音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/検証・市町村障害者計画

顕在化してきた自治体間の落差

障害者計画策定に関するアンケート結果

藤井克徳

 障害者プランに基づく施策の展開は、すでに2年目に入った。7か年という「中距離走」からすれば、徐々に身体も温まりいよいよ本格走への移行、すなわち施策の展開に一段と力が入る頃であろう。追い上げ型も魅力的であるが、やはり序盤で優位に立ち正確なラップを刻んでいくことが基本となろう。
 障害者プランの初年度を終えた時点で、序盤戦の健闘ぶりがどうなっているか、都道府県・政令指定都市(以下、指定都市)にスポットを当てて調査した。とくに、最重点の課題となっている市区町村障害者計画の策定について、都道府県としての把握状況や支援策の実態が明らかになった。以下、特徴点を略記する。

1 数値目標明示は19都府県

 調査は「障害者計画策定に関するアンケート」と題するもので、都道府県ならびに指定都市を対象に行われた。実施したのは、月刊『ノーマライゼーション』編集部で、調査日を3月末日とし、100%の回収を得ることができた(47都道府県・12指定都市)。
 特徴の第1は、数値目標を明定したところが19都府県・7指定都市と、全体としてはまだまだ不振の域を出ていないことがあげられる。28道府県・4指定都市で数値目標をあげられず、傘下の市町村への影響を含め、どの程度実効度をあげられるのか懸念されるところである。
 目標値の内容を見ていくと、「障害者施設」が19都府県・7指定都市、「ホームヘルパー」が16都府県・3指定都市、この2分野の施策に集中している。これら以外に、「ショートステイ」(6都府県・1指定都市)「デイサービス事業」(5府県・2指定都市)があり、さらに福祉施策以外としては、住宅や交通施策の整備(東京都)、リフトタクシー等の整備台数(長野県)、盲導犬の育成(山口県・群馬県)があげられる。
 福祉分野中心の傾向にあることは、国の障害者プランが全体として福祉分野(厚生省主管施策)偏重で、かつ目標値が掲げられたのが、施設施策やヘルパー施策に限られていたことと関係しているものと思われる。
 第2は、「中間見直し」についての考え方がはっきりしていないところが多いということである。「中間見直し」を明言していないところが29道県・6指定都市にのぼっている。前述のとおり、目標値設定の状況などから見て、既定の計画は必ずしも十分とは言い難く、「中間見直し」への期待は強いものがあるはずである。しかし結果は、そうはなっていない。
 「中間見直し」を行うとしたところは、17都府県・5指定都市である。見直し年度については、最も多かったのが「平成9年度」の7都県・2指定都市、次いで「平成11年度」2県、「平成8年度」1県、「平成10年度」1県の順で、この他何らかの形で見直すとしたところが、6府県・3指定都市となっている。
 なお、国のプランの見直し時期の希望については、比較的遅い時期を期待しているようである。「平成11年度」が13県・4指定都市、「平成12年度」6県・3指定都市、「平成10年度」8都府県の順となっている。首を傾げたくなるのは、「平成13年度」が6県・2指定都市もあることである。こうした傾向は自治体の消極姿勢を反映したものと推察される。国のプランは平成14年度がゴールであり、平成12年度や13年度の見直しとなると、残り期間からほとんど有効性がなくなってしまうのではなかろうか。国の中間見直しは、即都道府県や指定都市の計画に影響するだけに、あまり影響を受けたくないとする消極姿勢の表れともとれる。

図1 都道府県障害者計画の数値目標の設定

図1 都道府県障害者計画の数値目標の設定

図2 都道府県障害者計画の見直し時期の設定

図2 都道府県障害者計画の見直し時期の設定

図3 国のプランの見直し時期の希望 (複数回答)

図3 国のプランの見直し時期の希望

図4 市町村障害者計画策定状況

図4 市町村障害者計画策定状況

図5 市町村計画の不振要因(複数回答)

図5 市町村計画の不振要因

図6 策定に関する支援状況

図6 策定に関する支援状況

2 市区町村計画策定済み、依然1割台

 障害者プラン・都道府県計画・市区町村計画、これら3つの行政計画は1セットで捉えなければならない。国のプランと都道府県計画はすでに策定されており、問題は市区町村計画である。しかも、国が掲げたプランの実施主体・運営主体の大半は市区町村が担うこととなり、その意味からも市区町村の計画がとりわけ重要な意味を持つことになる。これまでの調査を見る限りでは、計画策定は思いのほか低調で、今回の調査でどの程度まで伸びているか結果が待たれていた。都道府県をとおして、市区町村計画の把握や策定不振の要因、策定への支援などの実態を調査した。
 特徴の第1は、依然として策定市区町村が少ないということである。策定済み市区町村は475(14.6%)で、3255市区町村中依然として1割台にとどまっている。策定中の市区町村606(18.6%)を加えたとしても、なお3分の1程度でしかない。2174市区町村が、未策定もしくは策定の姿勢が伺えないと言うことになる。
 第2は、市区町村計画不振の要因について、それほど決定的なものがないことが、改めて明らかになった。主な要因としては、「人的不足」「他計画との競合で専念できない」「参考資料・情報不足」「財政不足」「県の圏域設定の遅れ」「法的義務がない」があげられている。しかし、これらは策定済みの市区町村でも共通した課題であるはずで、説得力を持つものではない。
 第3に、市区町村への支援が十分でないことがあげられる。市区町村を「支援している」と回答があったのが32道府県で、「支援していない」が15都県にのぼっている。その内容は、「セミナー・会議の開催」(17道県)「独自マニュアルを作成し技術的支援」(8府県)「調査結果を提供」(7府県)「個別相談」(6道府県)などとなっている。
 なお都道府県としての、市区町村計画の策定を推進していくための今後の方策として、「福祉圏域の設定」(19府県)「市町村障害者施策推進協議会の設置を促す」(6県)「県自身が数値目標を示す」(6県)などがあげられている。

3 黄色信号?
  障害者プランのこれから

 障害者プラン関連の調査は、総理府のものを含め何回か行われてきた。市町村計画の策定状況を中心に、調査のたびに厳しい実態が浮き彫りにされてきた。プランも2年目に入り「少しは好転しているのでは」、こんな思いで今回の簡易調査が行われた。徐々に熱心な自治体が出てきている一方で、大半はなお消極姿勢にあり、自治体間の落差は顕在化しつつあるように見える。問題点をはっきりさせ、これに対応した強力な手だてが求められよう。
 ポイントの第1は、都道府県の対応がまだまだ十分ではないということである。市区町村に範を示すべき都道府県計画がこの程度の水準では、どうにもならない。自らの計画が不十分であれば、歯切れのいい行政指導や支援策は講じづらいものがあろう。
 第2は、市区町村計画策定をいかにして飛躍的に伸ばしていくかということである。それぞれに理由はあるにしても、現に高水準の計画策定を終えているところが多数ある。当局の一層の努力が期待される。
 第3に、改めて国・国会の役割が問われよう。数値目標は特定の分野にしか示されず、その水準も十分ではなかった。結局このことが、都道府県ならびに市町村計画の不振さに色濃く反映しているのではなかろうか。
 また、返す返すも「都道府県計画」「市町村計画」の策定が、障害者基本法で義務規定化されなかったことが悔やまれる。事態の好転につながるような「中間見直し」を、さらには自治体計画の義務規定化をめざした障害者基本法の改正なども本格的に検討すべきであろう。

(ふじいかつのり 共同作業所全国連絡会常務理事、本誌編集委員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)12頁~15頁