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ケアについての一考察 第5回

ALS患者の願い
-介護人の医療行為を認めてほしい-

橋本みさお

 私は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気で、現在、自宅で24時間の介護を受けて生活しています。
 ALSという病気は、口頭で説明するのは難しいのですが、簡単に言えば、脳幹部のなかで運動神経を伝える細胞だけが侵される進行性の神経難病です。病気が進むと体の自由がきかなくなり、話すことも食べることも、呼吸することさえも難しくなります。日本には、現在4500人くらいの患者がいます。
 私は、24時間の介護を必要としていますが、この病気の特色は、自分の行動をすべて他人に委ねなければ生きていくことができないことです。考えることはできても自分で何一つ行動することができないので、24時間の介護は必要不可欠です。家族介護がほとんどのALS患者の中で、私は他人介護だけで生活しています。
 ALS患者のケアの特殊性は、医療行為を伴うことです。たとえば吸引、経管栄養の摂取、排せつの際の摘便も医療行為で、これらの行為は公的ヘルパーには一切できません。最近では、軟膏の塗布や湿布までも医療行為ではないかと取り沙汰され、もちろん投薬もできません。
 私の場合、介護はすべて自薦の介護人で、日勤、夜勤というように時間を決めて24時間体制で介護にあたってもらっています。仕事の内容は、吸引をはじめとする医療行為のほか、排せつ、洗顔、新聞や本を読むときの手伝い、買い物のメモ、電話や来客の応対など挙げたらきりがないほど生活のほとんどです。昼間は、4人が交代で入って、夜勤は学生さん(福祉系の大学生)です。公的な保障では、1日に6時間分サービスが足りないので、夜勤の学生さんは有償ボランティアという形をとっています。ですから、通常の介護人よりもその部分の費用は押さえ気味です。
 それでも毎月介護にかかる費用は95万円ほどで、東京都の諸制度などでまかなっていますが、学生さんの介護見習期間の手当など、月10万円近くの自己負担をしています。
 昼間来ている人たちは、仕事内容から、どちらかというと介護人といったほうがいいかもしれません。家事援助は、ホームヘルパー派遣の4時間分の費用で、民間の会社に依頼しています。
 それから介護人とのコミュニケーションは、私が生きていくうえでどうしても必要なことです。私の体の状態を介護人に伝えられないというのは、生命にかかわりますので、私とのコミュニケーションに慣れている人、つまり自薦の介護人でないといけない理由がここにあります。
 私と介護人とのコミュニケーションは、次のようにしています。たとえば、私が「おはよう」と伝えるとき、まずはじめに私が母音「あ」の形に口を開けます。読み取り手は母音の口の形を判断した後に、子音を読み上げ、私が合図(瞬き)した音をつなげていきます(濁音は、瞬き2回で表します)。そのため介護人がこの方法を覚え、私とコミュニケーションができるまでに通常3、4か月かかります。
 また、私は人工呼吸器の使い方は全部分かりますが、介護人に「こうして」という指示が伝えられません。どこか一つでも外れていると空気が伝わらなくて、呼吸が苦しくなってしまいます。そのため新人の人は、2か月間先輩について研修をします。そして3か月目からは1人で介護に入ってもらいます。
 ALSは、介護保険の中の特定疾患に指定されています。先日「要介護度5」の判定が出された人がいました。「要介護度5」は練馬区の場合、40万円が上限の予定で、そのすべてを介護人に使ったとしても今よりは金額が減ってしまいます。
 介護保険に金額の上乗せができて、今までと変わらない介護が受けられるために自薦介護人が継続できること、そして医療行為がヘルパーの日常行為として認められることを強く望みます。
 ALSのように医療行為を必要とする人は、何よりもQOL以前の生命維持の保障があってこそだからです。

(はしもとみさお 在宅介護支援さくら会代表)


※今回の原稿は、橋本さんにインタビューしたものを編集部でまとめたものです。