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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2007年7月号

入所施設(長野県西駒郷)から地域生活への移行に向けた本人支援・家族支援について

山田優

5年目で半減へ

平成15年度(一部14年度)から始まった、大規模入所施設から地域生活への移行は5年目を迎え、現在入所している知的な障害のある人たちは466人(H14)から227人(H19.6現在)に半減した。この間、県内民間入所施設の支援力も高まり、西駒郷が新たな入所者を受け入れたのは1人だけである。退所者245人中、地域生活への移行者は(グループホーム190人・アパート5人・自宅14人)209人である。本稿では、地域生活への移行段階で、本人・家族への支援をどのように行ってきたか紹介する。

西駒郷の地域生活移行状況については、この4年間さまざまな機会が与えられ報告してきた(地域生活移行当初の状況は本誌2005年6月号で紹介)。現時点での動向は、西駒郷地域生活支援センターのHP(http://www.pref.nagano.jp/xsyakai/nisikoma/)を参照していただきたい。

地域生活への移行に直面するとき、支援者として最初に整理しておかなければならないことがある。地域生活への移行の動機付け・なぜ地域生活への移行に取り組むかである。私はこの動機付けに、事業者の思い(世の中がノーマライゼーション=共に生きるという傾向になってきたから、自立支援法で障害程度区分が低い=障害が軽度の利用者は施設入所ができなくなるから、長期間入所し続けてきたので、何とかしてあげたいから…)が優先されてはいけないと思っている。

そもそも長期間入所施設を利用し続けた理由が、本人の自己決定に基づいていたとは思えないからである。入所施設を利用するに至った理由は、

・学齢期を終えて卒業後、寄宿舎(義務教育制となった昭和50年代以後、地方では生徒数が限られることから身近な地区に養護学校はなく、長距離通学となるため併設する寄宿舎に小学部から入る場合が多く見られた。最近は通学するケースが増えている)から自宅に戻っても通所する社会資源が乏しいか、ほとんどない。

・障害が重いため家庭で支えるのは困難。将来を考えると不安。

・就労するのは難しい。訓練を受け、技術を身に付けて自立してほしい。

という家族の都合が9割以上でしょう。

地域生活へ移行する本人に、入所した経緯を聞くことがある。「よく分からないまま入所した」「嫌だったけど入所した」「訓練受けなさいと言われた」等の返答がほとんどである。退所手続きに立ち会う家族も「困っていなかったが福祉担当から空いているので今のうちに入れたほうがいいと言われた」「養護学校時から離れて暮らしており、卒業しても入所施設へ行かせるしかないと思った」「不憫(ふびん)だけれど周囲(地域社会・親族等)から入れたほうがいいと言われた」「置いて帰るときタクシーの中でいつも泣けてしまった」と語る。

こうした時代背景を肯定しながらも、退所目標・自立目標を見出せずに、20年・30年もの長期間、入所施設利用が続けられてきたことを、支援者はまず心に留め置かなければならない。何とかしたいとする支援者のプライドは、それでもまだ前面に出ることを許されない。

本人の移行動機付けと支援の原則

地域生活移行への動機は、本人が最初に、家族はその次に持ち、その自己決定を根底に、本来の施設職員の業務として、実現のための施策を考える行政担当として、受け止める地域社会の市民として、ノーマライゼーション実現の役割をそれぞれ担うのだと思っている。したがって、支援者が行う支援とは、本人・家族がどのように動機付けを持てるか工夫することになる。

西駒郷での地域生活への移行に関わる原則は図1のように整理している。本人にどのように地域生活への移行の意味を伝え、選択(自己決定)をしていただくか。図2の1のように、分かりやすいビジュアルな情報を繰り返し提供していくことが前段となる。

1.グループホームでの生活状況のビデオ鑑賞会

2.地域生活についての勉強会

3.近隣のグループホームの見学会

4.地域生活移行者によるガイダンス(他所からが効果的)

等、判断できる環境を提供し終わってから本人の意向を聴き取ることになる。

この時、聴き取る職員側の事前準備も必要になる。図3の「職員に対して」を参照していただきたい(家族に地域生活を理解・地域生活の支援者になってもらうアプローチは、図2の2、図3の「保護者に対して」参照)。

図1
図1拡大図・テキスト

図2
図2拡大図・テキスト

図3
図3拡大図・テキスト

移行反対から応援にまわった家族

西駒郷での地域生活への移行調査では、家族の希望が本人の意向と一致したのは2分の1(H15.7聴き取り調査120/247)ほどしかなかった。移行した209人の半数の家族は、H15.7調査では反対の立場だった。

何が反対から賛成(応援者)に変えさせたのだろうか。

地域生活への移行は施策優先ではなく、あくまで本人の意向を重視し、家族の同意を取り付けて進めてきた。「お上には逆らえない」「出ろといわれたから」という風評が伝わってくると、職員には慎重にそして丁寧に対応するよう繰り返し伝えた。「熱心に勧めてくれる」「無理になったらいつでも戻ってこれる」「せっかくのチャンスを生かしてほしい」等、移行後のアフターケア(地域生活移行後を含め年間2回程度本人の移行先を訪問)、地域生活移行検証に伴う交流会の出会いで、本人・家族から伝えられた言葉に職員の努力を垣間見た。「うちの子がまさか地域生活できるとは思わなかった」「大きな集団ではなく自分の部屋でくつろいでいるのを見て安心した」等、僅かだが寄せられる言葉に移行の確信を見出した。

担当職員の努力は、同じ寮から地域移行した人たちの暮らしを尋ねる「ツアー」企画に及び、「わが子もこんな環境なら選んでもいいかもしれない」「良い環境ならば考えたい」等と地域生活移行にかたくなだった家族の気持ちをほぐしていった。その結果の積み上げが209人になり、今も自立生活訓練(入所施設に籍を置きながら、一定期間施設内・外の体験ホームで地域生活の模擬訓練をする事業)に居を移して地域生活移行を待つ約20人に繋がっている。

家族からは、地域生活がいいことばかり伝えているのではないかと批判も時に寄せられる。確かにそうした雰囲気は否定できないものの、これまでの入所生活では、選択する・自己決定する機会が乏しく、まして自分の人生を自分で決める機会はほとんどなかった人たちである。期待が膨らむのは当然ではないだろうか。

大切なのはそうした動機付けを持つことであり、生活体験に取り組もうとする積極的な姿勢を示すことにあり、それがうまくいってもいかなくても自信に繋がると信じている。自立生活訓練やあるいは実際に地域生活へ移行しても、想像していた暮らしとは異なる場合がほとんどではないだろうか。その中で、現実と折り合いながら自己決定を繰り返していくことにより、本人の生活力(エンパワメント)が格段に高められていくのは確かだと思っている。

真価が問われる支援

支援とはこうした場面に遭遇してこそ、その真価が問われてくる。地域生活へ移行前後に、不安が本人を押しつぶしてしまうこともあった。何とかして施設を出たいという強い願い・今がチャンスだからと奮い立たせる気持ち・仲間に負けまいとはやる思いが、大事に守ってきた心に強い混乱を生じさせ、不安定へと追いやることもある。その時、しっかりと受け止め、まず体を休めるよう促す・次の機会は必ずあると説得する・プライドがずたずたになっているのではと受け止め、失敗じゃないチャレンジャーだよと伝える心配りが、支援者にも必要な力量として求められてくるのではないか。

地域生活にはさまざまな出会いが生じ、その都度リアルタイムな判断が求められる。うまくいかなくても必ず第三者との関わりあいが生じる。障害のある人が近所に生活しているという存在を伝えること、トラブルこそチャンスだと支援者は気付くべきである。障害のある人たちを理解してくださいと連呼するよりも、本人が地域に暮らすほうがよほど理解が深まる。グループホームの評判は、その近くの理髪店やコンビニを利用した際、さりげなく聞くことで知ることができる。本人が地域に暮らし続けることで、障害のある人の存在から縁遠かった地域住民に、普通の話題となって溶け込んでいく。難しい解説は必要なかった。いつの間にかノーマライゼーションの社会に近づけていく。

ノーマライゼーションの考え方は、

障害のある人たちを「正常な人」に戻すためのものではありません。

「正常な人とは何なのか」と言うことについて、意見の一致を見ることは考えられません。

ノーマライゼーションはただ、「環境を普通のものにすること」を提唱しているのです。

そうする方が、人里はなれた人為的な環境に障害のある人たちを隔離するよりも、彼らの成長にずっと役に立つことなのです。

障害のある人たちにとって、もっとも普通の環境とは、あなた達が住む地域そのものです。

ノーマライゼーションの考え方がもたらす恩恵を、一番受けるのは、実はあなた自身や、あなたの住む地域なのだということを知ってほしいのです。(いつかあなたも弱くなり支援が必要になる)

『やさしい隣人達―共に暮らす地域の温かさ―』渡辺勧持監修、日本知的障害福祉連盟選書から。

(やまだまさる 西駒郷地域生活支援センター所長)