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発表会 「精神障害の正しい理解と偏見の是正」

平成16年度厚生労働科学研究 障害保健福祉総合研究成果発表会

<シンポジウム>生活支援とフォーカスグループ法

菅原 里江
東北福祉大学社会福祉研究室助手

浅野 それでは続きまして、「生活支援とフォーカスグループ法」と題して、東北福祉大学社会福祉研究室助手の菅原里江先生にお話をいただきます。菅原里江先生は、今年、東北福祉大学大学院総合福祉学研究科社会福祉学専攻を修了されて、今、東北福祉大学の社会福祉研究室で助手をされておられる傍ら、今からお話いただきますフォーカスグループミーティング法を用いて研究を進めておられます。先生、よろしくお願いいたします。

菅原 浅野先生、ご紹介ありがとうございました。ただ今、ご紹介にあずかりました、私、東北福祉大学の菅原里江と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日は、この数年間、東北福祉大学で進めてまいりました精神障害者地域生活支援に関する研究から、生活支援とフォーカスグループ法についてスライドを使いながらお話させていただきます。本日の内容はスライドに示しております「はじめに」、「フォーカスグループとは」、「これまでの取り組み」、「これからの地域生活支援に向けて」の4点になっております。

 それではまず始めに、私がこのフォーカスグループに取り組むことになった経緯を簡単にお話いたします。会場にいらしていただいた皆様はもうご承知のとおりだと思いますが、近年まで精神障害者とされた方々は精神分裂病などの病名からイメージされる精神が分裂している、一生治らない、例えば隔離するべきだなどのマイナスイメージが強くありました。その状況下で、病のつらさだけではなく、怖い、危ないといった社会の誤解や偏見というスライドの図に示しておりますような二重の障害を負ってきた歴史があることは多く指摘されているところです。この状況を改善しなければならないと、最近では医療、保健、福祉の各方面からの働きが活発化し、現在では国が心の病に対して積極的な取り組みを始めています。ですが、社会的入院や就労、社会参加、地域での生活支援の在り方など、残されている課題が多いのも現状です。これらの状況について、例えばとして近年の課題とされている社会的入院について図に示しておりますが、その課題というものについて多くの話し合いがなされているものの、中身についての議論が深まっていないのではないか。逆に問題が複雑化してしまっているのではないか。そして、またその議論が当事者の方々の中ではなく、他者によって議論されているからではないか。声を聞くこと、耳を傾けることということが十分に行われていないからではないか。こういう部分に課題を感じました。そのため、その課題解決に関しては相談という形だけではなく、積極的に声を聞きに行く。声を聞く状況をつくる。生活というものを知る。そして、その声を積極的に表明できる場所の確保が必要であると考えました。そこで東北福祉大学の研究班として取り入れましたのが、先に基調講演をされました佐藤先生がかかわっておられるWPAの偏見克服のためのプログラムの一環として使われていましたフォーカスグループ方式です。この方式は同様の経験をもつ人、表面に出にくい情報、奥が深い情報を聞くことに適しているという長所があります。そのことから、地域での生活支援に結び付けていけるのではないかというふうに考え、フォーカスグループを実施するに至りました。

 続いて、フォーカスグループについてです。このフォーカスグループという言葉を初めてお聞きになった方もいらっしゃると思いますので、簡単ではございますが、フォーカスグループとはということをお話したいと思います。フォーカスグループとは、数人のグループで進められていく調査法になります。分かりやすく表現しますと、スライドに書いております組織化された井戸端会議といえます。なぜ、組織化されているのかと申しますと、司会進行役がいる。1つの質問について深く話し合う。話をした内容が整理され、分析されるということが大きなものとして挙げられます。もっと分かりやすい例えを言いますと、商品の広告などで、この商品はお客様の声をもとに作られましたなどというものは、この方式が使われていることが多いようです。続いて、これまでのフォーカスグループ方式を使っての取り組みについてお話いたします。これまで、精神保健福祉分野における取り組みでは、世界精神医学会による偏見へのプログラム、先ほどお話いただいた西尾先生のプログラムなどがあります。そして、本学における取り組みでは、地域生活におけるニーズを知るために、当事者の方へのフォーカスグループを行ってまいりました。質問内容はスライドに示しております。生活上困っていることは何ですか、そして必要と思う支援はどんなことですかとして、4グループで15回のグループを実施いたしました。その結果、内容について少しお話しますと、発言のキーワードというものをグループ化してみました。その結果、スライドで示している疾病の次元、生活の次元、ニーズという3つの次元に整理することができ、その関連性というものが明らかとなってきました。その中で注目したのが一番右側のニーズ次元にあります生活者としての要望とした項目です。ここのところは生活の質というふうに言い換えられると思うのですが、生活の質の重要性はさまざまな分野で広く理解されているところであります。しかし、あえて私たちが注目した理由は、この中の休日をどうやって過ごしたらいいのか理解してほしい、理解されたいなどの発言は、我々がもっている要望と何ら変わりのないもので、そのまま言葉どおり取ってしまうと見過ごしてしまう可能性があると思ったからです。しかし、もう一度先ほどの関連性を見ますと、精神障害の方の特有の内容、症状であるとか、差別、偏見があり、その結果としてそのような要望をもつに至ったという関連性が分かります。次に、発言から生活場面というものに焦点を当て、いつ、どこで、誰と、というふうに発言を項目分けしました。それがこちらに示している表になります。この表からは生活の上で困ったと感じた場面が明らかになり、また、その場面が重なって、連なって、積み重ねられた結果、ニーズとなっていることが理解できました。以上の点から考えられることは、従来議論されているニーズ、要望というものと、本人が要望として表現することというのは異なる性質をもっており、その性質を十分に理解した上での把握が求められていること。加えて、精神障害者の方々の生活支援においては、疾病や生活の次元に特徴があり、特に生活体験の蓄積を考慮する必要があるといえるでしょう。

 以上のような今回の実施結果からフォーカスグループということについてまとめてみますと、先ほどのところでもお話しましたとおり、1つ目としては、その発言の背後にある層構造、発言の背景にある場面構成を探る上で大変有効であるということ。そして2つ目に、同様の経験をもつ人々が同じ質問、同じ時間、同じ空間の中でディスカッションをすることで、お互いの状況を確認しながら進めることができるということ。3つ目に、地域における表現の場の確保ということ。4つ目に、心の健康を考える1つの方法として、ソフト救急的な機能を果たしていけるのではないかということ。最後に、反面、結果としてはある程度限界があります。これはその発言の内容が大変個別的なものだからです。しかしながら、この結果についてはグループのメンバーと同様の経験をもつ人々、体験をもつ人々、家族の人など、周囲の人々にとって、いろいろな問題の解決の糸口を見つける情報として、利用の可能性が大変高いと思われます。それはその表現が当事者の方々によってなされたものであり、体験から得た解決策や、本当に必要とされているものがこちらのほうに発言されているからです。以上がフォーカスグループのこれまでの取り組みということになります。最後にこれからの地域生活支援として、先ほどの表にありました必要な支援というところの発言内容を抜粋しますと、現在の支援と必要とされている支援との間には、支援の内容ということではなく、その間の意識のずれが見えました。社会参加を進めていながらも、その中身のところの葛藤に目を向けていかなければならないと感じています。やはり、その意識のずれというところを埋めるには、当事者の方々の体験世界というところに耳を傾け、そのずれを常に認識しながら進める姿勢が必要だと思われます。その地域生活支援の一方法として、先ほどのフォーカスグループが活用できるのではと考えています。実施により支援を必要としている時間、場所、その地域地域での特徴的な空間、関係性が見え、なおかつそのニーズと支援のずれを埋め、また、その結果、社会へ発信していくことができるのではないでしょうか。

 この地域の空間ということ、生活の空間ということについて、私がかかわった方のお話をしますと、その方は2級の手帳保持者でした。お父様とお2人で生活されていたのですが、夏の暑い時期になると、どうしても作業所での作業がはかどらない、眠くなってしまうということがありました。こちら側では、薬の管理ができていないのか、そのために眠れないのかなどいろいろ考えました。よくよくそのグループの中で話を聞いてみると、部屋に実はエアコンがない。暑くなるとお父様の機嫌が悪くなってしまい、その方にあたってしまう。そのことによって不安定になってしまうということでした。この中には親子関係ではなく、その生活空間というものを知ることの大切さを知らされたことでした。

 以上のようなことから、フォーカスグループでの発言や結果を積み重ね、当たり前のことであるのですが、個人個人、もっている空間や関係性を知っていくことが支援の中には必要だと思うのです。また、もう1つ、フォーカスグループの活用の仕方によっては、皆様の1つの選択肢として考えていただきたいのですが、ご経験のある方もいらっしゃると思います。地域生活支援を進めていったが、地域の理解が足りず、また、偏見も大変強い、なかなか前に進んでいかないなどの場合、当事者の方々、家族の方々、専門職者の方々、地域市民の方々、そしてその混合グループでのフォーカスグループの実施を継続しながら、偏見の是正というところ、プラス、正しい知識・理解を深めてもらう。なおかつ、その中で地域生活支援を考えていくことが可能なのではないでしょうか。

 最後に、まとめ、今後の方向性です。フォーカスグループと地域生活支援の関係ですが、先ほどもお話しました偏見是正の取り組みだけではなく、私がかかわったグループの中で提案があった検討会ミーティングの役割、評価や提案を共同ですることなどにも活用でき、活発な表現の場所になっていくことと思います。東北福祉大学では、このような取り組みを今後も継続し、偏見の是正、地域生活支援の在り方を考えていきたいと思っております。今回は時間の都合上、一部を報告させていただきましたが、皆様のほうで興味をおもちになり、実際にグループに参加してみたい、グループを実施してみたい、だけれども、場所がないということがありましたら、ぜひ協力させていただきたいと思いますので、お声がけいただければと思います。以上で私の報告を終わらせていただきます。ご静聴ありがとうございました。

浅野 ありがとうございました。フォーカスグループミーティングというものが、どういう方法で行われるかということをご理解いただけたと思います。それから、従来、私ども専門家が当事者の方々の声、ニーズだというふうに把握していたことが、今回のこういう方法でさらに子細に検討すると、どうもずれがありそうだということが明らかになった、そういう報告でした。今後、活用が期待される方法だというふうに伺いました。会場の皆さんで、もしご質問がございましたら、はい、どうぞ。向かって右側の。はい、どうぞ。

質問者 中沢と申します。6年前に統合失調症の認定を受けたのですが、それ以来、大勢の方々のお世話になっています。逆に私たち障害者は地域社会のため、あるいは私たちを支えてくださっている人のために、できることがあればそれを教えてほしいのです。

浅野 分かりました。よろしいですか。お答えいただけますか。

菅原 そうですね、皆様のほうで役に立てるといいますか、いろいろな考え方がありますので、私は1つの提案としてさせていただきたいのですが、今ご質問していただいた方の体験ですとか、経験というところを地域の方々に広く知ってもらう、表現していくということによって、その偏見是正ということに一番つながっていくことだと思いますので、逆にそういうような場所に出てきていただいて発言してくださることが良いのではないかなと私は思っております。よろしいでしょうか。

浅野 はい、どうもありがとうございました。他にご質問、ご意見。さっきも伺ったので、はい、どうぞ。

質問者 2番目に質問させていただいたもので、佐藤先生からは、これからの講義の中で、あなたへの質問の答えが得られるでしょうというようなお話をいただいて聞いておりました。専門家の方々の取り組みはどのようなものであって、西尾先生ですとか、菅原先生がどのような取り組みをされているかというのは非常によく分かりました。私が聞きたかったのは、私の友達に昔分裂病、いま統合失調症と呼ばれている、しかし、付き合いやすい僕としては親友と思っている人が2人か3人いて、大学時代から15年ぐらい付き合いを続けているんですけれども、例えば、僕にも女の子の友達がいて、恋人がいるんですけれども、僕が今からする発言は非常にある種耳障りかもしれないことで、あえて言うんですけど、どうしてそういう友達がいるのかとか、そういうことを僕に無神経にも聞いてくる友達がいるから、僕自身がちょっと悩んでいるところがあって、そういう僕の女友達とかに、僕にとっては親友である、そういう友達に対する、それこそ偏見を今この場で僕はなくしたいんですよ。それをどうしたらいいのかというふうに私は聞いたつもりだったのです。それにはやっぱり僕自身が病気について正しい理解をもち、早期対処の必要性というのを彼女に訴え、誤解と偏見の是正をしていくべきなんだよと彼女に一般論的に言うことはできるのでしょうけれども、それこそ、今おっしゃっていただいたフォーカスグループミーティングとかに彼女を連れて行ったりするとかということがいいんでしょうか。要するに、私が抱えているような統合失調症の友人がいて、片方にそういうことをちゃんと分かってくれない偏見をもっている友人も同時にいるというような、私のような立場の人間が具体的にどう行動すればいいのかを教えていただきたいんですよ。

浅野 よろしいでしょうか。菅原先生。

菅原 とても難しいので、佐藤先生。西尾先生か、佐藤先生に。

浅野 それでは佐藤先生にお答えいただきましょうか。

佐藤 難しいことですが、難しいというだけでは前に進みませんのでお答えします。その対応にはその方の個別性というのが随分あるんです。ですから、押しなべた平均的な答えでは解決できないことがあるのです。先ほどのフォーカスグループがなぜ推奨されるのかというと、そうした個別性を理解しやすい。本人の本音が聞ける。そこに焦点を当てて生活支援に取り組んでいくのが良い、ということです。第三者が良かれと思ってやる生活支援が必ずしも適切でない場合もある。ですから、フォーカスグループへ参加なさることはいいじゃないのと思います。まだ、病気について治療の余地がまだどんなふうに残されているのか、それにはさまざまなサービスがあると思います。その人にふさわしい医療的なサービス、あるいは福祉的なサービス、あるいはフォーカスグループでの意見交換だとか主張訓練、そういったものをどんどん活用していくのはいいことだと思います。個別性を踏まえてお答えしなければ答えにならない、そんなふうに思っています。

浅野 ありがとうございました。実は非常に的を射たというんでしょうか、基本的なご質問を受けたというふうに理解しておりますが、西尾先生と菅原先生のお話をくみ取りますと、結局、偏見が軽くなったり、消えていくきっかけというのは、当の障害をもっておられる方との接触が深まることによって、どうやら誤解や偏見が解けていけそうだという、そういうヒントが隠されていたように思うんですね。ですから、私たちは直接実際に暮らしておられる、そういう方と接触することが非常に大きな偏見除去のための方法だというふうに私は理解しております。その他にございますでしょうか。よろしゅうございますか。では、菅原先生、ありがとうございました。