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講演会「障害児に豊かな読書体験を」

意見交換「バリアフリー図書の普及を目指して」

モデレーター:
野村美佐子
(財)日本障害者リハビリテーション協会
パネリスト:
山内 薫氏
(東京都墨田区立緑図書館 / 日本図書館協会障害者サービス委員会委員)
藤本優子氏
(当事者の保護者)
ハイジ・コートナー・ボイエセン氏
(IBBY障害児図書資料センター長/Haug School and Resource Centre 図書館司書)
撹上久子氏
(日本国際児童図書評議会バリアフリー絵本展実行委員長/臨床発達心理士)

注:意見交換は要約の形にまとめました。

質疑応答

質問:北欧は非常に人権意識が高いので障害者の人権保障も進んでおり、スペシャルな本が発行されていると思います。紹介していただいた図書館や図書ができるきっかけがあったとしたらそれをお伺いしたい。

撹上氏:図書館ではなくて、IBBYの中に障害児図書資料センターというものが20年くらい前にできました。当時立ち上げた方がオスロ大学の先生だったので、オスロ大学の特殊教育学研究所内にはじめはセンターができました。IBBYというのは会社とか建物を持っているところではないボランティア組織ですので、プロジェクトを推進する人が、そこに何かを作っていくしかなかったわけですね。

先ほどから名前の出ているトーディス・ウーリアセーターさんがやはり障害のある子どものお母さんでした。その方とニーナ・A・ライダーソンさんという障害児教育に関わる方が力を合わせ、そしてIBBYの理念がそれを後押しして設立されたというふうに聞いています。

最初にセンターは、オスロ大学の方が立ち上げたのでオスロ大学の中にありましたけれど、その方が退職なさったので、次の場所としてハイジさんのお勤めになっている学校の図書館に移りました。

ボイエセン氏:バリアフリー図書についてやはり社会から支援を受けるということがとても大切ですし、また出版社に理解をしてもらうための支援が必要だと思います。どうしてこういう本を作る必要があるのか、また製作そして出版の必要があるのだということを出版社が理解するためのお手伝いをする。それが障害者のためであり、すべての人のために本を作るということです。

ノルウェーには「BOOKS FOR EVERYONE (すべての人のために本を、)」という財団がございます。この財団は何をしているのかと言いますと、障害者用の本を書くようにと作家の人たちに奨励すると動をしております。また作家の人たちだけではなくて、この普及につとめるためにいろいろなPR記事を書くということもしています。ですからこれは社会が認識するための広報活動でありまして、普及のためのプロモーション、あるいは認識拡大の活動をしています。

一方、JBBYの方では、全国規模で展示会をやっていらっしゃいます。展示会というのがたいへん重要だと思いますが、ノルウェーでは日本でやっていような全国規模の展示会、あるいは巡回というところまではまだきていないと思います。

質問:日本での世界バリアフリー展は、一種の福祉ムードに終わってしまったという気がしましたが、いかがでしょうか。

撹上氏:最初に絵本展をしたときには、どういう本があるのかを知ってもらおうと思いましたので、その目標、もちろんいくら65か所開催してもすべての人に見ていただいたわけではありませんけれども、かなりの数の方には今の日本にどんなバリアフリーの本があるか、それから世界にあるバリアフリーの絵本について、少し知っていただけける機会になったのではないかと思います。

ただ、私の中にやはり絵本展での期待というのはありました。というのは、もっと出版が進んでほしいということは願い続けて巡回してきました。JBBYは決して障害児図書の専門のところではありませんで、アンデルセン賞、オナーリスト賞、ブラスティラバの図書展なども巡回しております。海外のすぐれた絵本が展示されますと、すぐに出版社は翻訳出版をしますが、この「世界のバリアフリー絵本展」43タイトルについては、もともと翻訳されていたものはありましたが、巡回中、1冊も出版社は翻訳出版をしてくれませんでした。それはやはり残念だったと思います。

それでも、私は開催者の方には各地でこの絵本展を本当に大事に開催してくれまして心から感謝をしておりますし、そのことにはなんの不満も持っておりません。

質問:日本でも山内さんのような図書館員の方が、図書館の外に出て活動しているのは素晴らしいと思った。いつ頃からどのようなきっかけで始められたのか。

山内氏:墨田区の場合は、もともと1970年代には視覚障害者に対するサービスを行っていました。サービスの中心は自宅に本やテープなどを届ける宅配がメインで、本や資料を持って利用者のお宅にうかがうというサービスをしていました。

1990年代から、今度は高齢者施設に行き始めまして、現在、特別養護老人ホーム4つ、それから老人保健施設2つ、それからデイサービスセンター3つに毎月1回行って、本の貸出しや紙芝居などをしています。

先ほど見ていただいたみどり学級は、2003年に図書館報で学校訪問といってクラスに行って本の紹介をしたりするサービスを特集したのですが、これを見たみどり学級の担任の先生が図書館にみえて、うちの学級にも来てほしいという要望があって始まりました。

質問:障害児が楽しめる本を出版する場合、著作権が問題になるが解決策は?
(DAISYコンソーシアム理事の河村氏への質問)

河村氏:別に名案があるわけではないのですが、素材として、私自身が今ここらへんに展望があるのかなと考えていることを一つだけ申し上げたいと思います。

一つは先ほど、出版社が展示したタイトルを1タイトルも翻訳出版してくれなかったということなのですけれども、著者と読み手との間に普通は出版社が入るのですが、どうしても出版社が「この出版のモデルでは儲からない、利益が上げられない」というときに、ではどうしたらいいのかというものの一つに、やはり間にボランティア、あるいは非営利の団体が入って出版をするということだと思います。そのときには、途中を端折りますけれども、できるだけ安く作って、安く提供する。そういう形で解決を図る。つまり出版の段階でアクセスを保証できるようにしていくための方法を工夫するということだろうと思います。

DAISYを中心とする電子出版――DAISYだけではないと思いますけれども――電子出版のいろいろな試みの中に、新しい著作権の考え方、あるいは新しい流通の考え方というのがたくさん出てきておりますので、DAISYは一つのサンプルですので、そういうところで解決策を探っていく。

それから、それをサポートする効率的な権利処理の整理をする。つまり、百人も著作権者のいる絵のたくさん入った百科事典を、全部一人一人許諾を取れと言われたって、取りようがないわけですね。つまり、それは権利者側にも何らかの窓口の整備をする。そういうことを対等に義務づけるというふうなしかたで、権利を持つ者もやはり義務を負う。権利処理をしやすいような義務を負うというところが、一つの突破口になるかな、と考えています。

技術としては、DAISY出版をしていくというのは一つの解決方法だろうと思っています。

質問:日本で本を手話で読み聞かせたことがあるか、そういう例があれば教えていただきたい。また、そういうことに対してどうお考えになるか、うかがいたいと思います。

山内氏:うちの図書館のケースではないのですが、石川県白山市の松任図書館で「手とお話の会」という地元の聴覚障害の方がろうのお子さんにお話会をするというのが一つあります。

それから、このあいだ全国図書館大会がありましたが、枚方市立図書館にろうで手話を第一言語にしている職員の方が一人います。彼が報告してくれたのですが、毎月1回、やはり手話によるお話会をやっているそうです。彼の話で面白かったのは、日本語の不得意な方に対して、対面の手話で本を読んで欲しいという要望が出ているそうです。全国で現在、40人くらいの視覚障害の図書館員が働いていますけれども、聴覚障害の職員の方も何人かいます。やはり当事者の方が図書館の職員として働くということは非常に大きいことだとそのとき思いました。

まとめとして

ボイエセン氏:最も良いやり方は、ある本を出すときにはその本の内容をいろいろなバージョンで一時に出す。これが一番良い方法だと思います。撹上さんから紹介があったと思いますが、一般の形態で、そして点字で、DAISY版で、そして一般の音声テープで、そして触る絵本で、これをいっぺんに出してしまう。これがもしできれば、大変重要なことだと思いますし、ベストでしょう。

撹上氏:今の多媒体の出版は、今年のJBBYが選定した国内推薦図書の中にも入っていますので、一つの試み、アプローチとして注目されていい図書の出版形態ではないかと思います。私はバリアを越えるものに2つ、大きな可能性を持っている力があるとすると、「各分野の連携、ネットワークを作っていくこと」と、「人の思い」ではないかと思っています。これからもどうぞ私たちの活動を見守っていただきたいと思います。

山内氏:ハイジさんのお話の中に、誰かに受け入れられる場ということがあったと思うのですが、あらゆる人たちを受け入れられるような場に図書館がなれば、というふうに思っています。それから、今年の夏に熊本に行ったのですが、熊本県のたぶん聴言センターだと思うのですが、手話入りの「ごんぎつね」をいま作っているところで、出来たら送ってくれるという約束になっています。

藤本氏:こういった活動があって、初めて息子の世界が少しずつ広がっていくのだなと思って、今日はいろいろな意味で勉強になりました。ありがとうございました。

野村:マルチメディアDAISYも含めてこうしたものの中に手話をとり入れていくことは可能だと思っています。少ししましたらマルチメディアDAISYに動画がとり入れられると聞いていますので、それができたら手話のついたマルチメディアDAISY図書ができあがります。少し時間がかかりますけれども、最終的にはいろいろな障害の方にとってアクセシブルな本ができあがっていくと思っております。

藤本さんがおしゃっているように、障害者の方の世界が広がるためには、やはり母親の力って必要ですし強いと思います。そしてそれを支えるは、関係者の皆さまの力だと思います。これからもよろしくお願いします。