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地域ささえあいネットワ-ク作りに向けて
-CBRセミナー・ワ-クショップ-報告書

◆講演
コミュニティにおけるインクルーシブ開発のためのネットワーク作り

「障害・CBR・インクルーシブ開発」ジャーナル編集長
マヤ・トーマス氏

マヤ・トーマス ご紹介いただきまして本当にありがとうございます。今日のセッションにお招きいただきまして大変光栄に思っています。ありがとうございます。

最初に、日本障害者リハビリテーション協会に、特に上野様に、さらにこの地域の皆さま、ご参加の皆さまに、このような会を催してくださいましたことを感謝申し上げます。日本への訪問は4度目になりますが、次に来る時は、もう少し日本語を勉強してから来たいと思います。

ネットワーク作りとパートナーシップについての2つの引用

今、西アフリカがエボラ出血熱で有名になっていますが、最初に、西アフリカのことわざを引用したいと思います。これは今日のネットワーク作りというトピックに非常に適していることわざといえます。「早く歩きたいなら、一人で歩きなさい。遠くまで歩きたいなら、一緒に歩きなさい」というものです。この言葉は協力してネットワーク作りをする時の本質であると思います。これは個人主義と集団主義の違いを表しており、伝統的な考え方と近代的な考え方を表しています。またコミュニティにおけるインクルーシブ開発(CBID:Community Based Inclusive Development)、または地域に根ざしたリハビリテーション(CBR:Community Based Rehabilitation)の考え方も表しています。もう一つの引用はマイクロソフトのビル・ゲイツの言葉です。彼は「私たちの成功は最初からパートナーシップに基づいている」と言っています。ですから、コミュニティの観点であろうと、大企業の観点であろうと、成功の鍵となる要因はネットワーク作りでありパートナーシップである、という事です。

ネットワーク作りの重要性と原則

では、何故、開発部門におけるネットワーク作りが大切であるかという点についてお話ししたいと思います。まず、その重要性の一つに、共に学んで情報を共有するということがあります。次に、利用できる資源を全て集めて、それを最大限に活用するということがあります。三番目に、協力することは団体交渉力を付ける上で非常に重要です。たった一人の意見よりも、多くの人の意見のほうがいいのです。最後に、協力するということは、一時的な取り組みではなく持続可能な開発に大きな貢献をします。

しかし、このようなネットワーク作りや協力というのは容易なことではありません。ネットワークのメンバーの中に違いがあることもあるからです。それぞれ関心も違うし、関わり方も違う、また利害関係も違います。しかし重要なのは、決して理想的なネットワークというものはないということをまず理解することです。違いはあるでしょう、しかし、違いはあってもネットワークを作ることには違い以上の利点がはるかに多いということを理解しなければなりません。

また、ネットワークを作る上で、いくつかの原則があります。1つ目は、パートナー同士がお互いに正直であり、お互いを信頼するということです。2つ目は、ネットワークの中のパートナー全てに平等の、もしくはほぼ平等の役割があるということです。重要なのはパートナー同士が情報を共有すること、経験を共有すること、そして資源を共有し合うということです。時には文書による覚書とか協定書のようなものを作成し、ネットワーク作りの目的、目標、各パートナーの責任・役割を記載する必要があることもあります。最後に、非常に大切なことですが、どのようなネットワークであれ、パートナーシップであれ、そのおかげですべてのパートナーにメリットがある、つまり、いわゆるウィンウィンの関係を作っていくことが重要です。

CBIDとCBR

ネットワーク作りの原則と重要性について少しお話ししましたが、次にその原則をコミュニティにおけるインクルーシブ開発(CBID)に適用することについて話したいと思います。コミュニティにおけるインクルーシブ開発の概念とは、基本的に我々が目指すもの、目標もしくは目的とするものです。その目標というのは、我々はコミュニティをインクルーシブにしなければならない、もしくはコミュニティはあらゆる人々をインクルーシブにしなければならないというものです。障害のある人も含めてです。どのような理由であれ、いかなるグループも、いかなる人も、疎外、排除されるべきではないということです。コミュニティで開発から疎外、排除される理由として、障害やジェンダー(つまり一部のコミュニティでは女性であることを理由に疎外されます)、さらに宗教的な理由、民族的な問題などが挙げられます。

コミュニティにおけるインクルーシブ開発では、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)というプログラムは障害のある人をインクルーシブすることを目的とする戦略であるとみています。2009年、WHOのチャパル・カスナビス氏はバンコクのAPCD(アジア太平洋障害者センター)で行ったこのプレゼンテーション(図1)で、インクルーシブ開発の概念そのものを説明しました。基本的には、社会のあらゆるシステムをインクルーシブにするというものです。保健、教育、生計など、コミュニティのすべての制度には障害のある人が含まれなければならないということです。社会がインクルーシブになるということは、誰も排除されないということを意味し、その社会が「すべての人の社会」になるということです。

(図1)
図1(図1の内容)

CBRとツイン・トラック・アプローチ

次にCBRについてですが、2004年にWHO、ILO、ユネスコがCBRを定義づけ、CBRの主要な目的は2つであると明言しました。そこでツイン・トラック・アプローチというものが明確にされたのです。ツイン・トラック・アプローチの第1の目的は、障害のある人が身体的、精神的能力を最大限発揮でき、社会のサービスと機会を利用でき、地域社会において積極的な貢献者となるように促進することです。第2の目的ではコミュニティに焦点を当てています。コミュニティをインクルーシブにする、コミュニティは障害のある人を受け入れる、コミュニティは障害のある人の参加に対する障壁を取り除くこととしています。国連障害者の権利条約もまた、第26条、25条、19条の3つの条項で、コミュニティ支援、コミュニティの参加など、コミュニティの重要性を強調しています。CBRに関連するネットワーク作りについて、先ほど述べましたジョイント・ポジション・ペーパーには、「CBRは障害者自身とその家族、組織、地域社会、関連する政府、非政府の、保健、教育、職業教育、社会的、その他のサービスの複合された努力を通して実行される」と掲げられています。このように障害のある人への取り組みは、CBRと呼ぼうとインクルーシブ開発と呼ぼうと、単独で存在できるものではないのです。インクルーシブ開発を促進し、目標を達成するためには、各分野に渡って様々な段階でネットワーク作りを行い、パートナーシップを構築しなければなりません。

CBRに関連したネットワークの例

CBRと開発を見てみますとネットワーク作りは、コミュニティ、国内、国際などの様々なレベルで行われています。コミュニティレベルのネットワークについては後ほど事例を紹介したいと思います。国内レベル、国際レベル、地域レベルなど、ネットワーク作りは様々なレベルで行うことが出来ます。ここにCBRに関連したネットワークの例をリストアップしました(図2)。国際的ネットワークではIDDC、CBRグローバルネットワークがあります。地域ネットワークではCBRのアジア太平洋ネットワーク、アフリカネットワーク、ラテンアメリカネットワークがあります。地域ネットワークにはまた、APCDのネットワークもあります。これはバンコクに拠点があり、CBRを促進している組織による独自のネットワークを作っています。今日は二ノ宮さんも佐野さんも出席していただいていますので、後でいくつかお話を伺えると思います。国内ネットワークも各国にたくさんありまして、アフガニスタンネットワークもそのうちの1つです。

(図2)
図2(図2の内容)

インクルーシブ開発のネットワーク作りの成功例-モビリティ・インディア

ここにインクルーシブ開発のネットワーク作りの成功例があります(図3,4,5)。モビリティ・インディアという非政府組織の団体が障害のある人のためにCBRとインクルーシブ開発を進めています。この団体は農村地域で様々な分野の関係当事者とパートナーシップを組んで活動しています。

(図3)
図3(図3の内容)

(図4)
図4(図4の内容)

(図5)
図5(図5の内容)

障害のある人とその家族が大変積極的にこの活動に参加しています。そして、給付等を受け取るだけではなく、障害のある人と家族は政府に対して権利擁護活動を行ったり、自分たちで様々なプログラムを計画したりしています。

村落コミュニティは活動場所を提供したり、イベントを計画したり、障害のある人を特定して種々のサービスを紹介する手助けをしたりすることで、モビリティ・インディアの活動に貢献しています。

地元の学校もモビリティ・インディアから多くの情報を得て支援を強化するようになりました。学校環境もアクセシブルになり、障害のある子どもを快く受け入れるようになってきました。

同じように、病院や保健所も多くの専門家を雇用し、障害のある人のニーズに対応できるようにしています。

銀行や金融機関もローンを提供したり、ゼロバランス口座という特例を設けたりしています。企業も就業の機会を提供しています。またちょっとした仕事を自助グループに外部委託することもあり、外に出て働けない障害のある人も自宅で働くことが出来ます。

同様に、職業能力訓練校も障害のある人を含めており、時には無料または非常に低料金で能力習得の機会を提供しています。地方自治体も行政も会議の議題に障害を含め始めましたし、自助グループや障害のある人たちとよく話し合うようになりました。また、選挙で選ばれた政治家たちも障害問題に注目するようになり、予算を配分し、障害のある人から提起された問題に対応するようになりました。

このようにモビリティ・インディアというNGOが障害のある人のために、コミュニティの中のあらゆる関係当事者者たちを巻き込むことに成功していることがお分かりいただけると思います。

カンボジアの例

カンボジアではDisability Development Support Project(DDSP障害開発支援プロジェクト)というNGOが政府とパートナーシップ関係を結んでいます(図6)。

(図6)
図6(図6の内容)

DDSPはCBR促進のため州レベル、郡レベルの政府、特に教育省および社会問題省と覚書を交わしています。ここのキーポイントは、DDSPは独自でCBR活動を始めるのではなく、政府の制度を通して緊密に協働しているということです。この評価は2012年に行われたものですが、「CBR促進のため既存の制度を通して活動し能力構築を図るというこの戦略は、高度な持続可能性に大いに貢献するものである」と非常に高い評価を得ています。

もう一つカンボジアの事例を挙げましょう。Cambodian Development Mission for Disability(CDMDカンボジア障害開発ミッション)という組織があります。ここではコミューンレベルでコミュニティ障害評議会(CDC)と呼ばれる評議会がありますが、これは政府、保健、教育、自助グループ、宗教指導者など様々な分野の関係当事者の代表者からなる評議会です。CDCには明確な責務があります。それは、障害のある人が開発の計画と予算に必ず含まれるようにする、ということです。そして、政府が各地のコミューンにおける障害のある人の調査を行ったところ、障害のある人の状況はこのようなCDCのあるコミューンの方がはるかに良いという事が分かったのです。

中国の例

中国は仕組みが多少異なりまして、障害問題委員会というものが省、県、郷レベルで設立されています。この委員会の目的は資源の活用と多部門間の調整です。これ(図7)は実際に障害問題委員会と政府の諸機関がどのように協調しながら障害のある人を支援しているかという事例です。このように民政局、司法局、公衆衛生局、青年同盟、女性連合会等、様々な組織が啓発されて障害のある人の抱える問題に対応するようになったのです。

(図7)
図7(図7の内容)

すべてに共通するもの

このように様々な例をご紹介いたしましたけれど、すべてに共通しているものがあります。このようなネットワークにしても事例にしても、何もないところから生まれてきたわけではないのです。モビリティ・インディアやカンボジアの団体のようなNGOが触媒の働きをしたからなのです。触媒の役割を担って様々なグループを動かし、まとめたのです。もしくは、中国の場合のように政府の指示によってネットワーク作りと調整が行われたというところもあります。いずれにせよ、このネットワーク作りを確実に効果的に進ませるための何らかのメカニズムがあったのです。

インクルーシブ開発は何かという事に戻りますと、インクルーシブ開発とは「誰ひとり排除されてはならない」ということに尽きます。すべての人を含めなければならないという事は、つまり、すべての関係者当事者と一緒に歩いて行かなければならないという事です。常に覚えておきたいのは、インクルーシブ開発を成功させたいのであれば、私たちは共に歩き、共に働くことが必要になるということです。「一緒に歩きましょう」ということわざをもう一度思い起こしましょう。

ありがとうございます。

司会 それでは皆さん、マヤ・トーマスさんに盛大な拍手をもう一度よろしくお願いいたします。

それではここで休憩に入らせていただきます。15分、休憩をいただきますが、その間に次のワークショップの準備をさせていただきます。皆さん、各テーブルに模造紙を1枚敷かせていただきまして、そこで活動していただくようになりますので、ご協力よろしくお願いいたします。資料については、草の根ささえあいプロジェクトというものが1部と、事例のほうが1部となりますので、もしお手元にない方がいらっしゃったらおっしゃってください。