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シンポジウム 「もっと知ろう、デイジー教科書を!」
日時:2013年02月03日(10:30~16:00)
場所:戸山サンライズ 大研修室
 

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佐藤委員追加提出資料

雇用に関する追加意見:「社会雇用制度について」

2010年3月1日 第4障がい者制度改革推進会議
日本社会事業大学 佐藤久夫

 財団法人箕面市障害者事業団常務理事・事務局長の栗原久氏から寄せられ た、箕面市と滋賀県の情報を活用しつつ、佐藤の意見をまとめたものである。

A はじめに:「雇用率」、「差別禁止」、「社会雇用」の3者の特徴を生かして

 「社会雇用制度」についてはすでに多くの構成員がその導入を提言している。 ただし表現はまちまちで第3回推進会議資料では「社会的就労」、「社会支援雇 用」、「保護雇用」、「社会的事業所」、「賃金補填制度」、「補助金雇用」「ソーシャルファーム」、「ソーシャルエンタープライズ」など多様である。
 私の理解ではその特徴は、障害のために労働能力が低下している人でかつ「合 理的配慮」によっても通常の最低賃金(あるいは最低賃金プラスアルファ)を 稼ぎ出すことが困難な人を対象に、不足分を国・社会が補助することによって 企業・事業所の負担を軽減し、その人が労働法規の対象となる労働者として社 会参加できるようにする制度である。
 したがって、十分な労働能力のある障害者や、「合理的配慮」があれば雇用さ れる障害者は対象とはせず、これらの障害者は主に「雇用差別禁止制度」で、 各企業の責任で雇用の保障をしてもらう。一方「障害者雇用率制度」は、個別 企業に任せるだけでなく、各企業が連帯して障害者雇用の責任を果たせるよう、 障害者雇用に伴う経済的負担が平等になるよう調整する。
 これらのうまみを生かして総合的な障害者雇用制度を作るべきである。

3つの障害者雇用のアプローチの特徴

  目的 焦点 責任主体 労働能力
雇用率 結果平等 障害 事業主集団 高/中
差別禁止 機会平等 能力/障害 事業主
社会雇用 結果平等 能力/障害 低/中

B 社会雇用(賃金補填)の考え方

 下の図では、労働能力が非常に低い人(A さん)は対象外とし障害年金で暮ら せることとしている。労働能力の高い人(E さん)も対象外としている。社会雇 用の利用者はその中間のB さん、C さん、D さんで、本人の稼ぎが多くなるほど 賃金補填は少なくなり、しかし総収入はB さんよりC さんが多く、C さんよりD さんが多くなるようにしている。

社会雇用(賃金補填)の考え方

社会雇用(賃金補填)の考え方

労働能力 本人の収入 最賃 年金のみ かせぎ賃金 補填 かせぎ賃金 補填 かせぎ かせぎ 賃金補填 Aさん Bさん Cさん Dさん Eさん

<検討課題>
 (1)B さん、C さん、D さんもおそらく障害年金受給資格があるはずで、年 金との調整(年金を受けられる場合は賃金補填を減額する)が必要とな る。
 (2)最賃額、障害年金額、生活保護額の関係をどうするかの検討が必要であ る。
 (3)0.5 カウントされる短時間労働者の場合、賃金補填よりも「半額年金」 での対応が適切ではないか。
 (4)社会雇用の場として一般企業と「社会雇用事業所」が考えられ、後者に は運営費補助も必要となる。ノーマライゼイションの観点からできるだ け一般企業での雇用を進める方策をどう組み込むか。

C デンマークのフレックスジョブ制度
セーレンさんの例

 46 歳、男性。16 歳の時から脊髄損傷で車いす利用。アパートで一人暮らし。
仕事は学校事務員。税込み年収600 万円ほど。
 現職では「フレックスジョブ」制度により週18-20 時間勤務で働いている。以前は通常勤務で体が弱ったから。これは企業・職場にではなく障害者個人に認定される。リハビリが終了していること、障害年金を受給していないことが条件。この制度で働く場合、賃金と労働条件は本人・雇用主・労働組合の3者の間で決められる。賃金の1/2 ないし2/3 を国が負担する。ただしその対象となる賃金の上限は約800 万円。
その他の条件は一般雇用とほぼ同じ。有給休暇なども。
 「もしフレックスジョッブ制度がなかったら、とっくに障害者年金を受けて生活することに甘んじていただろう。私にとってはフレックスジョッブ制度によってさらに10 年から15 年、労働市場に出ることが延長させることができたと思う。」
Soeren Ingvardsen 「世界各国における障害者の自立生活:デンマーク」、リハビリテーション、2007,4,No.492,p14-17

 片岡豊氏によれば、このフレックスジョブ制度を利用している障害者は4万人。(人口は日本が23倍)
 片岡豊「デンマークにおけるインクルーシブな就労政策」 リハビリテーション、2006,12,No.489,p32-37

D 日本の自治体での社会的雇用

 何人かの構成員から紹介されているように、滋賀県、大阪府箕面市、神奈川 県横須賀市など神奈川県内の市町村で賃金補填雇用が実施されている。期間を 1年、2年などと限定した障害者雇用補助金制度は国の「特定求職者雇用開発 助成金」や他の自治体での「障害者雇用奨励金」などがある。
 横須賀市の「障害者雇用奨励金」は知的障害者又は精神障害者を3か月以上 雇用しようとする事業主に、月額4万円を助成するもので期限はついていない。
 滋賀県と箕面市の制度は一定の要件を満たす障害者事業所・社会的事業所に 対して運営費補助と賃金補填分の補助を支給するもので、賃金補填分は箕面市 では上限(年額約118万円)を設けて支払賃金の4分の3相当額を助成、滋 賀県では1人あたり月額7.5万円を助成している。
 しかしこれでもなお、通勤する月20日分の公費支出額を比較すると、生活 介護を利用した場合の年額約350万円、重度訪問介護1日5時間を利用した 場合の年額約330万円に比べて、半額程度の160万円の支出ですみ、障害 者の生き甲斐もはるかに高いとする。自立支援法を利用すれば市の負担は4分 の1なので、社会雇用は市の財政を圧迫しており、これ以上利用者を増やすの が困難となっている。
 いずれにせよ、推進会議の部会では、こうした国内の取り組みのヒアリング をじっくりと行うこと、そしてヨーロッパの経験を学ぶことが必要であろう。
 以下は、箕面市と滋賀県の社会雇用制度を利用している障害者の事例である。

E 社会的雇用の実例(大阪府箕面市及び滋賀県の例から抜粋)

 以下は、大阪府箕面市における社会的雇用の場、また滋賀県における社会的事業所での 実例をメール・ファクス等で聴き取ったものです(聴き取り日=2 月18 日・19 日)  今回は、① 社会的雇用の前後での働き方・生きがいの変化等、② 収入の変化等のみ にしぼって聴きましたが、実際の社会的雇用の場では、いわゆる「合理的配慮」に基づく様々な人的支援・物理的工夫がなされており、そのため、一般就労では困難であったり、離職を繰り返していたりした人が、安心して働ける場になっています。
 その上で、賃金補填がなされているため、最低賃金をクリアした賃金を得ることができ ています。
 個人が特定されないように、性別・年齢、地域(箕面か滋賀か)、また従事している仕事内容は個々には記載していませんが、菓子製造、リサイクルショップ、花屋、喫茶店、食堂、印刷、清掃、公園花壇管理、リサイクルセンター(カン・ビン選別業務)、事務等です。
 なお、箕面市と滋賀県とで、社会的雇用の場、社会的事業所と呼称が異なりますが、今 回は、個々の事例が特定されないように、どちらも「社会的雇用の場」としました。

1.一般就労(離職)→社会的雇用のケース
(1)知的障害者

 ① 数か所の離職を経て、社会的雇用へ。一般就労では障害への理解が得られず、 いじめにあい大変落ち込んでいたが、社会的雇用での現在は人間関係が大変良好 で、仕事が楽しい日々。
 ② 収入は、一般就労も社会的雇用も、月9 万円+年金8 万円=17 万円で変わらず。

(2)知的障害者
 ① 数か所の離職を経て、社会的雇用へ。一般就労では現場仕事の親方や同僚のス トレス解消の「はけ口」として、殴られる日々。そして欠勤してまた殴られ欠勤 という繰り返し。義父の残した家賃滞納で追い出されそうになるが、社会的雇用 の場に相談し、そこから資金を借りて返済、また毎月の給料から(社会的雇用の) 事業所にも返済。更に、一般就労時代に年金を担保に、親族のサラ金肩代わりを させられ、もめるが、社会的雇用の同僚が相談に乗り弁護士等を通じ解決へ。「普 通の会社ではこんなことまでしてくれない。社会的雇用の場で働いているから難 しいことをやってもらえる」と本人の声。
 ② 収入は、一般就労時代は欠勤が続き、賃金としては無収入状態(年金6 万円の み)だったが(家族全体で生活保護受給の時代もあった)、社会的雇用では月12 万円+年金6 万円=18 万円。

(3)精神障害者
 ① 一般就労時に発病し、離職後求職活動をするが就職しても1 か月持たない。そ の後社会的雇用で働き、「疲れていても周囲がきつく言わない(本人談)」状況故、 継続している。精神障害故の緩慢な動きが出ることに対しても、同僚の知的障害 者たちがそのことを責めずに受け止めている。
 ② 収入は、離職時は無く(年金5 万円のみ)、社会的雇用では月10 万円+年金5 万円=15 万円。

(4)知的障害者
 ① 一般就労で人間関係が原因で離職し、社会的雇用へ。社会的雇用の場が運営す る店舗を店長として切り盛りする一方、賃金をもとに、家族から独立した生活を 始めたが、社会的雇用の場の同僚たちが何度も相談に乗り、サポートした。
 ② 収入面は、一般就労離職時は無収入(家族に依存)、社会的雇用では月10 万円 (総収入)。社会的雇用の場の前後とも年金は無い。

(5)知的障害者
 ① ある程度理解のある一般企業で働いたが、本人に常に関われるほどの人的余裕 はなく、次第に欠勤が続き離職、その後社会的雇用へ。社会的雇用では常に周囲 が本人とのコミュニケーションをとれるため、欠勤もなく継続している。
 ② 収入は、一般就労では月6 万円から欠勤続きで1 万円になり(+年金6 万円=7 万円)、社会的雇用では月10 万円+年金6 万円=16 万円。

2.一般就労→福祉的就労→社会的雇用のケース
(1)精神障害者

 ① 離職後一挙に収入が減り、家賃の支払いに困り親戚等に頼ったが、社会的雇用 では収入が安定し、家賃が支払えるようになった。そして、人と対話する事、お 客さんに挨拶することで、気分が救われるようになった。症状はあるが、働く場 があり、自宅に引きこもらずに済み、暮らしていることが今の幸せである。
 ② 作業所時代は月9 千円+年金8 万円=9 万円で、社会的雇用では月9 万円+年金 8 万円=17 万円。家賃を支払うことができ、親族に迷惑をかけないで暮らせるこ とができるようになった。その結果もあり、気持ちに余裕ができ、人と会話を楽 しむ事もできるようになり、出勤が苦にならない。

(2)知的障害者
 ① 支援学校卒業後、一般就労からの離職、複数の福祉的就労を経て、在宅後、社 会的雇用へ。自閉的傾向があり、今でも人間関係は苦手だが、社会的雇用の同僚 がそのことを理解しているので、安心して働けている。今後は地域での自立生活 の計画をたてたいと考えている。
 ② 福祉的就労では月2 万円(+年金8 万円=10 万円)等、社会的雇用では、月6 万円(+年金8 万円=14 万円、なお週3 日勤務)。

(3)知的障害者
 ① 中学卒業後、一般就労での離職を繰り返すのち、「ヤクザ」の使い走りから、服 役をするような事態に至るようになり、その後一旦、福祉的就労につくが、そこ も離れホームレスになる。ホームレス支援を受け、地域生活で生活保護受給の後、 就業・生活支援センターなどの支援で社会的雇用に付き、生活保護も打ち切りに なるが、本人は「俺もやっと税金の世話にならんで一人前になった」と喜ぶ。
 ② 生活保護(月6 万円の年金含む)では月13 万円の総収入だったが、現在は賃金 月8 万円+年金6 万円=14 万円。本人は生活保護打ち切りに向け一生懸命働き、 今は市民等から「ご苦労様」とかけられる声が何よりの励みと自慢。

3.福祉的就労→社会的雇用のケース
(1)知的障害者

 ① 社会的雇用では同じような障害者仲間、理解ある従業員と接することで、授産 施設時代よりも、人間的成長が格段にあった(親の意見)。
 ② 収入は、授産施設時代は月1 万円+年金8 万円=9 万円、社会的雇用では月9 万円+年金8 万円=17 万円。本人の生活の費用の一部を自分の仕事で稼ぎ出せる 事に、本人も家族も大きな喜びを感じている。

(2)身体障害者
 ① 授産施設で重度身体障害者が利用できるパソコン支援機器に出会い、社会的雇 用に就職し、食事・排泄・移動等全面介助の支援を受けながら、機関紙制作に携 わる。また、社会的雇用の場では、司法修習生の社会修習受け入れ担当者であり、 司法修習生と、文字盤で会話することで、既存の「障害観(同情の対象等)」を崩 してもらうことにチャレンジしている。このことは他の健常者スタッフでは到底 真似のできない「啓発の価値」を生んでいる。また現在は重度障害者としての地 域自立生活をめざしている。
 ② 収入は、授産施設では月4 千円+年金8 万円=9 万円、社会的雇用では月10 万 円+年金8 万円=18 万円。

(3)知的障害者
 ① 支援学校卒業後、施設に通所、訓練機関に通うが一般就労できず、デイサービ スを検討するも、「働きたい」思いが強く、社会的雇用へ。社会的雇用の場では、 得意の「描くこと」を生かしたスケッチをもとにした商品を開発。
 ② 以前は無収入(年金のみ月6 万円)、社会的雇用では月9 万円+年金6 万円=15 万円。

(4)知的障害者
 ① 授産施設を複数経験し、社会的雇用へ。既に20 年。お客さん相手の仕事なので、 大変なときもあるし、同僚に支えられ、頑張っている。仕事はやりがいがあり、 現在は親から離れ、独立。
 ② 授産施設では月8 千円+年金8 万円=9 万円、社会的雇用では月12 万円+年金 8 万円=20 万円。

(5)知的障害者
 ① 授産施設から社会的雇用へ。自分の稼いだお金で余暇活動をしたり、親戚の子 にプレゼントを買ってあげられるのが嬉しいとのこと。「頑張って働いてお金をた めて、将来海外旅行に行きたい」とのこと。
 ② 授産施設では月8 千円+年金6 万円=9 万円、社会的雇用では月11 万円+年金 6 万円=17 万円。

(6)知的障害者
 ① 福祉的就労では、自分から積極的に何かをすることはなく、どちらかというと 受身的だったが、社会的雇用の場では、作業への向上心をもって様々なことに挑 戦し、仕事の幅が広がっている。この仕事を一生続けたいと目を輝かせている。  ② 福祉的就労では月1 万円(+年金8 万円=9 万円)、社会的雇用では月11 万円(+ 年金8 万円=19 万円)。

4.入院→生活保護等→社会的雇用
(1)精神障害者

 ① 一般就労で職を転々、アルコール依存症のもと、ホームレスになり、精神病院 に措置入院。退院後生活保護・訪問看護を受けつつ通院し、社会的雇用へ。社会 的雇用後も、アルコール依存症は続き入退院を繰り返し、仕事でミスも多発。し かし、社会的雇用の同僚の粘り強い相談・支援で酒を断つことができた。一番大 きな効果は、「心の居場所」の感覚であり、「共に支える働き方」が大きな成果を もたらせた。自分をしっかりと受け止めてくれる「場」の存在が、心を開き、今 では「生きる勇気がわいてきた」と口にする。
 ② 生活保護時は月12 万円だが、社会的雇用では月7 万円+収入認定後の生保護5 万円=12 万円、年金は社会的雇用の場の前後ともない。

5.在宅→社会的雇用
(1)身体障害者

 ① 支援学校卒業後、社会的雇用の場設立に関わるが、それがなければ入所施設か 在宅。現在、ガイドヘルプの利用を週1 日おこなっているが、社会的雇用の場が なければそのサービスが格段に増える。重度身体障害者であり、言語障害もある ため、社会的雇用の場の経営機関(運営会議)での発言には時間がかかるが、か えって「お互いがお互いに耳を傾ける」事業風土を生みだしている。
 ② 社会的雇用の場では、9 万円の給料+年金8 万円+収入認定後の生活保護4 万円 (介護料含む)=21 万円。

(2)知的障害者・精神障害者
 ① 配偶者と死別後、生活保護受給し、社会的雇用に。
 ② 生活保護では20 万円(子供2 人含む)、社会的雇用では月10 万円+遺族年金・ 障害年金、生活保護は打ち切り。