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発表会 「精神障害の正しい理解と偏見の是正」

平成16年度厚生労働科学研究 障害保健福祉総合研究成果発表会

<シンポジウム>患者家族の立場から

阿部 啓子
宮城県家族会連合会 副会長

浅野 それでは最後のご発表になりますが、患者家族の立場からと題して、宮城県精神障害者家族会連合会副会長の阿部啓子さんにご発言いただきます。パンフレットに宮家連と書いてあるのは、宮城県の精神障害者の家族会連合会の略称です。阿部さんは県の副会長をやっておられると同時に、塩釜市の家族会の会長さんでもあられます。ご自身の体験を含めてお話をちょうだいできると思います。お願いいたします。

阿部 皆さん、こんにちは。ただ今ご紹介にあずかりました阿部啓子と申します。私がいただいた題名は、家族会の活動の偏見是正についてという重い表題をいただいたのですけれども、私がかかわってきた範囲内でのお話ということで、皆さんにお断りをさせていただいた上で、お話を進めたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。私が家族会にかかわるようになったきっかけと申しますのは、私の姑が家族会に入っておりまして、夫の弟が障害をもっておりました関係で、私は長男の嫁ということで、姑からそのあと家族会の活動を引き受けることになりました。その中でいろいろかかわってきた中で、強く感じていることをこの場を借りてお話できるということ、そして、この場に参加できるということを大変家族としてはうれしく、そして、この機会を借りて、少しでも家族の立場を理解してくださる方が増えることを願っております。  

 家族会活動と一口に申しますけれども、その家族会に加入すること自身が当事者をもった家族にとっては、かなり大きな負担といいますか、になっているということ、それをまずご理解をいただきたいということで、前段でお話をさせていただきます。皆さんも既にご存じのとおり、思春期から30代ぐらいに発病することが多いといわれていますこの病気です。思春期、特に進学を控えたり、それから入学をして、やっとここまでこれたかという親の気持ちと裏腹に、そういう発病があったり、それから社会に出て中堅社員として、それから仕事の中身がだいぶ身に付いてきたというときに、こういう状態になったときのご自身のことと照らし合わせて考えていただくとよく分かると思うんですけど、今までこんなに元気にして、普通にみんなと一緒に来られたのに、何で私の子供だけこういうふうにならなきゃならないのかしらと、皆さんはきっと思うんですね。家族の気持ちはそれと同じです。そして、周りからの目がまた気になりますし、その家族自身が、特に母親の場合は、今まで育ててきたあなたに責任があるんじゃないかと周りからも言われますし、自分に責任があるという自責の念に駆られて、とても苦しみます。そして、その家族がみんな集まっていろいろな話ができたり、それからいろいろな学習ができたり、学習を積み重ねた上でいろいろな運動をつくっていったり、できるはずの家族会の存在すら全然気がつくことも、そちらのほうに気持ちがいくことも、そういう余裕は一切ありません。自分の現実を見つめながら、ただただ苦悩の日を続けているというようなことが続きます。それは決して、当事者のためにならないということも分からない。病気自身についての理解ができないまま過ごしているということもあるのですけれども、そういう中で、保健センターの保健師さんとか、お医者様に声をかけていただいて、家族会というものを知るという方がほとんどだと思います。でも、外から声をかけられる前に自分たちで何とか立ち上がらなければ、家族のために将来のことを考えて、何とか自分が動かなければということで、それを待たずに社会に踏み出して、いろいろ訴えたり、行動をなさっている方もいらっしゃいますけど、大部分の方はそういった自分の自責の念に駆られたり、それから周りから、先ほど結婚の問題というのも出ましたけれども、自分の身の周りの婚期を控えた人たちやら、就職を控えた人たちにどんな影響があるだろうかという心配のあまりに閉じこもってしまいます。そこを周りからの、先ほど言いました保健師さんとか、病院家族会の中のお医者さんの声がけで家族会に入るきっかけをつくるという方がほとんどだと思います。家族会に入ってから、自分だけがこんなに苦しんでいるのではない、同じような思いをしている人たちがこんなに多いんだということに気づかされます。そして、そこから自分が学び取ることが多くあるわけなんですけれども、その家族会の活動というのは、まず同じ仲間がいるということを意識した上で、これからどういうふうにしていったらいいかとお互いに話し合って、そして前に進んでいくことだと思っております。さらに、このようなセミナーだとか、フォーラムといういろいろな企画がありますから、そのときにみんなで誘い合って出かけていって、その中で自分から学び取ることもたくさんあります。そしてさらに、それを自分たちの要求として行政に働きかける運動、特にこれからは地域の時代だと言われていますので、私たちの声を政治まではいきませんけれども、地元の活動として行政に働きかけるということはとても大事なことでありますし、これから大いに私たちがそれにかかわっていかなければいけないと思っています。 

 それから、課題に戻りますけれども、家族会の活動のことですけれども、その活動は自分自身が周りの方たちに理解をしていただくために、いろいろ働きかけることが大事だということは重々分かりますけれども、なかなか自分たちから地域の中にいって、皆さんに話を聞いていただくという手立てをつくるということは大変難しいことですので、行政で行っています家族教室、それから障害者を理解する福祉セミナーだとか、そういうところに自分の体験をお話する場をつくってもらってというか、行政側から働きかけがあった場合に、自分の意見を皆さんに知ってもらう場として、その場を活用させていただく、そういうことを進めていく必要があると思いますし、これまでもそういう機会をとらえて参加してまいりました。それから、同じ障害をもっている知的、身体の方々とも横の連携をとりながら、それぞれの活動の内容を理解し、特に精神の場合は今まで遅れている、遅れているといって嘆いてばかりいないで、こういう時期に大いに私たちの存在を知ってもらい、そして理解をしてもらう場にどんどん出て行くべきだというふうに考えております。それから、同じ障害をもっている家族ばかりではなくて、当事者、先ほど言いました知的、身体の障害をもっている多くの方たちと手をつなぎながら参加できる、宮城県ですと「ハートインみやぎ」というのがありますけれども、それは生産者も含めて多くの方たち、社会の中で活躍している場の中に、私たちがみんなと一緒に理解をしていただくための勇気をもって参加をしていくことが大事かなと思っております。現実を見つめて、そして周りのせいにしない、いま私がこういう状態なので、これから良くなっていくんだという確信をもって、これからの活動を進めていきたいと思っております。私個人の考えで、会全体というか、代表の立場と若干考え方の違いがあるかと思いますけど、ご理解をいただいた上で、今日の私の意見の発表とさせていただきます。ありがとうございました。

浅野 阿部さん、ありがとうございました。家族会に参加することになった経緯、あるいは今の家族会が今後やらなくてはいけない課題などを挙げていただきました。実は家族会というのは歴史が長くて、もう40年ぐらいになるのですが、全国の組織ができたのは昭和40年当時、ライシャワーさんの事件があったときに、法律改正に反対するために立ち上がったのが全国の家族会の始まりだと伺っておりますが、そういう意味で非常に歴史は長いのですが、病に対する偏見があることが大きく災いしたのだと思いますが、なかなか社会的に出て行けないという時代が続いていたと思うのですが、これから大いに変わっていくのではないかと、そういう期待も持たれています。どうしましょう、ご質問をお受けしてよろしいですか。

阿部 できる範囲で。

浅野 じゃあ、お1人だけ、もし、はい、どうぞ。真ん中のほうで手が挙がっております。

質問者 山形から精神障害者の活動にお手伝いさせていただいているアソウと申します。先ほどの西尾先生、菅原先生、そして、ただ今の家族の立場から、当事者の立場からの発表、大変感動しました。私どもは障害をもつ方々と一緒に活動している中で、どうしてもやはり大学の境地、医療とか、心理学とか、福祉の専門的な立場で常に研究なさっている方々が、地域に目を向けて、地域の方々と一緒になって活動してくださることを大変ありがたく思っております。先ほどの菅原先生なんかは山形まで、三浦先生、井上さんと一緒に来ていただいて毎月活動をやっておりますが、ただ今の阿部さんの活動報告を聞きまして、私たちもやはり一緒に交流を図りながら、やっていかなければいけないという勇気と自信をいただいたように思います。ありがとうございました。

浅野 ありがとうございました。何かご発言ありますか。よろしゅうございますか。

阿部 はい。

浅野 それでは、阿部さん、ありがとうございました。冒頭ご案内しましたように、午前の部がちょっと延びたものですから、15分遅れで開始いたしました。それで、予定ですと実はここで皆さんに壇上に上がっていただいてシンポジウムということになっていたのですが、壇上に上がられた演者の方々のお伝えしたい内容がたくさんおありだったようで、皆さん、熱演をふるわれた関係上、残り時間が全くなくなってしまいました。実はこの会場、このあと吹奏楽の発表会が予定されておりまして、延長が大変難しいので、ぜひどうしても今までご発言いただいた4人に、この場で質問しておかないと今日帰れないという方がおられたら、お一方だけお受けしたいと思いますが、どなたか。はい、お一方と言ったら、2人挙がっちゃった。じゃあ、お2人ということにしましょう。上の方。

質問者 こんにちは。いろいろなご意見を聞かせていただいて、とても参考になりました。私は入院経験が3回あるんですけれども、現在は普通に仕事をしておりますし、家庭も安定してきているんですけれども、入院に際して、自分で納得のいかない入院ばかりをしてきました。それで、人権相談にも行ったことがあるんですけれども、その人権相談も行く場所によって回答が全く異なって、一番印象に残っているのは、相談の後、あとで連絡しますということで、自分の家は自営業だったので、必ず家族がおりますので、家族のもとで話ができないので、知人のところに連絡をお願いしますと頼んで、法務局のほうから知人のところに連絡をいただいたのです。そのときに、無理矢理入院させられるのだけれども困るんだという内容の相談をしたのですけれども、その場合、県知事さんが最終的に入院の(採否?)というんですか、それをもっているので、またそういうふうに入院をさせられそうになったら、県知事さんに直接電話してくださいということだったのですけれども、今まで入院をさせられたところでも、人権のところに電話して相談したら、誰先生が担当ですかと言われまして、こういう先生ですとお話すると、じゃあ、その先生ともっとよく話し合ってみてくださいということで断られた経験がありますので、病気をもってしまったら、もう誰にも信用してもらえないのかなという思いが強く残っていたのですけれども、県知事さんのところに電話しなさいと言われても、病気したものがただ病気になって入院させられたからといって県知事さんに電話して、県知事さんは今どこにいるのか、どういう仕事をしているのかも分からないのに、つないでもらえるのだろうか。一介の私が電話をして、お話が県知事さんと果たしてできるんだろうかという疑問があったのですけれども、そういうふうに相談するところがほとんどなくて困ったことがあるんです。そして、あと入院の際、家族の話はよく聞いて、家族の話を聞いて入院をさせるんですけれども、患者の話をよく聞いてくれて、そういう行動をとったのはなぜか、どうしてそういう行動をとっているのかということをよく聞いてもらって入院した経験がないんですね。それで、入院してしまうと、まだ2、3才の子供が2人おりましたので、子供と離れなければならない。一番大事な時期に離れなければならないということになりますと、かなりの心の負担になるわけです。できれば、入院をしないで通院のほうがもし病気であったとしても、入院しないでの治療が私はいいような気がするんですけれども、すぐ入院に結びついてしまうという今までのそういうやり方ですね。犯罪者でも犯罪が決められる前に、何人かの精神科医の人たちに診断されて罪を問われるわけですが、精神病患者の場合は全然話を聞いてもらえないんだなと感じてきたんです。もう私は前よりも症状が良くなっていますが、薬を飲んでいるんですけれども、そういうことは今はないんですけど、これからは入院をする場合は、もう少し慎重な入院のさせ方があっていいんじゃないだろうか。それから人権のほうでも、もう少し患者の立場に乗っ取った回答の仕方がないものだろうか。それから、入院するときにいろいろお話したのですが、もう君はずっと話しているので、他の患者さんはずっと並んで待っているから聞く時間がないから、入院したら聞いてあげるから入院しなさい。君は旦那さんとけんかしていて、行く場所がないから入院しなさいということだったのですけれども、なかなか聞いてもらえないで、じゃあ、忙しいから紙に書いたら読んであげるから紙に書きなさいと言われて、紙に書いたら、じゃあ、君は大丈夫だから一応旦那さんが保護者になっているから、旦那さんとけんかしている状態だから帰れないだろうから、実家に帰れるように実家と話をしてみなさいと言われて、実家にも話をしたのですが、入院させるときに実家と主人が一緒になって力ずくで入院させたということを責められるのがいやだということで、実家への帰宅は実家のものに拒否されました。それで実家に帰れなくなりました。主人がやってきて、ドクターに病気だから入院させたのに、薬も飲ませないで様子を見たり、退院させるなんていうのはどういうことかと。看護婦が奥さんは病気じゃないですよというのは、病院の看護婦に対するしつけが悪いからじゃないかという…

浅野 そろそろ発言をまとめていただけますか。他の方のご質問をお受けしたいので。

質問者 ・・だったので、受け入れ態勢がなされていなかったので、もう少し入院の際の受け入れ態勢とか、それから相談したときの人権相談の在り方も、もう少し考慮していただきたいなと思ってお話したのですが。

浅野 ありがとうございました。いくつかこれまでの入院のさせ方とか、その医療の在り方についてご批判をいただきました。ご意見としてちょうだいしたいと思います。他にどなたか。もう1人だけ。これで終わりにさせていただきます。では、もう1人。短めに、もう1人どうしてもとおっしゃる方がいらっしゃるので。

質問者 さっき、家族の育て方が悪いという言葉が出てきたのですけれども、家族とか、親類縁者を悪く言うのはやめてほしいんですね。その人たちとの関係が悪化してしまいますから。患者本人である私が悪く言われるんでしたら、少しぐらいいいんですけれども、家族の育て方が悪いとか、友人の悪口とか、親戚とか、そういう関係ない健常者の悪口を言うのはやめてほしいんです。私のことと結び付けて。それが言いたかったのです。

浅野 はい、ありがとうございました。もう1人、どうしてもとおっしゃっていた方はどなたでしょう。

質問者 私はミウラといいます。今年の3月まで3年間、精神障害者の福祉施設のほうにいました。今回は正しい理解と偏見の是正という話で、まず1つは、私は精神障害の方たちと話をしていて、何でこんなに個人として精神障害者であって、私はミウラですから、ミウラになっているのか。ミウラであって、精神障害だったらいいんじゃないのという話をすることが結構あります。だから、私は精神障害者ということではなくて、個人に戻ってもらいたいというのがまず1つあります。それから、キドさんのほうから話がありました差別とか、言葉が悪いのですがきちがいとか、そういう話を聞きます。そのときに、かわいそうだというような説明の仕方では不十分だと思います。じゃあ、あなたはどういうふうにして、そういう理解をしているのか。そして精神障害者というのは、どういうことで理解ができるのかと。私のところはフリースペースもありましたけれども、そういうときにはその人をフリースペースまで連れて行って、この人はどこが違うんですかというようなことで理解を図らないと、なかなか改善はできなかったというのがあります。そしてその人たちが納得した場合は、すごく力になってくれるという人がかなりいました。それから就労のほうもやっていたので、就労先とかにも、やはり精神障害の方たちを紹介して、職安さんにお願いすることがあります。そのときも一番最初に話したように、この人は、例えばミウラさんという方です。そしてちょっと仕事を見てください。それが一番です。ただ、この人にはこういう病気がありますから、その辺は考慮してくださいという言い方で、いろいろな言い方があるかもしれないんですが、基本的なとらえ方のところで、理解を深めるのであれば、そういう言い方とか、きちんとしたとらえ方を、やはりスタッフとしてもっていかなくてはいけないと思います。私が一番言いたいのは、精神障害者の個人にならないでもらいたいということです。とにかく、自分がいて、それで精神の病気があるということで生活をしてもらいたいというのが強く感じました。今は精神障害のほうとはかかわりをもっていないのですが、それを皆さんに理解してもらいたいということだけです。以上です。

浅野 ありがとうございました。いくつか貴重なご意見をちょうだいしました。まだまだ続けたいところですが、もう時刻が過ぎてしまいましたので、これで閉じさせていただきますが、午後の部のシンポジウムでは、特に最後に当事者やご家族の話の中で、仲間がいる、あるいは気持ちを分かってもらえる人がいるということが、いかに薬になるかというお話があったと思います。午前中、お薬がどういうメカニズムで効くかという、そういう次元のお話もありましたが、一方では、私たち1人では生きられませんので、仲間がいる、心を開ける人がいるということが、もう1つの薬だということをご理解いただけたのではないかというふうに思います。