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列島縦断ネットワーキング

東京・ひろがれ パソコンボランティア!

―障害者と電子ネットワークの挑戦―

島谷綾子

 春風に花もほころぶ季節。爽やかな風に乗り、北は北海道、南は沖縄、全国各地から600名が集い、パソコンボランティア・カンファレンス'97(3月15、16日、於・早稲田大学国際会議場、主催:日本障害者協議会)が開催された。
 このイベントは「パソコンボランティアと障害者電子ネットワークの挑戦」をテーマにした日本でも初の試み。リレートークを皮切りに、記念講演・記念シンポジウムが行われ、障害者が電子ネットワークへ取り組む際の問題について、本音が語られ、厳しくも温かい応援メッセージが送られるなど、会場内にみんなの思いが溢れた(写真1 記念シンポジウム 略)。

やっかいなパソコンをサポートする

 ところで、「パソコンボランティア」とは何か? 実は、この言葉は造語。パソコン通信やインターネットが巷で騒がれる中、猫も杓子もパソコンを買いに走る今日だが、実はこのパソコン、結構厄介な代物だ。用語が難解なだけでなく、障害があるためにそのままではパソコンが使えなかったり、障害者向けの講習会がまだ普及していないなど、1人であれこれ悩むことも多い。
 そんな時、パソコンの専門家でなくても、より多くの力持ちたちと電子ネットワークでつながってさえいれば、1人ではサポートできないことも実現可能となる。また、だれかができないことでも、ひょっとすると他のだれかにはできるかもしれない。このような障害者のパソコンや電子ネットワーク活用を支援するための取り組みの総称が「パソコンボランティア」である。
 ここで、講演された方々からのメッセージをいくつか紹介する。
◆ 阪神大震災の際には、「できない」「助けて」という小さな声が、ボランティアの組織に大きな力を生んだ。パソコンボランティアの取り組みでも、ネットワーク上の「助けて」という声が、まわりの人の力を引き出す。障害者は今まで、耐え難きを耐えて「助けて」と言っていたが、これからはその「助けて」が意味をもち、力をもつのだ(金子郁容慶応大学教授)。
◆ パソコンボランティアは、一人ひとりの市民が社会の担い手であり、人と企業、人とチャンス、人と政治参加などを「つなぐ」役割をもっていることを示した。しかし、人のつながりをつくるのは簡単なことではない。まちがいを恐れずに、「まちがい事例」のデータベースをつくる気構えでがんばってほしい(清原慶子ルーテル学院大学教授)。

体験コーナー相談コーナーに人気!

 講演と並行して、インターネットを体験するコーナーもつくられ、視覚障害の方はスクリーン上の文字を読み上げたり画面を拡大するソフトを使い、肢体不自由の方ならパソコンボランティアたちが考え出した「らくらくマウス」(注)を使って、インターネットサーフィンを楽しんだり、遠方の人との電子メールのやりとりなどもみんなで体験(写真2 略)。インターネットを利用した在宅就労のビデオ上演なども好評だった。
 「アクセシビリティ機器」コーナーには福祉機器を開発している7つの企業(日本IBM、アップルディスアビリティセンター、富士通、キャノン、アメディア、テクノツール、NTT)が、「パソコン通信」のコーナーには5つの障害者関係BBS(みんなのねがいネット、ネットワーク杉並ここと、夢の扉、いなぎハートフルネット、ピアネット)が出展。地域密着型の活動、障害者自らがパソコンボランティアとなってのピアサポート、そんなグループ同士で語り合う姿が見られ、ロビーでは、パソコンボランティアへの参加者が気軽に相談できるコーナーもあり、障害者と家族とが熱心な質問をするなど、電子ネットワークの裾野の広がりが注目される(写真3 ピアネットの様子 略)。
 「工作ブース」では、障害者のパソコン利用を支援するスイッチやマウス等の製作ができ、昔プラモデルに興じた世代もパソコンボランティアと一緒に、ハンダ鏝を使って楽しみながら製作する光景が印象的だった。

小さな力が大きな力となるネットワーク

 実は、今回のイベントを計画段階から盛り上げ支えたのは、もちろん、パソコンボランティアたちだが、パソコンボランティア全体を束ねる大組織があるわけではない。
 Peopleの福祉工作クラブの「ぱそボラ」やNIFTY-Serveの「技ボラ」(技術ボランティアの略称)、障害者関係BBSの仲間など、多くのパソコンボランティアの絆を結んできたのは、日本障害者協議会の呼びかけで始まったインターネット利用のメーリングリスト。各々の活動を尊び、その中でサポートできない問題はメーリングリスト上で取り上げ、対応できる人にパソコンボランティアとして行ってもらう、緩やかに連携するネットワークだ。
 障害者にとってパソコンのもつ意義は大きい。障害があるために不可能だったことも時間や距離的なバリアー(障壁)も、パソコンの利用により乗り越えることが可能だ。つまり、障害者にとって、自立と社会参加を可能にする強力なアイテムなのである。しかし、そのパソコンを道具として使いこなすには地域でのきめ細かなサポート活動とマンパワーの育成が大事になってくる。

笑顔がちょっと眩しい

 ようやく普段の生活が戻ってきた頃、カンファレンスにパソコンボランティアとして参加してくれた企業戦士が「またぜひ一緒にやりましょう」と声をかけてきてくれた。実は、彼はいろいろな器材を借りてきてくれたり、人手を動員してくれたり、準備の段階からずっと一緒に走り回ってくれた人だった。こちらも不用意なこともあり、お願いしてばかりで、呆れられたものと思っていたので、彼のこぼれた笑顔がちょっと眩しかった。
 最近、庶民の期待を裏切る箱物行政に、何億もの金が利権として消えていくが、それにため息をつくばかりではいけない。本当にいいものを実感してもらい、積極的に関わってもらえる人と人とのネットワークを、大きく広げていく底力が求められている。その動向の中で、このカンファレンスは一石ではあるが、手応えを十分感じる。全国的なレベルでのパソコンボランティアは今始まったばかり。これを機にあなたもパソコンボランティアに参加してみませんか。もっと、広がれ! パソコンボランティア(http://www.suehiro. nakano.tokyo.jp/project/jd/index-j.html)。

(しまたにあやこ 日本障害者協議会情報通信ネットワーク特別委員会委員・主婦)

〈注〉 らくらくマウス
市販のマウスが操作しにくい方の操作支援機器。大きなボタンを押すことで、クリック、ドラッグができ、操作の負担を軽減できる。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)53頁~56頁