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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2015年10月号

自治体のコミュニケーション支援の最前線
~明石市の取り組み

金政玉

手話言語条例を制定する動き(本年8月現在で18自治体〔3県1政令市・12市2町〕が制定)が増える中、明石市では、ろう者も含めたコミュニケーション手段に困難を抱える障害当事者(中途失聴・難聴、視覚障害、知的障害等)を支援するため、手話言語条例の趣旨である「言語としての手話の確認」に加え、要約筆記や点字、音訳等の幅広いコミュニケーション手段の利用を促進するための条例づくりを目指す方向で取り組みを進めてきた。

1 条例制定までの経過

障害当事者や支援事業者等に向けて、事前にそれぞれのコミュニケーション手段の現状と課題(障害を理由とする差別的体験の事例を含む)について個別ヒアリングを行なった。

当初、事前の個別ヒアリングでは、ろう者の団体関係者から明石市で考えていこうとする条例は、手話と点字等を一緒にすると手話と点字が混ざり合う内容になって両方がかえって薄められてしまうことになるのではないか、そうなると当事者が求めている手話言語条例とはかけ離れてしまう心配があるという懸念が示された。その点については、手話言語と(音声言語としての)要約筆記、点字・音訳等のそれぞれの特性を踏まえて、章立てを分ける方向で検討すること、そして、コミュニケーション手段に困難を抱える当事者及び支援者がお互いに理解し協力し合って条例をつくることに大きな意味があり、そのことによってより市民の共感も得られるという考え方を事務局から説明し、理解を得ることができた。

2014年8月に、聴覚障害(ろう者、難聴者)、視覚障害の当事者、手話通訳者協会、要約筆記者の会、点訳・音訳のボランティア団体の支援事業者、知的障害者の家族会及び特別支援学校の教員、学識経験者10人による(仮称)「明石市手話言語及び点字・ひらがな表記等障害者のコミュニケーション手段を促進する条例検討委員会」(以下「検討委員会」)を設置した。

検討委員会は、同年9月から11月まで4回行われ、各回の主な検討事項は、以下である。

○第1回検討委員会(2014年9月)

・条例の趣旨と位置づけ

・関係法令の動向(障害者権利条約、障害者基本法の改正、障害者差別解消法の制定、他自治体の手話言語条例等)

・各委員からの意見をもとにコミュニケーションの手段の現状と課題を確認

・明石市における障害者手帳所持者数(総人口約291,000人のうち16,223人)等の現状把握

・今後のスケジュール確認

○第2回検討委員会(同年10月)

・委員以外の個別当事者(盲ろう者、喉頭摘出障害者、知的障害者)へのヒアリングの実施

・課題整理案の説明と補足的な意見についての質疑

○第3回検討委員会(同年11月7日)

・事務局による条例素案の提示

・条例素案についての意見及び質疑応答

・発達障害について(明石市発達支援センターでの聞き取り内容の報告)

○第4回検討委員会(同年11月21日)

・事務局による条例素案の見直しの提示と質疑応答

・障害者を含めたすべての市民への条例の周知方法の検討

・条例の通称名の検討

その後は、「条例素案」の内容を同年12月市議会(文教厚生委員会)に報告し、市民向けのパブリックコメントの募集を同年12月18日から1か月間実施した。募集の結果、市民49人から74件の意見応募があり異例の多さとなった。市民から寄せられた意見の内容を踏まえて、庁内手続きを経て素案の必要な見直し行い、2015年3月の市議会に条例を提案し、全会一致で可決した。

2 条例の特徴

本市における「手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例」(以下「条例」、条例の「概要」参照)は、障害者権利条約(第2条)の「意思疎通」と「言語」の定義を受けて改正された障害者基本法(2011年8月)の「全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。」(「地域における共生等」第3条3項及び「差別の禁止」第4条)を根拠に制定された。

手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例の概要
要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例の概要拡大図・テキスト

本条例の特徴は、第一に手話言語の確立とともに、多様なコミュニケーション手段について規定している。手話を言語と明確に認めた上で(第2章)、手話とともに、要約筆記や点字、音訳等、手話以外の障害者の多様なコミュニケーション手段の促進(第3章及び第4章)についても規定し、障害の種別や特性に応じたコミュニケーション手段を利用しやすい環境づくりを目指している。

第二に、本条例を障害者差別の解消に向けた施策の一環と位置づけ、2016年4月に施行される「障害者差別解消法」に合わせて制定を目指す本市の障害者差別解消条例へとつないでいくステップとしている。この位置づけを明確にするために、市の責務(第4条)として、コミュニケーション手段の利用の場面において、公的機関や事業者に対して、合理的配慮ができるように支援することを明記している。

第三に、明石市手話言語等コミュニケーション施策推進のための協議会(以下「施策推進協議会」)の設置(第17条)を規定している。今後の具体的な施策を当事者とともに協議していく場として、この施策推進協議会の下に、課題ごとに専門的に協議を行う課題小委員会を置くことを規則に規定し、当事者や支援者、市民とともに具体的な施策につなげていく取り組みができるようにしている。

3 条例制定に伴う施策の拡充

本年4月からの条例の施行を踏まえて、次のような予算措置を含めた施策を実施している。

(1)手話通訳者・要約筆記者派遣事業の対象範囲の拡大(冠婚葬祭における特定の親等に限る制限の廃止や就労等の市の施策に係る場合の利用可等)。

(2)手話通訳者・要約筆記者派遣事業に係る報酬額の見直し(時間単価:1時間当たり1,200円から1,500円に増額、有資格者への報酬加算1回の派遣につき1,000円を加算等)。

(3)手話検定等を活用した職員研修の実施。

(4)本年(2015年)度から17年度の3年間で、市内全市立小学校(28校)において手話体験教室を実施する(調整中)。

(5)視覚障害者用情報入手支援にかかる日常生活用具(地デジラジオ)給付の拡大。

(6)知的障害・発達障害のある人を含めて、多くの市民が利用できる市政情報等に関する「わかりやすい版」パンフレットの作成(検討中)。

(7)本条例及び障害者差別解消法の施行(2016年4月)に合わせて検討中の障害者差別解消条例に関わる取り組みを充実させるために手話通訳士等の資格を有する任期付職員を採用する。

(8)今後、取り組む施策の案件としては、1.聴覚障害者向けテレビ電話システムの導入(本庁と総合福祉センター、市民センターをつなぎ遠隔手話通訳対応ができるようにする)、2.聴覚障害者向け音声同時通訳システムの導入(手話ができない聴覚障害者への説明用に音声を認識し、文字変換してタブレットに送るシステムを障害福祉課の窓口に設置する)、3.市後援行事で手話通訳者・要約筆記者を配置する際の必要な費用の半額を助成する制度の創設、4.点字を希望する視覚障害者に市政情報等に関わる文書等について、点字プリンターの導入による点字対応を行う、5.市立図書館に、拡大読書機、録音図書再生機等を配備し、読書しやすい環境づくりを進める、等を予定している(1~5は、本年9月定例議会に一般会計補正予算総額558万を計上)。

多くの課題があるが、人と人との出会いの原点がコミュニケーションであり、その手段において、障害による差別化を解消することが障害を理由とする差別解消の出発点であるという認識のもとで取り組みを進めていきたいと考えている。

(きむじょんおく 明石市福祉総務課障害者施策担当課長)