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相談員の役割と期待される姿
~支援費時代の地域生活を支援するために~

石渡和実

1 支援費制度とケアマネジメント

 今年4月、障害者福祉においても、「ノーマライゼーション及び自己決定の理念の実現のために、利用者の選択権を保障し、また、利用者とサービス提供者との間の直接で対等な関係を確立することを目的」とする支援費制度がスタートした。その理念である「自己決定」を尊重し、地域における生活を個別に支援するために、並行して検討が進められていた障害者ケアマネジメントは、高齢者の介護保険制度とは異なり、支援費制度の枠の中には位置付けられなかった。
 介護保険がスタートして3年、ケアマネジャーである「介護支援専門員」の役割に制約が多く、本来のケアマネジメントが機能していないとの批判は高まっている。それだけに、障害者ケアマネジメントが支援費制度の枠外にあることが、むしろプラスに働くのではないかとの期待ももたれた。厚生労働省も、平成13(2001)年3月に報告書を出した時、障害福祉分野ではケアマネジャーは「資格化」しないが、「市町村障害者生活支援事業」などを充実していきたい、という意向を示していた。具体的には、この事業で注目されている、障害者の立場で相談活動を行うピアカウンセラーを増員するなど、ケアマネジメントが実質的に機能するような方策を別途講じたいと提案していた。
 しかし昨年12月、障害児(者)地域療育等支援事業と市町村障害者生活支援事業が一般財源化されることが発表された。すなわち、従来の「補助事業」であった時は、その予算をすべて「相談」に費すことができたが、「一般財源化」されるということは、相談事業をやらなくてもよいことになるわけである。現実に、今年度になって相談事業が打ち切られたり、予算が削減されたという市町村がすでに出ている。情報量も社会的経験も少ない障害者が、自己決定・自己選択を行うための支援として、ケアマネジメントは高齢者よりもはるかに重要な意味をもっていた。それが、実施するための根拠も財源も失ってしまったわけである。障害当事者や関係者にとってみれば、まさに「裏切られた」といった思いを否定することはできず、「一般財源化」への反対運動が大きなうねりとなった。
 この動きは、「地域生活支援の要(かなめ)」と理解されていたホームヘルプサービスに上限を設けるとの情報が流れると、さらに加速された。当事者をはじめとする反対運動が一気に盛り上がり、年が明けてからの厚生労働省への抗議行動など、「当事者パワーのすさまじさ」を再認識させられた、この年末・年始であった。
 これら一連の出来事においても、障害者本人の果たす役割の重要性が改めて確認された。障害者ケアマネジメントは制度化されなかったが、だからこそ、利用者主体で、それぞれの地域生活を支援するケアマネジャーの役割を、障害者相談員が果たすことが、支援費の時代に求められているのである。

2 ピアカウンセラーとしての相談員の役割

 さて、身体障害者相談員制度は身体障害者福祉法第12条の3の規定により、「相談に応じ、及び身体に障害のある者の更生のために必要な援助を行う」ことを目的に、昭和42(1967)年8月の厚生省社会局長通知により発足した。平成10(1998)年にこの業務が定着したとの認識から一般財源化され、都道府県知事等に業務が委任され、各自治体はそれぞれに要綱等を設けて制度の維持・運営に当たっている。また、知的障害者相談員制度は知的障害者福祉法第15条の2の規定に基づき、昭和43(1968)年に、厚生省事務次官通知により発足した。
 どちらの相談員も、「社会的信望があり、…障害者に対する更生援護に熱意と識見を持っている者に委託」できるとされている。そして、身体障害者相談員は「原則として身体障害者のうちから」、知的障害者相談員については「原則として知的障害者の保護者である者のうちから」、それぞれに「適当と認められる者を推薦する」となっている。したがって、この制度は世界にも類をみない当事者の相談活動、今で言う「ピアカウンセリング」の制度化に当たる、と高い評価を得ている。これに対し、精神障害者の相談にあたる精神保健福祉相談員は、昭和40(1965)年に精神衛生相談員として制度化された。当時の主たる目的は、精神疾患のある患者を医療に結び付けることであり、相談員も保健婦などの専門職と位置付けられている。最近は、精神障害者も地域生活に関わる相談が重視されているが、身体障害や知的障害の相談員とは成立の過程も立場も大きく異なっている。
 しかし、平成12(2000)年に社会福祉法など8法が改正され、ノーマライゼーション理念に基づき、それぞれの地域生活を支援していくことが障害者福祉の大きな潮流となっている。入所施設や病院から地域への移行支援が、知的障害・精神障害者福祉の最大の課題である。こうした支援を推進するためにも、本人の率直な思いを身近で受け止める障害者相談員の役割は大きい。この10年あまり、地域生活を築き上げ、着実に力を付けてきた知的障害者・精神障害者も増えている。これらの方々にピアカウンセラーとして、障害者相談員として活躍してもらえるよう、制度改正を進めていくことも緊急の課題である。

3 支援費制度下における障害者相談員の役割

 相談員制度が設立された当時は、障害者福祉やリハビリテーションにおいても、「障害を克服し、自立して社会に貢献する」ことが障害者に求められていた。しかし、1981年の国際障害者年、「国連・障害者の十年」(1983~1992年)を経て、わが国の障害者観や自立の概念は大きく変わった。障害者に「できないことをできるように」と求めるのではなく、「障害があるままのその人を受け入れる」、そのために社会のあり方が変わること、地域に支援のネットワークを構築することの重要性が強調されるようになった。
 こうした中で、障害者相談員の役割にも大きな変化が求められている。従来は「社会的信望」があり、障害のない人と対等に活躍できる人、あるいは障害のある子を立派に育て上げ、社会に訴えていける親たちが、同じ立場にある人々の「模範」となることが求められていた。それゆえに、相談員は「同じ立場」というより「指導者」的存在であり、「高圧的」ですらある、との批判も多くの障害者から寄せられていた。特に、「社会のお荷物」とさえ言われた重度身体障害者、知的障害者や精神障害者にとっては、相談員はむしろ「煙たい存在」である、との率直な声は今もしばしば聞かれるところである。
 このような指摘も踏まえ、相談員活動のあり方を検討した『事例集』を編集し、その新しい役割を自ら模索し続け、ピアカウンセラーの重要性を主張している相談員は多い。この特集にも登場する、相談員として30年以上の経験がある竹内正直氏は、『事例集』のあとがきでこう主張している。「障害者の常に身近にいて、一人ひとりの障害者の息遣いまでわかる立場で、法律や制度に依らない分野までも守備範囲として、それぞれの悩みや苦情に分け入って支援の手をさしのべる相談員の日常活動は、もはや障害者の暮らしや地域における障害者運動に欠かすことのできないものとなっています」。
 竹内氏らが編集した2冊の『事例集』は、まさにこのような視点に立った相談活動の具体例が示され、「障害がある人の地域生活支援」について多くの示唆を与えてくれる。また、このような経験を集約し、支援費時代を視野に入れて、身体障害・知的障害・精神障害という障害種別を超え、「ピアカウンセラーとしての障害者相談員」のあり方をまとめた『障害者相談員執務必携』は、ぜひ一読をお薦めする。筆者もこれらの編集に関わらせていただいたが、この過程で相談員の方々のご苦労を知るとともに、その熱意、真摯(しんし)な姿勢に触れ、障害者福祉に携わる者としての襟を正された、という思いである。
 障害者ケアマネジメントは制度化されなかったが、その手法や実践は各地で確実に広がっている。「ケアマネジャー」としての役割はもちろんのこと、地域で「顔の見える関係」を大切にしながら、障害がある人のライフサイクルを、家族とともに支えていくことが、障害者相談員の役割である。支援費制度がスタートした今年、障害者の生活実感を理解できる相談員が、「障害者ケアマネジメント従事者」の認定を受け、その立場を活用しつつ、新しい社会資源を開発し、地域の支援ネットワークを構築していくことも求められよう。
 「ノーマライゼーションの町」と言われる北海道伊達市で活躍している小林繁市氏は、しばしば「障害者が未来を拓く」と主張される。障害がある人にさりげなく支援の手をさしのべられる市民が暮らす地域は、だれにとっても住みやすい町となる。このような地域を築くために市民に働きかけ、障害者の地域生活を広げていく支援は、まさにノーマライゼーション社会の実現につながっていく。これこそが障害者相談員に期待される役割であり、その原点は「障害がある人の思いに寄り添う」ことである。

(いしわたかずみ 東洋英和女学院大学教授)

【引用文献】
1)日本身体障害者団体連合会:『2000年版 障害者相談員執務必携』中央法規出版、2000年
2)日本身体障害者団体連合会:『障害者相談員活動事例集』中央法規出版、1999年
3)日本身体障害者団体連合会:『障害者相談員活動事例集 第2集』中央法規出版、2001年