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ワールド・ナウ

アメリカ・インターネットでみるアメリカの障害者福祉

久保耕造

はじめに

 インターネットを用いて海外の障害者情報が容易に入手できる。ここでは、アメリカに限ってであるが、いくつかのポイントになるホームページを紹介したい。
 インターネットを既に駆使している方には周知のことであるが、ホームページは相互にリンクしており、あるテーマについてのホームページをひとつ知れば、それに関する他のホームページも次々にわかってきてしまう仕組みになっている。そこで、本稿では、いくつかの障害種別やテーマ別に代表的なホームページのみを紹介する(一覧表参照)。
 もちろん、ここに紹介しきれなかったホームページは数えきれないくらいある。また、執筆後に完成あるいは変更されたホームページもあるかもしれないことをあらかじめお断りしておきたい。

どこから始めるか

 インターネットを使ってアメリカの障害者情報にアクセスしたいと思っても、インターネット上のアドレス(Uniformed Resource Locators : URL)をひとつも知らない時はどこからはいればいいか。そういう時はインターネットのURLばかりを集めたホームページ、それも障害者関係のホームページのURLばかりを集めたホームページから始めればよいのである。
 実はそういうホームページだけでもたくさんあるのだが、こんな時に筆者がおすすめしたいのはナリック(NARIC)*1である。ナリックというのは現在は正式名称であるが、かつての名称は全米リハビリテーション情報センター(National Rehabilitation Information Center)である。現在、これを運営しているのはある民間企業であるが、運営資金はナイダー(NIDRR)*2という国の機関から出ている。ナイダーの正式名称は国立障害リハビリテーション研究所(National Institute on Disability and Rehabilitation Research)である。
 この中にいくつものサイトがあるのだが、そのひとつに障害者関連インターネット一覧(Naric's Bookmarks Disability and Rehabilitation Internet Resources)がある(図1)。最近、このサイトが充実され、現在は600以上ものホームページが紹介されている。それらは大きくテーマ別に分類してあり、さらにそれぞれのホームページの概要が数行ずつコメントしてある。
 このリストのいいところは、複数の分野にかかわるホームページについては重複して紹介されていることである。このことにより、少しあいまいな手がかりしかなくても、めざすホームページにいきあたることができるのである。たとえば、アクセスの問題について知りたい時はアクセシビリティをクリックしてみる。すると、それだけでも25以上のホームページが紹介されており、すべてにリンクがはられている。さらに、アクセスに関する法制、アクセシブル住宅などの項目もあり、ユニバーサルデザイン・センター(Center for Universal Design)*3やアクセス・ツデイ(Access Today)*4など幅広いテーマにまたがるホームページについては重複した項目のもとに紹介されているのである。
 こうしたアメリカのホームページには、日本のホームページからも瞬時にしてリンクさせることができる。いくつかの日本のホームページは海外のホームページにもリンクをはっている。たとえば、日本アイビーエムが運営しているこころWeb*5からは、コンピュータと障害者に関連したアメリカのホームページのいくつかにリンクがはられている。また、東北大学の小林巌さんが運営するInformation Resources for Persons with Disabilities*6にも数多くの海外の障害者関連のホームページが紹介されている。逆に、アメリカのホームページの国別のサイトの中の日本という項目がこのホームページへリンクされていることもある。

図1 ナリックの画面(http://www.naric.com/naric)

図1 ナリックの画面(http://www.naric.com/naric)

いくつかのテーマ別代表的URL

 アメリカの障害者問題としてはADA(障害をもつアメリカ人法)がまず頭に浮かぶ人が多いのではないか。当然ADAに関するホームページは数多くあり、ADAのホームページばかりを集めたADA関連ホームページ集(ADA & Disability Information)*7というものまである(図2)。これはアイオワ州立大学が運営しているものであるが、ADAに関連する13のホームページにリンクがはられている。

図2 ADA & Disability Informationの画面(一部)(http://www.esrin.esa.it:8080/handy/om/distr/iu/local/ada.html)

図2 ADA & Disability Informationの画面(一部)(http://www.esrin.esa.it:8080/handy/om/distr/iu/local/ada.html)

 この中にはADAのさまざまな側面にテーマをしぼったホームページがある。たとえば司法省のADAのホームページ*8につなげば、その中にADA施行状況報告書(Enforcing the ADA A Status Report)というサイトがあり、ADAに関連して出された判例や合意などについて最新の情報を知ることができる。もちろん、ADAに関連したさまざまなパンフレット類やADA本文、あるいは関連規則なども簡単に引き出すことができるし、そのままプリントアウトも可能である。
 障害者とコンピュータについて関心があれば、制度的な側面については、こうした問題を所管する政府機関である連邦政府調達庁(General Services Administration)の障害者関連情報技術センター(Center for Information Technology Accommodation)*9から入っていくのがよいのではないだろうか。ここは、政府購入のパソコンなどに障害者対応を求めたリハビリテーション法508条を担当している部署である。あるいは技術的な側面については、ヴァンダーハイデン教授が率いるウィスコンシン大学のトレース・センター*10や最近ホームページをやっと開いてくれたクロージング・ザ・ギャップ*11からのアクセスがいいだろう。ともに、豊富な製品やソフトのリスト、あるいは関連ホームページへのリンクをはっている。
 雇用の分野でいえば、障害者雇用大統領委員会(President's Committee on Employment of People with Disabilities)*12から入っていくのがよいのではないか。ここには、従来、同委員会が運営していた、職場における障害者受け入れ事例集(Job Accommodation Network : JAN)*13がホームページ化されている。また、わが国の職域開発援助事業のモデルとしても注目されている援助付き雇用(Supported Employment)について知りたいということであれば、その研究機関のメッカともいうべきヴァージニアコモンウェルス大学の援助付き雇用に関するリハビリテーション研究・研修センター*14にアクセスするのがよいだろう。
 福祉機器・用具について関心があるなら、前述のナリックの中のエイブルデータ(ABLEDATA)*15にアクセスするのがおすすめである。ここでは、アメリカで流通しているほぼすべての福祉機器の紹介がなされている。画像がないのが残念であるが、キーワードからの検索も容易である。
 知的障害分野に関心があるという場合は、なんといっても、知的障害者の代表的団体であるアーク(ARC)*16にアクセスしてみるのがよいだろう。ここからは、知的障害に関する多数のホームページにリンクがはられていることはいうまでもない。ARCとして開設しているADAのホームページも充実している(Access ADA)*17
 聴覚障害関連ならギャロデット大学が運営する聴覚障害情報センター(National Information Center on Deafness)*18視覚障害関連なら米国の視覚障害者関係の二大組織である全米盲人協会(National Federation of the Blind)*19と全米盲人基金(American Foundation for the Blind)*20をまずおさえておきたい。精神障害関連では、日本の厚生省にもあたるHHS(Department of Health and Human Services)*21が運営する精神保健関連ホームページ一覧などが最初の入り口としてはよいであろう。
 アクセスについて関心がある場合は、建築物および交通機関に関する改善命令委員会(Architectural and Transportation Barriers Compliance Board)*22から入ってみたい。制度的にも技術的にも、また関係機関へのリンクという点からも出発点としてはここが最高である。前述のナイダーのもとにある研究事業一覧(Program Directory)というのも、興味のある人にとっては見逃せないものである。ここには、ナイダーの補助金によって、どこの研究機関がどんなテーマで研究しているかがひとめでわかるのである。

●アメリカの主な障害者関係のインターネットアドレス一覧●

1 NARIC:http://www.naric.com/naric
2 NIDRR:http://www.ed.gov/offices/OSERS/NIDRR/index.html
3 Center for Universal Design:http://www2.nosu.edu/nesa/design/cud
4 Access Today:http://www.indiana.edu/~nca/
5 こころWeb:http://www.ibm.co.jp/kokoroweb/
6 Information Resources for Persons with Disabilities:http://www.dais.is.tohoku.ac.jp/~iwan/handicap_res.html
7 ADA & Disability Information:http://www.esrin.esa.it:8080/handy/om/distr/iu/local/ada.html
8 司法省のADAのホームページ:goghers//justice2.usdoj.gov/11/crt/ada
9 Center for Information Technology Accommodation:http://www.gsa.gov/coca/
10 ウィスコンシン大学のトレース・センター:http://www.wisc.edu.
11 クロージング・ザ・ギャップ:http://www.closingthegap.com
12 President's Committee on Employment of People with Disabilities:http://www.pcepd.gov.
13 JAN:http://www.janweb.icdi.wvu.edu
14 ヴァージニアコモンウェルス大学の援助付き雇用に関するリハビリテーション研究・研修センター:http://www.vcu.edu/rrtcweb
15 ABLEDATA:http://www.abledata.com/index.htm
16 ARC:http://thearc.org/welcome.html
17 Access ADA:http://thearc.org/hags/c
18 National Information Center on Deafness:http://www.gallaudet/~nicd/
19 National Federation of the Blind:http://www.nfb.org/
20 American Foundation for the Blind:http://www.afb.org/afb/
21 HHS:http://www.mentalhealth.org/mhlinks/mhlinks.htm
22 Architectural and Transportation Barriers Compliance Board:http://www.access-board.gov/

おわりに

 かつて、海外までわざわざ出向かなくては入手できなかった資料や、取り寄せに日数を要した資料が、インターネットのおかげですぐに見ることができるようになった点はすばらしいの一語につきる。しかし、情報過多の中でその内容を読みこなす能力(リタラシー)をもつことはたいへんなことである。
 読みこなす能力というのは単なる英語力(読み書きリタラシー)という意味ではない。英語力はもちろんであるが、それ以上に必要なのは、得られた情報の信頼性や全体の流れの中における意味を読みとる能力(情報リタラシー)ということである。この点についてはインターネットもコンピュータも何も教えてはくれない。
 インターネット上での情報リタラシーを身につけるためには、ホームページを運営している団体がどういうものかをよく知る、ホームページの内容が頻繁に更新されているかをきちんと確認しておくことなどが必要である。また、いうまでもなく、アメリカ全体の社会的な背景についても知識を備えておく必要がある。それができてはじめて、単なる情報(インフォメーション)は、情報を意味するもうひとつの英語であり、知性をも意味するインテリジェンスにかわることができるのである。

(くぼこうぞう エンパワメント研究所主任研究員)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年6月号(第17巻 通巻191号)74頁~78頁