入後の様子について、 お母さんの毎日の記録、VOCAをどういうふうに使いましたかというのを、毎日記録を取っていただいたことと、週1回、 お宅におじゃまをして、学校から帰ってきて過ごしている夕方の約1時間をビデオで記録をいたしました。 そのビデオの記録とお母さんの記録とを合わせて、検討するということを行いました。

導入したVOCAは「テック/スピーク」です。 隣のブースの中にも置いてありますけれども、4×8の32シンボルを登録することができるVOCAを用いました。 ただ、VOCAを導入したときに、入れる言葉については32カ所全部に最初から埋めていたわけではなくて、 空白ももちろんおいておきながら、子供さんが必要だと思われる言葉を入れていくようにしました。 だいたい1週間に1回、ビデオを見て検討したあとで、どういう言葉をつぎ新たに入れていくかだとか、 あまり使わない頻度の少ない言葉については用いないようにするとかということを行ったわけです。

これは非常にきれいにデータが出ているんですけれども、導入後の日数、この下は週です。 1週目から11週目までみています。頻度です。トータルのビデオとお母さんの記録に書かれているコミュニケーションの回数、 例えば、それはサインを使っていたり、直接行動であったり、クレーンであったりするわけです。 赤のほうはコミュニケーションエイドを使って伝えてきたという頻度です。

1週目はもちろん0パーセント、全くVOCAはおもちゃのように使っていて、自分でその音を聞くというふうに使っていて、 お母さんのところへ持ってくるとか、お父さんのところへ持ってくるとかということはありませんでした。 2週目ぐらいになると何回かに1回持ってくる。それは実はお母さんのほうが「何?」と聞いて、自分の身近なところ、 子供さんが今いるそばにコミュニケーションエイドを置いて「何?」と聞くことによって、 コミュニケーションエイドを押すということが表れ始めました。これが2週目と3週目です。 そういう状態。だけど、やはりサインで伝えたり、クレーンで伝えたりすることが非常に多かったわけですけれども、 第4週目、突然にコミュニケーションエイドを使い始めました。コミュニケーションエイドを使って伝える頻度が突然増えました。 そのあとは徐々に増加の傾向にあって、こっちは減少しているんですけど、サインのほうも11週目になってもなくなっていません。 つまり、コミュニケーションエイドを導入してもサインはなくならなかったということです。よくコミュニケーションエイドを導入すると、 いま伝えている言葉とか、サインがなくなってしまうのではないでしょうかというような質問を受けるんですけれど、実はこの結果を見ると そうではないらしい。維持されているということからも明らかです。これは実は機能の変化。お母さんの記録とビデオの記録をいくつかの機能、 果たしている役割によって見てみたんですね。例えば、サインで要求をしてきた。「ちょうだい」とかということについて、 サインで要求してきたものはひし形の青ですね。これですね。それからサインで挨拶した。「おはよう」とか、「こんにちは」とか、 例えば礼をしたりですね。これは青の四角ですね。それから黄色、コミュニケーションエイドで要求したものは黄色です。 VOCAを使って要求をした。何々を「ちょうだい」とか、「ください」ということですね。それから注目、「お父さん」とか、 「お母さん」とか、妹の名前を呼んだり、「先生」とかと言ったりしたというのがこの薄いブルーですね。情報提供、 「おなかがすいた」とか、そういうものをVOCAで行ったというのが米印です。それからVOCAで「おはよう」とか、「行ってらっしゃい」とか、 「行ってきます」とかというのが挨拶。挨拶はこの茶色のまるです。これを見ていただいたら分かるように、 実は、最初は要求をサインですることしか周りの人にうまく伝わっていなかったわけです。 うちの子は要求するばかりなのかもしれないと思っているわけですね。

私も最初におじゃましたときに、ビデオを見せてくれとか、お菓子がいるとか、よく要求してくる子だなと 思っていたわけですけれども、挨拶のサインもちょっとありましたけれども、VOCAを導入して、 先ほどのグラフでいえば、ちょうど3週目から4週目にVOCAが増えたこのときに、急激に要求していた サインが減って、コミュニケーションエイドで要求するということが増えました。

それから注目「お母さん」というようなことをVOCAを使って言うことが増えたわけです。それからVOCAを使った 挨拶なんかも増えてきました。それからはVOCAを使った要求なんかはだいたい一定。それからVOCAを使って 挨拶も一定。だいたい注目もだいたい一定しております。こちらもずっと減っていきましたけれども、なくなってはいずに、 少ない数ですけれどもずっと出ている。つまり、これはどういうことかというと、コミュニケーションエイドを 導入したことによって、今まで要求としかお母さんに伝わっていなかったものの中に、「お母ちゃん」とかいうような 注目の呼びかけが入っていたり、それから「おはよう」とかいうものの挨拶が入っていたりしたということなんだろうと思います。 私たちはサインしか使えなかったりすると、どうしても「ああ、欲しいのね」ということになるわけです。 実はその中にいろいろな機能が含まれていたのではないかと考えています。これは1日の平均の使用回数です。 だいたい頻度は回数が少なくて、コミュニケーションエイドを導入したことによって、コミュニケーションが果たして促進されたのか どうなのかというのは分からない。ちょっと頻度を取ってみたら、最初はサインだけで伝えているものが、 1日にその時間、だいたい5時から6時のビデオの間だけなんかを見たら5回ぐらいしかないとか、6回ぐらいしかない。 それが2週目になると少しVOCAが入ってきて、だんだんと回数が増えていって、コミュニケーションをする総数が 20回とか増えている。だから、コミュニケーションエイドなどを導入することが、実はコミュニケーションの回数を増やしたり、 やり取りの回数を増やしたりする可能性があるということなんだろうと思います。これは総数が増えているというのはとても大事な ことだろうと考えています。そこでサインなんかもなくならずに、例えばトイレなんかに行ったときには、 VOCAなんかを持ってこられないときには、「トイレに行きます」とかというのはサインで出たり、もちろんお風呂の中ではサインでしていたんでしょうし、 お母さんの記録からもサインはもちろんなくなっていません。これは押し分けたシンボルの数です。 32のコミュニケーションエイドの中に、最初は八つぐらいしかシンボルを貼り付けていなくて、音声は登録していませんでした。

1週目はもちろん適切に押し分けたシンボルなどがあるわけではなく、適当に押していたわけですけれども、 2週目になって、お母さんとお父さんと家族の名前と僕というのを適切に押し分けるようになりました。 その人の顔を見て「お母さん」と言ってみたり、「お父さん」と言ってみたり、そういうように適切に押す。 段々回数が増えていって、3週目、4週目、5週目、6週目、約7週目からずっとあとは「テック/スピーク」の中の30種類のシンボルを適切に押し分けていた。 これは今度、「テック/スピーク」を連続して押した。例えば「お母ちゃん、おなかがすいた」とか、 「お父ちゃん、行ってらっしゃい」とかというふうに二つのシンボルを組み合わせてみたりというようなコミュニケーションエイドを 使って組み合わせたものなんですけれども、だいたい1週、2週目には1種類だけ、さっきの「お母さん」とか、 「お父さん」とか、人のところ1種類だけなんですけど、3週目からは二つのシンボルを組み合わせて、「お母さん、のど渇いた」 とかというふうなことが言えるようになって、7週目からあとは、おかしかったのは「お父さん、僕、テレビ、いい」とか、 そういうように許可を求めたりするように「お父さん」と「僕」、それから「テレビ」、「いい」とかというように、 4種類のシンボルを押し分けて相手に伝えることができるようになったというのがあります。

これはVOCA導入前後のサインなんですけど、これはお母さんに確実に伝わっていたサインというのは、 導入前のサインは「寝る」とか、「お風呂」「ご飯」「のど渇いた」「行く」「トイレ」「絵を描いて」ということだったんですけれども、 VOCAを導入後、実はサインの種類が増えています。「寝る」「お風呂」「ご飯」「のど渇いた」「行く」「トイレ」「絵を描いて」までは いいんですけど、「ありがとう」「テレビを見る」「ビデオを見る」、例えば、テレビを持ってくるとか、ビデオのケースを持ってくるとか、 それから「おはよう」のときに頭を下げたり、納豆を食べるというときは動作でこねこねして、それが「欲しい」とか、 それから「寒い」とか、「玉子を食べたい」とか、「混ぜる」「洗う」などのサインが増えています。 それからVOCAとサインを組み合わせて使ったものも増えています。「お風呂に入る」というときには お風呂のサインをこうやってしながら言ってみたり、「のどが渇いた」ということはコップを持ってきて伝えてみたり、 VOCAとコップを持ってきてですね、そういうのがある。それから「テック/スピーク」を使って伝達してきた言葉というのも、 ずっと二つの注意喚起プラス何か挨拶だったり、それから「誰々ちゃん、ごちそうさま。おいしかった」とか、 そういうふうにコミュニケーションエイドを使うようになって、「先生、おなかすいた」とか、「先生、だめ」とか、 僕が行ったときに、よく言われていたわけですけど。それから「テレビ、いい」とか、「だめ」とかというような、 いいのかだめなのかというようなこともVOCAを使って伝える。考察なんですけれども、実はVOCA導入後の3週目から 4週目にかけて、サインよりも正確に自分の意思を伝えることのできるための道具としてVOCAが理解できたのではないか。 それは使用頻度の回数が、頻度が逆転したというところから考えられます。

VOCA導入後のサインの種類が増えているということから、VOCA導入後によるコミュニケーションの成立の経験、 VOCA導入によってコミュニケーションが正しく成立するという経験は、他のコミュニケーション手段にも 実はプラスに作用する可能性があるのではないかと思っています。ですから、何か一つのコミュニケーションエイドを使って、 やり取りを成立させる経験がたくさんできれば、VOCAがないときにも何とか他のことで伝えようとか、 カードを使って伝えようとかというようなことが増えてきているんだろうなと。

それからサインの場合には、知的障害をもっている子供たちの場合には、それらを連続して三つのサインを 組み合わせて伝えるとか、四つのサインを組み合わせて「お母さん、僕、おなかが、すいた」というようなことを言えないんです。 それはなぜかというと、ご飯を指差した時点で「ご飯が欲しいのね」と、「お母さん、僕はおなかがすいたから、 ご飯が欲しいんだけど」というようなことが、そのサイン一つに含まれているからですね。でも、コミュニケーションエイドの場合には、 相手を明確にして伝えることができるようになると、連続してコミュニケーションエイドを「僕、おなかがすいた、お母さん」というように連続して押す。 これはVOCAを導入したコミュニケーションエイド、VOCAを代表とするコミュニケーションエイドの一つの特性を示すものではないかなというふうに考えられます。 それから、VOCAが主要なコミュニケーションの手段になるまでには、 VOCAの使用に複数の段階があることが示唆されました。例えば最初は隅っこに行って自分で勝手に遊んで、音声のあるところを押すわけですね。 最初に彼がやっていたのは、左の上から順番にずっと右の端まで行ったら、また二段目の左の上から順番にずっと押して、繰り返しそれで遊んでいました。 その次にするようになったのは、シンボルのあるところだけを押すようになりました。音の出るところだけを押すようになりました。 その次に、お母さんからVOCAで教えてねと示されたら押すようになりました。その次の段階で、今度はVOCAを決まった位置に置いて、テレビの横に置いたときに、 そのコミュニケーションエイドはここにあるよというようなことを示されたら、それを持ってきて押すようになって、最後は自分でそれを持ってきて、 お母さんの前で押したり、お父さんの前で押したりするということができるようになりました。ですから、 VOCAの距離ですよね。遠いところにあったVOCAを自分のところに持ってきて押すとかというようになるということは、コミュニケーションの手段として、 きちっとVOCAを使っていたということになるのではないかというふうに思います。それからVOCA導入後のやり取りの増加と機能の複雑化は、 本児のコミュニケーションニーズをサインでは満たすことができていなかったということを示唆するものだと思うんですね。

実はそのギャップは非常に大きなもので、ギャップが大きかったらストレスも大きくたまるので、VOCAの導入が本児のコミュニケーションニーズを満たす 上で非常に有効だったのではないかというふうに考えています。事例の2です。これもコミュニケーションエイドのVOCAを使った事例です。 対象は通園施設に在園する3歳児。K式発達検査の結果は発達年齢1歳8カ月。言語社会生活領域は0歳10カ月でした。指導は2001年10月から同年12月までの9回。 VOCAには「テック/トーク」を使用しました。関わり方をビデオで撮影して、それを文字転写して、ちょっとビデオ分析をして、次のセッションではどんなふうにして関わってみようか というような攻略を立てて実践することにしました。「テック/トーク」というのはこっちですね。今度は二つの枠に八つという(VOCAです)。 結果なんですけど、この子の場合も1回目と2回目のセッションでは、VOCAをもって隅で音を鳴らして遊んでいました。 「コチョコチョして」というのが大好きだったので、「コチョコチョして」と言われて、くすぐるということを繰り返したら、 このコチョコチョをされる前に逃げるようになりました。

5回目のセッションでは、コミュニケーションエイドの右下のボタンから順番に1周まわすように押していたわけです。 なぜそんなふうにしていたかというと、実は右の一番上のところのボタンに「コチョコチョして」が入っているので、彼は左の下から順番に こうやって押していくことで、実は最後にコチョコチョをされるという、見通しをもって、段々5、4、3、2、1、はい、コチョコチョというように、 彼は解釈していたんだろうと思います。そこで5回目のときにシンボルを入れ替えたのです。ひょっとしたら、これは場所で覚えているのかもしれないと思ったので シンボルを入れ替えたのです。

シンボルは左の1番上のボタンのところに、その「コチョコチョ」のシンボルを登録したら、彼は案の定、こちらの右下から順番に押していって、 すぐに左上を押したので、予想外に「コチョコチョして」という言葉が出たために私がくすぐりました。彼はきょとんとしていて逃げなかったんですね。なぜ、 くすぐられたのか理解できていない様子でした。つまり、場所で覚えていたということですね。ここを押せば、くすぐってもらえるのだけれども、 それはシンボルで覚えていたのではなくて、実は場所で覚えていたということだろうと思います。 7回目のセッションでは、私が距離を置いて、少し離れたところに立つようにしました。そうすると、 VOCAを持ってそばまで寄ってきて、「先生、コチョコチョ」って。左下から順番に押すのではなくて、私の写真のシンボルと「コチョコチョしてくれ」というシンボルを押すようになりました。 「先生、コチョコチョ」だけです。9回目のセッションでは、驚いたことに、VOCAを持っていなかったのですけれども、コミュニケーションエイドに 入っている言葉を「先生、コチョコチョ」というように言って、言葉でくすぐり遊びができるようになりました。 考察なんですけど、一つ、VOCAは音声表出を持たない子供たちに対して、構造化された遊びを提供できる。 音声を持つことによって、イナイナイバー遊びと同じですけれども、「先生、コチョコチョして」という、 必ず自分が押したら先生が返事をして、「コチョコチョして」と言ったらくすぐられる。そのことを何度も何度も繰り返す。 その遊びというのは、実は言語を持っていらっしゃらない子供さんの場合には非常に難しいわけですけれども、 コミュニケーションエイドはそれを可能にする。

VOCAに登録された音声を最初に表出したことから、VOCAが持つモデリングの機能、これは東京学芸大学の藤野先生なんかが おっしゃっていますけれども、VOCAにはモデリング機能があるのではないか。VOCAが持つモデリング機能の存在が、 そのような音声表出につながった可能性が考えられます。ここでも同じでした。 VOCAが使われていく課程にはいくつかの段階がある。それは隅っこで使っていたVOCAを、今度は 自分で順番に押していって、それから私のそばに持ってくるようになって、必要なシンボルだけを押すようになったということです。 VOCAによる音声表出に目を向けるあまりに、実は非言語的なコミュニケーション手段を見落としてしまう可能性があるというのは、実はビデオで分かったことです。僕たちは関わる上で、VOCA だけを使わせようというのではなくて、VOCA以外の伝達行動にも十分に注意しながら関わらないといけないなと思っています。 先ほどの事例1のほうでいえば、サインは全然なくなっていないし、音声表出も増えたり、サインも増えたりしているわけですね。 そのことにやっぱり私たちは目を向けておかないといけないというふうに思っています。その他の事例で、マニュアルのほうに出てくるものとして、 ちょっと簡単に。これはタイムエイドです。ちょっと早く着替えておいでよと言っても、うまく伝えられない場合に、このスイッチを押して、 ここの赤いまるがなくなるまでに着替えておいでよと。1分で1個なくなっていくタイプのものをここに持ってきました。 着替えるということはこれだけでやるんだよというのを、シンボルとタイムエイドを使ってやる。 これは実際にタイムエイドを持って、着替えに行っている女の子の写真ですけれども、確かに、この赤いタイマーがなくなるまでに、 発光ダイオードが消えてなくなるまでに、彼女はちゃんと着替えて帰ってこられるようになりました。

今、彼女はキッチンタイマーを使っています。それから、これは後半の環境のところとも若干関係するのかもしれませんけれども、 時計の分からない人たちに「はい、きょう、お勉強をするよ」と言ったときに、どれだけするんだろうとか、何をするんだろうということを 私たちは言葉で伝えたりしますけれども、分からない人たちがいる。課題はちゃんとかごの中に入っていて、 ここの課題を順番にやりましょう。これはよくTEACCHでいわれている構造化ということなんだろうと思いますが、分からない見通しが持てるように、 きょうはこれだけしたら終わりだからねというのを分かるように伝えるようにしています。 ここのが段々なくなっていったら終わりということですね。

きょうするべきものを分かりやすくすることで、あなたはまだするべきことがあるのではないですかとか、 もうちょっとこれ残っているよとかということを分かるようにするわけです。 もちろん、ここのものがなくなったら追加することはなくて、それでこの人の勉強は終わりというふうにする。 スケジュールです。時間割りですね。シンボルと文字で示されていて、シンボルと文字が分かる子供さんには、 こういうようなスケジュールが必要だろうし、それはちょっと分からない子供さんには、写真で分かるように、 その日の予定を伝えてあげるというのが必要なのかもしれません。これは時計のシンボルが書いてあって、 実は時間まで並行して使っています。授業が終わったらこちらに印をつけたりするというようなことで、 終わったことを確認しながら見通しをもつことができるようにする。これは校外学習のときの予定表です。 それぞれの子供たちに違った伝え方をしないと、一律のしおりでは分からないので、ある子供さんは写真と大きな文字ですね。 この方は文字を理解しておりませんけれども、一応、文字を必ずつけるようにして、いずれの方にも文字は必ず入るようにしているんですけれども、 大きな写真を使った人とシンボルを使っている人とかというのがいます。このシールはたまたまマッチングの課題にしているので置いているだけです。

それから、携帯電話の活用です。携帯電話のフォト機能を使って、分からないもの、「これを取ってきてちょうだい」とか、 「これをお願いします」といったときに、携帯の画面を見て子供が取りに行けるようになればいいのではないか。 この子も携帯電話をここに持っていますけれども、携帯電話にあるカレンダーの機能を活用することで、 この子はカレンダーに実は興味をもって、ここの日付を自分で替えたり、数字に興味をもつことができるようになっている。 それに分かるように伝えるための工夫。ここにビックマックというのがありますけれども、歯磨きをするときに 10数えようねとか言ってするんですけど、なかなか数を数えることができない。そこで、このコミュニケーションエイドの中に 10入れておいて、10回数えるんだよと。これに「歯磨きするで、するで。用意はいいかい。 1、2、3、4、5、6」と入っているわけです。そうしたら、こちらからの意図通り、もうちょっとちゃんと磨きなさいと言わなくても 10回は歯ブラシを動かして磨くことができる。この方は、ここにスケジュールがあるのですけれども、文字で書けないんです。 でも文字には興味をもっていて、何とか書きたいと思うんですけれども、自分で書いた文字というのは大嫌いらしく、 うまく書けないのを非常にいらいらするタイプの方なんですが、ワープロを使うことによって、そういう支援技術を使うことによって書くことができる ようになったということです。その他の事例でこういうものもご紹介できたらと思っております。 私のほうは、以上で事例のほうは終わりです。

○中野
 では、コンピュータを変えながら、後半のお話をさせていただきます。 後半は環境ということを考えていきたいと思うのですが、いま坂井さんがお話しいただいたような事例の場合というのは、 写真が分かったり、それからVOCAがどこにあるかというのが分かったりするわけです。

ところが、いろいろなケースの方がおられまして、VOCAそのものとか、写真そのものというのを確認するのが非常に 難しいというタイプのお子さんたちや人たちというのもあるわけです。 私たちのグループでは環境を変えることで、いま紹介していただいたVOCAとか、タイムエイド等というのを 使いやすくするように工夫をしてみましょうという取り組みをさせていただきました。 長らく話を聞いていると段々疲れてきますので、少しこのぐらいから話を柔らかくしていきたいと思うのですが、今ここには全盲の方もおられますので、私のいでたちを紹介させていただきますと、 上には黄色のを着ております。

下にはショッキングピンクのワイシャツを着ておりまして、遠くの方はちょっとよく分からないかもしれませんが、 ネクタイは視力検査をするときのCの字が書いてあるランドルト環のネクタイというのをしております。 今年はやたらピンクのヤッケが流行っておりまして、e-ATの方たちがたくさん着ていて目立っているのですが、 ATACがまだATACという名前になる以前から目立つ格好をしているのが私、中野でございます。 この目立つ格好をしているというのは、実はコミュニケーションの上ですごく重要な意味をもっています。

ATACの会場で派手な格好をしているやつが、その辺をうろうろしていると、あれは中野だというのがすぐ分かる。 今年、ちょっとそういう意味で派手な人が多くて迷惑しているんですけれども、幸い、ほとんどの方はピンクで、 私だけピンクでないので見つけやすくあったと思うのですが、これは今ちょっと冗談ぽく言いましたけれども、 例えば、視覚的な手掛かりも、それから聴覚的な手掛かりもなかなかとりにくい。いわゆる盲ろうで、 なおかつ自分で自由に発話をしたりすることができない。中には、さらに車いすに乗っていて、 自分で自発的に移動することが難しい。そういう障害の重い方たちというのもおられるわけです。 そういう方たちとコミュニケーションをするときに、いきなりVOCAを持っていって、 コミュニケーションができるかというと、そうはいかないわけです。

コミュニケーションの最初になくてはいけないのは何かというと、誰が来たのかというのが分かる必要性があるわけです。 その意味で言うと、私は非常にこれは分かりやすいんです。僕が近づいていくと、少し見える人の場合には、 派手なのが来たというので、どうやら中野が来たらしいということを確認することができて、 中野だったらいいかということでコミュニケーションをしてくれるお子さんもいたり、逆に中野は嫌いだというので、 コミュニケーションを拒否するというようなケースがあったりということが起こるわけです。 僕らみんな、好きな人、嫌いな人というのはもっていますから、誰が来たのか、その人とコミュニケーションをしたいのかどうかというところを 確認する最初のところというのが重要なわけです。

そのVOCA等を導入する前に、どんな環境を整えれば、コミュニケーションが出発できるかというところを 我々のグループでは考えていくことにしました。主として、養護学校の先生たちと取り組ませていただいたのですが、 養護学校の中でも重度重複障害、肢体不自由を合わせもつ重度重複障害の養護学校の先生方と一緒にいろいろ やり取りをさせていただきました。その中で1日の活動等を見てみますと、 朝に学校では朝の会というのをやります。

朝、「皆さん、おはよう。きょうはヤッちゃん来ているね。サトシ君は元気かな。」というような 朝の会をやるわけです。その朝の会のときにさまざまなコミュニケーションが 行われているわけですが、そのコミュニケーションの中で、どんな情報のやり取りがされているのか。 それから散歩に行くときもそうですね。散歩に出かけていく、それから食事をする、 遊ぶ、いろいろな活動があるわけですけれども、その中でどんなコミュニケーションが行われている か見てみると、市川先生のお話の中にもあったのですが、言語的なバーバルな情報だけでなくて、 非言語的なノンバーバルな情報というのが、かなり重要な役割をしているわけです。

朝の会で見える子のところには視線を向けて、視線が合うとそちらに注意が向くわけです。 ニコッと笑うと、ニコッと笑ってくれるわけですね。こういうコミュニケーションをしているわけです。 こういった言語で伝えられるような情報以外のノンバーバルな情報というのは、どんな情報があるのかと見ていくと、 市川先生がお話になられた音の強弱とか、イントネーションとか、間合いというようなものもありますし、 それから、先ほど坂井さんとやらしていただいたような、相手の表情とか、それから動作、 そういったものもあります。それから場合によっては、障害の重いお子さんなんかがいるというのが分かっている場合には、 なかなかセンスのある先生はそこへ行って、この子は見えていないかもしれないなと思うと、声をかけるときに「サトシ君」と 言いながら、触ったりするという行動をするわけです。そうすると、自分のことだなということが分かる というような場合があったり、それから、私も障害の重いお子さんのところに行くときには、香水をつけているわけではないのですが、 オーデコロンとかをつけるときには同じにおいのものをつけるようにしています。 これはにおいで、いつもあのにおいをさせているのは中野さんだなというのが分かる。 味というのは対人コミュニケーションの中では、あまりありませんけれども、食事の場面では、 この味というのも非常に重要な情報になっているわけです。

日々の活動を見ていると、いま申し上げたように、言語的な情報以外に非言語的な情報というのは コミュニケーションの中で大変重要な役割を果たしている。 その中で、かなり聴覚に関係する情報や視覚に関係する情報というのが、 重要な役割をどうやら果たしているみたいだということが、我々のグループの中で分かってきたわけですね。 聴覚についてのお話は市川先生のお話の中に随分ありましたので、きょう、ここでは視覚に関する部分に注目して 報告をさせていただきたいと思います。視覚というのは相手の表情とか、周りの人が何をしているか。 そういった情報がノンバーバルな情報として伝わるわけです。例えば、重度の知的障害があって、 それから動きが制限されていて、なおかつ視覚障害、すなわち見えにくさをもっていて、 相手の表情とか、動作が分からないような場合、分かりにくいような場合、 そういう場合にコミュニケーションがどのように変化するか。それからそのコミュニケーションを 補っていく。 この視覚で使われるノンバーバルなコミュニケーションを補っていくためには、 どういうことをすればいいかということを考えながら実践を繰り返していきました。

今のちょっと簡単にまとめておきますと、感覚障害を合わせもつ重度重複障害の場合というのは、 いろいろな自己決定の技術を使う前に、そういった場面になっているということが分かりにくいという、 決定的な情報不足があるわけで、その情報不足というのを補っていくような活動をする必要がある。 これが環境の整備の重要性ということになるわけです。

これから二つの養護学校の先生に協力していただきながらお話をしていきたいと思うのですが、 一つ目、京都にあります呉竹養護学校という肢体不自由の養護学校のお話から最初にさせていただきます。 これはちょっと最新のデータではないんですけれども、スライドの準備上、最初にデータをとられたときの、 肢体不自由の養護学校における視覚障害の割合というのを示させていただきます。 先生に出てきてもらいましょうかね。 京都市内の養護学校で、今回のATACでも非常に託児をはじめとして、 たくさん協力をしていただいているんですけれども、そちらの養護学校に関わらせていただいて、 そこで子供たちの視覚障害の状態というのをまず調べていただいたわけです。 中東先生、ちょっとご説明お願いしていただいていいですか。

○中東
 京都市立呉竹養護学校の中東です。今、肢体不自由の養護学校は京都市内で 1校です。これは平成12年12月ごろにとった、担任の先生に、特に本校の生徒、 いわゆるランドルト環を使った視力検査といいますか、そういう検査法では視力が測れない 子供たちがほとんどです。担任の先生に、普段子供を見ていて、子供の視覚的な様子はどうか ということを質問紙で質問したものです。

○中野
 先生方が答えたということですね。で、結果としては。

○中東
 全く見えていないようだという子は、おそらくいないだろうということなんですが、 あと光は感じているようだ、何らかの見えにくさはあるようだというのが半数近くになっています。

○中野
 これは、今回ちょっと細かいデータをお見せすることができないのですが、 養護学校で視覚障害を合わせもっているケースがどのぐらいあるかということについて、 さまざまな領域の人たち、例えば眼科の人たちをはじめとして調べたデータというのがございます。 そちらのデータを見ると主障害は知的障害とか、肢体不自由だといわれている人たちの中に、 見え方の問題を合わせもっている人というのは、数が結構な割合になっているということが 分かっておりまして、この呉竹養護学校でも、やはりそのぐらいたくさんおられるという話ですね。 それで見え方に問題をもっているんですけれども、ところが、じゃあ見え方に配慮した日々の活動が行われているかというと、 最初からうまくできていたわけではなかったですよね。

○中東
 そうですね。例えばペープサートだとか、パネルシアターだとか、 本当に絵の上手な先生が細かい教材を作っておられるのですが、果たしてそれが子供にとって 分かるものになっているかどうかは関係なしに進めておりました。

○中野
 私も見させていただいて、非常に授業の展開としては素晴らしい授業が展開されているんです。 そのままお芝居になるような、そういった素晴らしい授業を展開されているのですが、 子供たちがそれを分かっているかというと、どうも分かっていないかもしれないという子供たちがいるのではないか。 その原因の一つが、見えないがために分かっていないということがあり得るんじゃないかということが少しずつ明らかになってきまして、 そこで、環境をいろいろ変えてみようと。そうすると、せっかく先生たちがいろいろなことをやりながら語りかけているわけですね。 コミュニケーションしたがっているわけですが、それを子供たちが受け止められていない。 これを受け止められるようにするためにはどうすればいいかということで、さまざまな試みをしていただきました。 その中からいくつかというのを、これからスライドで紹介していきたいと思います。 中東さん、これは照明の工夫と書いてありますが。

○中東
 はい、これはATACのおかげもあるのですけれども、ATACで「皆さん、天井をずっと見てください。」 というお話があったんですね。ずっと見ているとまぶしいですよね。でも、本校にもずっと教室で、 まだ座位がとれなかったりして、寝たきりの子が結構いるんです。学校の蛍光灯というのは、 盲学校のように蛍光灯のカバーがついているわけではありません。

○中野
 いいえ、盲学校にもついていないところがたくさんあります。

○中東
 そうなんですか。そういうお話と、それから、これは本校が最初にやり始めたのではなくて、例えば 神奈川県の中原養護とか、千葉県の長生養護なんかへ行きますと、むき出しの蛍光灯がまぶしいのではないかというので、 子供が和紙で作った和凧ですね。それが蛍光灯の上に、いかにもインテリアのようにうまく使ってある。 そういう話を学校に帰ってしますと、学校って、すぐに蛍光灯のカバーがつくわけでもありませんし、 お金もないし、バタバタしていて時間もない中で、ちゃんといい方法を見つける先生がいるんですね。 ガムテープと障子紙があれば、すぐにできるんです。仮ですが、さっそくちょっとやってみましたということで、 障子紙がふわっと布のガムテープで天井につけてあると。それだけの仕組みです。

○中野
 これは誰にでもできる話なんですが、実はいろいろな学校等に行っていると、 重度の障害があって、いつも寝たきりの状態になっていて、学校とか施設に来ても、 いつも寝ているんだといわれているケースがあるわけです。 本当に寝ているのかどうかなんですね。子供と同じように、その場所から天井のほうを見てみると、 そこに蛍光灯があってまぶしいわけです。まぶしい状態で、自分で場所を変えたりする ことができないと、どうするしかないかというと目を閉じるしかない。 寝ているのではなくて、実はまぶしいということを、目を閉じることで示してくれていたのに、 そのコミュニケーションに私たちは気が付いていなかった場合があり得ると。 そこでまぶしさを軽減するようなことをやって、これはケースによっては、 これで目が開けられるようになった。これだけじゃなくて、少し教室を暗くするという配慮で、 目を開けて昼間の活動ができるようになったというようなお話もあります。 次に、これはパネルシアターというやつですね。シアターパネルですか。

○中東
 これも疑似体験等々をして、先生方が実感されたのですが、パネルシアターのパネルは 大概白いですよね。例えば、そこにかわいい黄色い帽子、あるいは黄色いバナナが貼り付けてあって、 お話遊びが進むわけですけれども、ロービジョンのゴーグルを掛けてみたら、全く何が貼ってあるのか分からない。 で、パネルシアターの地を黒に変えると、黄色いバナナとか、黄色い帽子がはっきり見えた。 そういうことで、まぶしさのある子にとっては、背景の色を工夫することで、普段使っている、 これは教室の中に毎日使っている、いろいろな養護学校はいろいろな形のを用意されていると思うのですが、 日付とか、お天気とか、バスの発車時刻とかが書いてある黒板です。それを手作りで黒白反転とか、 背景をいろいろ変えたりして作ったものです。

○中野
 実は白内障があったりすると、この黒い背景に白い文字のほうが見やすくなります。 知的障害の養護学校等で、例えばダウン症のお子さんとか、風疹症候群のお子さんがあったりするわけですが、 そういう場合に白内障が手術されないで残っている場合というのは、こういう黒い背景に白っぽいもののほうが、 白黒反転したほうが見やすいということがよく知られておりまして、こういうサイン一つ出すにしても、 白黒の反転をしてやるだけで、随分見やすさが改善するというケースがあるわけです。 さらに、これでも見るのが難しいというお子さんたちへの配慮もあるわけですね。

○中東
 はい。今度はただただ絵で見せるだけではなくて、もっと見えにくい子もいますので、 触って違いが分かるような工夫。例えば、雲のところは脱脂綿が貼り付けてある。 傘の部分はたぶんビニール袋を切って貼っているんだろうと思うんですが、 フワフワのとツルツルのとで、二つのカードが違うものだなということが分かるようにしてあるものです。

○中野
 こういったマルチメディアというのは、こうなくてはいけないんだろうと思うんですね。 今パソコンの世界でマルチメディアと盛んにいわれていますけれども、通常のパソコンの中に 入っているマルチメディアというのは、視覚的な情報と聴覚的な情報というくらいがせいぜいなんですが、 もっとさまざまな感覚を私たちは使えるわけで、パソコンでも、こういった触覚とか、嗅覚とか、味覚とかというのを 使えるようになって、はじめて真のマルチメディアなのかなというふうに思うんですけれども。 今の触覚以外にも、次のスライドは。

○中東
 これは私たちはよく絵カードを使いたくなるのですが、絵カードにバナナの絵を描いてバナナだよ、 リンゴだよ、ミカンだよとやるのですが、まず、リンゴってどんなのかな、 ミカンってどんなのかなというところから情報を入れていこうというので、本校では最重度で目もどれくらい見えているか 分からない、聴覚もどれくらい使えているか分からないという子供なんですが、 その子供の横でミカンを実際にむきながら、触らせながら、ミカンだよというのをやりながら、 徐々にカードのほうに進むという最初のステップですね。バナナも触らせて、実際にむいて、 また触らせて、においを嗅がせて、口に持っていける子でしたら、ちょっと味わせるということもしながら取り組むという 一例です。

○中野
 そうですね。いろいろなサインを導入していって、最終的にはというか、 これがさらに発展していって、例えばVOCAを使えるようになるだとか、それがさらに音声言語で やり取りができるようになるというふうに発展していくんだと思いますが、その発展の初期の段階で、 果たして私たちがどれだけ分かりやすいサインづくりというをしているかというところですね。 その他にもいっぱいあるんですけれども、おもしろい試みの一つとして、このスライドを説明していただけますか。

○中東
 授業でビデオなんかを使いますよね。スクリーンというのは、 私たちの常識ではこういう形なんですが、

○中野
 縦に立って、今のスクリーンのようなね。

○中東
 縦に立っていますね。これも座ってこう見ていますよね。寝たままの子は、 一層のこと天井をスクリーンにしちゃえという、そういう発想です。

○中野
 視線の中に自然に入ってくるのは天井なわけですね。それで天井スクリーンを使われた。 そのときに見させていただいたのですが、天井をそれで見ている子もいるのですが、 天井でもまだ見ていない子がいるんじゃないのという話をしたら、次は。

○中東
 天井は結構高いですので、子供によっては距離がありすぎる。そしたら、 天井を下げるわけにもいきませんので、布一枚あったら、子供の見えるところまで映像を持って こられるのではないかということでやってみているところです。

○中野
 布とか、それから段ボールですね。段ボールに白い紙を貼って、 そこに投じるというやり方をする。こうすると、随分と視線を向けたり、 見るということをやってくれるような活動が展開できるようになっていくという話ですね。 これをさらに対向スクリーンにしたりとか、対向スクリーンにするとその場で音も出すことができる のでという、非常におもしろい取り組みというのをたくさんしてくださるわけですね。 そういうことをずっと積み重ねていきながら、先ほど坂井先生が紹介してくださったようなVOCAへ とつないでいきたいわけです。

ところが、このVOCA一つとっても、どういうところにVOCAを置くかによって、 見えにくかったりすることがあるんですね。そこで背景とのコントラストを考える。 それから、どういう背景でも目立つようにということで、これは別に阪神のファンというわけではないのですが、 黄色いVOCAに縦じまのストライプを入れて、いろいろなところで見やすくするというような工夫をしながら、 選択をするための基礎づくりというのをやっておられるわけです。 これは呉竹ではまだやっておられない。

実は、これは別のところでやっている話なのですが、今スライドにお茶碗が二つ映っております。 黒いお茶碗と白いお茶碗が映っていて、そこにご飯が入っています。摂食指導をするときに、 ご飯を食べるときに、どっちの器に入れておいたほうがいいかという話です。 これは一目瞭然ですね。白い器というのはよく使うんですけれども、ところが、 これだとどのぐらいご飯が入っているかというのは、視力がかなり良くないとよく分からないわけです。 そこで、この黒いお茶碗の中にご飯を入れるというようなことをすると見やすくなって、 自分でご飯を食べたいと。これは見ただけでサインになって、手を出すというような、そういった子供からの コミュニケーションというのが引き出せるという場合が出てくる。 このような環境を変えていくという取り組みをいろいろなところでやっていただいているわけです。 中東先生、ありがとうございます。引き続きまして、同じく肢体不自由の養護学校なんですけれども、 大泉養護の奥山先生に、奥山先生のところでの取り組みというのを紹介していただきたいと思います。 よろしくお願いいたします。

○奥山
 都立大泉養護学校の奥山です。よろしくお願いいたします。 私たちの師匠と書いてあるんですけれども、彼は実は子供たちの見ることだとか、 コミュニケーションについて、特に重度重複の方というのは自分でお話ができないし、 その効果がどのぐらいあるかというのは分からないんですけれども、彼はお話しできる方なんですね。 麻痺があるんですけど立って歩ける方なんですけど、彼が同じクラスの重度重複の子供たちの声を 伝える、すごく大切なメッセンジャーになっているということで、クラスの中で話題になっています。

○中野
 実は、私は奥山さんとはこのATACで知り合ったんですよね。 私がまだ肢体不自由の重度重複のお子さんの視覚的なニーズがあるということについて、 まだ十分に把握していなかったころに、私の疑似体験に参加してくださって、 そこから見ることというのも視野に置いたコミュニケーションというのを一緒に考えさせていただいております。 その実践ということで見ていただきたいと思います。

○奥山
 彼は、実は小学校のときは普通の小学校へ行っておりました。 事故に遭いまして麻痺が出て、視力は今2級もらっているんですけれども、 非常に見えにくい状態になっていると。その中で介助を受けて、 いろいろしてもらうことは多いのだけれども、彼に自分でやってもらうことはないのかなというときに、 一つ、自分の下駄箱の位置が分からないと。どうしたら分かるようになるかなというところで、 キンキラの紙に黒いストライプを書いてあるんですけれども、そういう支援をしたら、 自分の下駄箱がどこにあるか分かるようになって一人でいけるようになった。 彼が分かるということは、他の重度重複の子供たちも、見えにくい彼がすごく手掛かりになるのだと したら、他の子供も大きな手掛かりになるだろうということで、 見えやすい環境だとか、見ることというのは大切にする大きな切っ掛けになっています。 重度重複の子供たちにとっても、これから自分がどこに行くのかとか、どこにいるのかということが、 もし視覚的に分かりやすいもので提示されていると、すごく大きな手掛かりになると思います。

○中野
 そうですよね。今ここのセッションの会場にいるから、皆さんはここで話を聞くのだという ところが分かるわけですが、これが重度重複の子供たちに、それが分かるような状況がつくられているか どうかと僕らは考えないといけないわけですね。 そこで、今おっしゃられたようなことが重要になるということですね。

○奥山
 今、高2なのですけれども、高1から高2になったときに教室が変わったんですね。 B棟というところから、C棟に一つ棟が変わったときに、さっきの彼が迷子になったんです。 それまでは下駄箱のすぐ横の教室だったので、真っすぐ教室に来られたのですけれども、 隣の棟になった途端に迷子になってしまって、これをどうしようというときに、 ちょうどパトライト、クルクル回る回転灯で使っていないものがあったので、 これを教室の前につけたところ、次の日にそれを見つけて、その次の日から一人で真っすぐ教室に来ることになったんです。 これは一日中子供のいる時間はつけているんですけど、遠くから見るとこういう感じです。

学校の教室というのはどこも同じようなつくりで、同じような色で手掛かりがないんですけれども、 これを一つつけただけで彼は分かるようになった。実は、この教室は重度重複障害の子供たちの グループの教室になっているんですね。というと、彼らにとって何が起こるかというと、 もしかしたら今までは、その教室に入ってはじめてグループの教室に来たのかなと思ったのかもしれないんですけど、 こういう見て分かりやすい手掛かりがあると、たぶん、これを見つけた時点で予期をしてくれると思うんですね。 もうすぐ自分の教室に着くぞ。いきなり、その場所に連れてこられるのと、予期する余裕があるのとでは、 その人の生活の質が随分違うのではないのかなということをいま話しています。

彼はまた迷子になるという事件があったんですね。今度はコンピュータの教室が3階にあるんです。 一人で行くよということで彼は行ったんですけど、彼は教室に現れないで、どこに行ったかというと、 いろいろ迷子になったみたいで、中学部のときにいた教室に行って、なじみの中学部の先生とずっと話し込んでいて、 ちょっと迷子になっちゃったということだったんですね。これはその前の年に、呉竹養護に行って、 呉竹養護は教室の入り口にきれいにペンキで塗って、すごく分かりやすくしているのをちょっと参考にさせていただいて、 これは1階のエレベーターの前なんですけど、1階は黄色、2階はピンク、3階は青というような色を付けて、 いま効果をためしているところなんですけど、彼は一応いま自分がどこにいるのかなということは、 これで少し分かってくれたみたいなんですね。実はこれは重度の子供にとっても、非常に大きな手掛かりになると いま考えています。

よく学校の中で、訓練室だとか、いろいろなところに移動するんですけれど、 一応、お話をして、これからどこに行くよというのは、必ず最低限のマナーとしてやらないといけないと 思っているんですけど、他の手掛かりがもっと必要で、そういうときに、例えば、場所の手掛かりとして、 色の手掛かりが使えたり、物が使えたりすると、これからどこに行くのかなという予期する時間があって、 予期する機会があるということは、それがコミュニケーションにつながる。選んだり、そのときにいやだと主張したり、 喜んだり、そういう自分の意思を伝えるという機会ができるのではないのかなと考えています。こういうことです。 また、迷子事件がありまして、迷子というよりも、実はうちの学校では、ああいうバスが8台並んでいます。 たまたまなんですけれども、1台のバスを除いて、ああいうデザインのバスなんですね。会社は4社入っているんですけれども、 大体クリームとか白地に水色というデザインのバスで、彼は帰りにバスに乗るときに、だいたい近くまでは行けるんですけれども、 そのあとに止まってしまって、みんな青で分からないと言うんですね。そこで彼の担当の方が教室で使っている手掛かりを参考にして、 黒地の紙にキンキラの紙を貼っただけの物なんです。ある日の朝に彼をバスに迎えに行ったときに、それを用意して、 彼と一緒にポールに貼って、これが目印だよというふうにしました。

1日目は帰りにちゃんと一人で、今までは近くまで手を引いていってあげてバスに乗せていたんですけれども、 一人でずっと行って、あれを見つけて触って確かめてバスに乗りました。その次の日からは、下駄箱から自分のバスまで 真っすぐ行けるようになりました。次に一番ホットな話題ということで、今の彼というのはお話もできるし、 移動もできる彼なんですけど、これから出てくるユウコさんという方は重度グループにいる方で、 さっきの彼が教えてくれたことをいろいろ教室で視覚的な背景を整理したり、いろいろな手掛かりをつけたり ということを毎日やっているんですけれども、今度は彼女のほうが強い主張をし始めたという話です。 彼女は手がとてもよく動くんですね。特に右手がよく動く方で、情報が不足すると手を噛むということをなさっている 女の子なんです。

ところが、彼女がある時、その手を自分でああいうふうに摂食している方のスプーンを持っている手に絡めて来る、 ということが起きたのが半年くらい前のことなんですね。ただ、そのときに我々は全然何のことか気が付かないで、 随分優しく手をもってくれるね、すごいねということだけを言っていたんですけど、ある日、東京都の養護学校の 教員で研究会をつくっていて、中野先生にはよく話をしてもらいに来るんですけど、スクリーンに出ますけど、 先ほどの情報不足の話をもう一回聞いたんです。そういえば、その彼女はいま摂食のときに、 例えば、いきなり食べさせるということではなくて、スプーンを目の前に持っていって、どういう色かということを 確かめる時間的な余裕も考えて、それからにおいの情報も考えて、いきなりではなくてチョンと口に付けて、 何を食べているのかなという情報も手掛かりもあげてということをしているんですけど、 それでもやはり情報が不足して手を噛むんですね。なので、手をつかんでくれるというのは、 もしかして意味があるのかなということで、じゃあ、食べるときには、まず手を介助者の手にのっけてもらって食べるようにしようかな というふうにやったんですけど、その本当にやったその日のうちに、彼女は何で今まで半年もそれが分からなかったの というような主張をするように、食べたいものはぎゅっと近付ける。 いらなくなると離す。いやになると押しのけるということを始めたんです。 同じクラスにもう一人とてもかわいい女の子がいて、彼女はもう少し運動の制約が多い方なんですけど、 もしかしたら彼女も同じようなことがあるのかなということを話して、 彼女は摂食のときに寝てしまうことが多いんですね。 あまり食べることに興味がないのかなということで、食べさせることにいま苦労している方なんです。

その方に、ちょっと今、ここに動画はないんですけど、やっぱり同じように介助をしている手に ちょっと手を添えるようなことをしたときに、その手がやっぱりお話をはじめて、いらないときには 全然関心がないし、欲しいときには自分でぐっぐっと力を入れたり手前に引くということがありました。 このときに感じたのは、このときの手を添えるということが、触ったり動いたりする手掛かり としてあるんですけど、こちらとしてはこちらの動きが伝わると思っているんですけど、 彼女にとってはスプーンが来るよという予期にもなるのだけれども、相手の手掛かりにも すごくなっているんだろうなと思っているんですね。触っただけでも相手の様子というのは分かるし、 どういう人が介助しているのかな、その人の手の動きはどうかなということがよく分かって、 それに対していちいち反応してくれているんだなと思います。だからこそ、いま摂食で大切にしなきゃいけないのは、 どうしても学校というのは、先ほども話がありましたけれども、みんな食べなきゃいけないとか、 牛乳はやっぱり飲まなきゃいけないということがあるんですけれども、それはとにかくやめようよと。 せっかく主張してくれているのだから、もういらないと言ったらいらない。欲しいと言ったら、 ちょっと努力をして、どこからかもらってきても、それに応えて摂食中のコミュニケーションの質を 高めていこうと今考えています。

重度重複の子供たちのコミュニケーションで考えるときに、見ることの配慮や、 視覚的な手掛かりというのは、すごく大きなものだなと感じています。 どこという手掛かりに使えるし、それから誰という手掛かりにも使える。 ただ、重度重複の子供こそ、さらに丁寧な手掛かりが必要なんだなということを先ほどの キワコさんだとか、ユウコさんは教えてくれたんだなと思っています。 いま必要なのは予期を広げる手掛かりの工夫を、メニューをたくさん考えて、その情報を交換したり、 共有したりできると、とても彼らの生活というのはさらに豊かになって、その中でいろいろ主張して 決めたり、選んだりということができるようになるのではないのかなと考えています。 ということです。

○中野
 ということですって、視覚障害の方もおられますので、ちゃんと言ってください。

○奥山
 はい。私たちの前にお師匠さんはいると。目の前の生徒さんがすべてを教えてくれるんだろうなと思っております。

○中野
 ありがとうございます。それで実は、先ほど言ったように、奥山さんが東京都の村山養護学校 というところにおられたときから関わらせていただいておりまして、97年からですね。東京都の肢体不自由教育研究会、 これを説明していただけますか。

○奥山
 見ることについて、僕たちが学ぶ場というのは、どうしても必要なわけなんですね。 その学ぶ場というのは、専門家の方に来ていただいて話を聞くというのは一番いいんですけれども、 その場というのは、やはり学校の中だと、なかなか予算的なことだとか、時間的なことがとれないので、 たまたま東京都の中には肢体不自由の教育に関わっている教員のこういう組織があって、 東京都肢体不自由教育研究会という組織があって、その中に約26の分科会があるんですけれども、 その中に視機能支援部会というのをつくっていただいて、東京都の肢体不自由の学校に勤める教員で、 見ることに興味のある方が中野先生だとか、お話を聞く、勉強ができる機会をつくっています。

○中野
 2000年からこれは発足して、今もずっと続いているわけですよね。そこでいろいろな ノウハウを蓄積していこうと。これはこのあとの話になるのですが、このマニュアルの必要性というのは、 実はここにあったわけですね。いろいろなところですごくいい実践、もしかしたら私のところはもっと いい実践をやっているよとおっしゃる方が、もっといっぱいあると思うんです。 この実践をうまくまとめて、そして、これをさらに蓄積していけるような仕組みづくりというのが必要だなというのが、 この研究をして私たちはさらに強く実感したところです。事例は以上にさせていただいて、15分の休憩をはさんだあとに、 私たちが現時点でどういうマニュアルを作ったのか。それをどういうふうに使っていくのか。それから今後、 これをどのようにバージョンアップしていきたいと考えているのかというのを紹介させていただきたいと思います。 それでは2時半まで休憩の時間とさせていただきます。少しプログラムと時程が変わっておりますけれども、 よろしくお願いいたします。