音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

発表会 「精神障害の正しい理解と偏見の是正」

平成16年度厚生労働科学研究 障害保健福祉総合研究成果発表会

<シンポジウム>統合失調症に対する偏見にいかに取り組んでいくか

西尾 雅明
国立精神・神経センター精神保健研究所 社会復帰相談部援助技術研究室室長

浅野 それではシンポジウムに移ります。「精神障害の正しい理解と偏見の是正」というテーマで、これから4人の方々に発表、ご意見をちょうだいしたいと思います。始めに西尾雅明先生から「統合失調症に対する偏見にいかに取り組んでいくか」ということでお話をいただきます。西尾先生のプロフィールにつきましては、お手元のパンフレットに詳しく記してございますので簡単にご紹介いたしますが、西尾先生は1988年に東北大学の医学部を卒業されました。そのあと、東北大学の精神科、福島の病院、仙台市のリハビリテーションの施設等で仕事をされたあと、1997年からイギリスのロンドンで心理教育の研修をされて戻っておられます。戻って、東北大学に一時おられたあと、そのあと2002年10月から国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰相談部援助技術研究室室長に就任されておられます。今日も会場の外に、西尾先生の本の見本が置いてございましたが、「ACT」と書いて「アクト」といいますが、「包括型地域生活支援プログラム」と日本語で訳してありますが、重症の患者さんでも入院させないで地域で支えるシステムを開発して、いま日本でそれを普及させるために第一線に立って活躍しておられる先生です。その他、役職等につきましてはパンフレットをご参照ください。それでは西尾先生、よろしくお願いいたします。

西尾 精神保健研究所の西尾でございます。浅野先生、過分な紹介ありがとうございました。一貫して精神障害の偏見の問題ですとか、家族の心理教育、先ほどご紹介いただきました「ACT」ということで、今までだったら入院が当たり前だった精神医療・福祉が地域中心に変わっていけるように、そんな方向での研究と臨床を行っています。今日のテーマですけれども、精神障害への偏見をなくしていくための取り組みというのが昨今いろいろな動きがあります。1つは、1996年に世界精神医学会が統合失調症に対するスティグマ及び差別をなくするためのプログラムというのをつくって、その後、各国に普及しているというところで、2001年に日本精神神経学会では、これへの参加を表明して、以降、委員会活動を展開しています。

 一方、厚生労働省でも7万2000人の入院患者さんを地域に出していこうという、それと関連して「心の健康問題の正しい理解のための普及・啓発検討会」というのをつくって、昨年度、その報告書をまとめたということで、この領域、これからさまざまな研究活動ですとか、実践活動が求められているところであります。

 偏見をなくしていくことは、なぜ必要かということですけれども、1つは、偏見をなくすることで、心の病気になったときに誰もが早く診療所に行ったり、病院に行けるという、そのことで病気の経過自体がいい方向に変わるということがあると思います。それから、病気や障害を受け入れやすくなる。一般の人たちが病気についての偏見が強ければ強いほど、当事者や家族も肩身の狭い思いをして、病気や障害を受けづらくなります。そのことがご本人の精神状態にも大きな影響を与えますし、それから病気や障害を受け入れられないと、必要な治療やリハビリテーションを受け続けようという意欲がわかなくなりますから、途中で薬をやめてしまったり、リハビリテーションをやめてしまって、そのことが再発のきっかけになったりすることで、ますます心の病気は治らないという、偏見が生まれるという悪循環が起きてしまいます。それから、家族の負担を減らすこと。それから社会資源の設置や就労支援が偏見をなくすることで容易になる。そのことがご本人のQOLの向上につながっていく、そういったことで偏見をなくしていく活動というのは重要だというふうに考えます。

 一般的には先ほどお話が出た病名を変える。病名自体に偏見が染みついていたのではなかなか変わらないので、病名自体を変えていこうという動きがあると思いますし、マスコミがいろいろな報道をするときに、もっとご理解ある報道をしてもらう。そういったことを働きかけていくことは1つの対策になると思います。

 しかし、例え病名が変わっても変わっていかない問題というのはたくさんあります。1つは、病名が変わっても以前の精神分裂病だということで、受け継がれていけば偏見が変わらないということがありますし、それからマスコミの報道によっては、今度は病名が変わっても統合失調症という病気自体に新たな偏見が生まれるということも考えられます。それから、あとでお話しますが、ここにいる会場の人たちは関係者なので、ほとんどの人が統合失調症という病名を知っていると思いますが、一般の人にはまだまだ知られていないという実態もあります。そこら辺についてもお話したいと思います。

 そこで、病名を変えたりするだけでなくて、いかに啓発普及の講演をやっていくか、イベントをやっていくか。それから当たり前のことですけれども、今まで病院や施設にいた当事者の方が地域に出ることで、当たり前の触れ合いをして、私たちと変わらないんだということで偏見を変えていく。それが次に必要になると思うんですが、こういった講演会に来る人というのは、やはり、もともと理解がある人たちなんですね。こういう講演会に来ない人たちに、いかに正しい知識とか、実際に当事者の方の健康的なところを知ってもらうか、それが重要になっていきます。ですから、こういった小さな円、これは理解のある人たちということですけれども、これをどんどん広げていくという活動が必要になってくるわけですが、今の実態としては偏見が強いので、こういった講演会を呼びかけても、もともとこういう問題は私たちとは関係がないことだからということで来なかったり、それから当事者の方も、地域に出て行こうとしてもなかなか出て行きづらい。そんな中では、また別の取り組みというのが必要になってくると思います。いろいろな作業所にしても、グループホームにしても精神障害関係の社会福祉施設をつくるときに、住民とのいろいろな摩擦があるということが報告されていますが、そういったイベントとか、講演会だけでなくて、実際に社会資源をつくるときに、その周辺の住民への交渉という、そういった対策も必要になってきますし、それから、実際にその地域の中で特に偏見の強い人たちというのはいるわけです。それは地域によって違う。例えば、ある地域では警察の理解がないということがあるかもしれないし、ある地域では学校の先生の理解がないというところもあるかもしれない。ある地域では、体の調子が悪いときに総合病院の救急科に行くのだけれども、そこのスタッフがうまく理解してくれないということがあるかもしれない。つまり、全国でこういう方法だということではなくて、その地域の中で誰が変われば当事者の方が住みやすくなるか。それを実際に当事者の方に集まってもらって、今までどういう偏見を受けてきたのか、それからどういう人にどういうふうに変わってもらえばいいか、それをグループでインタビューすることで、その対象というのを決めて、そういう人たちに働きかけていく。そういった活動というのが求められているというところです。

 私が昨年度から千葉県の市川市で取り組んでいることについてちょっとお話します。これはさっき話の出た世界精神医学会のプログラムの一部に位置付けられるものですけれども、まず、その地域で精神障害のスティグマをなくしていくための実行委員会というのを組織します。例えば、保健師さんとか、医者とか、福祉の方が、この地域でこう変わってもらいたいということではなくて、実際にその地域に住む当事者の方にそういうのを聞く、そういったフォーカスグループを5回実施しました。その結果、市川では中学校の先生や生徒たちにプログラムをやっていこうということで、いろいろなアンケートを実施して、そこでいろいろな当事者の方との連携というのができて、今年は市川市の市民祭というところで啓発・普及の調査活動というのも行っています。最初に、その実行委員会ですけれども、このメンバーは市川市の医師会長ですとか、保健所や市役所の職員、ジャーナリスト、それから社会復帰関連施設の職員、当事者、家族、それから私ということでメンバーをつくって、どのようにフォーカスグループをやっていくか。それからフォーカスグループの結果が出たら、それを伝えて、どういう人たちにプログラムをやっていくかを決めて年度末に総括する、そういう流れで行いました。そのフォーカスグループですけれども、デイケアとか、作業所というのは何カ所もあるので、その中で特定の作業所ということではなくて、無作為に1つ選んで、そこの人たちの協力を得て聞いたということで、デイケア、作業所、グループホーム、それから就労支援センターの人たち、利用している当事者の方に話を聞いています。それから、市の広報ですとか、市役所の担当課の窓口、それから病院の外来などにポスターとチラシを張って、電話で応募をいただいた方が7名いて、その7名の方に同じやり方でグループを実施しています。実際に当事者の方たちがどういうことをお話されるかというと、まず、障害をもっていること自体を話せない実態というのが多く語られます。それから家族から理解されない、友人と疎遠になる、近所や周囲の人との付き合い方が変わる。それから教育とか、仕事に就く上でのハンディキャップ。それから精神医療従事者の対応が悪いというのが挙げられます。例えば、病院の売店に行って、その店の人は白衣を着ている人には丁重に扱うんだけれども、自分たちが行くとそっぽを向いているとか、他の科の医者の理解がない。自分が病気になったときにきちんと診てもらえないですとか、それから役所で子供扱いされる。それからマスコミの注目が少なくて、あっても犯罪報道に結び付けられることが多い等々、細かいことはお話できませんが、そういった問題が語られています。偏見・差別対策のアイデアとしては、逆にマスコミを上手に活用しようとか、自分たちが出て行って実際の体験を話す、触れ合う方向でやっていこうとか、市長や知事にこういう実態を伝えようとか、福祉に力を入れている市会議員に投票しよう。

 それから、1つ出たのは、幼稚園や小学校など、早い時期から普及・啓発の取り組みを進めてほしい、そんな意見が出されています。そういったフォーカスグループの結果を踏まえて実行委員会のほうで話し合って、精神科以外の医師の理解をもっと求めたらいいんじゃないかという話もあったのですが、やはり、義務教育での取り組みについて、市川ではやっていこうじゃないかということになりまして、学校での取り組みを進めるのであれば、まず、生徒にいろいろやる前に、先生の理解を得ることが必要だということで、先生を対象にしたプログラムをやっていこうということになりました。これは市川市内で大体80名ぐらい、なかなかPTAの関係でそういうことをやられては困るということで、ちょうど関西のほうでいろいろな事件が起きていた時期もあるので、学校側の防衛というのも強い時期だったのですが、その中で協力いただいた4つの学校の、中学校の先生80名ぐらいのアンケートの結果ですが、まず、統合失調症について、中学校の先生でご存じだったという人は大体半分ぐらいです。これはこの会場にいる人たちがほぼ全員だとすると、実際にはこういう開きがあるということになります。それから、どのぐらいの人が統合失調症になるのかということでは、私たちはいろいろな教育を受けて、大体一生のうちに100人に1人がなる、それほど珍しい病気ではないという理解があると思いますが、中学校の先生では1000人に1人とか、1万人に1人といった回答をした人が半数以上いて、まだまだまれな病気であるという認識を大人の方でもされていることが分かります。実際には中学校の先生にプログラムをやろうということだったのですが、ある中学校でとても理解のある先生がいて、3月なんですけれども、午前中の授業の4コマを自由に使わせていただけるということがありまして、中学校1年生5クラスで200名いるんですが、その1クラスにはそういうプログラムをやって、あとの4クラスはそういうプログラムをやらないで、前項のアンケートを比較して、いろいろなプログラムをやったときに、中学校1年生の知識や態度がどう変わるかということをやっています。具体的にどういうことをやったかというと、1時間目は、これは精神科医、私ですけれども、統合失調症に焦点を当てて、その病気の原因ですとか、症状ですとか、そういったものを講義形式で説明をする。2時間目はゲームなんですけれども、最近はあまりないですが、昔、ウルトラ横断クイズというのがあって、質問に対してマルかバツかで分かれるというのがあるのですが、例えば、統合失調症が100人に1人になる病気であるというときに、マルかバツかということで、クラスの中学生に動いてもらって、そうやって実際に体を使って、1時間目の知識について、どのぐらい理解があるかというのを確かめるようなことをやって、それからそういった精神保健福祉に関するクロスワードパズルをつくって、それを小グループに分かれて、その中に当事者の人も入ってもらって、その中では当事者がエキスパートになるわけですけれども、そういう活動をやった。3時間目は当事者の方が体験談をお話して、4時間目は、じゃあ市川でどういうキャッチコピーをつくったらいいかということで、小グループに分かれて五七五の句を作る、それを全体で発表する、そういうプログラムをやっています。その中学校1年生ですけれども、統合失調症を聞いたことがあるかという質問に対しては、これはもうプログラムを実施した介入群と実施していない他のクラスの対照群とで、ほとんどの人が統合失調症という言葉を聞いたことがありませんでした。では、実際に昔の精神分裂病でいうと、それでも聞いたことのある人は1割以下、つまり、中学校1年生の時点では、ほとんどそういう病気の知識はないということで、逆にいうと、こういう時期に正確な知識を提供したり、当事者の方と触れ合ってもらうことが重要だというふうに考えられます。どのぐらいの方が病気になるかということでは、プログラムを受けていない人は1週間ぐらいの時期を置いてホームルームでやっているのですが、アンケートで変わりないんですが、プログラムに参加した人は1週間後に9割を超える人が100人に1人ということで、妥当な回答をされています。そのぐらい変わるということですね。例えば、脳の一時的な失調に対してお薬が必要ということでいうと、プログラムの前はほとんどどちらも変わりないんですが、プログラムのあとは、プログラムに参加した人のほうは薬が必要だという認識がはっきりとできている。それから、心の病気が、統合失調症が子育ての失敗で起きるということはないわけですけれども、それもプログラム前は変わっていないのですが、プログラム後は、受けた側はその知識は間違いであるということを正確に認識されています。それから、自分の家の近くに実際に統合失調症の人のグループホームができたときに、それに対して賛成できるのか、反対できるのかということでいうと、プログラムを受けていない人は前後で変わらないのですが、受けた中学1年生は反対という人が明らかに減って、大賛成という人が明らかに増えている。統計的にも有意差があるということで、アンケート上の変化が認められました。

 こういった活動を受けて、今年度、当事者の方からぜひ市民祭で出し物をするんだけど、そこで啓発・普及に関することを一緒にやって取り組みたいということで、そういうことに協力しています。これは11月6日に市民祭というのがあったんですけれども、大体毎年10万人ぐらい参加するんですが、そこのお祭の会場の入り口でビラを配布して、これは3000枚ぐらいですね。会場の3カ所に問題が用意してあって、それを回って、そこのポイントに問題があるんですね。その問題を見て、本部のテントに帰ってきて、解答用紙を渡したら抽選券がもらえると。この景品がもらえるというのは重要なことで、1等がディズニーランドのペアチケットとか、お米の5千円券とか、そういうのを設定して、そうすることで病気について関心のない方でも、景品をもらいたいということで、なるべく一般の方が来るようにということで配慮しました。5問の質問項目をポイントで提示して、実際に集まった回答は632部です。今日、会場でバーチャルハルシネーションの体験をされている方がいらっしゃると思うんですが、実際に統合失調症の方の幻覚体験をして、それがいかにつらいかというのを分かってもらう機会ですけれども、その抽選番号が0番の人には、そのバーチャルハルシネーションの体験を勧めて、実際にどうかというのをアンケートで前後比較をしています。これは全部で回収数が632ですから、63名が該当するんですけれども、そのうちの半分ぐらいの方が協力してくださいました。こういった形で全体の632部の回答のあった回答者の年齢分布は、市民祭参加者ですから20代と70才以上がやや少ないんですが、ほぼ年齢的にはいろいろな階層に及んでいます。職業も精神保健医療福祉関係者が全体で30名ぐらいということで、専門家以外の方がほとんどということになります。  

 これも、統合失調症という病気の名前を聞いたことがありますかということでいうと、199人31パーセントの人しか聞いたことがないと答えています。それから、保健福祉の問題で、精神科の病院のベッドの数は、アメリカでは1万人あたり約6なんですけど、日本では1万人あたりどれぐらいでしょうという質問で、実際には28なんですが、3名という方が44パーセント、6名という方が9パーセントで、6名以下が半数以上で、日本における入院中心の精神医療の実態というのが、一般の方にはなかなかなじみがないということが分かりました。それから、実際に精神障害のために入院している方の5年以上の長期入院率というのは50パーセントを超えるわけですけれども、それについても30パーセント以下と答えた人が半数を占めるということで、やはりこういう実態については一般には知られていないようです。年代によっていろいろ違うだろうということで、クロス集計をしていますが、その結果の一部では統合失調症の呼称に関して、10才以下、10代の方がやはり極端に低い。ですから、やはり10代ぐらいまでのうちにきちんとした啓発・普及の活動をしておく必要があるというふうに思われるわけです。これまでのまとめでいうと、一般市民の間では、いまだに統合失調症の呼称は十分に普及しているとはいえないということがあると思います。特に若年層でその傾向が顕著で、我が国特有の長期在院の問題ですとか、入院中心の精神医療ということに関して、そういう課題についても全体的な認識は不十分でした。しかし、適切なプログラムを実施することによって、統合失調をはじめとする精神障害に関する知識や態度は改善することができるということが、先ほどの中学校1年生のデータでも言えると思います。アンケートで変わって、どのぐらいのことなんだというご質問があると思うんですが、アンケートでも変わらなければ、実際の行動も変わらないわけで、アンケート上でもどういうふうに変えていくかというのは重要ですし、それを踏まえて、さらにアンケートでは表れない実際の行動レベルでどういうふうに態度が変わっていくかというのは今後の研究の課題です。

 上記の結果を踏まえて、さらに若年層を中心にした普及・啓発活動を推進していく必要があると考えられたということで、実際はこういった地域で対象を絞って、その対象に対してプログラムをやって効果を見るということは、北海道の十勝ですとか、岡山県、3年前に仙台でもやったのですが、仙台ではホームヘルパーさん、十勝では高校生や短大生、岡山では民政委員ということで、同様のプログラムをやっています。そういったプログラムの結果を総括したのが偏見是正プログラムを実施する際のコツということなのですが、まず、1番目は普及・啓発活動の主人公は当事者であるので、まずそのフォーカスグループとか、そういう方法を用いて、地域に住む当事者がこの地域の誰にどういうふうに変わってもらいたいかを明らかにして、それをやっていく。専門家がどういうふうに、この地域に変わってほしいかということではない、そういった視点でのプログラムをやることが重要というのが1番目です。

 それから2番目は、統合失調症の病名を聞いたことがない人が一般市民に多いという話をしましたが、本当にその介入プログラムを必要としている人は待っていても来ないわけで、いろいろなやり方で出向いていってやる必要があるということです。

 3番目は、人生の早い段階での普及・啓発が効果的であるということで、これは統合失調症という病名自体も知っていない10代ぐらいからやる必要がありますし、それから北海道の十勝の研究でも、大学生は知識は変わりやすいんだけれども、態度はなかなか変わらない。高校生のほうが態度が変わりやすかったということで、そういう面からも中学生ぐらいの、あるいは小学生ぐらいのときからプログラムを実施することが必要だろうと。

 それから、こういったプログラムは大体1日とか、2日とか、そういう限られた時間で実施されているわけですけれども、もちろん長期にわたってやったほうが望ましいことは当然なのですが、短期でも方法を工夫することで、良い影響を与えられることは分かっています。

 それから5番目ですけれども、偏見を減らしていくためには、当事者の方との出会いがやはり大きいということで、その十勝のアンケートでは専門家の話よりも、当事者の方のお話のほうが認識を変えることにつながったという、そういうアンケート結果が出ています。

 6番目ですけれども、普及・啓発活動にご本人が取り組めるような組織づくりを行う。これは岡山県では、自分がそういうプログラムをやるときに声をかけてくださいということで、当事者の方がスピーカーズ・ビューロウというのですが、そういう組織に登録するんですね。そういう組織があるということを公募して、そのご本人が組織に登録したら、じゃあ、この地区の民政委員さんに啓発のプログラムをやるから、そのときにグループに参加してくださいねということで、そういった組織づくりを進める必要がある。市川でもフォーカスグループをやっていると、だんだん結束力が生まれてきて、じゃあ、3月に中学校でお話をするときには私がやりましょうということで、連携をしてやっていく流れができていくので、そういった組織づくりも重要だと思います。

 それから7番目は当たり前のことですけれども、当事者との心理的距離や態度の改善を図るためには講義だけでは不十分であるということです。

 それから、8番目はちょっと分かりづらいと思うんですが、実は午前中からの議論で、脳の病気のことだけを伝えてもなかなか変わらないんじゃないか、そういうようなご意見があると思いますが、実際に私たちがやって感じたのは、プログラムをやって、態度とか、知識は変わるんだけれども、脳の病気という理解がそんなにも増えなくて、むしろ、ストレスの病気であるというような理解が増えているんですね。これは私たちの病気についての脳の病気という伝え方のメッセージは弱いのかもしれませんが、これはどこの地区でやっても大体同じような結果が出ているんですね。つまり、やっぱり一般の人は、脳の病気の細かい知識よりも、目の前の当事者の方の話を聞いて、生活レベルで自分たちと同じなんだなという認識をもつことで態度が変わっていくということだと思います。そういう意味では、やはり文化というものがあって、例えばアメリカでは脳の病気だということで、じゃあこういう治療をすれば治るんだということで偏見が減っていく部分もあるかもしれませんが、日本では脳の病気だと言われても、じゃあ自分たちとやっぱり違うんだということで切り捨てられてしまう、その部分もあるかもしれないので、そこら辺を配慮して、その知識の提供だけでなくて、当事者の方の体験をいかに伝えていくか、そういう配慮が日本では求められていくのかなというふうに思っています。

 9番目は、啓発講座というと、今までは50名とか100名を集めて精神科医が講義したり、当事者がお話をするということですけれども、やはり1つのグループ8名とか、10名ぐらいで、小規模でスキンシップを図りながらやっていくほうが結果がいいということも分かっています。

 それから、10番目ですけれども、十勝のグループで実際にそのプログラムに参加した人ほとんどが、実際に家々や職場でそういったプログラムに参加した内容というのを伝えているんです。ですから、そういう波及効果を意識してやっていくということも大事だろう。

 最後に、そういったフォーカスグループをやって、やっぱり一番多く出てくるのは、むしろ専門家が理解してくれないとか、精神科医が理解してくれないということなんですね。例えば、何で自分が結婚するとか、仕事に就くということを精神科医に決められなければいけないんだ、そういうような当事者の意見があります。そういった意味では、一般市民の啓発・普及という前に、精神医療福祉関係者が自らの襟元を正す必要があるだろうと思います。

 最後になりますが、精神科のリハビリの分野では、回復するということは、その人が二度と再発しないとか、症状が良くなるということではなくて、むしろ障害や症状を抱えながらも、その人が自尊心をもって、気をもって生きていくような心境になること、それを回復と呼んで、その回復というのは個人によって違うだろうということを強調しておきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。

司会 …こういうやり方が誤解や偏見を除く上で有効ではないかという発表がございました。ちょっと時間が押しているものですから、お1人に限って、ここではご質問をお受けしたいと思いますが、どなたかいらっしゃいますでしょうか。はい、どうぞ。前から4列目の方にマイクを回していただけますか。

質問者 サイトウヒロコと申します。こんにちは。以前、医療従事者で、今は当事者の家族ということになっています。フォーカスグループというのを初めて聞く名前なんですけど、そのフォーカスグループの具体的な活動とか、どういう構成なのか、少し詳しく話していただけたらと思いました。よろしくお願いします。

西尾 その当事者の方の意見を聞くときに、紙のアンケートでやるという方法もあると思うのですが、グループでやることで、なかなか本音では言えなかった人が、他の人も言うので自分も普段思っていたことを逆に言いやすくなるとか、グループでの効果が期待できるということで、そういうやり方をやるんですけれども、フォーカスグループというのはテーマを絞るという意味なので、例えば、こういう偏見問題というのであれば、大体2つか、3つぐらいのテーマをあらかじめ絞っておいて、こういう問題では今までどういう偏見や差別を受けてきたのか。それから、それを変えていくためにはどういうアイデアがあるのかというのに絞って90分ぐらい時間をかけます。1つのグループは話しやすい人数で、やっぱり10名ぐらいで、その中に2人ぐらいコーディネーターが入って、話があまり脱線しないように注意しながら、必要な回答に関しては、より詳細を深めていくということで、そのグループの中でのそういう意見を引き出していくというやり方です。よろしいでしょうか。

浅野 ありがとうございました。なお、今ご質問ありましたけれども、フォーカスグループ法については、このあとにまた菅原先生からお話があると思いますので、お聞きいただければ幸いです。先生、どうもありがとうございました。