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列島縦断ネットワーキング

熊本・芸術を通した日中友好事業

田畑隆敏

 「う~ん、すごい!!」孔黎翔君が両足を使い、印を彫る姿を初めて見た、いつわりのない私の第一声でした。
 孔黎翔君は、1972年、中国浙江省寧波市鎮海区生まれ、25歳。
 8歳の時高圧線に触れてしまい、結果として両腕を失くしてしまいました。その後日本の映画『典子は今』を見て、感動し、勇気づけられ、生きる希望をもったといいます。
 そして、書、絵画、篆刻を勉強し1989年から中国の全国、省、市クラスの作品展に出品し、二十数回賞を取っていると聞いています。特に秦、漢時代の篆書体をよく勉強していて、専門家の評価では、日本国内の最高峰の作品展、日展に出品しても入選するのではないかと言われています。

国際交流とは

 さて、熊本県身障連は平成5年から「アジア太平洋障害者の十年」の計画に基づき、まずは隣国、中国に焦点を絞り、交流を深めることを決定しました。ご承知のとおり、中国とは先の大戦以来、さまざまな問題を現在に至るまで引きずっています。
 ただ、そういった諸問題があるにしても、それを踏み超え国際的な交流をはからなければいつまでも平和で友好的な交流はできないと思い、まず、初年度は北京、桂林(熊本市と友好都市)、蘇州と回り、その各省市の残疾人聯合会(中国での身障者連合会をいう)と交流を行いました。お互いの国での法律、環境、教育、雇用、福祉機器、さらに地域の協力等について、現在どういった状況下にあるのか意見交換を行い、大変意義ある交流ができました。思っていたとおり、日本よりかなり遅れた障害者に対する対応が見られました。公的機関におけるスロープ、エレベーター等の施設の問題、教育の問題、雇用の問題等、数え上げればきりがない状況下にあると思われました。
 翌年も上海、杭州(浙江省)、さらにその翌年も北京、瀋陽(遼寧省)への訪問、そして一昨年は上海、杭州、大連(遼寧省)と訪問し、各省市の残疾人聯合会と交流をはかってきました。
 その各省市の残疾人聯合会との交流の中でも、特に浙江省と遼寧省両聯合会とは心からの交流が深まりました。そして、お互いの国に共通し、共有できる部分で協力ができないものかを討議する中で、芸術の交流とりわけ書、絵画についての交流に絞られました。ご承知のとおり、漢字については中国のほうが歴史があり、さらに日本の先生であることはいうまでもありません。日本においても、中国においても、障害者の中で秀でた芸術能力をもった人がいるといった話がもちあがり、それでは、そういった能力のある人たちを発掘し日の当たる場所に出し、その人たちがそれによって生きがいを見つけ、そして、他の障害者に対しても生きる喜びを与えられる場所をお互いが提供しようではないかといった形に結論づけられました。よって、95年は杭州より作家2名を含む5名、そして96年は杭州より作家4名を含む10名の方々を招待し、当地、熊本において、作品展を開催しました。
 とりわけ、96年の作品展は、日展会友、篆刻家の橋爪蘇碩氏(東京都在住)の心からのご協力により、作品の選定、表装、さらに作品展示にいたる細かな部分までのご指導をいただいて、一般の芸術家の作品展にも劣らない作品展を開催できたことはたいへん感謝しています。
 さらに、中国の身体障害者との国際交流という意味をご理解いただき、在日中国大使館の後援をいただいたことは、当連合会にとっても大きく勇気づけられたことがらでした。そして、中国大使館の趙夫妻、熊本市の三角市長ほか、多くの皆さんの前で浙江省残疾人聯合会と友好締結の調印を行うことができたのも大きな喜びでした。
 そして、昨年においても、8月1日~10日まで熊本テルサ(熊本市)で作品展を開催しました。大連市残疾人聯合会より作家2名を含む9名、浙江省残疾人聯合会より作家1名を含む3名の方々をご招待して、「NHKハートウィークス」の期間中に開催し、多くの障害者や一般の方々に作品及び実演をご覧いただき、その姿に感動や勇気を与えたのではないかと確信しています。

自立とは

 さて、この「アジア太平洋障害者の十年」という期間の中で、一昨年及び昨年にひきつづき作品展を開催したのは、一般の方々にも障害者の自立している姿を見てもらう機会を提供するということが1つと、その作品の一部を複製し販売しようという企画からでした。それは障害者の団体として、すこしでも運営費等を捻出し、障害者のために活用していこうとすることと、その益金を中国の福祉のために役立てようという思いからでした。
 特にこの「アジア太平洋障害者の十年」の期間においては、中国や他のアジア太平洋地域の各地に我が国の障害者施策で集積されたノウハウや経済支援が積極的に行われています。当連合会が芸術交流の中ですこしでも益金を捻出し、県内の障害者に対する運営費等に活用したり、中国の障害者に対しても経済支援を行うということはかなり意義深いことではないかと思います。このような行動を短い期間で終わらせることなく、長く続けて、国際交流ひいては国際平和に結びつけられたら一番いいことではないかと思っています。そして、そういった幅広い活動を行う当連合会は国際交流室を設置し、十分な対応ができるよう考えています。
 最後に「アジア太平洋障害者の十年」の中で、当連合会の活動が国際交流、さらに国際平和のために貢献し、国内においては各県の連合会の積極的な活動の起爆剤になれればと心から祈念しています。

(たばたたかとし 社会福祉法人熊本県身体障害者福祉団体連合会常務理事)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年1月号(第18巻 通巻198号)66頁~68頁