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ユニバーサルデザインの広場

ITのユニバーサルデザイン

関根千佳

多様化するITユーザー

 現代の生活では、携帯電話やパソコンを始めとして、ATMや券売機、コピーやFAXなど、IT機器の無い状態は考えられないものとなってきました。しかし、これまで多くの企業は、このようなデジタル機器を主に若い男性ビジネスマン向けにデザインしてきました。作る人がその層であったためでもあります。女性やシニアは、IT機器が苦手だという思い込みがありました。実際、シニアの大多数がパソコンや携帯電話を使っているわけではありません。でもそれは、デザインがユニバーサルでなかったためなのです。だれもが使えるように最初から配慮してあれば、もっと簡単に使えるのに、機能を追加する競争に走ってしまい、使いやすさの競争をしてこなかった結果なのです。
 しかし、団塊の世代がアクティブなシニアとなるこの数年間で、状況は次第に変化してきています。2005年には成人人口の50%が50代を越えると言われていますが、この層は時間もお金も向学心もあります。そして軽度重複障害のある前期シニアなのです。潜在的なユーザーが、どんどん高齢化しています。ITを使えば、引退後も地域の社会活動や収入につながる活動を行うことができますし、培ってきた知恵を共有することも可能です。障害があっても、ネットの中では自由に意見を出すことができます。AT(アシスティブ・テクノロジー:支援技術)を使って、全盲の人はネットで情報を受発信することができますし、身体や発話が不自由でもオンライン会議に参加することが可能です。ITを使って、まちづくりやものづくりに意見を出し、それを改善していく当事者となれるのです。

進む企業側の理解

 IT企業も、シニア層を顧客として捉え、ユニバーサルデザインのパソコンや携帯電話、コピー、FAXなどを提供してきています。シニアや障害をもつ人のニーズを把握して開発し、売り方は一般向けにして、シニア向けという抵抗感を薄めています。たとえば、富士通が開発し、NTTドコモが発売したF671iS(通称らくらくホン2S)は、大きな画面、見やすい液晶、使いやすい3つの直通ボタンなどでシニアに人気です。かつ、完全ではないものの画面の音声読み上げ機能があったため、視覚障害者の指名買いが多くなっています。さらにコマーシャルでは若い人にも使いやすいことをアピールしたので、結果としてさまざまな人に受け入れられました。
 パソコンの本体も、今ではユニバーサルデザインを意識したものが出てきていますし、家電も最初から多様なユーザーの意見を聞きながら作られるようになってきています。

インターネットで変わる市民・企業・行政の関係

 このようなユーザー主導の動きを加速しているのが、インターネットの存在です。これまでは、消費者は製品を買った後に自分が使いにくくても、選んだ自分が悪いと思って不便さを我慢して使い続けるか、黙って他社に乗り換えるだけでした。しかし今では、自分が使いにくいと思ったり、使い方がわからなかったりしたときには、ユーザーは企業に対して質問や意見をインターネットなどで出すことが可能なのです。これにより、今まで黙っていたユーザーは、自分の意見や提案を企業に伝えることが増えてきました。企業の側も、これまでは熟練ユーザーの大きな声だけを重視しがちだったのですが、ネットや電話、FAXなどで寄せられる初心者や高齢者、女性や障害者などの声も、等価値に受け取ることができるようになったのです。
 この影響は、IT産業だけに留まるものではありません。まちづくり、ものづくり、交通、街のサインやトイレの配置、食品のパッケージに至るまで、さまざまな身の回りのものに対しても、多様なユーザーがネットを使って意見表明をできるようになってきたのです。ITが、ユニバーサルデザインになるということは、まちやもの、情報やサービスが、よりユニバーサルデザインになることを助けます。機器とともに、たとえば行政機関や企業の広報やWebサイトがユニバーサルデザインでないと、意見表明のために必要な情報が、当事者の手許に届かないということもありえます。Webサイトのユニバーサルデザインに関しては弊社のサイトをご覧ください。視覚などに障害がある方、高齢者などにわかりやすいデザインが説明されています(http://www.udit-jp.com/)。
 このような、IT機器やWebサイトのユニバーサルデザインは、諸外国においては法律で規定されているところもあります。米国ではリハビリテーション法508条で、連邦政府の購入するIT機器や提供するWebサイトはアクセシブルでなければならないとしています。EUでも同様の規定が考えられており、日本でもJIS(日本産業規格)が検討されています。今後は、ユニバーサルデザインのIT機器やWebサイトが増えていくでしょう。それを通じて集まってきた市民の声、ユーザーの声が、まちやもののユニバーサルデザインを加速し、結果として自分たちの将来を暮らしやすいものに変えてゆけると思っています。

(せきねちか 株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所))