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2012年度CBRセミナー CBR vs三方よし 報告書

◆講演
東近江市の地域作りと地域福祉の取り組み

◆ 東近江市が目指す緑の分権改革-山口美知子(東近江市緑の分権改革課主幹)

山口 はじめまして。東近江市の企画部にあります緑の分権改革課というところで働いております山口と申します。よろしくお願いいたします。

緑の分権改革

緑の分権改革という言葉を、ほとんどの方はご存じないのではないかなと思います。ピーターさんの話を借りると、話の必然によってできた課というふうにも言えるなと思いながら聞いたんですけれども。そもそもは総務省が地域資源を最大限活用して、地域の活性化、絆の再生を図って、分散自立、地産地消、低炭素型、とにかく持久力と富を生み出す力を高める地域を作りなさいというふうに総務省が言いだしたことから、その言葉ができています。

この東近江市では、それをヒト・モノ・カネが地域で回る仕組みを作りましょうというふうに訳して皆さんに説明をしています。わかりやすい絵にすると、こういうことなんですね(図1)。中央集権型から地方分散型へということで、前半、今、小梶さんのお話があったような、いろんな様々な活動が、既に東近江にはありました。それをより地域の自立とか、富を生み出す力を高めるものにつないでいくためにできたのが、私どもの活動というふうに認識をしております。

図1 中央集権型から地方分散型へ図1の内容
(図1)

東近江市の現状

皆さん、琵琶湖がどこにあるかはご存じですね?東近江市は三重の県境から琵琶湖までつながった1市6町が合併してできた大きな町であります。市長がよく、日本の1000分の1モデルと、先程も小梶さんのほうからありましたけれども。そうですね。海と大都市以外は、全てあります。それはいいことも悪いことも含めて。ですので、この普通のよくある町でですね、成功モデルが作れたら、それは全国に役立つモデルになるのではないかというような期待も込めて、この町に関わっています。

様々な地域の財産、先程から出ております三方よしというのは、もちろんCSRの原点になっていることですし、遺跡の数、文化財の数を考えても、かなり古くから人が暮らしていた地域であるということが、よくわかります。また、森林が面積の半分以上を占めております。また、滋賀県人って、どこに住んでるんやろうって、よく県外の方が言われるんですけれども。山と琵琶湖しかないのに、皆さん、どこに住んではるんですかと言われるんですが。実は東近江は、唯一湖東平野が広がっておりまして、大変豊かな農地を抱えているのも特徴であります。

そんな町の最も特徴的なのが、先程もチラッと紹介がありました、この市民自治だというふうに私は思っています。A3の図(折り込み図、67ページ)には、地域でがんばる様々な活動が取り上げて紹介をされています。ここに個人名が入っているというのが、この図の特徴の一つ。またその分野がボランタリーなものから、なりわいになっているもの、また環境、福祉、医療、農業、林業、商工関係、様々なものがここにあがっているというのが、その特徴になります。

ピーターさんの話にもあった一番最後の事例で、私達が本当に理想とする、目指すものだなぁというふうに思ったのが、地域の課題を解決するということに関して、健常者も障害者も高齢も若者も子どもも関係ないということです。行政も商業者も関係ないというふうに私は今、考えておりまして。

とにかくお金も人もない中では、総力戦なんです。とにかく皆が力を合わせて、この危機を乗り越えないといけないという発想をもっている人達というのは、勝手につながっていくんですね。我々は、そのきっかけを様々な形でお手伝いしているということに過ぎないと思っています。

多分野連携

先程から言っているように、多分野連携の仕組みが既に東近江にはあちこちで生まれておりました。その一つが、ご存じの方も多いかもしれませんが、「菜の花プロジェクト」であります。環境、農業の関係者、そこに行政も関わって、食とエネルギーの自立というのを、かなり早くから提案して進められてきたものでありますし、先程も出てきましたが、太陽光パネルを市民がたくさん集まって出資することで、屋根を持たない人も発電事業に参加できる。なおかつ、それを円ではなくて、地域商品券で返していくことで、地域の経済が潤うというようなことを実現している市民共同発電所という取り組みも始まっておりました。

また、ハンドシェーク協議会というところでは、環境系NPO、まちづくりに取り組む団体、財団、行政が参加しまして、地域のおばちゃん達が、自慢の料理を持ち寄って、レシピを作るというようなことをやってこられました。それが実はつながって、福祉モールの中に農家レストランがオープンするということにつながっています。

また、森林、林業の関係者が、NPOやデザイン事務所と連携をすることで、地元の財を生かした商品開発をしながら、またサービス提供をしながら活動をしているkikitoという団体もございます。ここも緑の分権改革課ができる前から活動をしていたところでありますし、緑の分権改革課ができてから、実は次に話してくださる野々村さんともつながって、今、障害者の方と協力しながら商品を提供するということにもつながっています。

先日、東近江で開催された介護保険の全国サミットに参加してくださった方が、確かこの中におられると思うんですけれども、その時に記念品で入っていた商品を提供しているのが、この団体です。あのパッケージングをしてくれたのは、いろんな障害があったり、事情を抱える方々で、協力をしていただきました。

薪プロジェクト

そして緑の分権改革課が東近江にできてから生まれたプロジェクトの典型例が、この「薪プロジェクト」(図2)になります。私は実は元々林業の普及員をしておりました。人工林、杉とかヒノキとか、人が植えた林というのは経済林ですから、もちろん採算に合わないといけません。それも厳しいという現状が実はあるんですけれども。そうではない雑木林というのは、はなから採算に乗るわけがないというのが林業界の常識です。

図2 多分野連携取り組み事例⑤図2の内容
(図2)

ですが実は関西のほうでは、その雑木が徐々に枯れていくという問題が起こり始めまして、将来的にエネルギーとして活用できる、もしくは水源の森として大変重要な位置づけであったところが、活力を失ってきているという課題に直面しております。

そこでなんとかできないかといろんな方にご相談をして、実は野々村さんと出会うことができました。そこで総務省からいただいた調査事業を活用して、雑木林を伐採しながら更新を進めていく。その伐採した材を薪として活用していただくことで、地域に還元をしていく。多少のお金をいただきながら、それをビジネスとして回していけないかというような調査をやらせていただきました。

その結果、ボランティアの方ですとか、障害者の方ですとか、様々な方に協力をしていただいたら、採算合うでという結論が出たんですね。そこから実は現在も継続して事業が続いておりまして、障害者の方にも薪割りを手伝っていただきながら、雑木林を更新させていくというようなことが、少しずつですけれども、続いているということがあります。

プロから見たこの事業の感想はまた野々村さんにお任せするとして、林業に関わってきた私からすると、これはすごい画期的なことでありました。

平成24年度の取り組み

私どもの課では、とにかくこのヒト・モノ・カネが地域で回る仕組みを作るための支援が何かできないか。もしくは地域課題を解決したいといって活動する方の支援が何かできないか。がんばっているこの人と、困っているこの人をつなぐことで、地域をもっとよくできないか。そんなことを常に考えながら仕事をしております。

今年度、典型的な取り組みとして、まちづくりネット東近江というのがスタートしました。これは行政と市民の間をつないでくれる中間支援の組織であります。実は10年以上前から、各地で中間支援組織というのが作られていました。ですがどちらかというと、それはボランティア支援であったりとか、そういう色が強かったんですね。でもピーターさんのお話にもありましたけれども、障害のある方にバスケットを教えるのではなくて、農業技術を教えなきゃいけないんじゃないかというような発想が、実はここにもありまして、私達は地域のソーシャルビジネスやコミュニティビジネスを支援する仕組みを作っていかなければならないんじゃないか、と考えています。そのためにはお金と情報がとても重要であるということを、団体の皆さんから教えていただいて、その仕組みづくりをしております。

一つは団体の資金調達を、寄付という形で集めるお手伝いができないかということで、事業指定寄付というのを今年度やろうとしております。また市民参加の情報発信ということで、パブリックアクセスという言葉があるんですけれども、公共の情報発信のツールを市民が使う権利を持つというような考え方があります。実は東近江には、地域のコミュニティFM、ケーブルテレビが整備されるんですね。それを活用して自ら企画し、情報を発信するという、そんな仕組みが作れたら、もっといろんな活動がつながって、個人がつながっていくのではないかと考えています。

また先程あった、あのA3の図(折り込み図)で飲み会をやっているだけだとおっしゃいましたけれども、実はそんなお手伝いも、このまちづくりネット東近江がしています。行政がやると、どうしてもフォーマルな会になってしまうんですね。でも東近江で大変重視しているのが、インフォーマルとフォーマルの間を無理なくつなぐということで、いつも意識しております。ですから、実はその飲み会というのは微妙なんですね。それは山口さんは仕事でやっているのか、そうじゃないのかと言われると、うーん、両方なんですね。仕事の課題設定しているミッションの実現にも、もちろんつながりますし、仕事を離れてインフォーマルなつながりとして、ちょっと悪いけど、これお願いできますかというようなことを言える関係ができるというのも、実はとても重要です。行政は行政だけで町が作れると、これまで勘違いしてきましたけれども、そうではないということを東近江で私は本当に実体験として教えていただいています。

もう一つ、ウェブ上でもつながる場を作ろうということで、地域情報ポータルサイト東近江というのがオープンしました。実はここには商業の情報も入れようということで、もう一つ姉妹のサイトが実はできております。そちらのほうも、大変人気ですね。こんな田舎でこんなものを作っても、誰も見てないんじゃないかという意見もだいぶあったんですけれども、なぜか毎日数百件の方に見ていただいて、かなり好評なものになりつつあります。

地域自立の取り組み

私どもの課としてはフォーマルには、自給圏の確立を目指すということで、内橋克人さんという方が提唱されています「食とエネルギーとケアの自立」を目指して、様々な仕掛けをしております。私どもの課には分野というものがございません。限られたスタッフでできることというのは、本当にわずかなんですね。なので、地域の皆さんと一緒に、いろんな立場の方、いろんな分野の方と一緒に、こんなことを考えてみたらどうだろう、こんなことをやってみたらどうだろうというのを、うーん、でもそれできるかな、難しいなといいながら悩みつつ、関係課を巻き込んでいくということをやっています。

とにかく、あるものを生かすということ。分野をこえて連携させるということを意識して、なおかつそこにビジネスを作っていくということ。大儲けはできなくていいんです。大儲けは誰も求めていません、田舎の人達は。ですが、自分達が活動をしていく、もしくは次の活動につながっていく。そんな収益が得られる仕組みをどうして得るかということと、内発的発展よりは少し強い自治の仕組みということで、実は元々あった東近江の強みを、地域で今後生まれてくるであろう課題の解決にどうつなげるかというのが、私どもの仕事だというふうに考えています。

私からの話は以上です。ありがとうございました。

河野 山口さん、どうもありがとうございました。小梶さんが、すごく発想力と継続的力のある市民のロールモデルみたいな人で、そういった人達が集団になってやっていた東近江の様々な活動を、山口さんのような行政の人達がうまくコーディネートして、うまく全体で回していけるようにしていくというのが、よくわかったかなと思います。

そういう東近江市の市民の人達と行政の人達が一体となった活動の中で、では、障害の分野ではどのようなことが行われているか。何が起きているかというお話を野々村さん、お願いいたします。