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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2008年6月号

フォーラム2008

「地域における『新たな支え合い』を求めて」
~これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告書より~

厚生労働省社会・援護局地域福祉課

去る3月31日、厚生労働省社会・援護局長の私的研究会「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」の報告書が出された。タイトルは「地域における『新たな支え合い』を求めて」。「住民と行政の協働による新しい福祉」という副題が付けられている。

この報告書が出された背景には、公的な福祉サービスは高齢者、障害者、児童といった分野別に発展してきたことなどから、谷間に抜け落ちてしまった問題があったり、複数の課題を抱えた世帯に総合的に対応できていないといった状況がある。

図 地域(1中学校区)の状況拡大図・テキスト

一方、地域という切り口で公的な福祉サービスの状況を見てみると、たとえば中学校区を例にとってみると、身体障害者は400人余り、知的障害者は60人余り、精神障害者は200人余りいるにもかかわらず、約8千万円の自立支援給付費を受けているのは50人足らずに過ぎず、受給者一人当たりの受給額は170万円余りとなっている。一方、自治会・町内会が16から17団体、民生・児童委員が21人、ボランティアが672人と、地域の資源は相当厚みを増してきており、また、地域活動への参加やボランティア活動を通じて自己実現をしたいと考える人々が増えてきていることも事実である。

そこで、基本的な福祉ニーズは公的な福祉サービスで対応する、という原則を踏まえつつ、地域における「新たな支え合い」(共助)の領域を拡大、強化することが求められているのではないか、というのがこの報告書の問題意識である。ボランティアやNPO、住民団体など多様な民間主体が行政と協働しながら、従来行政が担ってきた活動に加え、きめ細かな活動によって地域の生活課題を解決していくことが地域福祉であり、地域福祉は、「新たな公」を地域に創出するものといえる。

これまでの福祉サービスは、支援を必要とする人を「○○ができない人」として捉え、できない部分を補うという考え方が強かったといえるが、地域で求められる支え合いは、たとえば、精神障害のある青年が認知症高齢者のデイサービスにボランティアとして参加する、というように、どちらかが一方的に支援する側に回るのではなく、互いに自分の持ち味を生かすことのできるものであり、いわば、エンパワメントとしての支援といえる。

対象や方法をあらかじめ定めないのも特徴である。ふれあい・いきいきサロン、ミニデイサービス、身近な生活相談、配食サービスなどがよく行われているが、それらに限られるものではない。しかし、いずれも地域の生活課題に敏感に反応した住民たちが、自分たちで発案し、主体的に取り組んでいる。

地域での生活はさまざまな人々とのかかわりで成り立っていることから、さまざまな主体がネットワークで生活課題を受けとめるのも地域福祉の特徴である。日常の近所づきあいの中で、それとなく見守りをしたり、相談相手になったりしている隣近所から始まり、自治会・町内会などの地縁団体、ボランティアやNPOといった機能的団体も地域福祉の重要な担い手であり、それぞれが特徴を生かして活動することが期待されている。また、専門家や行政も地域福祉活動の重要な担い手であり、専門的な対応が必要な事例は、住民だけで解決することは難しく、できるだけ早く専門家や行政につなぐ必要がある。

地域福祉はまた、地域社会の再生につながると期待され、さらに、地域福祉を通じて人々のつながりができ、地域のまとまりが高まると、自殺や非行などいわゆる逸脱行動が減ることが期待される。

報告書は、地域福祉推進のための条件とその整備方策も示している。

図 地域における「新たな支え合い」のイメージ拡大図・テキスト

まず、住民主体を確保する条件があることであり、障害福祉分野でも、地域福祉計画や障害福祉計画に、企画段階から市民の参画を促進することが求められる。

地域の生活課題発見のための方策があること、近隣から始まり、自治会・町内会、校区といった重層的な圏域が設定されること、圏域の各レベルでの情報共有の仕組みがあること、拠点となる場所、コーディネーターや資金の確保も重要な条件である。核となる人材は、福祉分野での活動を重ねてきた人ばかりでなく、PTAや青少年団体などさまざまな分野に見出していく必要がある。

市町村の役割としては、まず、防災・防犯、教育・文化・スポーツ、就労、公共交通・街づくり・建築など、幅広い視点からの総合的なコミュニティ施策が必要である。

さらに、障害福祉サービスを含め公的な福祉サービスを引き続き充実させ、適切に提供することが求められる。

住民の地域福祉活動に対しては、その基盤を整備するため、圏域の設定、コーディネーターや拠点の整備、財源の確保などが求められる。また、公的な福祉サービスと地域で発見された問題とがうまくつながるよう、公的サービスの見直しや運用の弾力化が必要であり、国も施策の設計や実施に当たって、市町村への配慮が求められる。

厚生労働省としては、この研究会の報告書で示された考え方をさらに具体化し、個々の施策に反映させていくこととしている。

図 重層的な圏域設定のイメージ拡大図・テキスト

*本報告書は、厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/s0331-7.html)に掲載されている。