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シリーズ 働く 53

喫茶室「あさぎ」をたずねて
-NPO「おおぞら」の取り組み-

須田香織

はじめに

 今回、ご紹介する喫茶室「あさぎ」を経営するNPO法人(特定非営利活動法人)「おおぞら」は、茨城県南部の牛久市で知的障害のある人たちが、ふつうの暮らしをしていく支援をするために「うしくあみ斎場」を足場に活動しています。喫茶室「あさぎ」を今回訪問し、「あさぎ」店長代理の原澤さん、職員の瀬上さん、「おおぞら」事務局長の渡辺さん、理事の名児耶さんにお話をうかがいました。
 今回訪問した喫茶室「あさぎ」が入っているうしくあみ斎場は、平成11年3月2日にできました。阿見町に隣接した牛久市の、有名な牛久大仏(高さ世界一!)を間近に見る静寂な小高い丘にあります。また、うしくあみ斎場は、平成11年12月24日に斎場としては世界で初めてISO14001(環境に対する国際標準化規格)を取得し、環境に配慮した斎場の運営という方針を打ち出したことで注目を浴びています。

産声を上げたNPO法人「おおぞら」

 知的障害者の「親の会」は、かねてより知的障害者の働く場を公共施設内で確保してほしいということを牛久市に要望し続けていました。そしてその願いは、建設中の斎場内に、知的障害者の働く場(喫茶室及び売店の運営)を提供してもよいという牛久市長の発言により、実現することとなりました。
 市長の発言を受け、また、うしくあみ斎場管理組合からも「安定した経営基盤の受け皿を確保してほしい」という要望が出されたため、どうすれば組織としての継続性を保証し安定した企業形態を維持していくことができるのか、どのような喫茶室・売店にしていくのか等の検討・準備が、平成10年8月より始まりました。
 折しもNPO法が成立し(平成9年12月1日施行)、NPO法人にしたほうがよいのではないか、というアドバイスが市からありました。
 単に知的障害者の働く場を広げるだけでなく、将来的には知的障害者が地域で自立した生活をしていくことができるための幅広いサービスを提供すること。加えて、支えている家族や地域の高齢者、地域住民が利用できるサービス(グループホーム、レスパイトサービス等)を提供したい、という目的にかなう形態として法人化することになりました。
 知的障害関連の3団体(牛久市手をつなぐ育成会、牛久心身障害学習会、牛久市民福祉の会)や牛久市・阿見町の社会福祉協議会より会員を募り、平成11年2月25日にNPO法人の認証を受け、3月1日に登記をし、茨城県内第1号のNPO法人「おおぞら」が産声を上げました。登記を終えた次の日には、うしくあみ斎場がオープンし、斎場内の喫茶室「あさぎ」もスタートしました。

「おおぞら」の活動

 「おおぞら」は営利活動と非営利活動を行っています。営利活動としては、1.喫茶室「あさぎ」及び売店の運営、2.おおぞら農園の経営として花・青果物の栽培、宅配・販売業務を行っています。非営利活動としては、グループホームの運営、レスパイトサービス、権利擁護活動等を予定しています。まだ準備段階で、研修会などの勉強活動を現在は行っています。

喫茶室「あさぎ」

 現在、6人の正規職員がローテーションを組んで働いています。うち2人が知的障害者です。ほかにボランティアとして応援に来ている「おおぞら」会員、知的障害者本人や保護者もいます。
 「あさぎ」の入っている斎場の特徴として、前述したISO14001の取得、式場利用の際の外花輪の禁止や生花の制限、祭壇への必要以上の飾り付けや火葬待ち合い時の飲食物の持ち込みを制限する等により、廃棄物の軽減を図っています。そのため、お通夜・告別式・火葬待ち合い時の会食・飲食等については、「あさぎ」が注文を受け、仕出し業者に仲介し、準備、セッティング、片づけ等を斎場の方針に従い、ISO14001の基準を満たすよう行っています。
 店長代理の原澤さんは、「あさぎ」で働くまで全く障害者と接した経験はなく、働き始めてから驚きの日々だったそうです。原澤さんによると、現在「あさぎ」で働いているAさんは、うまく感情の表現ができず、混乱してしまうと感情が昂ってしまったり、なかなか返事ができないなど理解に苦しんだ時期もありました。1年が経ち、Aさんは「はい」という返事ができるようになり、担当テーブルを決めておけば、本人も混乱することなく接客できるだろうと考えて担当をもたせたそうです。しかし、葬儀件数が日によって異なるため、喫茶室の利用客数もそれによって変わります。やはり来客の多い日には、お客さんから担当に関係なく声をかけられたり、注文を受けて混乱してしまうことがあるそうです。そのような時に、「臨機応変に、高度でしかも的確な判断で冷静に」ということばを思い出して根気強く教え、共に働いているとのことでした。
 また、ごみの分別はISO14001に従ってごみの重さに至るまで細かく分別するので、知的障害のAさんとBさんは苦戦し、一緒に働く職員も教え方に苦労しながらも、コツコツと取り組んでいます。
 ローテーションの都合で当日、AさんとBさんのお話を聞くことはできませんでしたが、1年前に比べ、明るく生き生きと働いているとのことです。
 「おおぞら」での「あさぎ」は、知的障害者の就労の場としての位置付けと、知的障害者が企業就労をめざしていくうえで、訓練・指導を行う通過機関という二つの役割があります。「あさぎ」での経験で、本人たちが自信をつけ、何事も落ち着いて取り組むことができるよう指導・訓練し、ゆくゆくは一般企業への就労へと移行できるよう支援していきたい、という期待があるのです。
 現段階ではまだ企業就労に移行できた人は2人しかいませんが、企業就労した後も本人たちが地域で自立し生活していくことができるようライフステージに合わせ、幅広く支援していきたいという願いに向かい、試行錯誤を繰り返している段階です。

これからの「おおぞら」

 「おおぞら」がめざす地域の中で自立した生活ができるようトータルに支援をしていくことは、就労の場の提供と、就労を含めた生活を支えていくという両側面があります。営利活動の中で就労の場を提供し、賃金を支払い、非営利活動で地域生活を支えるサービスを提供するとともに、就労の場も提供していくことができるよう検討し歩み始めています。
 就労の場の提供という側面で考えた場合、「あさぎ」では毎日の利用客が一定ではなく、安定して同じ量の仕事が毎日あるわけではないので、より安定した職場環境を提供していくために、新たな店舗の開拓を模索中です。
 「おおぞら」の活動は各方面の注目を浴びている反面、営利活動の収入面はまだ微々たるもので、非営利活動も準備段階であり、課題は多々あります。
 しかしながら、今回お話を聞いていく中で、よりよい地域社会にしていこうと真摯な気持ちで前向きに取り組み、知的障害のある人たちもパートナーとして共に歩んでいくのだという姿勢には、感動しました。

(すだかおり 茨城障害者職業センター)