音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2014年8月号

障害者スポーツの推進と今後の動向

郷家康徳

2020年オリンピック・パラリンピック東京大会の開催決定を契機として、障害者スポーツに対する国民の関心が高まっている。

折しも今年度より、パラリンピックや全国障害者スポーツ大会などのスポーツ振興の観点から行う障害者スポーツの事業について、厚生労働省から文部科学省に移管し、健常者と障害者のスポーツを一体として推進していくこととなった。

本稿では、国の障害者スポーツの推進の考え方と今後の動向について解説する。

1 スポーツ基本法・スポーツ基本計画・スポーツの意義と価値

2011年に施行されたスポーツ基本法の第2条第5項において「スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進されなければならない」とし、初めて障害者スポーツの基本理念が規定された。

これを受けて、2012年に策定したスポーツ基本計画では「年齢や性別、障害等を問わず、広く人々が、関心、適性等に応じてスポーツに参画することができる環境を整備すること」を基本的な政策課題とした。具体的には、今後5年間に取り組むべき障害者スポーツに関する施策のうち主なものとして、学校体育での障害児への指導の在り方の調査・先導的な取組の推進、地域のスポーツ施設や指導者への運営上・指導上の留意点に関する手引き等の開発・実践研究の推進、健常者も障害者もともに利用できるスポーツ施設の在り方の検討、競技性の高い障害者スポーツのアスリートの発掘・育成・強化等による支援などを記載している。

こうしたスポーツ施策を通じて目指すべき社会の姿として、スポーツ基本計画においては「すべての人々が幸福で豊かな生活を営むことができる社会」とし、具体的なスポーツの意義と価値として青少年の健全育成や地域社会の再生、健康・体力の保持増進、社会経済の活力の創造、我が国の国際的地位の向上を挙げている。

加えて、特に障害者スポーツに着目すれば、健康・体力の保持増進の一つとしてリハビリ(障害の予防・機能維持)の役割、そして、健常者と障害者が一緒にスポーツ・レクリエーション活動を行うことによるノーマライゼーションの考え方に立脚した共生社会の実現といった社会の姿を目指すことも重要になると思われる。

スポーツの意義と価値(スポーツ基本計画の全体像)
図 スポーツの意義と価値(スポーツ基本計画の全体像)拡大図・テキスト

2 文部科学省の障害者スポーツ関連施策

今年度、文部科学省では、厚生労働省から移管された事業も含め障害者スポーツ関連予算を大幅に増額(平成25年度 約9千万円→平成26年度 約24億3千万円)し、その振興に取り組んでいる。

スポーツ振興施策は、大きく分けて、スポーツの裾野を広げる取組と競技力向上の取組の二つがあり、現在、障害者スポーツについては、それぞれ以下の取組を行なっている。

(1)スポーツの裾野を広げる取組

2012年度から、健常者と障害者が一緒に楽しめるスポーツ・レクリエーション活動の推進のための実践研究や、障害者スポーツに関するニーズ等の実態把握を実施している。これに加えて、今年度からは、障害者がスポーツに参加する際の安全確保に関する調査研究等も実施している。さらに、全国障害者スポーツ大会については、厚生労働省に替り文部科学省が主催者に加わった。

(2)競技力向上の取組

今年度から、スポーツ医・科学を活用してトップアスリートを支援する「メダル獲得に向けたマルチサポート戦略事業」において、パラリンピアンに対するトライアルを実施している。また、パラリンピックに向けた強化・研究活動拠点に関する調査研究や、ナショナルトレーニングセンターの競技別強化拠点施設活用などの事業を実施している。

このほか、選手強化や総合国際競技大会への派遣、指導者の養成や障害者スポーツの普及・啓発を行う公益財団法人日本障がい者スポーツ協会への補助についても、今年度から文部科学省が実施している。

過去1年間にスポーツ・レクリエーションを行なった日数(20歳以上)
図 過去1年間にスポーツ・レクリエーションを行なった日数(20歳以上)拡大図・テキスト

3 国の障害者スポーツの推進体制

スポーツ基本法において、障害者スポーツ推進の基本理念が掲げられたこと、近年、障害者スポーツの競技性が向上していることなどにより、障害者スポーツについて、従来の福祉の観点のみならず、スポーツ振興の観点からも一層推進していく必要性が高まっていた。こうした状況を踏まえ、今年度よりスポーツ振興の観点から行う障害者スポーツ事業を厚生労働省から文部科学省に移管して実施しているが、文部科学省においては、主にスポーツ・青少年局における3課・1参事官において障害者スポーツの取組を行なっている。具体的には、障害者スポーツの普及・振興(スポーツ振興課)、パラリンピック・デフリンピック等の選手強化(競技スポーツ課)、障害児の学校体育・地域の障害児のスポーツ(体育参事官)、障害者スポーツ活動助成(toto助成)等(スポーツ・青少年企画課)について、それぞれ一般スポーツ施策を扱う部署で一体的に実施している。

なお、厚生労働省では、自立・社会参加といった障害福祉の観点からの事業(地域生活支援事業や国立障害者リハビリテーションセンター)が残るため、引き続き、両省が連携して障害者スポーツを振興していくこととしている。

国の障害者スポーツ推進体制
図 国の障害者スポーツ推進体制拡大図・テキスト

障害者のスポーツ活動を取り巻く地域の実施体制
図 障害者のスポーツ活動を取り巻く地域の実施体制拡大図・テキスト

4 障害者スポーツの現状

文部科学省が民間団体に委託して実施した調査研究その他の文部科学省の調査において、障害者スポーツの現状が明らかになっている。

まず、障害者(20歳以上)が過去1年間にスポーツ・レクリエーションを行なった日数を調べたところ、週1回以上と答えた割合は18.2%(成人一般47.5%)、全く行わなかったと回答した割合が58.2%(成人一般19.1%)であった。

また、地方公共団体における障害者スポーツの担当部署を調べたところ、多くの地方公共団体で障害福祉・社会福祉関連部署が担当しており、一般スポーツ担当部署と同じ部署で担当している都道府県は、東京都と佐賀県のみであった。その他、障害者専用あるいは障害者が優先的に利用できる障害者スポーツ施設は114施設(公共スポーツ施設約5万4千施設)、日本障がい者スポーツ協会公認障害者スポーツ指導者は約2万人(日本体育協会公認スポーツ指導者約40万人)という現状となっている。

5 今後の取組の方向性

先に記したように、障害者のスポーツ実施率は成人一般に比べて低く、また、障害者がスポーツを行うために必要な環境も十分に整っているとはいえない現状にある。今後、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けて、パラリンピアンの競技力強化のみならず、各地域における障害者のスポーツ環境を改善していくためには、ソフト(プログラム等)、ハード(施設等)、ヒューマン(指導者・ボランティア等)のあらゆる面からの底上げが必要とされる。

このための方策として、一般スポーツ関係者と障害福祉関係者がそれぞれで取組を進めていくのではなく、国がスポーツ政策として一元化したことも踏まえ、各地域においても、行政、スポーツ・レクリエーション関係者、学校、障害福祉関係者が連携・協働体制を構築し、施設・指導者・ノウハウなどスポーツ関連の資源を十分に活用しながら、障害者を含むあらゆる者のスポーツを推進していくことが時間的あるいは財政的にも、また共生社会を実現するといった理想的にも多くの場合、最適な方法であると考える。

文部科学省としても、障害等を問わず、広く人々が関心、適性等に応じてスポーツに親しむことができる環境づくりのため、各地域が連携体制を構築し、障害者スポーツを推進する取組について支援していくこととしている。

(ごうけやすのり 文部科学省スポーツ・青少年局スポーツ振興課障害者スポーツ振興室長)