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義足を選手にあわせ、
選手の競技力向上をめざす

内田充彦

 パラリンピックなどで義足をつけた選手の素晴らしい活躍を、多くの方がご存知だと思います。私はこのような選手の用いる義足をつくる義肢装具士の1人です。私自身、乳児の際に患った骨髄炎の影響で左右の脚長差が20cm程にもなり、装具を使用しています。小学生の頃より始めた水泳を得意としており、障害者の水泳競技への参加や指導を通して知り合った障害者の方々より、義足についての相談を受けるうちにスポーツ用の義足を多く手掛けることとなり、それを自分の専門として勉強するようになりました。
 最近の義肢の進歩は素晴らしく、多くの義足使用者の方が快適に歩行するだけでなく、さまざまなスポーツを楽しむことが可能となり、競技スポーツでも、健常者に負けない記録を残す人も出てきました。そんな選手の1人をご紹介します。古畑俊男さんは右足を膝下18cmで切断されていますが、年代別第3位(アイアンマンジャパン2003)の国内屈指のトライアスリートです。フルマラソンにおいても3時間以下で完走することができます。19歳の時に先天的な血行障害が原因で切断されましたが、社会復帰後、何か打ち込めるものがないかと思っていた時、TVで見たトライアスロンの中継を見てのめり込んでいったそうです。当時の義足でいくつかの大会に参加しましたが、そのたびに切断部に傷ができ、足が腫れ、松葉杖をついて職場に行かなければならないほどでした。「我慢大会でなく、競技がしたい」そんな彼の相談を受け、2人で長距離走に耐えることのできる義足の製作を重ねてきました。
 現在、古畑さんは競技歴15年以上のベテラントライアスリートであり、健常者にも引けを取らない強い選手となりましたが、二人三脚の義足の製作は続いています。今年のハワイでのアイアンマン世界大会で、彼は歴代の義足の選手では世界一の記録を樹立することでしょう。義足をつくることは、ユーザーの方と義肢装具士との共同作業です。一人ひとりの方の義足について発生する問題や求めている機能は多種多様です。それらについて、ユーザーの方々と話し合い、意見を交換しながら、さまざまな工夫を凝らしていく、そんな楽しみがこの仕事にはあります。
 多くの選手から大会の参加の報告や新しい挑戦の相談を受けますと本当に幸せな気持ちになります。また、選手の要望を受け、試合会場まで足を運ぶこともあります。こういった選手の活躍に励まされながら、これからも“つくるスポーツ”を楽しんでいきたいと思います。

(うちだみつひこ 神戸医療福祉専門学校三田校)