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海外自立生活新事情

発達障害者の居住形態の多様化

定藤丈弘

 前号で紹介したように、カリフォルニア州では脱施設化政策の進行により、1997年現在、発達センターに代表される入所施設は5.5%に減少したのに対して、6名定員までのグループホームは17.3%、また自立生活居住は12.1%に増加している。しかし同州の発達障害者の居住形態は、親同居が46.2%と中核を占め、グループホームなどの地域統合型居住は中心的な形態までには至っていない。その原因はどこにあり、またそのことをどのように評価しているのか。イーストベイ地域センターのロドリゲス部長にそれらのことを尋ねた。
 同部長の答えはそれなりに明解であった。「親同居の形態が多いことが、そのまま障害者の自立度が低いということではない。それは当事者の1つの選択肢であるにすぎない。親同居の形態で親が年をとり家を出て、障害をもつ本人が家にとどまり、自立を支えるサポートを受けるような場合もある。グループホームも居住形態の1つとして位置づけられるべきである……」と。要するに彼は、発達障害者の居住形態は多様に存在し、当事者の居住選択肢が広がることが望ましいことを強調したのである。

居住形態の多様化

 カリフォルニア州の発達障害局が発行している発達障害者の居住形態に関する資料をみると、確かに多様な居住形態、サービスが存在している。今回はこれらの個別的概要を紹介する。

(1) 生活支援サービス(SIC)

 生活支援サービス(SIC)は、自らの持ち家、あるいは借家で居住することを選ぶ発達障害者の生活を支援するためのサービスである。これは障害の程度にかかわらず、必要に応じて提供される。これにより、重度の発達障害者も在宅生活が可能となる。また、このサービスは個人プログラムプラン(IPP)の中で詳述することを義務づけている。さらに生活支援サービス機関は、障害者が家で安全に生活するために必要な諸サービスを提供したり、調整するために、障害をもつ個人と一緒に活動している。発達障害局によれば、この居住形態とサービスの究極的な目標は、発達障害をもつ人たちが「平常なコミュニティの中での主流(メインストリーム)の生活に統合される機会を保証する」こととしている。

(2) コミュニティケア施設(いわゆるグループホーム)

 コミュニティケア施設(CCFs)は州の社会サービス局コミュニティケア免許部門によって認可される居住施設である。毎日の生活を自ら守ったり、維持するために必要なパーソナルサービスや助言、及び援助を必要としている発達障害児者に、24時間の非医療的な居住ケアを提供している。
 前号で述べたように、障害の程度や支援の内容などによってレベル1から4までのグループホームが存在しており、定員は6名までを原則としているが、実際には6名以上のホームもある。定員6名までのグループホームは増加し、1997年現在、全居住形態の19.7%を占めている。6名以上の大規模ホームは減少して5.8%となっている。6名以上の成人用ホームの内訳は、7~15名が2.7%、16~49名が2.3%、50名以上が0.8%となっている。また若干ながら児童や高齢障害者用のグループホームも存在している。

(3) ファミリーホーム

 ファミリーホーム機関(FHA)は、発達障害をもつ成人2名までを定員として、受け入れ家族とともに住み、家族の一員であるという相互作用と責任を分かち合うための機会を提供することを目的として作られたファミリーホームを認定している。発達障害者は家族や家族が居住するコミュニティのメンバーとしてとけ込めるように、家族やFHA及びコミュニティから必要なサービスや支援を受けている。ファミリーホームでは食事や住まい、経験、責任及び愛情を共有し合っている。
 FHAは地域センターと契約を結んでいる民間の非営利団体であり、ファミリーホームを積極的に支援するだけでなく、ファミリーホームを募集、教育、認可、監督する責任を負っている。FHAで雇用されている社会サービススタッフは定期的に家庭訪問を行って、必要なサービスと支援が適切なものとなるように、また受け入れ家族と障害をもつ新しい家族との間に友好的な関係が保たれるように努めている。FHAとファミリーホームサービスは、発達障害者がその家族と協力して自己決定と相互支援を促進することを可能にする1つの新しい選択肢である、とされている。

(4) 里親同居

 発達障害をもつ子どもたちの居住選択肢の1つに里親同居がある。それを促進している専門機関がフォスターファミリー機関(FFAs)である。FFAsは認可された里親ホームの18歳までの子どものケアのために、州の社会サービス局のコミュニティケア免許部門によって許可された、私的に運営されている組織である。
 FFAsは子どもたちのために代替的ホームを提供するために、里親を募集、訓練、認可する責任をもっている。また同機関は自らが認可したホームを監督し、見守り続ける。そして必要な場合には里親の認可を取り下げる権限をもっている。加えて、ソーシャルワーカーのような専門的スタッフを置いて、里親として認可された両親と同居している障害をもつ子どもたちを積極的に支援している。親同居の形態は普通の家族と同様に、平常の方法で家族や近隣の人たちと一緒に生活することを目指している。

(5) 自立生活

 自立生活居住の形態は、障害をもつ個人が自分たちの家やアパートで1人で生活したり、あるいはルームメイトと一緒に生活する形態である。地域センターでは、コミュニティの中で自立生活を送るために必要なADL訓練などの技術的訓練を希望している発達障害者に対して、自立生活プログラムを提供している。同プログラムは自立生活の場を設定して、各々に必要な自立支援サービスを提供したり、サービスの調整をしている。また、基礎的な自助技術を習得した人に対しては、機能的な自立訓練を重視する。また、身体的な障害のために基礎的な自助技術はもっていないが、自らのパーソナルニーズを充足するために介助者を雇ったり、それを監督する障害をもつ当事者に対しても機能的な援助のための技術訓練に力を入れている。

(6) 中間的なケア施設

 発達障害者の居住選択肢には中間的なケア施設(ICF)もある。ICFは州の健康サービス局の免許資格証明部門によって認可された1日24時間のサービスの提供を目的とした保健的施設であり、次の3タイプがある。
 1つはICF/DDという発達障害者の中間ケア施設である。これは16ベッドあるいはもっと大きな施設であり、発達上の初期的なサービスを必要としたり、また専門的な看護サービスを一定の時間枠内で断続的に必要とする発達障害児者のために、発達や訓練、療育及び援助的保健サービスを提供する目的で認可されている。
 2つめはICF/DD―Hという発達障害者の療育を重視する中間的ケア施設である。これは4~15ベッドまでの保健的施設であり、発達上の初期的サービスを必要としたり、また進んでいるが予測可能な専門的看護サービスを一定の時間枠内で断続的に必要とする発達障害児者を対象としている。制限の少ないコミュニティ環境の中で、パーソナルケアや発達、訓練、療育、及び援助的保健サービスを提供する目的で認可されている。
 3つめはICF/DD―Nという発達障害者の看護を重視する中間的ケア施設である。これはやはり4~15ベッドまでの保健的施設であり、医療を必要とする虚弱な発達障害児者を対象としている。同施設では制限の少ないコミュニティ環境の中で、ICF/DD―Hと同様のサービスに加えて、看護的管理を提供する目的で認可されている。入居者は発達上の初期的サービスを必要とし、前述したICF/DD―Hでは利用が困難で、専門的な看護サービスを一定の時間枠内で断続的に必要とする人たちである。
 1997年現在、ICF/DDの利用者は全居住者割合中の1.9%、ICF/DD―Hの6ベッドまでの利用者は3.9%、7から15ベッドまでの利用者は0.6%、ICF/DD―Nの6ベッドまでの利用者は0.9%、7から15ベッドまでの利用者は0.1%となっている。ICF全体での利用者の割合はこの10年間でほぼ横這い状況となっている。

(7) 発達センター

 代表的な入所施設である発達センターは州の発達障害局が直営しており、脱施設化政策によりセンター数やその入所者数は減少している。1996年3月末現在、6か所のセンターがあり、その入所者総数は4660名で、小規模のものでは、475名が、大規模なセンターでは1050名が入所している。発達センターでは、地域センターが24時間をベースとした保健的施設の場で訓練やケア、治療及び助言的指導が必要であると認めた発達障害者に対してサービスを供給している。
 発達センターは、そのニーズが利用可能なコミュニティサービスによっては容易に満たされることのできない人たちを対象として、集中的な訓練と助言的指導を供給する。発達センターへの入所は厳しく制限されていて、地域センターと司法組織から委託されたケースに限られている。最近数か月のケースを見てみると、発達センターの入所者の大半は地域での彼らの行動が結果として刑事裁判にかかわっていたために、裁判所から委託された人たちである。さらに発達センターは、深刻な医療的問題や重い行動障害のある人たちも対象としている。
 そこで、24時間サービスを供給する施設として、発達センターは個人の生活のすべての側面に対応している。具体的には技術訓練や専門的な保健ケア、その他の療法を通じての居住サービスから、レジャーやレクリエーションまでを含んでいる。
 注目すべきは、脱施設化を主な目標とする発達センターでは、「入所施設からの自立」を視野に入れたサービス運営がなされていることである。すなわち発達センターの主要な使命は、居住のための自立と機能的な技術のレベルを高めたり、自らの環境をコントロールする能力やコミュニティの場で生活する能力を高めることを目指した療育サービスや訓練サービスを提供することである。発達センターからの退所を促進するために、これらのサービスを補充するものとして、必要に応じて、医療、歯科医療、看護、さらには理学療法、作業療法、言語療法、言語発達といったような広範囲の専門的サービスが提供される。
 また、司法組織から委託された人たちは、地域社会の中でうまく生活していくために必要な技術と適性に関する訓練を受けている。その他、22歳以下の入所者は、地域の学校か発達センター内のクラスで教育サービスを受けている。成人障害者の一人ひとりは、発達センターあるいは地域社会の中で広範囲の職業的、技術的開発プログラムに参加している。
 わが国でも最近になって、やっとノーマライゼーションや障害者の地域自立生活の促進の視点から入所施設のあり方が基本的に問われ、「入所施設における自立」的処遇や「入所施設からの自立」を促す処遇が注目されるようになっている。カリフォルニア州の発達センターは大きな問題、課題をかかえているとはいえ、入所施設からの自立を促進するそこでの支援のあり方は注目に値するように思われる。

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)42頁~45頁