音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

フォーラム2003

精神保健福祉の改革に向けた今後の対策の方向
(精神保健福祉対策本部中間報告)の解説

厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課

 平成15年5月15日に、厚生労働省の精神保健福祉対策本部の中間報告が公表された。
 厚生労働省で全省的な精神保健福祉対策の推進体制が設けられたのは、精神保健施策の長い歴史の中でも初めてのことであり、この中間報告は、今後、より積極的にこれに取組む方向を示したものである。本部発足から中間報告に至る経緯と、報告書の概要、今後の進め方等について概説する。

1.経緯

 精神保健福祉対策本部は、平成14年12月に、厚生労働大臣を本部長とし、省内の関係部局長を本部員として発足した。この時期に本部が設けられるに至った背景は、社会保障審議会精神障害分会の報告(14年12月)を踏まえた新たな障害者基本計画及びプランの策定、「心神喪失者等医療観察法案」の審議過程での一般精神障害者対策の必要性についての度重なる指摘等により、精神保健医療福祉全般の課題について担当部局のみが対応するのではなく、全省的に計画的かつ着実な推進を図る体制が必要とされるに至ったことである。
 本部においては、発足以来、本部会議、実務的な課長会議、さらに当事者や専門家を招いての勉強会、病院・施設の視察などを精力的に行って検討を進め、5月15日に中間報告を発表したものである。

2.中間報告の概要

(1)「基本的な認識と施策の方向」について

 中間報告では、基本的認識に字数をさき、精神疾患は、だれでも罹る可能性のある疾患であることと、適切な治療により、症状の安定や、寛解・治癒が可能な疾患であることを強調している。これらの認識と理解を国民に広めることが、精神保健福祉の推進の前提であるとの考えによるものである。
 そのうえで、精神医療の充実と、地域ケア体制の整備の両面から、「入院医療中心から地域生活中心へ」という方向を押し進め、精神障害者が可能な限り地域において生活することができるよう施策を展開するとして、以下の4つの重点施策を掲げている。先の精神障害分会報告が、精神保健医療福祉の課題を網羅的に記載しているのに対し、中間報告では重点施策に絞った取り扱いをしている。

(2) 重点施策について

1.普及啓発 → 正しい理解、当事者参加活動

 基本的な認識に示した事項を普及するため、あらゆる機会を通じて精神疾患及び精神障害に対する理解の促進を図るとともに、当事者参加活動の機会を増やすこととしている。ここで当事者参加活動に触れているのは、専門家が精神疾患や精神障害について知識を伝達するだけでなく、精神障害をもつ当事者がさまざまな活動を通じて自らの障害や体験について伝えることが啓発に有効であるという認識に基づくものである。

2.精神医療改革 → 精神病床の機能強化・地域ケア・精神病床数の減少を促す

 精神医療については、病床の多さ、長期入院の多さ、機能分化の遅れ、地域医療体制等さまざまな問題が指摘されている。
 まず、精神病床については、機能分化と人員配置基準及び診療報酬評価のあり方を検討し、入院医療の質を向上させる。機能分化の視点としては、高度な急性期医療・重度患者の医療、アルコール・薬物等の専門医療、長期入院者の退院を進める集中的リハビリテーション等を挙げている。また、これらの施策により入院患者の減少傾向が一層促進されることに加え、手厚い人員配置を実現しよりよい医療を行う観点からも、精神病床数の減少を促すこととしている。
 地域ケア体制については、精神障害者が地域で安心・安定して生活できるようにするための必須の要素である。近年、いわゆる「ソフト救急(自発的受診に対応する救急をいう)」を充実させてきたこともその一つであり、全国的にさらに充実を図ることとしている。また、包括的地域生活支援プログラム(ACT)についても述べているが、これは、従来であれば入院が必要な程度の病状の患者を対象として、多職種による訪問活動により医療的ケアを含めた直接の支援、必要に応じて他のサービスの紹介等を行うものである。欧米諸国では70年代以降に精神病棟閉鎖や脱施設化が進められたが、閉鎖した病棟のスタッフを再教育して地域に配し、このようなサービスを行ったところでは、ホームレス化や回転ドア現象が抑えられ地域移行が成功したと伝えられている。

3.地域生活の支援 → 住居・雇用・相談支援

 地域生活を支援するうえではまず住居の確保が最初の課題となる。住居対策は、精神保健福祉の枠内だけでは解決できない課題であるが、今後、幅広い観点から公営・民間住宅における精神障害者の入居支援策の検討を行うこととしている。また、グループホーム、福祉ホーム等、住居である社会復帰資源の充実を進めるとともに、住居サービスとホームヘルプ等の生活支援の組み合わせ等についても検討を行っていく。
 また、精神障害者雇用支援と雇用の機会の増大については、障害者就業・生活支援センターによる相談の充実や、障害者雇用促進法における雇用率の検討を進める。
 相談機関の充実とともに、日常の活動の場や仲間作りの場についても、ピアサポートを重視しつつ進めることとしている。
 さらに、住居確保、地域ケア、在宅福祉サービス、相談事業等、地域生活を支える多様なプログラムを個々の当事者の意向を踏まえ総合的に調整する仕組みについても検討が必要としている。

4.「受け入れ条件が整えば退院可能」な7万2千人の対策

 平成11年患者調査によれば、精神病床に入院中の患者約33万人のうち7万2千人が「受け入れ条件が整えば退院可能」であり、今後10年のうちにこの方々の退院・社会復帰を進めることとしている。このため、今年度から予算化した「退院促進支援事業」の拡充や、新障害者プランに基づくグループホーム、福祉ホーム、ホームヘルプサービス等の確保を進める。

3.今後の進め方

 中間報告に盛り込んだ事項については、実現可能なものから実施し、また検討が必要なものについては、早期に有識者等からなる検討会などを立ち上げることとしている。検討会については、今年度から、普及啓発、精神病床等、在宅福祉・地域ケア等の3つについて、開催する予定である。

おわりに

 昨年12月の社会保障審議会精神障害分会から、今回の中間報告に共通するのは、「入院中心から地域生活中心へ」の転換を確実に進めようというスタンスと、その実現のため、部分的な改革ではなく、入院医療のあり方、地域支援のあり方、福祉サービスのあり方等を全体として変革していこうという動きである。
 これを現実のものとするためには、行政の取り組みのみならず、当事者、家族、医療関係者、精神保健福祉関係者等の精神障害に関わるさまざまな方の熱意や創意工夫と、そして国民全体の理解がなにより重要である。立場を越えた対話と連携、建設的な提案が各所で行われることを大いに期待しつつ、あわせて、精神保健福祉行政への一層のご理解とご協力を願うものである。