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CBRガイドライン概要版&CBRマトリックス使用の手引き

【補足】

イントロダクション

CBRプログラムはこれまで、精神保健問題、HIV/AIDS、ハンセン病、人道的危機といった分野を見落としがちであった。しかし、CBRとは地域に根ざしたインクルーシブ開発の戦略であるので、これまで見落としてきた、精神保健問題、HIV/AIDS、ハンセン病、人道的危機といった分野にも段階を経ながら取り組むことは重要である。

将来のCBRガイドラインでは、CBRと子ども、CBRと高齢化などそれぞれの地域に関係のある、より幅広い他の分野についても考察される必要がある。

CBRと精神保健

イントロダクション

精神保健は全般的健康の不可分な一部であり、個人、家族、コミュニティ、社会のウェルビーイングや機能に欠かすことができない。

精神保健は開発課題や社会一般にとって優先度が低く、低所得国では特に、精神障害のある人のサポートや保健サービスへのアクセスは限られている。CBRは精神障害のある人たちのために成果をもたらすことができる。

目標

精神障害のある人のインクルージョンと参加が地域生活のあらゆる面で可能となる。

CBRの役割

精神障害のある人の権利を促進・擁護し、リカバリーを支援し、家族および地域への参加とインクルージョンを促すことである。

望ましい成果

  • 精神保健がすべての地域住民によって、価値あるもの、地域開発に必要なことと認識される。
  • 精神障害のある人がCBRプログラムに含まれる。
  • 精神障害のある人について、スティグマや差別が減少し、コミュニティの認識が高まる。
  • 精神障害のある人が、医療的、心理的、社会的、経済的介入を利用できるようになる。
  • 家族が感情的及び実際的支援を受ける。
  • 精神障害のある人のエンパワメントとインクルージョンが進み、家庭とコミュニティの生活に参加できる。

主要概念

精神保健と地域開発

精神障害は貧困の原因にも結果にもなりうる。貧困にあえぐ人々とコミュニティは、環境的・心理的ストレスにより精神障害リスクが増大している。一方、精神障害のある人は、教育、雇用、住居とインクルージョンへの障壁に遭遇しがちで、貧困に直面している。

地域開発プログラムは貧困を緩和することで、精神保健の促進と精神障害の予防に貢献するだろう。地域開発としてのCBRはすべての地域住民の精神保健を考慮に入れなくてはならない。

精神障害についてのよくある神話

  • 精神障害はよくあることではない。
    精神障害はすべての年齢、宗教、国、コミュニティでみられ、推定4億5千万人が精神障害をもつ。
  • 精神障害のある人は暴力的で他の人の安全を脅かす。
    大多数の精神障害のある人は暴力的ではない。
  • 精神障害は治療が難しく、よくならない。
    精神障害に効果的な介入は多く、これらによって、回復や症状のコントロールが可能である。
  • 精神障害は性格の弱さからもたらされる。
    精神障害は生物学的、心理学的、社会的要因の産物である。

スティグマと差別

精神障害のある人はしばしば、スティグマや差別を病気や障害そのものより悪いと表現する。

精神障害のある人とその家族は自分たちの中に社会的スティグマを取り込むことでセルフスティグマを来す。

スティグマによる差別を理由として、多くの人が精神障害を隠し、助けを求めようとしない。

人権

多くの国で精神障害のある人たちは日常的に人権侵害を被っている。医療機関での不適切な扱いや社会での暴力に遭遇するだけでなく、市民としての自由や教育、雇用機会、住宅利用も限られる。

精神障害のある人たちの人権のために国の政策や法律が必要とされる。一方で、すべてのコミュニティは精神障害のある人たちの生活と福祉の保護・推進・改善に取り組むことができる。

保健

精神障害のために

精神障害のある人のリカバリーを促進するための医療的介入はいくつも存在する。

また多くの文化で、精神保健の概念には、宗教、スピリチュアルなことや超自然現象への信仰が含まれる。文化感受性のあるヘルスケア・アプローチには、地域的な治療の伝統の考慮、経験の交流、相互理解の発展が必要である。

低・中所得国では精神保健医療の提供は大変限定される。提供があっても費用が高額で利用は難しい。また、精神保健医療の内容がしばしば不適切であり、多くの国で人権侵害が報告されている。

一般的医療

精神障害のある人は一般の人よりも身体的な病気になる率が高い。その理由には、薬の副作用など精神障害特有の問題、喫煙や運動不足等の健康に関する行動、保健システムがあげられる。

世界的に精神障害のある人たちの医療アクセスは制限されており、結果、健康リスクと健康問題の増大につながっている。

リカバリー

リカバリーとは治癒を超えたものであり、生活機能のあらゆる側面を含む。つまり、人生の謳歌、夢や目標の追求、価値ある人間関係の醸成、症状や後退があるにせよ、精神障害に対処する方法の学習、再発の減少、症状の軽快、病院の外での生活、就職などである。

精神保健に関する特定の課題

子どもと青年

大人と同様に、子どもと青年も精神障害を経験する。子どもと青年の精神保健に関心が注がれないと、人生の長きにわたり影響を及ぼすことになる。

ただし、この時期の精神障害に取り組むことは重要であるが、通常の生活や発達にみられる問題に精神科的ラベルをつけるものであってはならない。

ジェンダー

精神障害の発生率全体に性差はないが、特定の障害については男女の差がある。

一般的な精神障害にはジェンダーに特有の要因がある。

危機的状況

戦争やその他の大きな災害は精神障害の増大につながる。

精神障害が先在する人を含む、障害のある人には、危機的状況に続いて心理社会的問題の起きるリスクが高い。危機的状況でCBRプログラムは精神障害のある人に焦点を当てることが重要である。

推奨される活動

精神保健の促進

  • 精神障害のある人たちを含むすべての人にとってインクルーシブな環境を作り出す。
  • 薬物依存、性差別、暴力を防止するコミュニティ・ネットワークを強化し、共同責任を奨励する。
  • 精神保健や福祉にかかわるその他の関係者とのパートナーシップを構築する。
  • 児童発達のため、保護者とその子どもが良い相互作用を促進する。
  • 薬物乱用や暴力を防止し、学生の社会的・感情的能力を強化する、学校での活動を推進する。
  • 精神障害のある人の否定的なイメージを変えるようメディアと協働する。

CBRプログラムにおけるインクルージョンの促進

  • CBRワーカーが精神保健に関する研修を受け、精神障害のある人たちのインクルージョンと支援に前向きな態度を持つ。
  • CBRプログラムの計画、実施、モニタリングに精神障害のある人とその家族に参加してもらう。
  • 基本的ニーズの充足について、精神障害のある人やその家族と連携し障壁と解決策を明確化する。
  • CBRの人材研修でリソースパーソンとなる精神保健分野の人材、精神保健サービスユーザーやその家族を明らかにする。

地域におけるスティグマと差別の克服

  • CBRワーカーがいつでも尊厳と尊重に配慮して人々に接することを確実にする。
  • 精神保健について前向きなメッセージとイメージを伝えることで、地域のキーパーソンを見出す。
  • 見出したキーパーソンにコンタクトをとり、地域内の精神障害に関する情報を伝える。
  • キーパーソンが精神障害についての鍵となるメッセージを伝える方法を話し合う。
  • 精神障害のある人と接触する機会があり、かつ否定的態度をとりがちな地域住民を確認する。
  • 地域住民に教育や研修を提供し、精神障害に関する迷信を排し、有効な介入の存在に気づかせる。
  • 人権を推進し、地域内で起こった精神障害のある人とその家族への差別に取り組む。

リカバリーのプロセスへの支援

リカバリーのプロセスは包括的であり、医学的、心理的、社会経済的介入の連携を必要とする。

医療の利用の促進

  • 専門的な精神保健ケアの既存の仕組み、場所、人員と資源を確認する。
  • 精神保健サービス機関を訪ね、よい関係性を構築する。
  • 地域の伝統的治療師と宗教指導者のリストを訪問し相互理解と尊重を発展させる。
  • CBRとプライマリーヘルスケア従事者による精神保健の専門家への照会を保証する。
  • 精神障害のある人とその家族が向精神薬の副作用について理解していることを確認する。
  • 保健医療スタッフと伝統的治療師の連携を推進する。
  • 精神障害のある人たちのプライマリーヘルスケアシステムを通した一般医療の利用を支援する。
  • 地域精神保健プログラムが存在するところでは、パートナーシップを構築し連携を推進する。

心理的支援の利用の促進

  • 基本的な心理ケアについてCBRやプライマリーヘルスケア従事者向けのトレーニングを提供する。
  • 精神障害のある人やその家族との間に良い関係を築く。
  • 問題解決、ストレス管理、対処技能の発達を支援しながら、精神障害のある人たちと密に働く。
  • 伝統的治療師やスピリチュアルリーダーが提供できる心理的介入とその最善の利用方法を見出す。
  • 精神障害のある人やその家族の自助グループを設立し、相互協力とエンパワメントを推進する。

社会的支援の利用の促進

  • 地域で利用可能な関連社会的サービスを確認する。
  • 精神障害のある人やその家族とともに、社会的ニーズを確認し、解決の計画を立てる。
  • 精神障害のある人が権利を主張できるよう家族とともに取り組み、基本的ニーズを満たす。
  • 精神障害のある人が毎日の家庭での活動に加わる方法を家族に提案する。
  • 親戚や友人との付き合いを続け、必要な場合は関係性を再構築できるよう精神障害のある人とその家族を励ます。
  • コミュニティで精神障害のある人とその家族が参加できる活動を見出す。
  • 社会的支援ネットワークを持たない路上生活者と定期的なコンタクトをとる。
  • 精神障害のある人のニーズを満たすために異なる開発分野とのパートナーシップを育てる。
  • 費用面で医療の利用が困難である場合にはそれを克服する方法を探す。

生計機会へのアクセスの促進

  • 所得創出に焦点を当てた地域内の開発の取組が精神障害のある人を含んだものとなるようにする。
  • 精神障害のある人が地域で利用可能な生計機会が他にもないか確認する。
  • 労働環境の必要な調整のため雇用主に働きかける。
  • 国の関連法律を参照し、障害のある人のための法的義務を雇用主に伝える。

家族を支援する

  • 家族に、精神障害と対処方法の情報を提供する。
  • 他の家族や地域住民とケア負担を分担し、ケアする家族がバーンアウトしないよう支援する。
  • 経験を他の人と共有するため、自助グループに入ることを家族に勧める。

エンパワメントのプロセスへの貢献

  • CBRワーカーが精神障害のある人とその家族に敬意を払うことを確実にする。
  • 精神障害のある人やその家族が個人的な知識や技術を持っていることを認識する。
  • 精神障害のある人やその家族が不要なレッテルを貼ることなく、精神障害関連情報を提供する。
  • 説明に基づいた決定を可能とするため、精神障害のある人に地域で利用可能な治療と支援の選択肢を認識してもらう。
  • 精神障害のある人とその家族を自助グループにつなぐ。
  • 利用しやすくい地域精神保健サービスの開発を自助グループが提唱するよう推奨し支援する。
  • 精神障害のある人たちが権利を行使できるよう、地方レベルや国レベルの法制に取り組む。

CBRとHIV/AIDS

イントロダクション

世界で最もHIV/エイズの危険にさらされているグループの一つが障害のある人たちであることは余り知られていない。障害とHIV/エイズはこれまで多くのCBRプログラムで見過ごされてきた。しかし、インクルーシブ開発をめざすCBRは、HIV/エイズ対策における障害の問題について、効果的に人々の関心を集めることができる。また、CBRは今後障害を経験するかもしれないHIV陽性者の機会均等やインクルージョンについても支援できる。

目標

すべての人がHIV/エイズの予防、治療、ケアや支援プログラムにアクセスでき、全ての人が障害のある人のためのサービスにアクセスできる。

CBRの役割

(i)障害のある人とその家族が地域のHIV/エイズ関連のサービスやプログラムに関する情報を入手できる。

(ii)障害のある人とその家族がHIV/エイズ関連のサービスやプログラムを利用することができる。

(iii)一時的または恒久的な障害を持ちながらHIVとともに生きる人をCBRプログラムに取りこむ。

期待される成果

  • 障害のある人が一般のHIV/エイズ対策プログラムとサービスにアクセスできる。
  • HIV/エイズによる障害のある人がCBRに参加する。
  • HIV/エイズと障害問題に関わる人たちがそれぞれについて理解する。
  • 障害とHIV/エイズそれぞれの関係当事者間にネットワークが構築される。
  • 開発プロジェクトの主要な分野にHIVとともに生きる人々が参加する。
  • CBRワーカーのHIV感染リスクを下げ、HIVとともに生きる職員に必要な支援を提供する。
  • 国家レベルのHIV/エイズ政策に障害のある人が参加する。

主要概念

HIV/エイズ

HIVはエイズを引き起こすウイルスである。感染者の血液や体液に直接触れたときに感染がおこる。エイズはHIV感染の最期のステージである。すべてのHIV陽性者がエイズを発症しているわけではなく、発症まで長い時間がかかる場合もある。現在は抗レトロウィルス療法でHIVの進行を遅らせることができるが、完治はできない。予防が最善かつ唯一の対処法である。

HIVとともに生きる人々と障害

HIVとともに生きる人の多くが障害を経験している。抗レトロウィルス療法によって余命は伸びたが、一方でそれは慢性的な症状を抱えながら病とともに生きることを意味する。

HIVとともに生きる人々は一過性または慢性のさまざまな障害を経験する可能性がある。また、偏見や差別も経験している。

障害のある人とHIV/エイズ

セクシュアリティ

障害のある人にとってもセクシュアリティは現実的で無視できない問題である。障害のある人は性とは無関係と考えられがちである。しかしこれは全くの誤解で、障害のある人の多くは障害のない人と同じように性的活動を行っており、それゆえHIV感染リスクも同様にある。

リスク要因

障害のある人は以下のHIV感染リスク要因をほとんど満たしており、障害のない人と比べリスクが高い。

識字率

HIVに関するメッセージを理解し、感染リスクのある行動を変える上で、識字は重要である。

HIVについての認識と知識

障害のある人は性の知識もエイズの情報も乏しい。これは、障害のある人のセクシュアリティへの社会の誤解と、エイズの情報が万人にアクセスできる形で普及されていないことに起因する。

HIV感染リスクの高い行動

障害のある青少年の中には、社会への受容と参加を得る代わりにセックスを強要される者も多く、その場合は安全な方法を選ぶことができない。

性的虐待

障害のある人は障害のない人よりも性的虐待やレイプの被害者になる危険性が高く、そのためHIV感染リスクも高い。

HIV/エイズの予防、治療、ケアとサポートに対する障壁

政策

多くの政治家は時間や労働や資源を障害のない人のために優先的に使おうとする。HIV/エイズへのサービスや支援が限られる場合、障害のある人が後回しになってしまうこともよくある。

環境やコミュニケーション上のバリア

エイズ対策サービスではしばしば、障害のある人にとって物理的にアクセスしづらかったり、手話や点字、オーディオや易しい表現による説明がなかったりする。

保健スタッフのネガティブな態度や誤った知識

障害のある人の多くがセックスやリプロダクティブ・ヘルスの情報を入手しようとして馬鹿にされたり無視されたりした経験を持つ。HIV検査に行っても、障害のある人がHIVに感染するわけがないという誤解を持った保健スタッフが受け入れを拒否するケースも多い。

健康を求める行動

障害のある人がHIV/エイズサービスを利用しない理由はたくさんある。保健スタッフの否定的な態度のために性に関する相談を躊躇したり、HIV/エイズへの偏見のために検査をためらったり、家族や友人に知られることを恐れ保健センターへ行くのを嫌がったりする。

HIV/エイズの家族へのインパクト

家族にHIV陽性者がいることは障害のある人にも影響を与える。障害のある人は家族がHIVに感染することで注意を払われなくなる可能性がある。

障害のある人にも届くプログラムへ

障害のある人がHIV/エイズ対策プログラムやサービスに参加できるようにする

CBRプログラムや障害当事者団体、HIV/エイズ問題提唱者、教育者、政策策定者らが、障害のある人のHIV対策プログラム参加のためにできることは多い。そのポイントは以下の通りである。

  • 市民向けのHIV/エイズ対策プログラムやサービスに障害のある人が参加できるよう手助けする。
  • 主要なHIV/エイズ対策プログラムやサービスを障害のある人にも利用しやすいよう調整する。
  • 障害に特化したHIV/エイズ対策プログラムやサービスを計画・実行する。

リハビリテーション

HIV/エイズのために障害のある人にとってリハビリテーションは重要である。HIVとともに生きる人が抱える機能障害に対し、CBRは地域レベルで重要な役割を果たす。

推奨される活動

HIV予防、治療、ケアと支援

  • 障害のある人とその家族が地域のHIV/エイズ対策プログラムやサービスに気付き、それに参加する権利があるという認識を持つよう手助けする。
  • HIV/エイズ対策プログラムやサービスが物理的にアクセス可能なものにする。
  • 啓発ポスターや広告等に障害のない人と共に車いすユーザーや視覚障害のある人を載せる。
  • 障害者団体と協働し、HIV/エイズ対策プログラムやサービスが障害のある人にとって理解しやすいものになるよう助言する。
  • HIV感染リスクのある障害者にHIV/エイズの情報や教材を提供する。
  • 既存のHIV/エイズ教材を障害のある人にとってもアクセスしやすいものにする。
  • 障害者団体と協働し、主要なHIV/エイズ対策プログラムやサービスが届かない人々に新しいプログラムを計画する。
  • 主要なサービスを利用するために必要な実質的支援を通じてアクセスを向上する。
  • 障害のある人とその家族がHIV陽性と診断された後、適切にフォローアップできる体制を整える。

HIVとともに生きる人々も参加できるCBRプログラムへ

能力強化

  • 地域でのHIVや障害に関する意志決定について女性の役割を強化するための活動を支援する。
  • 障害やHIVとともに生きる人を支援する人々が必要な研修や支援を受けられるようにする。
  • CBRプログラムにおいてHIV/エイズと関連ある問題が理解・対応されるよう支援し、必要があればCBRワーカーに追加研修を提供する。
  • 障害者団体を巻き込み、障害のある人がHIV/エイズ活動に参加できるようにする。
  • 障害者団体と協働し、HIV/エイズエデュケーターやアウトリーチ・ワーカー、保健スタッフに障害に関する研修を行う。
  • 地域のリーダーや宗教指導者に障害とHIV/エイズに関する教育を行い、障害やHIVとともに生きる人々への否定的態度に対応し、社会参加が可能となるよう働きかける。
  • 警察官や弁護士、裁判官など法律関係者に、障害やHIV/エイズ問題、障害のある人々の安全な暮らしや人権保護の必要性を理解してもらう。

ネットワークとパートナーシップの構築

障害とHIV/エイズには深いつながりがあり、両分野の関係者の間にはネットワークとパートナーシップの構築が必要である。CBRプログラムは以下のような行動を取るべきである。

  • HIV/エイズに関する地域のイベントや会合に参加し、障害に関する考慮を促す。また、CBRプログラムはHIV/エイズ関係者をイベントやミーティングに招待する。
  • 障害当事者団体と協働し、障害のある人にHIV/エイズ情報や教育を提供できるよう地域レベルの戦略を立てる。また、必要があれば地域のHIV/エイズワーカーに障害に関する研修を提供する。
  • 障害に関する教育や研修を通じ、障害やリハビリテーションの知識をHIV/エイズ関係者と共有し、リハビリテーションの利点や障害のある人のHIV感染リスクについて認識向上を図る。
  • HIV/エイズ分野の専門知識やスキルをCBRプログラムや障害者団体と共有し、CBRワーカーや受益者のニーズに応える。
  • CBRプログラムとHIV/エイズプログラムの間にリファラルシステムを構築する。

セクター横断的なアプローチを奨励する

障害もHIV/エイズも開発問題である。それゆえ、障害とHIV/エイズの両方に対応する場合、CBRプログラムはセクター横断的に計画されるべきである。

  • セクター横断的に存在する、障害とHIV/エイズに関する地域の偏見差別に対応する。
  • 障害のある人が性教育も含めた教育を受ける権利を向上しアクセス可能な環境を実現する。
  • 障害のある人やHIVとともに生きる人、そしてその家族が生計向上活動に参加できるようにする。
  • 障害のある人やHIVとともに生きる人が政府や非公式の社会保護スキームにアクセス可能にする。
  • 障害のある人が性的虐待を回避し対処するプログラムや仕組みにアクセスできるようにする。

職場におけるHIV/エイズ対策の実施

CBRプログラムは、職場において下記のような対策を設定する必要がある。

  • CBRワーカーがHIVに感染するリスクを最小限に抑える。
  • HIVとともに生きるCBRワーカーや家族にHIV陽性者のいるCBRワーカーに適切な支援を行う。
  • 職場にHIV/エイズに対する差別や偏見がある場合は撤廃する。
  • HIV/エイズ対策では、HIVとともに生きる人々の権利を守り、研修によって予防を行う。

インクルーシブな国家政策とプログラム作りを奨励する

政府のHIV/エイズ対策プログラムでは、障害のある人が蚊帳の外に置かれてしまうことが多いため、CBRプログラムがさまざまなグループと協力してロビー活動や政策提言を行う必要がある。

CBRとハンセン病

イントロダクション

ハンセン病は古くから存在する慢性感染症である。かつては非常に恐れられ、ハンセン病患者・回復者は厳しい偏見と差別に直面した。現在、ハンセン病患者・回復者の多くは家庭や故郷にとどまり、ハンセン病事業は一般保健サービスに統合されつつある。しかし有効な治療や啓発キャンペーン、一般保健サービスへのハンセン病事業の統合にもかかわらず、ハンセン病患者・回復者にとって偏見は今も重大な問題である。CBRはハンセン患者・回復者にも平等に適用できる戦略である。

目標

ハンセン病回復者の権利が認識され、生活の質を向上し平等な一員として社会参加するために現地の支援やサービスにアクセスできる。

CBRの役割

CBR活動にハンセン病回復者を、そしてハンセン病プログラムとサービスに障害のある人を参加させることである。

望ましい成果

  • CBRプログラムやその照会サービスを通し、回復者がリハビリテーションのニーズを満たせる。
  • CBRプログラム関係者を含む他の障害のある人が、ハンセン病専門のリハビリテーションセンターやプログラムによるサービスを受けられる。
  • コミュニティにおける回復者ならびにその家族に対する偏見が軽減される。
  • すべての関係者のハンセン病に関する問題や事柄に対処する技術や知識が向上される。

主要概念

ハンセン病の理解

ハンセン病とは?

ハンセン病は原因菌(mycobacterium leprae)による病気で、主に皮膚と神経に影響を及ぼす。

ハンセン病の迷信

  • ハンセン病は治らない。
    ハンセン病は多剤併用療法(multidrug therapy : MDT)により治癒する。
  • ハンセン病は伝染性が強い。
    ハンセン病が他の人に伝染することはあるが、伝染性の弱い病気である。

らい反応

ハンセン病では「らい反応」の起こることがある。これは身体がらい菌に反応し組織が損なわれる現象であるが、病気が悪化しているわけでも治療が効いていないわけでもない。らい菌は神経を侵すため、らい反応が起こっている間に神経障害の出ることが多い。

ハンセン病による機能障害

ハンセン病による神経障害は知覚障害や運動障害を引き起こす。

手足の知覚を失った人は怪我をしても痛みを感じないため治療を受けず、結果として手足を失う場合がある。手足の筋肉の衰弱や麻痺は関節硬直や変形につながる。目の筋肉の衰弱は目を閉じることの難しさから目の損傷につながり、ひいては失明を来す場合がある。

ハンセン病の影響

機能的影響

ハンセン病による機能障害のある人は日常生活が困難となる。早期診断、治療、定期検診が予防の鍵である。

社会的影響

多くの患者・回復者にとって最も切実な問題は、機能障害ではなく、偏見や社会的疎外である。病気が治った後でさえ、偏見や差別の影響を体験し続けることが多い。また、他の障害を持った女性と同様、ハンセン病患者・回復者の女性もいっそう不利な立場に置かれがちである。

経済的影響

ハンセン病は患者・回復者やその家族に経済的影響を及ぼす。機能障害や偏見・差別のため失職することがある。また、治療費が無料であっても、交通費や治療にかかる時間の損失など治療に伴うコストがかかる。

ハンセン病コロニー

治療法が確立するまで、ハンセン病にかかった人たちはハンセン病コロニーや療養所に隔離されていた。有効な治療法の確立によってコロニーの多くは閉鎖されたが、まだ存在する国もある。

回復者がコミュニティに溶け込み、自身の権利を認識し、偏見や差別をなくす支援をすることが政府やNGOには重要である。CBRはその過程で役割を担うことができる。

ハンセン病とCBR活動の統合

過去のハンセン病サービスは特化され他のサービスからは分離されていた。しかし現在、一般保健システムへの統合が最も適当なアプローチと考えられている。ハンセン病患者・回復者に特化したリハビリテーションサービスには他の障害のある人たちにも有益な技術や資源があり、他の障害のある人たちもそのサービスを受けられるよう奨励されている。同様に、ハンセン病患者・回復者にもCBR戦略は有効であり、CBRプログラムでのサービス提供が推奨されている。

推奨される活動

このガイドラインの内容の多くはハンセン病患者・回復者にも適応できる。したがってこのセクションはCBRマトリックスの他のコンポーネントと並行して読むことが薦められる。

CBRプログラムにハンセン病患者・回復者を取りこむ

CBRプログラムは、ハンセン病患者・回復者が主流の開発プログラムにアクセスできるよう、分野を越えた働きかけをしなくてはならない。ハンセン病による障害のある人の中でも女性は特に疎外と貧困に陥りやすい。そのため、CBRプログラムは女性がCBRの活動に参加し利益を得る機会を持つようにしなくてはならない。

保健

  • 患者・回復者やその家族が地域で利用可能な保健サービスにアクセスできるようにする。
  • 治療終了まで治療継続を促し、らい反応が起こったらすぐ治療を受けるよう情報を提供する。
  • 患者・回復者が定期的に集会を開く、自助グループの形成を支援する。
  • 神経障害のある人には、『地域における障害のある人の訓練(Training in the community for people with disabilities)』などの教材を参考に、手、足、目の保護手段について具体的に助言する。
  • 必要な支援機器が入手、修理、維持できるようにする。

教育

CBRプログラムでは、CBRワーカーが学校の先生や親と会ってハンセン病の啓発を行うなどによって、子ども(成人も含む)が自分たちの地域で教育を受ける機会を確保することができる。

生計

ハンセン病にかかった人の多くは非常に貧しい。偏見や差別やハンセン病による障害が就職機会を制限しており、これがまた貧困の問題を加速している。職業訓練やまっとうな仕事は、疎外、依存、貧困など障害と密接な関係のあるサイクルを打ち破るための大きな手掛かりとなる。

社会

CBRワーカーは地域における差別をなくすため、次のような役割を担うことができる。

  • 地域のリーダー、教師、宗教指導者と共にハンセン病に関する前向きなメッセージを発信する。
  • ハンセン病に関する啓発キャンペーンを計画または参加する。
  • ハンセン病患者・回復者、他の障害のある人、障害のない人が共に参加できる、スポーツや文化プログラムを企画する。

エンパワメント

ハンセン病患者・回復者は既存のサービスや資源にアクセスするため、自分たちの権利を認識し主張することが重要である。その際、組織化は有効な手段であり、世界各地で患者・回復者がグループや協会を作っている。CBRプログラムは、ハンセン病患者・回復者がそれぞれの地域の自助グループや障害当事者者団体にアクセスすることを支援できる。

ハンセン病プログラムをインクルーシブなものにするために

CBRプログラムは、他の障害のある人もハンセン病リハビリテーションプログラムのサービスを受けられるよう働きかけなくてはならない。これにより、ハンセン病への偏見が軽減し、ハンセン病サービスの主流セクターへの統合が促進され、より多くの人が既存サービスの恩恵を受けられる。

能力強化

  • CBRプログラムにハンセン病患者・回復者を取り入れるようCBRワーカーの研修/再研修を行う。
  • ハンセン病プログラムやサービスは、その職員に対しCBR戦略の研修を受けるように働きかける。
  • 現在のCBRプログラムの対象である、障害のある人たちのハンセン病に関する知識を向上する。
  • ハンセン病患者・回復者やその家族が自分たちの病気や障害を管理できるよう教育や研修を行う。
  • 地域の障害者団体がハンセン病の知識を深め、患者・回復者を平等な権利と機会を持つ会員として受容するように働きかける。

CBRと人道上の危機

イントロダクション

武力紛争、自然災害、疫病、飢餓といった人道上の危機は、地域やその他の大きな人間集団の保健、安全、治安、ウェルビーイングに影響を及ぼす。

人道上の危機は障害分野やCBRと密接な関係にある。それは、障害のある人々に影響を与える可能性があり、また災害が障害のある人を新たに生むこともあるためである。

目標

障害のある人とその家族が、防災、緊急時の対策、災害後の再建など支援活動全般に参加する。

CBRの役割

(i)障害のある人とその家族や地域に対する防災を支援する。

(ii)人道的な対応や再建活動に障害のある人が包摂されるよう保証する。

(iii)障害のある人とその家族を人道的なチャンネルを通じたサービスや支援活動に結びつける。

望ましい成果

  • 障害のある人とその家族が、人道上の危機に対して準備を怠らない。
  • 人道的活動で障害のある人とその家族の存在が認識され、ニーズに応じた支援が提供される。
  • 障害のある人の人道的支援や復興活動計画やその実施に障害のある人が包摂されている。
  • 人道上の危機のあとに再建されるインフラは障害のある人にも物理的にアクセス可能である。
  • 被災後のサービスや支援が障害のある人にアクセス可能であり、そのニーズに対応している。

主要概念

障害と人道上の危機

人道上の危機において、障害のある人は以下の要因によって最も傷つきやすい状況にある。

排除:地域や諸機関の不適切な政策や実施によって障害のある人が排除される。

啓発不足:災害や危機に関する情報が障害のある人にとってアクセシブルな情報になっていない。

社会的支援ネットワークの崩壊:障害のある人にとって大切な社会的ネットワークは災害の影響を受けることが多い。

物理的なバリア:災害時は物理的環境の変化、既存のバリアの悪化、新しいバリアの発生が起きる。

人道的活動における障害のある人のインクルージョン

障害者権利条約第11条にあるように、障害の問題はすべての人道支援で適切に対応されるべきである。大切なのは、障害のある人やその団体が受身的に参加するのではなく、人道的活動にパートナーとして参加することである。

クラスターアプローチ

クラスターアプローチは分野別に分かれている人道援助において、それぞれの役割と責任を明確に定義し、分野内及び分野間のコーディネーションを強化することである。国際的には11のクラスターが存在し、それぞれのクラスターは一つの機関の指揮下にある。

人道上の危機ではこれらクラスターの一部または全部が活動する可能性がある。各クラスターは、以下が可能となるようインクルーシブで効率的な調整を必要とする。

  • ニーズアセスメントと分析
  • 緊急時に対する備え
  • 計画と戦略の策定
  • 基準の採用
  • モニタリングと報告
  • アドボカシーとリソース集め
  • 訓練とキャパシティーの構築

人道上の危機においてCBRプログラムを提供するには個々のクラスターとの協力が必要である。

災害の緊急支援から長期的な開発への移行

障害は長期的な開発課題であるので、外部団体が立ち去った後も長期的な開発を継続できるような地域のキャパシティー構築が重要である。

推奨される活動

災害への準備活動

  • 障害のある人を準備活動に組み込むことの重要性について啓発する。
  • 障害のある人を対象に、地域の災害準備計画の理解や準備活動への参加を促す。
  • 事前に地域内の障害のある人の所在や災害時に必要な支援を確認し登録する。
  • 災害に備えて上記のデータベースを異なった場所に保存する。
  • 障害のある人たちに地域で行われる災害準備の情報を流し、避難訓練への参加を促す。
  • 防災・減災対策が障害のある人にもアクセシブルになるよう関係当事者に助言する。
  • 障害のある人やその家族が家庭でも十分な事前対策をするよう促す。

緊急支援を障害のある人にインクルーシブなものにする

地域の現状を把握する

  • 障害のある人のデータベースを更新し、緊急支援関係者の手に届くようにする。
  • 災害以前に地域に存在していたサービスが利用可能かどうか見極める。

新しい人道的緊急援助関係者との協力体制を構築する

  • 地域に入ってきた新しい人道的援助関係者を見つけて知り合っておく。
  • これら関係者の役割と責任、どのような援助や資源を提供できるのかを見極めておく。
  • 現場の状況と障害のある人に的を絞った情報を提供する。
  • 人道的緊急援助関係者が地域の、特に障害のある人のニーズを見つけ出し分析するのを支援する。
  • 人道的緊急援助関係者にCBRプログラムのキャパシティーに関する情報を提供する。
  • 障害のある人とサービスや支援をつなぐための紹介メカニズムを作る。
  • 緊急支援関係者とCBR活動の可能性について話し合い、適切なクラスターを通してリソースにアクセスしてもらうための要請書を提出する。

障害のある人とその家族たちに情報が届いていることを確認する

  • 障害のある人を訪問し、現状を把握し,最新の情報を得ていることを確認する。
  • アクセシブルな情報提供の場を設け、障害のある人とその家族が利用可能な支援情報を提供する。
  • 障害のある人自身が重要な情報やメッセージの発信、伝達に参加できるよう保証する。
  • すべての情報や伝達手段がアクセシブルであるよう保証する。

特定のクラスターに関連する推奨される活動

保健クラスター

  • どの人たちが保健サービスを必要とするのか優先順位をつけ、適切なサービスを紹介する。
  • 障害のある人が介助者を必要とする際は、介助者を医療サービス機関へ同行させる。
  • 紛失・故障した支援機器を取り替え、新たに怪我や障害を負った人に新たな機器を提供する。
  • 怪我人や障害のある人に補充、基本的ケア、リハビリを提供する。

栄養と資材調達クラスター

  • 食料の配給が障害のある人の手に届くようにボランティアを配置する。
  • 食料配給が障害のある人の手に届くための助言や支援を人道支援関係者に提供する。
  • 特別なニーズのある、障害のある人に合った食料が配給されるよう配慮する。

避難所と非食料物資クラスター

  • 一時避難所が障害のある人にもアクセスできるよう人道支援関係者に助言や支援を提供する。
  • 障害のある人が食料以外の物資にアクセスできるよう人道支援関係者に助言と支援を提供する。

WASH(水と衛生)クラスター

  • 仮設トイレが障害のある人に適したものであるよう人道支援関係者に助言と支援を提供する。
  • 水の供給が障害のある人にアクセシブルであるよう人道支援関係者に助言と支援を提供する。
  • 障害のある人やその家族に、いつどこで水や汚物処理施設が提供されるかの情報を提供する。
  • 水や衛生に関わる疾病予防についての情報をアクセシブルな形で提供する。

教育クラスター

  • 教育活動が障害児にとってインクルーシブなものであることを保証する。
  • 教師や支援活動のリーダーが障害児を活動に組み込むように支援する。

保護活動クラスター

  • 人道支援関係者を対象に障害と保護に関する問題への認識を向上する。
  • 一時避難所で障害のある人の安全を最大化するよう助言や支援を提供する。
  • 子どもの居場所やその他の保護策を明確にし、障害のある子どものインクルージョンを促進する。
  • 障害のある人同士の助け合いや障害のある人の自助団体を育成する。
  • 心理社会的支援の提供の有無を確認し、かつインクルーシブでアクセシブルなものにする。

早期復興・農業・保護クラスター

被災者がなるべく早く自立して生計をたてられるよう適切な器具や資本を提供する。

復興期における生活の質の回復・改善のために障害のある人を支援する

復興期のインクルーシブな地域の「再建」のため、CBRプログラムは以下の活動に取り組む。

  • 被災地域関係者を継続的に啓蒙し、障害のある人やその家族のニーズに関しての認識を向上する。
  • 再建関係者にアクセシビリティに関する情報やリソースを提供する。
  • 教育セクターと協力し、障害のある児童が学校に戻れるようにする。
  • 障害のある人やその家族が以前の、または新しい生計活動に就けるよう関係者と協力し支援する。
  • 障害のある人やその家族の人間関係の再建や地域活動への参加を関係者と協力し支援する。
  • 被災経験のある障害のある人による自助団体を支援する。