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本人相談員として
当事者の悩み、苦しみを聞く

高梨文雄

 私は現在53歳になります。当事者として活動しています。今から15年前の38歳の時、全家連の知り合いの職員の人に電話をかけ、病気の苦しさや日常生活の大変さなどを聞いてもらっていました。また練馬家族会の家族の人にも電話をして自分の苦しさなどの愚痴を聞いてもらっていました。人に話を聞いてもらった後、だいぶ気持ちが楽になったのを覚えています。
 私は1993年6月に東京都精神障害者団体連合会(略称とせいれん)という当事者の会に入り、役員になりました。そしてその年の9月末から高田馬場にある「とせいれん」の事務所に電話当番として通っています。もうすぐ10年になります。
 私が相談活動を始めたきっかけは、全家連職員や練馬家族会の人に話を聞いてもらって癒されたことです。回復してからは恩返しのつもりで今度は当事者として当事者の悩み、苦しみを聞くピアカウンセラー(相談員)として「とせいれん」事務所で電話相談にのっています。私はピアカウンセリングの講習など一度も受けていません。ただ実践活動のみです。
 東京都障害者福祉会館から「とせいれん」へ委託され、推薦されて私は1998年4月から2003年3月まで5年間、精神障害本人相談員として障害別福祉相談員(ピアカウンセラー)をやりました。毎月1回29日に東京都障害者福祉会館の第1相談室で相談業務にあたりました。
 私が相談員として一番大切に心掛けていることは、身体・知的の相談員の方も同様かと思いますが、相談者の話に耳を傾けるということです。傾聴するということです。相談活動の80%くらいをこの事に重点を置いています。私もそうでしたが、ただ「うん、うん」と話を聞いていてくれるだけで相談者の人はありがたいんです。癒されるんです。しかし、私は自宅でも7~8年くらいやっていますが、疲れます。
 聞くということはとても大切なことなのですが、それと同時に話が1時間~1時間半となってきますとだんだん疲れてきます。本当に人の話を聞き続けることは大変なエネルギーと忍耐力がいるんです。最近は自宅で受けるのは断っていますが、事務所ではやっています。
 なかなかピアカウンセリングはやめられません。東京都障害者福祉会館でピアカウンセラーとしてやってきた中で良かったことは、この障害者福祉会館の近くでホームレスをやっている人が相談に来ました。若い男の人でした。「まだホームレスになって2~3か月くらいだ」と言っていました。私は彼に「すぐクリニックに行って生活保護申請のための意見書を医者に書いてもらい、港区の福祉事務所へ行き、生活保護のワーカーさんに生活保護の相談をするように」と指示しました。3か月後また彼は相談に来て、「生活保護を受けて荒川区の簡易宿泊所へ入っている」と言いました。私は喜んで、次に港区の作業所を紹介してそこへ行くように勧めました。3か月後、彼はまたやってきて「今、作業所に通っていて、障害者手帳もとった」と言いました。私はこれで生活保護の障害者加算が受けられるので、今度は一般のアパートへ入居するよう話しました。1年後、彼はまた相談にきて「今、生活保護のワーカーさんの協力を得て、港区内にアパートを貸りて、作業所に通っている」と言いました。彼は作業所で仲間ができ、きちんと住むところもできて、ニコニコしていました。私はこの時、相談員をやってきて本当によかったと思いました。本人の努力が一番ですが、そのお手伝いができたことがうれしかったのです。彼は今、通所授産施設へ通って就労準備の訓練をしています。
 相談員は相談に来る人がここで悩み、苦しみを吐き出し、それを辛抱強く聞きながら、相談者に情報提供やアドバイスをして、相談者が明日に向かって生きるエネルギーをつけて、人生を前向きに生きていく励まし(応援団)の役割をしているんだと思います。相談者が相談室を出る時に私は彼や彼女を見送りながら、明日からまた頑張って生きてくださいと励ましの気持ちをもって見送ります。それはまた自分自身にも贈る言葉なのです。
 当事者の人たちは話を親身に聞いてもらうだけで癒されるんです。疲れますが、やりがいがあります。私は相談員をやってきて、相談員も相談者から話を聞くだけでなく、逆に教えられる、学ばされることが多くありました。相談者から鍛えられると言ったほうがよいかもしれません。
 またピアカウンセラーとして、情報提供や年金、生活保護の手続きの仕方などまだまだ勉強していかなければならないことがたくさんあります。私は当事者の人たちの力になってやりたい。この国の精神科医療と福祉が改善されて、精神病はだれでもかかる普通の病気として一般の人たちにも精神病に対する理解が深まっていき、当事者が安心して地域社会で生きられるよう相談活動、当事者活動を今後も続けていきたいと考えています。

(たかなしふみお 東京都精神障害者団体連合会)