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列島縦断ネットワーキング

神奈川・スウェーデン福祉の実践を学ぶ

―クラブEKOの活動―

佐原伸子

ロックグループ「EKO」

 EKOは、スウェーデンの知的障害をもつ人たちが中心となって活動しているロックバンドです。当初は、ストックホルムのエクトルプ・デイセンターのレクリエーショングループでしたが、そこで音楽を指導していた大滝昌之氏(注1)が音楽好きのスタッフに協力を求め、1986年、仲間たちとともにロックグループ「EKO」を結成しました。翌年11月の初コンサートは大きな反響を呼び、一般の人たちにメッセージを送る「伝達者」として、さまざまな場所で演奏を行うようになりました。
 海外での公演も盛んに行われるようになり、結成以来、1つの音楽集団として自立していくことを夢に活動を続けていた彼らは、週2回のレクリエーションの枠を超えて、「仕事」として活動を展開したいと考え、1991年4月に「デイセンターEKO」として独立しました。1992年、94年、96年の来日では、全国各地をまわり、「EKOライブ」を大成功させました。

「クラブEKO」の発足

 1992年の初来日以来、ロックバンドEKOが全国各地で展開した数々の公演を通して、日本で暮らす人々の間にもさまざまなネットワークが生まれました。その絆をベースに1995年8月、「クラブEKO」が発足しました。現在は、年4回の会報誌の発行、大滝昌之氏を招いての音楽セラピーワークショップや講演会の開催、ストックホルムにEKOやデイセンターを訪ねるEKOオープンツアーの企画、会員間の情報交換などを行っています。
 今年3月に開催した、「エコーフォーラム97」では、スウェーデンFUB(注2)会長のエライン・ヨハンソン氏の初来日講演を行いました。講演会では、大滝昌之氏の講演もあり、その内容は深い感銘を受けるものでした。そこで、今回の講演から学んだ日本とスウェーデンの福祉の違い、視点の違いを報告したいと思います。

大滝氏の講演から

◆「周囲の人たちが彼らを知的障害者につくってしまっているのだ」

 講演中の大滝氏のこの一言に、私は頭をガツンとなぐられたような気がしました。援助者の一人として、自分の実践に不安を感じていた部分を否定されるのは怖いものです。しかし、障害の捉え方を見つめ直さない限り、先へは進みません。

◆「生活」という言葉の意味

 福祉は生活に根ざしたものですから、生活の意味は重要です。スウェーデンでは、生活を「住む・働く・余暇」で考えます。ここでいう余暇とは、仕事をしないすべての時間を指します。
 日本では働くことが衣食住の手段になっています。一方、スウェーデンでは、働くことは人間らしく生活する権利の1つなので、障害者の社会参加が進み、障害のある人にも働きやすいシステムが整備されているのです。

◆「リハビリテーション」と「ハビリテーション」

 知的障害者をリハビリテーション(社会復帰)するということは、社会の中にもともと障害者が存在しない発想からきています。しかし、社会は老若男女すべてを含むものです。そのことからハビリテーションとは、社会の中のすべての人々が各々の能力を発揮し、その人らしく生きていけるようにすることです。スウェーデンでは、後者の考えに基づいて生活保障を行っています。

◆障害者を取り巻く人々や専門家のあり方

 日本では、障害関係者や専門家がそれぞれの立場でハンディのある人をどのようにしたらよいかと考えています(図)。そのため、一番大事なその人自身がどう思っているのか、何をどう考えているのかが見えてこない現実があります。専門職同士の対話や本人の意志の確認が不十分なのです。

図 本人と援助者・周囲の人との関係

図 本人と援助者・周囲の人との関係

 スウェーデンでは、本人の意見を専門職が聞いて実行しています。意志を表せない人には、ゴードマン(代理人)が代理で援助の申請・金銭管理を行っています。そこには1952年にFUB(注2)ができ、初めて知的障害者本人の権利というものが注目された経過があります。本人の権利を主張しないと福祉は遅れるということをスウェーデンは実証したわけです。援助者は本人の主張する権利を満たすのが仕事なのです。

◆知的障害者の対象について

 日本では、IQの低い人を知的障害者と位置づけています。つまり、「わからない人」を対象とするので「どう教えようか」と考えてしまいます。スウェーデンでは、現在、IQ検査や障害等級はありません。知的障害者とは、「さまざまな理由で成長が遅れているが、常に成長している人」として認識されています。
 FUB会長のエライン・ヨハンソン氏によると、「知的・知能とは五感により情報を整理することである」と言っています。それは大きく分けて次の5つに分類されます。

①場所(場所の概念の説明。最重度の人は経験を繰り返すことが有効)
②時(今日、明日の区別。最重度の人は今、ここからの概念が重要)
③質(大小の区別など。繰り返しの説明を行う)
④量(数を数える)
⑤理由(なぜこうするのかの説明)

 大滝氏も同様に、前述の視点から「知的障害者を理解しないと、援助しているつもりのことが援助にならない」と述べています。本人の本当の意志を読みとることが大切なことなのです。

 以上、大滝氏の講演から、私は「本人の本当の意志を読みとること」の難しさを痛感しました。言葉でいうのはやさしいことですが、実践となると反省することが多い日常です。今後、この講演で学んだ考え方を実践に生かしていきたいと思います。

(さはらのぶこ クラブEKO)

〈注〉
1 大滝昌之氏:スウェーデン在住27年。デイセンターEKO所長、音楽セラピストとして活躍している。
2 FUB(エフ・ユー・ベイ):Riksforbvndet for Utvecklinngsstorda barn Ungdom och Vuxha。スウェーデンの知的障害をもつ人々のためのナショナルソサエティで、障害をもつ本人・家族のために組織されている。約150の地方協会をもち、3万2000人以上のメンバーがいる。メンバーは、障害をもつ人々、関係者、そしてFUBの主旨に賛同してくれる人々である。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年7月号(第17巻 通巻192号)66頁~69頁