音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

特集/さわやかに 新教員来る

インタビュー・花田春兆さん

教壇に立つ(?)

聞き手・萩原正枝

 今年の秋から城西国際大学人文学部福祉文化学科で「障害者と文化」を担当されることになった花田春兆氏に、授業の予定やこれからの抱負についてお話をうかがった。

―授業のテキストとして、『日本の障害者―その文化史的側面―』を執筆されたそうですが、その内容、授業のねらいなどについてお聞きしたいのですが…。

 現在では、障害者は専ら福祉や文化の受け手として位置づけられていますが、日本の歴史を検証してみると、文化の創造・普及・伝承など、すべての面で貴重な担い手であった長い歴史があります。この文化史的側面に光をあてて、障害者への価値観の変革を促したいと思っています。テキストで使用する予定の『日本の障害者―その文化史的側面―』では、皆さんよくご存じの『古事記』や『鳥獣戯画』などを取りあげています。これらの中に描かれている障害者像を通して、歴史や文化を担ってきた事実を明らかにしながら、その意味を現代に生かしていきたいと考えています。例えば、『古事記』関連では、海に流された重症児のヒルコが福の神のエビスになる話とか、UFOや宇宙人を思わせるコビトのスクナヒコナノミコトとか、歩けなくても天下のことすべてを知っている1本足のクエビコの話などです。
 もちろん、歴史的な事実としての視力障害者の芸能集団である琵琶法師たちの活躍に触れないわけにはいきません。
 また、文学作品などに現れた障害者観の時代的変遷にも触れ、コンピュータをはじめとする現在のハイテク技術を使っての障害者の文化的創造の可能性についても触れたいと考えています。

―今まであまり歴史の中で取り上げられてこなかった、障害者の文化的貢献を、古代から現代に至るまでの文化史的側面を通して明らかにしようということですが、先生独自のわかりやすい表現でいうと、どういうことになりますか。

 今まで見ていても、見えなかったものを見る。同じものでも、角度を変えてみると今までと違ったものが見えますよ、ということです。例えば『一遍聖絵』という絵巻物は、美術品としてもすばらしいものですが、この中には一遍上人につき従った実に多くの人々が描かれている中に、さまざまな障害者もいます。木の小さな車輪をつけているらしい板に乗っている人、手に下駄を履いている人、食事の介助を受けている人など。『北斎漫画』にも車いすの絵が描かれています。これなども美術的価値とは別に、もうひとつの見方ができるでしょう。

―大学側の受入れ体制の状況は、どのようになっているのでしょうか。

 言語障害をいかにフォローするかは、なかなかむずかしい問題です。盲の人には案内人がつく、ろうの人には手話通訳がつくように、言語障害の人には言語通訳がつくと、大変助かります。そういう保障がほしいですね。コミュニケーションの介助者をつけるという保障があれば、大学で教えることのできる人がもっとたくさん出てくると思います。
 私はあまり長く話さないでもいいような授業のスタイルを考えています。テキストとビデオやプリントなどでコミュニケーションをはかる予定です。このビデオはテキストを基に、コンピュータ・グラフィックやナレーション・音楽などで構成しています。
 それと、コミュニケーションということで言えば、あまり人数が多いよりも、10人くらいまでのほうが、密度の高い授業ができそうですね。

―障害をもった先生から直接授業を受けることができるのは、学生にとって大変貴重な経験ですから、コミュニケーションの保障は大切ですね。大学は千葉県とのことですが、ご自宅からはどのくらいかかるんでしょうか。

 ルートにもよりますが、少なくとも3回は乗換えがありますので、4時間くらいかかります。JRで通うとなれば、手動の車いすでないと乗換えが大変です。その場合、電動車いすが2台あればいいんですが…。1台を大学に置いて、1台を自宅で使うことができるようにならないかな、と思っています。
 大学に日帰りはむずかしいので、1晩泊まることになると思います。行った日の午後、2時限授業して、翌日1時限授業して帰る予定にしています。

―大学側の宿泊設備は大丈夫なんでしょうか。車いすで移動する時の段差の問題や車いす用のトイレなどはあるのでしょうか。

 大学のほうでは、車いすの学生を見かけましたから、校舎内は車いすで動けるのではないか、と思っています。
 宿泊する家の確認はまだしていません。私の授業は後期(10月から)なので、これからです。ただ、大学側もはじめてのことなので、どうしたらいいのか、何が問題なのかわからないんでしょう。困ったことがあったら、そのつどお互いに検討していくということになると思います。実際にやってみなければわからないことも多いですからね。

―食事なども、介助者が必要だと思いますが…。

 そうですね。介助者がいたほうが助かります。できれば授業の合間に、学生たちとお茶を飲んだり、食事をしたりといった付き合い方ができたらいいですね。
 せっかく宿泊するんですから、時にはノミニュケーションもいいですね。そういう機会のほうが、幅広い会話を楽しめますから、お互いにもっと知り合えますよね。

―そういった幅広いコミュニケーションから得られるものは大きいですね。

 コミュニケーションや通勤の問題など、いろいろありますが、このあたりをクリアできれば、もっと多くの障害者が教壇に立てるようになって、大学の授業に多面的なよい影響を与えることができるでしょう。

―花田先生、今日はお忙しいところをどうもありがとうございました。先生の授業を受けた学生たちは、きっと新しい世界に出合うでしょう。益々のご活躍をお祈りしています。

(はぎはらまさえ フリーライター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年7月号(第17巻 通巻192号)24頁~26頁