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知り隊おしえ隊

優しさと、懐かしさに出会う
「ちひろ美術館・東京」

杉村早苗

20年ぶり(?)の再会

 2002年9月に全館バリアフリーになり、2倍のスペースになった「ちひろ美術館・東京」に行って来ました。館内すべて段差がないので、どの部屋も車いすで動きやすくなっていました。
 ここは、練馬区下石神井にあり、いわさきちひろが最後の22年間を過ごされた場所です。シンボルのケヤキと赤い建物がマッチするように建てられていますが、今回は葉がない時期で残念でした。
 私は、20年くらい前、まだエレベーターがなく、靴を脱いで上がる時に来たことがあり、またこうして原画に会える機会をもてたことに、とても感謝しています。

ちひろの作品(展示室1・3)

 今回は「ちひろの春の庭」(3月1日~5月11日まで)が開かれていました。花と子どもたちはちひろが最も好んで描いたテーマです。
 展示室1で後期の作品、展示室3で、初期・中期の作品が展示されていました。原画は古いものでは40年近くたっていますので、やむをえないことではあるのですが、作品の劣化が進み、特に黄色が退色しやすいとのこと、そのため展示室の照明は極力抑えてありました。作品の展示位置はふつうよりやや低めに、車いすの人や子どもにも見やすい高さになっています。ちひろ愛用のソファーが置かれ、自由に座って作品を楽しむことができます。
 展示は年4回ほど企画展があり、季節に合わせた展示作品となっています。

ちひろのアトリエ

 1972年頃の様子を忠実に復元したちひろのアトリエには、私たちが学校で使ったような、ごく普通のパレットが開いたままあり、ピアノや本などがたくさん置いてあります。全体的に日本的なお部屋です。
 さっきまでこのアトリエにいて、描いていたのではないかという気がします。「今日はここで描いていないけど、どこにお出かけになったのでしょう」という感じがしました。

ちひろの写真

 展示室3では、千川が流れている頃の写真や、うらやましいほど幸せそうなちひろと家族の写真がありました。私たちの小さい頃を思い出すような子どもたちの髪型…見ているうちに、遠い昔の両親のことを思い出し、少ししんみりしてしまいました。展示されていた愛用の花柄のスーツも印象的でした。

「大沢節子押し花の世界」展

 音楽会や映画も開催される多目的展示ホールと展示室2で、3月から始まった企画展を楽しむことができました。ミニバラを中心にした繊細な作品からテーブルウェアまで立体感と奥行きのあるすばらしい作品の数々でした。花たちの声が聞こえてきそうな、春らしい展示室になっていました。
 また、この部屋は外から作品の一部がガラス越しに見えるのも、さわやかさを増して、ステキでした。今後のイベントとして山田洋次セレクション・シネマ倶楽部(5月16日~6月28日)、黒柳徹子講演会(6月21日)が予定されています。

ちひろの庭

 ちひろの庭は、館内どこの窓からも眺めることができ、自由に出入りすることもできます。ちひろの愛した草花が植えられ、私の好きな花の一つであるチューリップがかわいらしく咲いていました。
 髪を左右に結んだ、ちょうどちひろの絵にでてくるような目をした女の子が、数人の子どもと走り回っていました。ちひろはこうして遊んでいる子どもたちを見て絵を描かれたのかなと、ふと立ち止まってしまいました。
 緊張がほぐれ心が開放される、そんな感じの庭です。今度は、私の一番好きな、バラの咲く時に来ることができたら幸せだなと思いました。

カフェ

 入り口には、庭を眺めながらくつろげるカフェがあります。テーブルやいすを動かすこともできるので、大型の車いすも席につくことができると思います。外に出るには、少し段差がありますが、介助してもらえば外でお茶が飲めます。
 オーガニック素材や添加物の少ないものを取り入れたトースト、ケーキなどの軽食とコーヒーやハーブティーがあり、この美術館にぴったりなメニューとなっています。

ミュージアムショップ

 入口を入ってすぐ左にちひろやコレクション作家のグッズ、Tシャツや、美術館が選んだ絵本、おもちゃもあります。

車いす用トイレ

 車いす対応のトイレは1階に1か所あります。残念ながら、私は手すりが遠いので一人では使えませんでした。介助してもらって何とか使えました。今回は、車いすが私一人だったので、皆さんはこのかたちが使いやすいのかどうか、使いやすさは障害によっても違うので、いろんな人の意見を聞きたいと思いました。

図書室

 ちひろの生きた時代を知る本や、絵本2500冊などがあります。また、興味深かったのは、「ひとことふたことみこと」という開館以来25年間の来館者感想ノートが製本されていて、自由に読むことができます。自分が過去に訪れた時に書いた文章を読みに来る人もいるそうです。静かな時にじっと机に向かって日ごろの思いを書き込み、ちひろの絵に癒されていつもの生活に戻る、そんな人も多いのでしょう。リピーターも数多く、最近は、男性の来館者も多いそうです。
 図書室の前の廊下に椅子があり、のんびりと庭を眺めることができます。ずっとそこに座っている人もいるそうです。そうしていたくなるような場所です。椅子もゆったりしたカーブをえがいた形で、見ていても楽しくなります。

こどものへや

 靴を脱いで入る部屋で、絵本やおもちゃがあります。授乳室もあり、あかちゃん連れのお母さんにもやさしいつくりになっています。もともと美術館らしくない、ふらっとちひろの家に遊びに来たようなふんいきを大切にしたいと学芸員の方がおっしゃっていましたが、くつろいで子どもと一緒に絵本を読んでいる姿にほっとさせられます。子どもをこよなく愛したいわさきちひろの思いがこのようなかたちでも受け継がれているのだなと、全体にやさしいこころづかいがあちこちで感じられました。
 「えほんのじかん」として毎月第2と第4の土曜日11時から、展示や季節に合わせて、子どもたちに読み聞かせをしています。自由に参加できます。

おわりに

 私が今回来てよかったと思った作品は、墨一色で描かれた「バラ」でした。はじめてみた作品で、それはドキッとするほど素敵です。美しい色に包まれたものとはまた違った良さがあります。身が引き締まるような繊細な作品です。
 初期の頃に描かれた「やぎのこ」は、今までみたことがなかった描き方で新鮮でしたし、「バラと少女」も優しいきれいな絵で、こういった構図がとても好きです。絵筆を出して、何かまた描いてみようかなと思いました。
 5月14日からは、企画展として「もの想う人形たち、与勇輝」展(5月14日~7月13日)が開催されます。ここで与勇輝のあのなんともいえない表情の子どもたちに逢ってみたい気がします。

交通・周辺など

 この日は9時30分自宅(立川)を出発、バス、モノレール、電車を使って(小平駅停まりに乗ったため)、乗り換え、また乗り換えで、上井草駅に11時過ぎにやっと着きました。上井草駅はホームからスロープで改札口に降りられます。各駅しか停車しないので、玉川上水から各駅停車の西武新宿行きに乗れば一本で行けることがわかり、帰りはせわしい思いをせずに立川に戻りました。中央線荻窪からバスも出ているそうです。
 土曜、日曜の来館者数は300人から400人、老人施設からや、先日は盲学校の生徒さんが先生と来られたそうです。みんなそれぞれいろんなことを感じて帰られるのでしょう。
 車いすや杖の方など障害のある方は、団体等のない日や、平日の午前中がおすすめです。小さな美術館なので、手作り感を大切にしたいとのこと。「職員の手が空いていればできる限り対応いたします」というお話でしたので、事前に電話をして情報を得てから行くといいと思います。
 周辺は車いすの人が食事をしたり、トイレを借りたりということができそうな所はありませんでした。ロイヤルホストが美術館から4分くらいの所にあり、バリアフリーになったという情報を後からいただいていますが、トイレは、狭いので介助が必要だそうです。美術館に、ランチメニューが増えると便利だと思います。
 「日々の生活がちょっと辛くなり、ちひろの絵に逢いに行きたいな」という人には、とても静かな所だけに、いっそう癒されるかもしれません。そう思いながら美術館から駅まで、心地よい風の中を歩いて帰りました。

(すぎむらさなえ 東京都立川市在住)

◆ちひろ美術館・東京
〒177―0042練馬区下石神井4―7―2
交通:西武新宿線上井草駅下車徒歩7分
開館時間:10時~17時(GWと8月10日~20日は18時まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館、他年末年始、冬季休館、展示替えのための臨時休館などあり)
入館料:大人800円、中・高校生500円、小学生300円
テレホンガイド:03―3995―0820
ホームページ http://www.chihiro.jp/