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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

列島縦断ネットワーキング【鹿児島】

地域ネットワークを活用した虐待防止に向けた取り組み

久木元司

ネットワークによる基幹型相談支援センターの設置と虐待対応

2012年10月1日から障害者虐待防止法が施行され、全国各地においてさまざまな権利擁護の取り組みが実施されています。私ども社会福祉法人常盤会(以下、本法人という)の取り組みと本法人事業所の所在する鹿児島市(以下、本市という)の虐待防止の取り組みについて紹介したいと思います。

本市は人口約61万人の中核都市です。本市では基幹型相談支援センターを設置するに当たり、単に障害福祉事業所等の案内だけではなく、自らつなぎまでを行い、「たらい回し」という状況にならないよう核となるセンターを目指すことになりました。その上で、すべての障害種別に対応できるワンストップ相談窓口(2012年10月1日)開設を目指し、検討を進めることになりました。

行政の主導のもと、本市の障害の医療福祉関係事業所が集まり、運営協議会を組織することになり、障害者の方々が的確な相談支援が受けられるような体制の構築を進めていくことになりました。議論する中で課題となったことは、中立性・公平性の確保(客観性の担保)と、相談員の質の担保(専門性の担保)をどうするかということでした。行政からは、体制整備の議論を進める中で3つの提案がありました。1案が「各相談員の法人とそれぞれ委託契約する」、2案が「すべての相談支援事業所より新たな法人を設立し一括して委託する」、3案が「すべての相談支援事業所で協議し幹事法人を選出し幹事法人に委託する」というものでした。

協議の結果、本市の相談支援事業者および障害児相談支援事業者からなる運営協議会を組織し、そこでの協議をもとに鹿児島市が委託する法人を決めるということに決まり、私がその運営協議会の会長として重責を担うことになりました。

課題となっていた専門性の担保については、身体、知的、精神、発達障害に対する相談により専門的に対応することは難しい面(負担大)があることから、運営協議会会員の協力(協力会員)を得ることとしました。また、客観性の担保については、委託法人、協力会員は運営協議会会員の持ち回りとすることになりました。

今後の課題としては、委託法人が変わる際の継続性について支障なくできるかということや、委託法人からは貴重な専門性の高い人材が抜ける形になることへの懸念などがあげられています。今後、さらに地域で暮らす障害者の方々への相談体制を充実させるためにも事業所間のネットワークは不可欠だと思います。これらの取り組みが相談支援体制の一つのモデルとなり得るよう、今後の取り組みが重要と認識しています。

この基幹型相談支援センターのもう一つの役割として、虐待通報窓口を設置し、合わせて虐待防止センターの運営も委託されることになりました。障害者福祉の相談や虐待対応の窓口を一本化することで、利便性良く、専門性の高い迅速な対応ができる機関となることが期待されています。利用者や関係者の思いをくんだ機関となるよう、今後も発展的に活動を広げていきたいと考えています。

今後は、このネットワークを活かし、施設同士で権利擁護意識や支援スキルの向上のための研修の実施、虐待の未然防止機能向上のための取り組みに努めていければと考えています。それぞれの法人・施設における虐待防止の取り組みをオープン化し、より実効性の高い取り組みに引き上げる役割も担ってくれることを期待しています。

平成24年度人権擁護に関する意識調査
平成24年度人権擁護に関する意識調査拡大図・テキスト

本法人の権利擁護の取り組み

本法人における権利擁護システムを考える契機となったのは、遡(さかのぼ)ること2003年2月、鹿児島県内の知的障害者施設において、利用者に対する人権侵害事件が発覚したことにあります。

本法人では、これまで利用者の人権擁護に関する取り組みは、職員教育の柱の一つとして研修会への参加や事例を用いての内部研修、啓発活動などを実施していましたが、前述のとおり、2003年に発生した県内障害者施設における人権侵害事件を契機に、職員意識のさらなる深化が必要と感じ、職員による利用者虐待防止・権利擁護意識の徹底を図るべく法人内の権利擁護システムの再構築を図りました。

まず、2004年10月に人権擁護委員会(以下、法人内委員会という)を発足させ、より組織的に具体的な取り組みを実施することにしました。法人内委員会が最初に取り組んだことは、法人内の全職員に対してのアンケート調査でした。アンケートでは、人権についての基礎知識の認識度調査をはじめ、施設内での人権侵害の有無や施設の現状に対する意見、人権擁護への取り組みの具体策など、いくつかの項目を設定し、全職員から回答を得ました。アンケートの結果から分かったことは、体罰など重大な人権侵害は発生していないが、利用者に対する呼称はどうあるべきか、他害行為のある利用者に対する接し方はどうすればよいか、といった支援方法や対応に戸惑いがあることが多く、少なからず課題があることが分かりました。

全国社会福祉協議会より2009年「障害者虐待防止の手引き」が発行された際には、法人内のすべての施設・事業所に配付し、これで示されたチェックリスト等を活用し、利用者に対する人権擁護意識の向上を図りました。さらに法人内委員会では、すでにマニュアルは作成していましたが、ここで示されていた他法人のマニュアルも参考に、虐待防止・人権配慮マニュアルの改訂作業も行いました。その後もマニュアルは、常に本法人の実情に即した内容となるべく、法人内委員会において検討を重ね、その都度改訂作業を行なっており、現在でも法人内各施設で朝礼等において読み合わせするなどして活用しています。

人権擁護に関する内部研修として、2005年度から毎年、外部から大学教授を招聘してマニュアルやチェックリストを活用した研修を開催するなど、人権擁護に関する研修は毎年実施する法人研修の必須研修と位置づけ、法人内委員会が中心に研修企画しています。研修は、マニュアルを活用して虐待防止・人権擁護に関する基本的な考え方を確認することはもちろんですが、過去の人権侵害の事例を用いての事例分析や啓発、職員から寄せられたアンケートへの回答、人権擁護に関する事柄をクイズ形式で問いかけるなど、より意識を高めるための工夫をしながら、人権擁護を具体的に理解してもらうよう努めています。

また、法人の全職員は、首掛け式のネームプレートを携帯していますが、2007年度の法人内委員会活動では、そのネームプレートの裏を活用した人権擁護啓発携帯カードの作成を行いました。携帯カードには人権擁護を啓発する標語がいくつか記載されてあり、さらに職員が個人目標を書き込み、自らの名前を署名するようになっており、日常的に虐待防止・人権擁護の意識を高められるよう工夫しました。

始めた当初は3か月ごとに実施していた職員へのアンケートですが、現在は半年ごとに実施しています。この取り組みを始めてから数年になる現在、職員の人権擁護意識が高まってきていることも事実ですが、利用者の突然の不適応行動や他害行為があった時など、いかなる場合でも誰もが冷静に対応できるか等、支援する上での人権的配慮という点でも課題がいくつかあがってきました。そういう意味で、人権侵害防止への取り組みで最も重要なことは支援技術の向上が不可欠であるということにも気付かされ、法人の研修プログラムの中でこの点も強化し、福祉サービス第三者評価の受審等でも再点検致しました。普段何気なく行なっている利用者への支援活動の中にも、利用者への人権侵害的行為となっていることが多々あることがこれらのアンケートを実施したことで見えてきました。改めて、職員の専門性の向上が虐待防止・人権侵害行為を無くす道筋であると強く感じました。これらの地道な取り組みを、今後とも継続的に行なっていく必要があると感じています。

(くきもとつかさ 社会福祉法人常盤会理事長)