国際セミナー「世界の障害者インクルージョン政策の動向」
話題提供2 関連資料
「スワンベーカリー新聞記事」
障害者自立に新味 パン屋・スワンベーカリーの挑戦 採算の壁、どう越える
【大阪】2005.12.07 大阪朝刊
障害者の月給１万円からの脱出、福祉と経営の両立－－という目標を掲げ、 「宅急便」を世に広めたヤマト運輸元会長の故小倉昌男さんが始めたパン屋スワン ベーカリーが、新しいステップを踏み出そうとしている。７年前、東京・ 銀座に１号店を開き、東西にチェーン店が広がったものの、経営見直しが相次いだ。パ ンを売り、障害者の自立を支えようという試みは、その経営にも新味が欠かせないようだ。（木元健二）
出店には、ヤマト福祉財団などによる立地条件などのチェックがある。認められると、２カ月の無料製造研修を受講、一定のパンメーカーから冷凍生地を仕入れ、数十種類の商品を提供できるようになる。ロイヤルティーはない。
群馬県太田市の店は３年前の春、市役所隣にオープン。山小屋風の店舗を建てる費用の半分を市が補助するなど後押しを受けて、経営母体となる株式会パンジーを設立した。
だが客足は今、初年度のほぼ６割に。黒字は見込めず、市民から募った資本金の元金を保つため、株式会社は解散を避けられない見通しだ。
市は経営支援を続けるのは難しいと判断。「障害者の働く場とはいえ、市が民間を長年支えることはできない」と市福祉事業課の島田秀明課長は話す。市社会福祉協議会に受け入れを打診している。
阪神大震災の被災地、神戸市長田区にも昨年５月、チェーン店ができた。ＮＰＯ（非営利組織）法人の中央むつみ会が経営に乗り出したが、オープンから１年足らずでチェーンを離脱した。
最大の壁は人件費。精神障害者５人のメンバーの接客や製造を支えるには、健常者スタッフが同じ程度必要という。「売上高を上げようと働く時間を長くすると、人件費にはね返る。その負荷は想像以上だった」とＮＰＯ法人理事の坂井宗月さん（４５）は明かす。
現在は店名を「ふらわあぽえむ」と改め、仕入れ先を変えてコストを下げた。パンを大ぶりにして安くするなど、下町の立地に合わせた展開をしている。
○「長い目で」独自の商品も
大阪の繁華街、心斎橋。ここに０３年夏、人材派遣業などを展開する「ヒューマンホールディングス」（東京都新宿区）が障害者雇用の一環としてスワンベーカ リーを出した。しかし、採算がとれず今年４月、チェーンから離脱。「ヒューマンカフェ＆ベーカリー」と名をかえ、営業を続けている。
カフェラテの注文がくると、軽い知的障害のあるコーヒー担当の加藤誠子さん（２３）が表面にミルクで葉っぱを描き出す。「描くのは店の誰よりもうまい。自信 がつき、表情が別人のように晴れやかになった」と周囲は驚く。繊細な性格で、指導を受けたときは涙を見せながら手法を身につけた。１年半以上かかったとい う。
「長い目で見ないと、この事業は進まない。雇用を守り続け、経営面での障害に挑みたい」と早川徹店長（６１）は話す。チェーン離脱後、若者向けのボリューム感のあるパンなど独自商品を売り出している。
○「月給１０万円」へ経営強化
ヤマト福祉財団によると、スワンベーカリー計１６店のうち採算がとれているのは、周囲のＯＬらに好評で、月給１０万円という目標を実現した銀座店と、官庁 街などへの外販に成功した東京都北区の十条店のみ。その他は単独では採算がとれず、社会福祉法人などの支援で成り立っている店が大半だという。
このため今夏、ヤマト運輸は、スワンベーカリーの運営に当たる子会社「スワン」の社長に、営業畑出身者をあて、強化策の検討を始めた。パンだけで無理なら地場産品を売る、ヤマト運輸のネットワークを使った名産を取り寄せる－－などの案がある。
これまでの７年は、まず理念を実践する時期だった、と財団の伊野武幸常務理事（６８）は位置づける。「障害者たちへの遠慮もあり、個々の経営に口をはさま なかった面があった。だが、それでは福祉と経営の両面を追うという試みは成就しない。一般のパン屋でも厳しい時代だ。これからはできる限りかかわって、 チェーン店を支えていきたい」
◆キーワード
＜スワンベーカリー＞ 小倉さんがトップを務めたヤマト運輸と ヤマト福祉財団が設立した「スワン」を本部とする。銀座などの直営３店と、札幌市や大阪府茨木市などにチェーンが１３店ある。多くの働く障害者が月給１万 円ほどという実情のなか、経営努力で地域ごとの最低賃金や月給１０万円を達成する
といった目標をたて、年金と合わせた収入で障害者の自立を支えようとの理 念を掲げる。
スワンのホームページアドレスは、http://www.swanbakery.co.jp/
【写真説明】スワンから改名した「ヒューマンカフェ＆ベーカリー」で働く加藤誠子さん （中央）ら＝大阪市中央区で