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第3回アジア太平洋CBR会議

民間セクターとの協働によるアクセシビリティー向上と補助技術(車いす)支援について

アジア車いす交流センター(タイランド)
熊澤友紀子

導入: アジア車いす交流センター(ワフカ)は愛知県に本社を置く自動車部品メーカー、デンソーの社会貢献事業の一環として1999年に設立されました。ワフカは障がい者が車いすをはじめとする適切な補助技術にアクセスするための支援を行っています。また、障がい者のためのバリアフリー環境作りに寄与することも活動目的としています。支援活動はタイ(ワフカット, 1999年設立)やインドネシア(ワフカイ, 2014年設立)の海外事務局を通じて実施されています。2006年からは中国でも社会福祉団体やデンソー中国の協力の元、車いすの生産支援や寄贈活動を行っています。デンソーからの継続的な資金援助を受けながら、障がい者、そしてすべての人々のためのバリアフリー社会の実現を目指して活動している団体です。

方法: ワフカの活動は1999年にタイ障がい者財団が運営するタイウィール車いす工場を支援する活動から始まりました。デンソーとワフカットは工場のスタッフに車いす生産に必要な研修や技術指導を行いました。さらに、ワフカットはタイウィール工場で生産された車いすを買い取り、農村部の恵まれない障がいを持つ子どもたちに寄贈してきました。2003年からは教育支援事業を開始し、奨学金提供、学校や自宅のバリアフリー改修工事、障がい児やその家族、教員を対象にした能力開発研修などを実施しています。最近ではWHOやCBRガイドラインに沿って車いすサービスの質の向上に力を入れています。より身体に合った車いすの提供、ユーザー研修、車いす修理、車いす提供に関わる地域の人材作りのための研修会を実施しています。このプロジェクトはタイデンソーグループから資金援助を受け、タイのNGOや政府機関、例えば教育省特別支援教育局、保健省シリントン国立医療リハビリセンターと協働で行っています

中国では、2006年に北京シュウホウ車いす工場と契約し、車いすの生産支援を行いました。工場で生産された車いすを毎年200台買い取り、主に天津市の障がい者連合会や福利基金会を通じて現地の障がい者に提供しました。北京シュウホウ工場との契約は2012年に終了しましたが、現在でも雲南省で年間40台の車いすや奨学金を提供するなど、現地の障がい者との交流を続けています。

一方インドネシアでは、デンソーインドネシア、UCP Wheels for Humanity (UCPRUK)というジョグジャカルタに拠点を置くNGOの支援を受けてワフカの現地財団(ワフカイ)を設立しました。ワフカイはUCPRUKが提案するアセスメント、組み立て、フィッティング、調節、ユーザー研修、フォローアップ、修理といった車いす提供ステップに沿って、一人ひとりの身体に合った車いすを提供しています。現在はおもに西ジャワ地域での移動サービスやジャカルタの事務局に併設されている車いすサービスセンターにて車いすを提供しています。将来的には、より多くの車いすを提供するため、ワフカイやUCPRUKの研修を受けた地域のサービス提供者と提携して支援対象地域の拡大を計画しています。

結果: 設立から16年間、おもにタイと中国で車いす延べ4000台、奨学金2000名、学校や自宅のバリアフリートイレ100件、そして様々なセミナーや研修の機会を提供してきました。インドネシアでも設立後、車いす60台を提供しました。また、日本の外務省人間の安全保障草の根資金援助を受け、西ジャワ州ブカシ県にて5つの特別支援学校にバリアフリートイレを設置しました。

プロジェクトの成果を測るため、2014年に車いすを受け取った障がい者を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、車いすの入手後の明らかな改善変化が見られました。車いすを利用する前と比べて改善した点として、長い時間座っていられるようになったり(76%)自由に移動できるようになった(71%)結果、情緒が安定したり(83%)保護者や介助者の負担が減らすことができました(78%)。これらは車いすによる直接的な改善変化です。残念ながら、車いすで通学できるようになったなどの間接的な変化はあまり見られませんでした。車いすだけでは解決できない様々な障壁を取り除くための追加の支援が必要であるためと考えられます。加えて、50%以上の被受益者は車いすのメンテナンスや修理を受けることができませんでした。いかに遠隔地の障がい者に必要な修理サービスを提供するかがタイのプロジェクトの課題です。

タイの事例: 2007年、スチン・ケソン君は当時6歳で、タイ東北地方のノンブアランプー県の小さな村の小学校の1年生でした。お母さんと2人暮らしで、歩くことが困難にも関わらず、歩行補助具は持っていませんでした。ワフカットはスチン君が継続して通学できるように車いすと奨学金を贈り、スチン君が通う小学校にバリアフリートイレを設置しました。

これらのサポートを受けた後も、スチン君とお母さんは貧しい家庭状況から何度も学校を辞めようと思いました。ワフカットはそんなスチン君とお母さん、学校の先生を、他県に住む障がい児たちと一緒に能力開発キャンプに招待しました。そこで将来仕事を持ち自立した生活を送るためにどれほど教育が重要かについて繰り返し話をしました。このキャンプを「ドリーム&フレンドシップキャンプ」と呼んでいます。スチン君はほぼ毎年キャンプに参加し、2013年には中学進学を決意するまでになりました。今年スチン君は中学3年生になりました。来年は高校への進学を予定しています。スチン君とお母さんは決してあきらめませんでした。そのことは学校の友達や先生、近所の人たち、そして地元の役場の職員たち(後にスチン君に手漕ぎ三輪車を支援)の障がい者に対する態度を良い方向に変化させました。すべての人たちがスチン君の学校や地域での生活を支援するためのネットワークを作り上げた事例です。

インドネシアの事例: アディットヤー・アクマッド・プリアンディニ(アディット)君は18歳の男の子で、両親や姉妹と一緒にインドネシア西ジャワ州ブカシ県で暮らしています。アディット君は脳性麻痺と多動性障がいと診断されています。18歳という年齢にもかかわらず、まだ初等教育クラスで勉強しています。アディット君は生まれてからずっと車いすなどの補助具は持っていませんでした。毎日ほとんどの時間を自宅の中で過ごし、手を使って床を這って移動する生活をしてきました。アディット君と家族にとって外出すること、ましてや通学することは相当な困難でした。

2014年8月にワフカイはアディット君の学校を訪問調査し、学校で共用する車いす4台と手すりやスライドドアが付いた車いす用のトイレを設置することになりました。その後、ワフカイはアディット君が自宅でも車いすを必要としていることを知りました。そこで、ワフカイのスタッフがアディット君の身体のサイズや座位姿勢を診断して、最適な種類でサイズの合った車いすを選びました。同時にソーシャルワーカーがアディット君や家族に車いすを利用する上でのニーズを聞き取り調査しました。その結果、アディット君はワフカイから自走用の車いすを受け取り、ユーザー研修を受けて自分で車いすを動かせるようにまでなりました。両親は毎日アディット君を特別支援学校へ連れて行くことができるようになり、アディット君は基礎学力を身につけることができました。アディット君は学校が大好きで友達もたくさんできました。ワフカイは今後アディット君の車いすの状態や使用状況をフォローアップ調査し、必要に応じたメンテナンスや交換を行う予定です。

まとめ: ワフカはすべての障がい者やその家族が基礎的な移動補助具やテクノロジー、情報にアクセスすることができることを目指しています。障がい者が車いすで外出し、友達に会い、学校で勉強し、就職して仕事をし、地域活動に積極的に参加する、そんな姿を見ることを願っています。移動補助器具が障がい者にとって必要不可欠なものであることは間違いありませんが、これらは単なる道具に過ぎません。道具をどう使うかが重要であって、ただそれを所有していて何もしないのでは意味がありません。CBRのアプローチは車いすサービス提供者にとって効果的であると考えます。なぜならCBRは障がい者が障がいに前向きに向き合い、車いすの利点を最大限に引き出すことができるからです。簡単ではありませんし、時間もかかるかもしれません。しかし、正しく提供され利用されれば、たった1台の車いすが大きな変化をもたらすこともあるのです。

ワフカは引き続き、タイやインドネシアで各国のデンソー拠点の支援を受けながら、障がい者のための持続的な発展のために草の根の努力を続けていきます。中国では、現地の団体や支援者との関係を維持しながら、将来的に活動を発展させる機会を探っています。さらに将来的にはデンソーが拠点を持つベトナム、フィリピン、マレーシア、カンボジアなどアセアン各国にも支援の輪を拡大したいと考えています。


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