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列島縦断ネットワーキング

大阪
大阪市障害者就労(雇用)
支援センターの発足

小林茂夫

はじめに

 「大阪市障害者就労(雇用)支援センター」(就労支援センター)は、大阪市が策定した「障害者支援に関する大阪市新長期計画(1994:平成6年3月)」、「大阪市障害者支援プラン(1998:平成10年)」に掲げられた目標が具体化したものです。
 これまで大阪市の就労支援は、「大阪市職業リハビリテーションセンター(1985:昭和60年)」、「大阪市職業指導センター(1995:平成7年)」の障害者能力開発施設が中心になって事業展開を図ってきました。その中で、市の単独事業である「就労支援事業」をスクラップ・アンド・ビルドにより新たな就労支援機関へと変革し、労働省の新規施策である「あっせん型雇用支援センター」(大阪府知事指定)として、平成10年10月1日に事業を開始しました。

地域に密着した就労支援システムとして

 就労支援センターは、障害のある人たちが遭遇しているさまざまな「就労問題」を身近な地域で包括的に解決するために、労働・教育・福祉などの各関係機関、諸団体と連携を図り、地域に密着した総合的な就労支援を果たす機関として設置されました。
 事業全体を統括し、企業や関係機関のネットワークを支える「中央就労支援センター」(中央センター)と、大阪市内の福祉圏域を視野に入れたエリア内に、市内に5か所ある公共職業安定所に対応する「地域就労支援センター」(地域センター)5か所と、精神障害者に対応する分室1か所を配置して事業を展開しています(図1)。

図1 大阪市障害者就労(雇用)支援センターの組織図
   (平成11年10月1日現在)

図1 大阪市障害者就労(雇用)支援センターの組織図

 「障害のある人と企業を結ぶ支援システム」として、また「社会資源をコーディネートして必要なサービスを提供する支援システム」として、これまでにない新たな「就労支援ネットワーク」を創設し、活動しています。

図2 就労支援センターの業務内容

〈中央就労支援センターと地域就労支援センターの役割〉

中央就労支援センター
支援対象:
地域就労支援センター

業務内容:
1.地域就労支援センターの支援
  (職員研修/巡回相談/情報提供)
2.労働省・日本障害者雇用促進協会・大阪府労働部・大阪市などの公的機関との折衝
3.企業・経営者団体・労働団体との折衝
4.就労相談
  (障害者・保護者・支援者・企業など)
5.保護者・支援者・企業研修(広報・啓発・人権問題)
6.難しいケースの重点支援やケースワーク
7.就労支援ワーカーの養成
  (企業・市民ボランティア)
8.情報提供
  (雇用促進制度/社会資源/雇用企業など)
9.企業内職業指導や企業内授産の開発
10.業種の開発/支援機器/評価システムなどの研究開発
11.オンラインシステムの構築と運用

地域就労支援センター
支援対象:
未就労および離職により在宅している障害者
就労問題に直面している障害者/家族/支援者
事業所等

支援期間:
6か月(更新をすることができる)

支援業務:
1.就労問題相談(労働条件/離職/人権問題)
2.職能評価
3.短期の職業指導
4.職場開拓
5.企業実習とジョブコーチの派遣
6.アフターフォロー
7.就労生活支援(家族支援を含む)
8.地域機関との連携/調整
9.地域における企業協力会の組織化と運営
10.就労している障害者のサークル活動支援





「就労支援センター」の活動

 就労支援センターの事業内容は図2に示したとおりで、「職場開拓」「職場実習」「職場定着支援」を活動の中心に据え、積極的な取り組みをしています。開設以来(平成10年10月~平成11年9月)の実績は、利用者85人、職場実習360件、職場定着支援495件、就職者48人、相談件数196件となっています。
 開設後における新たな事業として、厚生省・労働省の連携施策である「障害者就業・生活総合支援事業」の委託を受け、中央センター内に「知的障害者生活支援センター」を設置して、「就業支援」と「生活支援」を一体的に提供する取り組みを開始しました。さらに大阪市教育委員会と連携を図り、知的障害養護学校等の在学生を対象とした「入寮体験事業」を大阪市職業リハビリテーションセンター、大阪市職業指導センターの協力を得て実施しています。
 また、市民生局施策推進課の積極的な関与により、99年の3月から知的障害のある人の試行実習を「大阪市施策推進プロジェクトチーム」「大阪市職員労働組合」と連携を図りながら大阪市所管のさまざまな部署において実施し、同年12月に「大阪市知的障害者の採用を検討する会」が設置されました。この間に「開設1周年記念研修会」を、ヨーロッパにおける障害者雇用施策研究の第一人者であるパトリシア・ソーントンさん(イギリス・ヨーク大学社会政策研究所主任研究員)を迎えて開催しました。「就労支援について何を目指してきたか、何を目指すのか」をテーマにしたシンポジウムでは、労働省・府労働部・市民生局・労働組合の各機関から貴重な提言をいただきました。

大阪障害者雇用支援ネットワークとの連携

 就労支援センターには、現在の経済状況を反映して突然の倒産、リストラに遭い、再就職を求める方々が多く訪れています。このニーズにどのように応えることができるのか苦慮していますが、幸いにもここ大阪において「大阪障害者雇用支援ネットワーク(1996:平成8年3月)」がさまざまな活動を展開しており、折しもこのネットワークが政策提言したものが、労働省の「緊急雇用安定プロジェクト」として実を結び、制度化され、日本経営者団体連盟に委託して全国展開をしています。この事業は、1か月の職場実習、3か月のトライアル雇用を行うもので実習者、事業所に助成金が支給されるというものです。
 大阪では府労働部、公共職業安定所の強力なバックアップを受けて、大阪の窓口として「大阪障害者緊急雇用支援センター」を立ち上げて取り組んでいます。実施件数286件、実習336人、トライアル雇用に移行214人、本雇用106人と大阪が全国に比べ突出しています。各「地域センター」とも、この制度を積極的に活用して企業開拓を行い、就労へと結びついています。
 99年9月に設立された「大阪障害者インターンシップセンター」と「就労支援アドバイザー」(市民ボランティア)の養成、合同企画による「企業の人事担当者等のセミナー」の開催など、就労支援センターはこの大きなネットワークを基盤にして連携を図るとともに、その一翼を担い活動しており、全国に例のない取り組みを行っています。

おわりに

 大阪府労働部の発表では、平成11年6月1日時点での大阪の民間企業の雇用率は1.52%、未達成企業の割合が全体で56.0%と、雇用環境は依然厳しい状況が続いています。
 しかし、支援にあたる者が、このことを障害のある人の雇用が進まない言い訳にしてよいはずがありません。「障害者緊急安定雇用プロジェクト」のように政策化されたものについては、確実に成果あるものとし、障害のある人が当たり前に働ける環境を築くために着実に前進したいと考えています。

(こばやししげお 大阪市障害者就労(雇用)支援センター)