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障害者福祉における専門職及び関連職種の課題

坂本洋一

はじめに

 障害保健福祉施策全般について総合的に見直すため、平成8年10月に、身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会、公衆衛生審議会精神保健福祉部会にそれぞれ企画分科会が設置され、同年11月から合同で審議を開始した。平成9年12月の「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」において、基本的な施策の方向の中で、「障害特性に応じた需要を満たすためには、これに対応しうる専門職を関係諸機関に配置するとともに、これら専門職の研修体制の整備を図ることが必要である」と報告されている。さらに、同合同企画分科会より、平成11年1月「今後の障害保健福祉施策の在り方について」が意見具申され、障害保健福祉サービス水準の確保について触れている。つまり、「福祉サービスの質の向上のため、施設・設備や職員の配置の基準、職員の資質向上のための研修体制の充実等について速やかに検討する必要がある」と意見具申されている。
 これらの中間報告及び意見具申において、専門職の研修が重要であると認識されている。今後、障害保健福祉施策を具体的に推進するうえで、専門職の質的な向上が必要となってくる。

1 障害保健福祉における専門職等

 障害保健福祉における専門職等には、多くの職種が存在する(表)。表には、障害者のリハビリテーション・福祉にかかわる職種を、法律によって資格法として規定されている職種から、設置法または設置・配置を規定した法律、行政通知に基づく職種まで幅広く列記した。これらの職種を、各リハビリテーション分野に分類し、さらに障害に共通してかかわる職種と、肢体不自由、視覚障害、聴覚・言語障害、内部障害、精神障害、知的障害に主にかかわる職種に分けた。

表 障害者リハビリテーション・福祉にかかわる専門職等

障害別 医学的リハビリテーション 教育リハビリテーション(特殊教育) 社会リハビリテーション(障害者福祉) 職業リハビリテーション
障害に共通 リハビリテーション専門医
リハビリテーション認定医
内科医
精神科医
その他の医師
看護婦(リハビリテーションナース)
保健婦
調理師
スポーツ指導員
特殊教育教諭
特殊学級教諭
一般的職名
ソーシャルワーカー
ケースワーカー
ケアマネジャー
分野別職名
医療ソーシャルワーカー(MSW)
リハビリテーションソーシャルワーカー(RSW)
資格の名称
社会福祉士
介護福祉士
臨床心理士(CP)
施設・機関の職名
生活指導員
心理判定委員
社会福祉主事
身体障害者福祉司
児童福祉司
児童指導員
コーディネーター
ホームヘルパー
寮母
保母
身体障害者相談員
職業カウンセラー(VC)
職能評価員
職業指導員
職業相談・紹介担当者
肢体不自由 整形外科医
神経内科医
泌尿器科医
あん摩・マッサージ・指圧師
理学療法士(PT)
作業療法士(OT)
言語聴覚士(ST)
義肢装具士
養護学校教諭
養護・訓練教諭(肢体不自由教育)
養護・訓練教諭(言語障害教育)
自動車運転訓練指導員
重度脳性まひ者等全身性障害者ガイドヘルパー
 
視覚障害 眼科医
視能訓練士(ORT)
盲学校教諭
養護・訓練教諭(視覚障害教育)
歩行訓練・生活訓練指導員
点訳者
ガイドヘルパー
盲ろう通訳・ガイドヘルパー(盲ろう者対応)
 
聴覚・言語障害 耳鼻咽喉科医
言語聴覚士(ST)
聾学校教諭
養護・訓練教諭(聴覚障害教育)
聴能訓練師
手話通訳士
手話通訳者
要約筆記者
盲ろう通訳・ガイドヘルパー(盲ろう者対応)
 
内部障害 内科医
各臓器専門医
オストメイト対応看護婦(ET;Enterostomal Therapist)
     
精神障害 精神科医
精神科ソーシャルワーカー(PSW)
理学療法士(PT)
作業療法士(OT)
  精神科ソーシャルワーカー(PSW)
精神保健福祉相談員
グループホーム世話人
 
知的障害 精神科医 養護学校教諭 知的障害者福祉司
知的障害者相談員
作業指導員
地域生活支援ワーカー
グループホーム世話人
 


 医学的リハビリテーションの分野においては、医師を含め、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、あん摩・マッサージ・指圧師、視能訓練士、義肢装具士、オストメイト対応看護婦、精神科ソーシャルワーカー等資格制度によって規定されている職種が圧倒的に多い。教育リハビリテーション及び特殊教育の分野においても資格制度によって規定されている。社会リハビリテーションの分野では、資格法に基づく職種は社会福祉士、介護福祉士である。
 また障害者の地域生活の自立と社会参加を支援する観点から、近年、ケアマネジャー(介護等支援サービス体制整備推進事業において試行的に実施している)、地域生活支援ワーカー、コーディネーター、グループホーム世話人等の職種が登場してきている。
 ケアマネジャーは、ケアマネジメントを希望する利用者の複合的なニーズを満たすためのサービスを的確に提供し、地域生活を支援する要となる職種である。
 地域生活支援ワーカーは、知的障害者通勤寮等に設けられた知的障害者生活支援センターで、通勤寮等内の職員と協力し、対象者の把握及び適切な支援活動を行う。コーディネーターは、地域生活支援事業を行う施設で、在宅福祉を担当する。グループホーム世話人は、地域における知的障害者及び精神障害者グループホームへの入居を望む者に対し、自立生活を助長することを目的として日常生活の援助を行う。

2 障害保健福祉における専門職等の課題

 中間報告にも指摘されているように、今後障害特性に応じたリハビリテーションのニーズに対応する専門職としての在り方、専門性の確保のための研修体制の在り方等が検討される必要がある。
 専門職の専門性が問われるとき、専門的な知識・技能の修得は当然のことであるが、今後、地域生活を支援する観点から、障害者に的確な情報を提供するための情報収集能力と分析能力、ネットワークづくりに協力できる能力、チームワークを遂行する能力、利用者の自己決定を認め、支援者としての自覚をもつ能力等が求められる。また、専門職自身が、地域リハビリテーション・システムあるいは地域ケア・システム全体のどこの分野に位置しているかを理解することが大切である。全体を把握しない状態で、サービスを提供しようとすれば、地域の社会資源を効率よく活用できなくなってしまう。これらの課題を養成・研修の中で的確に学習する機会が必要であろう。
 これらの専門職等の研修体制は多様で、国立機関の養成・研修、都道府県及び指定都市の養成・研修、全国社会福祉協議会の研修、各職能団体の研修等、それぞれの養成・研修の目的をもって実施されている。これらの専門職種の養成・研修は、障害保健福祉サービスの実施体制と関連づけて行われるべきであり、さらに、国立機関、都道府県の総合リハビリテーションセンター等における養成・研修、社会福祉協議会、職能団体等それぞれの役割を機能別に明確にして養成・研修体制作りをしなければならない。
 市町村がサービス主体となる場合は、市町村の地域特性に応じた人材確保と養成研修がなされ、都道府県がどのようにしてバックアップしていくかが同時に考慮されるべきである。高度で専門的な知識や技能を必要とする専門職種の場合、市町村で研修体制を整備するより、総合リハビリテーションセンターあるいは国立機関等で養成・研修を実施するほうが効果的である。ある職能団体では、生涯研修制度を発足させ、生涯にわたり知識、技術の向上に努められるようになっている。障害保健福祉サービスの実施体制の変化、障害者の意識の変化等に対応した新たな研修を実施するためには、今後の養成・研修体制は、専門職の職種と配置場所、サービス実施体制、研修の責任の所在等を総合的に検討する必要がある。

(さかもとよういち 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課障害福祉専門官)