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障害のある子どもたちは、いま vol.18

障害児と地域生活(1)
「障害児と生活支援用具」

繁成剛

 障害のある子どもたちの生活を支援する福祉用具は、現在、さまざまなものが開発され市販されています。その中でも日常生活に密着した機器を中心に紹介したいと思います。

1 姿勢保持具

 障害のある子どもが日常生活を営むうえでまず必要なことは、姿勢を保持することでしょう。座位が確保できれば、食事、排せつ、学習、遊びなどの自立が図れますし、介助も楽になります。うまく座れない子どものために設計されたいすを座位保持装置と呼びますが、これには既製品と個別製作品があります。どちらも子どもの成長や発達によって寸法や角度が調節ができるようになっています。機能とデザインともに優れた既製品の一つとして、デンマークのR82社の「パンダ」1)があげられます。角度や高さが簡単に調節できる点と座面や背もたれの形状が曲面に成形されていることが特長です。個別製作品の代表として25年前から製作を続けている「でく工房」のいす2)があります。現在は全国各地に約60の工房があり、補装具の給付制度を使って製作を依頼することができます。フレームは木製で細かな調節ができ、身体を支えるクッションは一人ひとりに合わせて丁寧に削り出して製作しています。
 座位だけでなく、立位や臥位を保持する装置もあります。立位保持具は訓練のなかでよく使われていますが、やはり既製品と個別製作品があります。前者は海外の製品に多く、後者は国内の工房がオーダーメイドしています。重症児に適応することの多い臥位保持具は既製品がほとんどなく、多くは個別に注文製作しています。
 姿勢保持具は身体に合っているだけではなく、長時間、安定した快適な姿勢が保持できることも大切なポイントです。また、一つの姿勢に長時間固定するのではなく、常に姿勢変換できるような工夫や介助が必要です。

2 移動補助具

 人間の生活や社会活動の中で移動は欠くことのできない行為です。障害のある子どもに自分の意志で自由に移動できる道具や環境を設定することで、本人の意識は大きく変わります。移動に障害があると認知面や知的な発達にも影響します。ですから、できるだけ早い時期から移動を援助することが重要です。移動を補助する用具として杖や歩行器がありますが、つかまり立ちや交互に足を出す能力が必要です。全く座位がとれなくても、立位に近い姿勢がとれ、自分の足で地面を蹴って移動することができる歩行器があります。筆者らが15年前に開発した「SRCウォーカー」3)です。前傾姿勢で保持してサドルに跨がるので、足で体重を支える必要がありません。透明なテーブルとハンドルが付いているので、上肢もしっかりと保持できます。
 上肢が自由に使える子どものためには自走式の事いすで、操作しやすいモデルが市販されています。就学前の幼児にはシーズの「パンプキン」4)が使いやすいでしょう。これは前輪駆動で、普通型車いすのアームレストの位置に大車輪がありますので、軽い力で車輪を回して操作することができます。後輪駆動で車軸を10cm前後に調節できるモデルに「アルミニ1」5)もあります。最も車輪を回しやすい位置に大車輪を調節できるので、普通の車いすをこげなかった子どもでも、自力移動できる例がありました。
 自力移動が難しい場合は、電動車いすの適応を考えます。昨年、ようやく国産の子ども用電動車いすが3機種市販されました。そのうちの一つが「NEO-P1」6)です。特長は6輪タイプで小回りがきくこと、シート部と駆動部が分割できるため車への積み込みが楽なこと、最高速度や加減速度が段階的に調節できること等があげられます。さらに就学前の幼児を対象とした電動車いすとして、筆者がデザインした「いーカート」7)も製品化されました。シートは一体型のバケットシートで簡単に着脱でき、座いすとしても使えます。透明なテーブルの中央にジョイスティックを配し、片手でも両手でも使いやすくなっています。スピードは無段階に調節できますが、パワーがないので室内専用と割り切ったほうがいいでしょう。
 全介助が必要な子どもの移動には、バギーや手押し型車いすが適応されています。従来から軽量コンパクトなモデルは姿勢保持が十分にできず、姿勢保持を重視したタイプは重く、折り畳みにくいという相反する特長がありました。昨年、きさく工房が開発した「RVポケット」8)は相反する機能をうまくまとめたバギーです。シート全体が傾斜するティルト機構がありながら重量が約10kgで、簡単に小さく折り畳めます。シートと背もたれはベルトの張り調節とウレタンのパッドで、座る子どもの体型や緊張に合わせてフィッティングできる点も特長です。
 昨年、座位の不安定な双児を乗せる6輪のバギーをデザインし、製品化しました。「ツインバギー」9)と名付けましたが、前後に二つのシートを配し、その中央に大車輪、前後にキャスターがあるため、軽い力で操縦できる点が特長です。シートはワンタッチで外せ、折り畳んで車に積み込みます。後輪キャスターにはガスダンパーが付いているので、介助ハンドルを下に押せば、簡単に前輪挙げができます。現在、3組の脳性マヒの双児さんが使っていますが、介助しやすいと好評です。

3 コミュニケーションエイド

 自立に向けてもう一つの重要なテーマはコミュニケーションです。自分の意志や思いを相手に伝えることは、自分で物事を決めていく自発的な心を育てるとともに、生きることを支える大きな力となります。言葉の出ない方のために音声出力型の意志伝達装置(VOCA)はいくつか開発されていますが、携帯できる国産製品は2機種です。そのうちの一つはナムコが開発した「トーキングエイド」ですが、昨年モデルチェンジして音声に抑揚機能が付いたり、パソコンヘの接続ができるなどの性能が向上しました。それに伴い価格も上がったので、日常生活用具の制度を使っても5万円近く自己負担しなければなりません。音声を録音するタイプでは、エーブルネット社の「ビッグマック」10)や「スピークイージー」11)、20種類以上の音声が録音できる「メッセージメイト」12)などが活用されています。パソコンを1入力のスイッチで操作できるように開発されたインターフェースとして、Mac対応の「キネックス」13)とWindows対応の「ディスカバースイッチ」14)があります。これをコンピュータにセットし、身体のどこかでスイッチを入れることができれば、文書作成やインターネットが楽しめるわけです。とは言っても、能力に合わせたスイッチやソフトの設定と、機器を使う本人の努力が必要なことは言うまでもないでしょう。

4 おわりに

 コンピュータは、それを使う人の障害が重度であるほど、自己の世界を広げる有効な道具となります。電気を使った製品ならばほとんどコンピュータに接続してコントロールできますので、寝たきりでも身の回りの環境を制御することが可能です。極端な例ですが、日本からブラジルの学校で飼っている金魚に毎日餌をやることさえできます。近い将来は、さまざまな障害のある子ども同士が、言葉や距離の壁を越えて、お互いの顔や声を確かめながら会話することが可能になるでしょう。大切なことは、加速度を増して進化するテクノロジーに振り回されないように、何が本当に必要かを考え、技術を人々の幸福につながるように応用することだと思います。その方法を技術者や専門家だけに任せるのではなく、利用者である私たちが提案し、行動していきましょう。

(しげなりたけし 北九州市立総合療育センター)


*筆者連絡先
 北九州市テクノエイドセンター
 北九州市小倉北区馬借1-7-1
 TEL 093-522-8721

〈製造・販売店リスト〉
1)テクノグリーン(株):(R82社)
  大阪府大阪市北区中崎西1-4-22
  TEL:06-371-0104
2)(株)でく工房
  東京都昭島市拝島町2-11-10
  TEL:0425-42-7040
3)、5)、7)、9)(株)有薗製作所
  福岡県北九州市八幡東区西本町4-1-5
  TEL:093-661-1010
4)(有)シーズ
  長崎県諫早市目代町705-16
  TEL:0954-22-6350
6)日進医療器(株)
  愛知県西春日井郡西春町大字沖村字権現35-2
  TEL:0568-21-0635
8)(株)きさく工房
  福岡県粕屋郡宇美町宇美2296-2
  TEL:092-932-6320
10)、11)、12)
  (株)パシフィックサプライ:(Ablenet社、D Don Johnston社)
  大阪府大東市御領1-678
  TEL:0720-75-8011
  http://www.p.supply.co.jp/
13)、14)(株)アクセスインターナショナル:(D Don Johnston社)
  東京都板橋区大和町23-3福井ビル
  TEL:03-5248-1151
  http://www.accessint.co.jp/