音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/検証・市町村障害者計画

「市町村障害者計画」

―これからどう進めるか―

調 一興

1 現状について

 「障害者プラン」と「市町村障害者計画」は、表裏一体の関係にあるといわれながら、その策定作業は思うように進んでいない。
 昨年4月に総理府が行った調査では、策定済みが338市町村で約10%という結果であった。本年4月に日本障害者リハビリテーション協会が都道府県・政令指定都市に行った調査では、策定済みが475市区町村(約15%)、策定中が606市区町村(約19%)と、策定中を含めて30%を超えるところまで進んでいるようである。
 しかし、策定済みといわれるものの中には、地域福祉計画の中に障害者施策を何項目か掲げているにすぎず、障害者計画というにふさわしくないものも相当数含まれている。これを先に実施された「市町村高齢者保健福祉計画」と比較すると、その落差はあまりにも大きいといわなければならない。

2 なぜ、進まないのか

 その第1の問題は、法制上の問題である。「老人福祉法(第20条の8)」は、市町村老人福祉計画を定めるものとする、とその策定を義務づけており、かつ、この計画は老人保健法(第46条の18)に基づく市町村老人保健計画と一体のものにしなければならないとしている。すなわち市町村計画を法的に義務づけているのである。
 これに対して「障害者基本法(第7条の2)」では、障害者計画の策定について、政府は義務としたが、都道府県および市町村は、国の障害者基本計画(市町村は都道府県計画も)を基本とし、それぞれの地域の状況を踏まえた障害者計画を策定するように努めなければならない、と努力規定にとどめられていることである。
 これは、故なき差別であると私は思う。人生の長い期間を障害というハンディキャップをもって生活することを余儀なくされている人々の存在を軽視する、この国の後進的な体質を露にしているものといえる。このことが計画の策定を遅らせている最大の原因である。
 第2には、これは地方自治体関係の全国組織を訪問しての感想でもあるが、いわゆる地方分権への大きい潮流の中で、市町村が現実にたくさんの課題を抱えており、地方分権の流れをどう受けとめるかで揺れていること。その中で障害者問題は高齢者問題に比べて複雑であり、3つの障害種別ごとの法制と各種制度など、とくに町村ではマンパワーの不足等があって、実務上、計画の策定を手がけることが相当に難しいという実情にあることである。
 第3には、責任と権限の問題である。身体障害者福祉施策については、市町村に移管されているが、知的障害者と精神障害者の福祉はまだ都道府県の段階にとどまっていることである。基本法では障害者の定義を変更したものの、その全体の施策に関する責任と権限が市町村に移されていないことは周知のとおりである。障害者計画という以上、基本法の定義とは異なる、身体障害者だけの障害者計画というわけにはいかないという意識(ある市の担当者の言)があり、それと連動した財政的な裏付けの不安がブレーキとなっているという側面があるといわれている。

3 計画の策定を促進するために

 現状と計画策定がなかなか進まない原因などをみてきたが、これを促進するためにはまず、私がここにあげた3つの問題点を改善することが基本的に重要であることを提起しておきたい。そのうえでいくつかの具体策について、自らの果たすべき役割も含めて考えてみたい。
 まず第1に、都道府県の役割が重要であること。市町村障害者計画は、国と都道府県障害者計画を受けて策定されることになっているので、この都道府県の計画の質が影響する。しっかりした項目の整理と具体的施策(数値目標化が望ましい)によって構成された計画をもって、市町村に働きかけを行うよう努めていただきたい。
 第2は、市町村―とくに町村のマンパワーや専門性の不足をカバーするためには、都道府県の職員と市町村の職員が協力しあう場面が必要である。このためには、プランでいう複数市町村域での事業展開をも念頭において、保健福祉圏域の設定を行い、ここを軸にして都道府県職員と市町村(とくに町村)職員が接触して協働するなかで、市町村障害者計画策定への認識を促進し、マンパワーを育成する場としても有効に生かす方法を、積極的に進められるよう期待したいと思う。
 厚生省は昨年、この保健福祉圏域設定について具体的な内容をもった通知を出している。都道府県、複数市町村域、市町村のそれぞれの役割を明らかにして、事業や施設が適切に機能し、かつ配置されることがこれからの姿でなければならない。そして、この圏域づくりとそこでの作業は、実のある市町村計画策定と事業の実施に大きな影響を与えることになると思う。
 第3は、改めていうまでもなく、障害者団体の具体的な活動が必要であるということである。例をあげよう。
 埼玉県では、国際障害者年以降、中央の「国際障害者年日本推進協議会(現・日本障害者協議会)」をモデルに、埼玉県の障害者当事者団体を中心に、事業団体や専門家団体を含めてほとんどの団体が、曲折を経て一本化し、「埼玉県障害者協議会」(32団体)を組織して活動している。県が障害者施策を展開するときには、この協議会の意見を必ず聞くという力をもっている。いま、この協議会は市町村障害者計画の策定を促進するために、全市町村に働きかけているが、現状は92市町村のうち、策定済み11市町村、予算を計上したところが54市町村となっており、今年中には65(71%)市町村が策定することになるとみている。
 その他にも実践例はあるが、紙数の関係で省略する。
 私たち自身が工夫し協力して行動することが大切なのだと思う。

(しらべかずおき 日本障害者協議会代表)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)20頁・21頁