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第3部 ユネスコの宣言・声明ならびに、国連総会決議案への各国の対応

I ユネスコによる障害をもつ子どもの教育に関する国際会議と宣言・声明

中野善達 編
エンパワメント研究所


1.「教育・予防・統合のための行動・方略に関する世界会議」(1981年)とサンドバーグ宣言

世界会議

国際障害者年の1981年、11月2日から7日にかけ、スペインのトレモリノス(Torremolinos)でユネスコとスペイン政府による国際会議「教育・予防・統合のための行動・方略に関する世界会議(World Conference on Actions and Strategies for Education, Prevention and Integration)」が開催された。これは1980年、ユーゴのベオグラードで開かれたユネスコ第21回総会で決定されたもので、国際障害者年に関する決議7/08で、国際障害者年の一部として、ユネスコと協力し、スペイン政府が組織することになったのである。この国際会議は次の3つの目的をもっていた。①障害児・成人の教育の現状をレビューし、今後の見通しを明らかにする。ニーズに相応しい教育が推進されるべきであり、今後の取り組みに結論を出す。②予防の教育的側面について、専門機関や国際的・国内的取り組みの方向性を明確化する。③総合的アプローチを基にし、リハビリテーションと社会への統合の方法を明らかにする。
スペインが開催を引き受けたのは、この総会で事務次長にスペインの Federico Mayor が選出されたことと関連するようである。Mayor は生化学者で、国会議員、文部次官、文部大臣を歴任した人物であり、1987年、ユネスコの第7代事務局長となった{1)}。
会場のトレモリノス市議会センターには、103か国、6国際組織、4地域組織、17国際組織・非政府組織の代表者が参集し、盛会であった。わが国からは文部省に依頼され、細村迪夫氏(群馬大学教授)が参加した。会議の議長には Federico Mayor が推され、副議長にヨルダン、アルゼンチン、中国、コンゴの各代表が選出された。開会にあたり、次のような挨拶があった。スペイン女王陛下:国際的に結束し、連帯責任で緊急な課題である障害児・者の問題に取り組み、障害児・者に人としての尊厳をもった、基本的権利を享受できる生活を保障すべきである。国際障害者年のための国連事務総長特別代理 Leticia Shahani:国際障害者年のため、127の加盟各国が国内委員会を設置した。すでに50の国家プランや計画が発表され、1980年から1981年にかけ5つの地域会合が開かれ、活発な活動が展開されている。この会議の成功を祈念する。ユネスコ事務局長 Amadou-Mahtar M'Bow:障害の原因、予防、リハビリテーション、それらにおける教育の役割を明らかにすることは重要な課題であり、障害児・者の教育のあるべき姿が確立されることを期待したい。続いて英国の Peter Mittler が精神障害者の問題を報告し、さらに、世界盲人連盟、世界聾連盟、リハビリテーション・インターナショナル、国際脳性まひ協会の各代表による報告がなされた。
会議に先立ち、ユネスコ事務局による報告が加盟各国に送られていた。その骨子は以下のようである。
1)世界中の障害者の状況に関するアセスメントに寄与する数量的・質的データの掲示。障害の明確な定義を樹立することの重要性が強調された。
2)さまざまなハンディキャップを生み出す要因について記述。全人類に共通するものに加え、とりわけ低開発国の悲惨な状況が強調された。
3)さまざまな方略(ストラテジー)の構成要因を記述。いまや、障害者の問題は博愛の問題ではなく、権利の問題であり、障害者が教育を受け、働き、通常の生活条件を有する権利が確立されることが必要。また、障害予防の恒久的重要性の強調。
4)通常の教育システム内での障害児の統合に関し、制度的・方法論的検討の必要性が提起された。社会的・職業的な障害者の統合に関する方法の討議。
5)国際的行動。

以上に関し、さまざまな国からの報告を要請していた。
会議では、3つの委員会と各小委員会がもたれた。委員会I:障害者のニーズに合致させる教育の現状と今後への寄与。委員会II:予防とリハビリテーション-教育への関係。委員会III:方略の方向づけと国家政策に対する含意。
提出された報告は、「すべての障害児への教育:期待と障壁」(アメリカ合衆国)、「障害者教育-両親の参加」(ベルギー)、「統合:可能性と限界」(フランス)、「児童期の障害:地域社会での早期発見と早期対応」(ユニセフ)、「今後の世界的行動の優先事項と選択」(ポーランド)、「人材養成:誰を、何に、どのように」(英国)、「リハビリテーション-社会的・経済的含意」(国連・国際障害者年事務局)など23であった。さらに、65の追加報告が出された。日本は委員会Iに関連した、「日本における特殊教育の現状」を追加報告した。
委員会と小委員会における報告と討議の結果、教育と養成・訓練、統合、リハビリテーションに関しては、次のような結論と示唆が導き出された。
1)教育と養成・訓練
①障害の程度と関わりなく、すべての子どもの教育を受ける権利が確認されなければならない。この過程で、人種や他の少数者集団のことが配慮されなければならない。②障害児は身体的観点、社会的観点や指導上の観点から、可能な限り最も制約の少ない環境で教育されなければならない。特定のニーズに応じたサービスを提供するため、柔軟な対応が不可欠となる。③教育とケアのための、適切で個別化されたプログラムへのニーズと権利が認識されなければならない。④障害者に、広範で質の高いカリキュラムを提供するよう、特別な注意が払われなければならない。これは必要に応じ、両親、専門補助職の人たち、仲間グループなどが使用するさいに調整されるのが肝要である。⑤教育計画には、理想的には早期発見・診断・早期対応、補助具使用なども含むべきである。また、必要なさいは、リソース要員の助けを受け、仕事と自立生活の世界への準備も含むべきであろう。すなわち、生涯教育の機会が提供されるべきである。⑥新しい教育モデルの開発、とりわけ農村地帯や人口の少ない地域で使用するためのモデルの開発が緊急である。⑦教育過程のあらゆるレベルで、両親 の関与が重要である。両親は障害児に可能な限り通常の家庭環境を提供するための、必要な支援を与えられるべきである。⑧人材養成・訓練のさい、障害児と通常の子どもとに共通な特性に焦点があてられるべきである。障害児のニーズへの感受性を高め、学校や地域社会における彼らの状態に積極的な態度をとるべきである。⑨人材養成は、とりわけ開発途上国にあっては優先度の高い、重要な課題である。⑩加盟各国における全般的な経済発展のレベルを維持していくには、上記原則に従い、資源が動員されなければならない。⑪諸専門間および諸機関間の最大限の協力が必要とされる。
2)統合
①統合の規準は、障害の性質や程度に基づくものであってはならず、あくまでも個別のアセスメントと、学校で必要な支援サービスの利用可能性という観点に基づくべきである。②統合が成功する前提条件の一つは、通常の教師と特殊教育教師双方に対し、適切な教育養成をおこなうこと。その際、両グループの養成は、相互に密接な連携の上で遂行されるべきである。教員養成計画の中に、統合教育の原則が反映される必要がある。③統合は、システム開発の一つとみなされなければならない。教育面からみて、これは単に特定の生徒を通常の学校内に入れるといった問題ではない。もしも通常の学校システムが、通常の学校から排除したり拒否してきた生徒に、適切でしかも満足される教育をおこなおうとするのであれば、多くの変化が必要とされよう(態度、カリキュラム、リソースなど)。統合が成功するためには、さまざまな生徒を受け入れ、カリキュラム開発をおこなうこと、指導を個別化すること、競争原理に支配されない精神的風土の促進などが必要となる。④統合への第一歩として、教員養成・研修の改革といった変化が、実施過程でなされる必要がある。教員研修にお ける重要な要素は、すべての生徒の特別なニーズに満足を与える、通常の学校に基礎を置いたものであるべきである。
3)リハビリテーション
①国内レベルの問題として優先度の高いものは、障害者がその中で積極的役割を果たす、ダイナミックで楽観的精神を拠り所とするリハビリテーション、職業訓練と適職が挙げられるが、そこでは障害者自身が統合された一部であるべきである。②多くの障害者が、とりわけ開発途上国では農村地帯で生活しているので、リハビリテーションでは、これらの地域で職業訓練サービスを提供すべきである。③ディスアビリティに目を向けたアプローチではなく、アビリティに基づいたアプローチを採択することが肝要である。④プライマリー・ヘルスケアにリハビリテーション計画を統合する観点が重要である。⑤障害者はもはや厚生省の責任下にあるのではなく、教育、文化、スポーツ、レクリエーションへのアクセスを促進するのに必要な法整備をおこなっていくべきである。⑥開発途上国の障害者に優先的働きかけをおこなっていく必要がある{2)}。11月7日、閉会前に採択されたサンドバーグ宣言(Sundberg Declaration)は、会議初日に選ばれた委員たちによって練り上げられたものであった。委員長は Esko Kosunen(フィンランド)、あとブラジル、アメリカ合衆国、ハンガリー、タンザニア、イラクの各代表が委員である。この宣言は、「国際人権研究(International Studies in Human Rights)」第40巻、Degener, T. and Koster-Dreese, Y. (eds.)「人権と障害者(Human Rights and Disabled Persons)」Martinus Nijhoff Publishers, 1995{3)}でも、「教育における差別を禁止する条約(Convention against Discrimination in Education)、1960年」、「万人のための教育に関する世界宣言(World Declaration on Education for All)、1990年」と共に、障害者の人権に関するユネスコ3文書の一つとして掲載されている。この宣言は全16条からなり、障害者の社会生活への完全参加と統合教育を基本とし、かなり具体的に進むべき途や方法を提示している。しかし、統合教育を基本方針としていないわが国では、この宣言のことはほとんど知られもしなかったし、教育行政面でも顧慮はなされなかったようである。
なお、会議参加国・組織、参加人数に関しては、1994年の世界会議の場合と一緒の表に示すことにした。(358-359頁)

国際障害者年
サンドバーグ宣言{*1}

ユネスコと協力し、スペイン政府によって組織され、1981年11月2日から7日まで、スペイン、マラガのトレモリノスで開催された「教育、予防および統合のための行動と方略に関する世界会議(World Conference on Actions and Strategies for Education, Prevention and Integration)」{1)}は、
国連による「世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)」および他の関連文書、とりわけ「児童権利宣言(Declaration of the Rights of the Child)」、「障害者の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of the Disabled Persons)」および「精神遅滞者の権利に関する宣言(Declaration on the Rights of the Mentally Retarded Persons)」に留意し、
この会議の結論や示唆、「国連・国際障害者年諮問委員会(United Nations Advisory Committee of the International Year of Disabled Persons)」の長期行動プランに示唆を与える原則、最近の諸勧告や諸宣言および行動計画{2)}によって提供された指針を適用することの緊急な必要性を強調し、
世界総人口の10%は障害による影響を受けており、その見通しは悪化しつつあることに深甚な関心を向け、
これらの指針や宣言の完全な遵守を保障する必要性を再確認し;
予防{3)}が最も重要な行動であり、現存の知識を基に考えられるあらゆる方略が、必要なサービスが提供されるべきすべての家族やすべての人びとに、障害を避けるため適用されるべきであることを力説し;
障害者に関し可能な限り、リハビリテーションをおこなうことと統合することが重要なことを強調し、障害者の最大限可能な統合をもたらし、障害者が社会の中で建設的役割を果たすことができるよう、障害の影響を軽減するのに必要なリハビリテーションサービスや他の支援や助言を、すべての人が受けられること{4)}を保障するためのステップを踏み出すことを求め;
あらゆる人びとの生活に教育、科学、文化および情報が決定的に重要なことを心に留め、すべての障害者の自己実現と社会生活への完全参加を促進する{5)}視点をもって、上掲の諸勧告や諸原則を実施することを希望し、
公私機関、有能な諸組織、全体としての社会が、障害者に関するなんらかの中期もしくは長期の方略を準備するさい、以下のような参加基本原則、統合、個別化、地方中心化、専門家間の調整を考慮しなければならないことを確認し;
(a)障害者の完全参加と彼らに関するすべての決定や行動に、障害者が関わることが保障されるべきである;
(b)障害者は地域社会のあらゆるサービスを受けられ、あらゆる活動に参加することができるべきである;
さらに、全体として地域社会のために決定された一般的性格の行動や方略も、障害者のことを考慮に入れるべきである;
(c)障害者は地域社会から、彼ら特有の固有なニーズに対応したサービスを受けられるべきである;
(d)サービスの地方中心化を通して、障害者のニーズが彼らの属している地域社会の枠組み内で考慮され、満たされるべきである;
(e)障害者のニーズを満たすさまざまな専門機関や特殊な団体の活動は、彼らの人格の全面的開発を促進するようなやり方で調整されるべきである;
各国政府、有能な政府組織や非政府組織、世論、障害者、彼らの生活になんらかの面で結びつきのあるすべての人びと、教育者、研究者、経営者、政治家に、以下の宣言の原則を広報し、実践に移すように要求し、
以下を満場一致で採択することを決定し、厳粛に宣言する。
1.すべての障害者は、教育、訓練、文化、情報への十分なアクセスができる基本的人権を行使できなければならない。
2.各国政府、国内・国際諸組織は、障害者による最大限可能な参加を保障するための効果的行動をとらなければならない。障害者の教育的ニーズや保健ケアニーズを目的とした行動に対し、また、障害者や彼らの家族の団体を設立したり、維持することに対し、経済的・実際的支援をおこなわなければならない。これらの団体は、障害者に関する分野での計画立案や決定過程に関与すべきである。
3.障害者は、彼ら自身のためだけでなく、地域社会を豊かにするため、彼らの創造的・芸術的・知的な潜在可能性を十分に発揮する機会を与えられなければならない。
4.障害者が参加する「教育的・文化的・コミュニケーション計画(educational,cultural and communication programmes)」は生涯教育というグローバルな枠組みの内で着想され、実施されなければならない。この点に関し、職業的リハビリテーション・訓練の教育的側面により多くの配慮がなされるべきである。
5.社会のサービスによって能力を最大限に発揮できるよう、障害をもつすべての人びと、とりわけコミュニケーション問題を抱える人びとは、彼らの特定のニーズに合わせられた教育的・文化的・情報計画にアクセスできなければならない。
6.「教育・訓練・文化・情報計画(education, training, culture and information programmes)」は、通常の労働環境や生活環境の中に障害者を統合することを目指さなければならない。これをおこなうため、障害者は必要とされるかぎり、彼らの個別な状況(施設で、家庭で、学校で、など)にかかわらず、適切な教育や訓練を受けなければならない。
7.障害の出現とそのマイナスの影響を軽減するため、各国政府は非政府組織と協力し、障害の早期発見と適切な治療・措置を保障する責任をもっている。両親に対する情報やガイダンスが非常に重要な役割をもつ教育計画が、乳幼児期から組織されなければならない。
8.すべての障害者の教育・訓練・リハビリテーション・開発への、家族の参加が増大されなければならない。この分野で彼らの役割を実現するため、家族に助力するための適切な支援が提供されなければならない。
9.教育者ならびに、教育的・文化的・情報計画に責任ある他の専門家たちはまた、障害者の特定の状況やニーズに対応する力量・能力をもっていなければならない。したがって、こうした人びとの研修はこの要件を考慮し、また、定期的に内容が最新のものに改められなければならない。
10.公衆の態度に及ぼすメディアの影響を考え、また、公衆の意識や連帯のレベルが高まってきている点から、メディアによって伝えられる情報の内容も、障害者のニーズや関心に対応する諸側面を含み、障害者の団体と協議して準備されなければならない。
11.障害者は、彼らの教育や訓練にとって必要な施設や設備・備品が提供されなければならない。この目的のため、開発途上国において必要な設備・備品を生産できるよう、あらゆる努力が傾注されるべきである。
12.都市開発、環境および人間居住地に関するすべてのプロジェクトは、地域社会におけるあらゆる活動、とりわけ教育と文化の分野において、障害者の統合と参加を促進するやり方で立案されるべきである。
13.知識の増大を目指した研究および、この宣言の目的を促進するためのその適用、とりわけ、障害者のニーズに現代の技術を適用したり、設備・備品の生産コストを低減するための研究の適用が奨励され、こうした研究の結果が障害者の教育、文化的発展、雇用を促進するため広く普及されなければならない。
14.障害者の職業経歴機会を増大するため、各国政府は、会社、専門機関、労働組合の側に、特別な職業経歴ガイダンス、任用、訓練、昇格制度を導入する積極的な行動が要請される。
15.政府組織と非政府組織、地域組織と地域間組織間のより大きな国際協力、これにはデータバンクの設定といった特定の目的をもった技術援助、人材養成のための地域センター、計画の準備と普及が含まれるが、これらはこの宣言で設定された原則を実施するための前提条件である。
16.この宣言を実施するのは加盟各国の責任であり、この目的のため、加盟各国はあらゆる可能な法的・技術的・財政的手段をとるべきであり、また、障害者、その団体や専門的非政府組織がこうした手段を練り上げるのに参加することを保障しなければならない。

*1968年から1981年まで、ユネスコの特別教育計画の責任者であったサンドバーグ(Nils-IvarSundbarg)を追悼して
1)参加は103か国、6国際組織、4地域組織、17国際組織・非政府組織である。そのリストは補遺VIに掲載されている。
2)「アメリカ地域の保健・社会保障担当閣僚による計画宣言」、マドリッド、1981年10月。「障害者(Disabled and Handicapped)に関する特別委員会報告」、カナダ、下院、1981年2月。
3)例えば、「WHOと国際精神障害者協会連盟の合同委員会の勧告」;「予防に関するスペイン政府プラン」;ユニセフ「1982年から1983年の行動計画」
4)リハビリテーション・インターナショナル:「1980年代のための憲章の宣言」
5)「障害者の教育:学校における青年の統合」に関するOECDの報告。


主題 国際連合と障害者問題 - 重要関連決議・文書集 -
編者 中野善達 (Yoshitasu Nakano)
発行日 1997年6月25日 第一刷
発行所 エンパワメント研究所