重複障害をもつ脳性マヒ児について 脳性マヒと重複障害

重複障害をもつ脳性マヒ児について

脳性マヒと重複障害

Multiple Disabilities with Cerebral Palsy,in the Mutiply Handicapped Child:An Overview

J.M.Wolf &R.M.Anderson,compiled and edited

 ある国立機関は、53分間に1人の脳性マヒ児が生まれると見積っている。この割合は、1,000人について3人の脳性マヒ児から決定されている。大半の脳性マヒ児は重複障害児であり、このことが疑いもなく過去4分の1世紀前に脳性マヒが見込みのない問題だと考えられた理由であった。児童と脳損傷についてのわれわれの見解は、発達は調節することができ、中枢神経系への外傷の結果は、多くの場合改善または克服することができるという事実が認識されるにつれて変化した。

 Temple Fayは、cerebral spastic diplegiaについて、最初の臨床的記述をしたのはイギリスの外科医William Little だけれども、spastic の問題についてはDr.Bronson Crothersのほうにより多くの恩義をうけていると信じている。Crothersはその問題を特別に考慮することを初めておしすすめた。彼はまた、1926年に出版された本の中に脳性マヒについての章を入れた。

 Phelpsは脳性マヒcerebral palsyということばは作らなかったけれども、それをひろく広めたことで名誉を与えられている。用語自体は1900年より前に使用された。DodgeとAdamsは、「脳性マヒという名前は全く適切でないし、神経障害についてのこのような粗雑な分類は私の見解からするととりわけ役にたたない。というのは、そのことばによって、非常にさまざまな病因および解剖的タイプの疾病が意味されるから。……それにもかかわらず、この用語は合衆国中の基金調達界やおもなリハビリテーション運動のスローガンとして採用された」とのべている。

 定義と分類

 脳性マヒという用語は文字どおり大脳のマヒを意味する。大脳は脳で2つの大きな半球を構成している部分である。それは、脚、中脳、小脳、橋および延髄と区別されている。半球のマヒは、運動のほかに多くの加算された機能喪失を含むであろう。それには、感覚、視覚、記憶、語や話声の聴取も含まれる。

 Fayは脳性マヒにさまざまな類型を含め分類した最初のリーダーの1人であった。1947年にMeyer Perlsteinにあてた手紙の中で、Fayは次のように書いた。「もしわれわれが知的で進歩的な考察をしたいのならば、現在なされている脳性マヒの分類を再検討し、過去に受け入れられたものよりももっと明瞭な境界をつくらなければならない時期がきている」Fay とPhelpsは協力して6つのおもなタイプを含む分類図式を作成した。それは、①spastic paralysis、②athetosis、③tremors and rigidities、④ataxia、⑤high spinal spastic、⑥mixed typeである。

 過去何年かほかの人々もさまざまな分類図式を提案してきた。現在7つの分類が用いられており、それはAmerican Academy for the Cerebral Palsyのメンバーによって広く受け入れられている。それは、①痙直 spasticity、②アテトーゼ athetosis、③強剛 rigidity、④失調 ataxia、⑤トレモール tremor、⑥アトニア atonia、⑦混合 mixed である。この分類におけるおもなタイプは、痙直、アテトーゼ、失調およびトレモールの4つである。The Little Club は分類に際して用いられる臨床的特徴を調べている。片マヒは脳性マヒケースの約1/3 おり、両側痙直は約2/5で、不随意運動をもつケースは約1/7、残りは分類するのが困難なケースである。これらの分類困難なケースは、通常混合型で、全体の1/7をしめている。

 Phelpsは、cerebralということばは脳をさし、palsyは筋のコントロールの欠如を意味するとのべた。この解釈のため、cerebral palsyということばは「脳病理に由来する運動系のマヒ、弱化、協応不全、および機能的異常」を示すのに使われるようになった。そのほか、いくつかの定義が脳性マヒのために作られたが、それらの大半は出生前・中・後の脳損傷による異常な整形外科的または神経学的状態をさしている。この異常な状態は特殊な感覚運動機能不全をひき起こすのである。

 DenhoffとRobimaultは、脳性マヒの広い概念を提案しているが、それは伝統的な現在用いられているものといくぶん異なっている。脳性マヒは独自な実体というよりも、むしろ多様な実体であると考えられている。彼らは、脳性マヒ、精神薄弱、てんかん、活動過多、行動障害、および中枢性起因の視・聴知覚問題を含むさまざまな症候群を表わすのに、脳機能不全症候群syndromes of cerebral dysfunctionという用語を使っている。これらの症候群は類似した原因によって関係づけられており、どれも独自な特徴的病理実態をもっていない。すべてのカテゴリーに同一の神経病理的所見が共通している。「このように密接に関連した神経学的機能不全を語義的に分離するのは無意味であるように思われる。脳機能不全症候群という用語を使用することによって、脳性マヒと関連した障害についてのわれわれの思考は統一されるだろう」器気質的タイプの児童期の精神病、たとえば自閉症もこの機能不全スペクトルの中に含まれる。

 脳機能不全の概念においては、一般に1つの成分が優勢であり、これにもとづいて診断がなされる。脳性マヒの診断は神経運動機能不全が顕著であるときなされる。知的低下は精神薄弱という臨床的命名をもたらすだろう。「実際的な定義では、精神薄弱者は、発達の悪さあるいは脳損傷による知的不全のため、成熟したとき永久的に能力不全を示すものである」てんかん児は意識のゆがみを示す。特殊なタイプの行動変化は活動過多行動障害と名づけられる。中枢性の視覚・聴覚・言語、または触覚弁別障害は、それぞれ盲、ろう、失語、またはclumsy child症候群とよばれる。児童は神経運動、知的、感覚、および行動所見を単独に、または組みあわせ ていろいろな程度に示すかもしれない。脳性マヒ児はしばしば合併した問題をもっており、その結果重複障害児である。

 精神薄弱

 脳性マヒに合併した機能不全を明らかにするため、多くの研究が行なわれた。知的機能の問題は、研究されなければならない最初の合併した機能不全の1つであった。肢体不自由児に対するサービスの歴史をみると、初期のころは、多くの脳性マヒ児が特別学級にはいることをことわられた。腕や下肢に障害をもつ多くの児童が、ポリオに合併した機能不全の結果、特別学級に入れられた。しかし、彼らの知的能力はおかされていなかった。これらの特別学級では脳性マヒ児が利用できる場所は限られていた。それゆえ、どの脳性マヒ児が教育可能で、学校教育から利益をうることができるかを決定する技術を確立することに興味が集中した。脳性マヒ児は多くの心理研究のテーマとなった。

 McIntireとPhelpsは70%の脳性マヒが知的に正常であることを見いだした。これらの所見は後の研究とは一致しなかった。Asher およびSchonel 、Holloran、およびHeilman は、脳性マヒ児の間にみられる精神遅滞の程度についての疫学的研究を行ない、約75%の児童が平均以下の知能で、少なくとも50%は重度な遅れか精神薄弱であることで一致した。

 Bice、BurgemeisterおよびBlum、Hohman、Holden、JewellおよびWursten 、RichardsonおよびKobler、Katz、Sievers およびNormanらも脳性マヒ児の知能を研究している。これらの実験的研究のすべては、脳性マヒ児に、正常集団よりはるかに多くの精神遅滞のあることを示している。

 1952年にDunsdonは次のようにのべた。「手にはいる証拠は、脳性マヒ児が特殊教育から利益をうることができるのに必要な最低レベルの精神能力に対するかなり信頼できるガイドは、約85のIQであることを示唆している」 この考えは肢体不自由児のための公立学校計画から、多くの脳性マヒ児を除外するのを正当化した。

 American Academy for Cerebral Palsyの1947年の設立と1949年のUnited Cerebral Palsy,Inc.の設立は、脳性マヒにおかされた者の福祉、医療、教育に対する関心を専門家としろうとの両者にかきたてた。しかしながら、重度障害脳性マヒ児に教育の機会を増加させることに間接的な関係があったのは、ポリオワクチンの出現であった。ポリオワクチンの使用はポリオによる機能不全の数を劇的に減少させた。ひかえ目に見積っても、ワクチンは70%のケースのマヒを予防するのに効果的であった。ポリオワクチンの実施のあと、肢体不自由児の特殊学級や特殊学校で席があまるようになった。Dunsdonによって提案されたIQより低いIQをもつ多くの脳性マヒ児が、特殊学級入級によって利益をうけるようになった。

 StrotherとMichal-Smithは、心理学者は脳性マヒ児を検査するとき、感覚と運動機能不全に重要性を認めるべきだと言っている。

 Haeussermannは脳性マヒ児の重複障害の重要性を認め、幼児の発達可能性を評価するための手続きを工夫した。彼女は彼女自身の評価手続きを教育的評価といっている。United Cerebral Palsy,Inc.はこの評価技術が示されているフィルムを作っている。

 KlapperとBirchは、児童期にIQが測定された成人脳性マヒ者を14年後に追跡研究した。最初のテストと再テストで90以下のIQが圧倒的であった。しかしながら、再テスト群は最初のテストで得られたのよりも、もっと高い割合の正常IQを示した。

 今日、知能テストの予測価は多くの教育者や心理学者によって疑問視されている。とりわけ、重複機能不全の脳性マヒ児の潜在能力を測定する場合、そうである。PhillipsとWhiteは、乳児初期から運動障害をもつ児童を同年齢範囲の他の身体障害児と比較した。年齢と知能をコントロールしなかったが、読みと算数技能で2つのグループの間に有意な差がみとめられた。Stanford-Binetのようなテストによる教育機会の予測は、脳性マヒ児の知覚障害によって妥当性に問題のあることが仮説としてのべられている。

 聴覚障害

 Cardwellは重複機能不全が脳性マヒに一般的であることを報告している。そのうち50%は視覚障害をもっている。25%は聴覚障害をもっている。50~75%は言語障害をもっている。そして50%はけいれん障害をもっている。

 ほかの研究者たちも脳性マヒ児の合併した感覚および知覚─運動機能不全を研究した。見積られた聴覚喪失は、10%もの低さから41%にわたっていた。しばしば引用されるNew Jersey Studyは、アテトーゼの22.6%に聴覚障害のあることを報告している。研究された集団では、失調は18.4%、強剛は13.7%、痙直型は7.2 %であった。

 Fisch はイギリスで行なった調査で、脳性マヒ児の20%に聴覚喪失を見いだした。

 Gerberは、脳性マヒ児のサブグループの間の聴覚障害の割合を調べることを試みた。彼の結果は、赤芽球症の聴覚は他の原因によるアテトーゼの聴覚よりも有意に劣っていることを示した。各サブグループのパーセントによる聴覚喪失の割合は次のようであった。スパスティック50%、非Rhアテトーゼ100%、複合アテトーゼ75%、脳性マヒ全体59%。

 My klebust とRosenはそれぞれ、核黄疸によるアテトーゼは、児童にhearする能力の欠如よりむしろlistenする能力の欠如を示すかもしれないことを示唆している。こうした児童は、聾者よりも、むしろ脳損傷児を対象とする特別学級に入れる必要がある。

 言語障害

 言語は基本的にみると神経生理学的活動であるから、神経筋障害の結果としての脳性マヒ児の間に、高い割合の言語障害を見いだしてもおどろくにあたらない。非常に多くの脳性マヒ児が、舌の運動、呼気、吸気、咀しゃく、えん下で異常なパターンを示している。DenhoffとHoldenはグループとしてみると、痙直はアテトーゼよりも言語障害をもつことが少ないことを示した。New Jersey Studyの結果は、1,224人の脳性マヒの間に、次のパーセントの言語障害を示している。痙直─52%、アテトーゼ─88.7%、強剛─72.2%、失調─85.3%。4つのおもな類型の合計は68%であった。

 視覚障害

 脳性マヒ児は正常児がもつような健康状態を、だれももつ可能性があることを思いださなければならない。正常集団に生じる視覚問題は、脳性マヒ児でも同様に生じる。しかし脳性マヒ児のほうにより一般的に生じる視覚問題がいくつかある。もっともしばしば合併する眼障害は、斜視である。半盲症すなわち視野欠陥は痙直の片マヒの25%に見いだされた。眼振、先天白内障、視神経萎縮は脳性マヒに合併しているが、パーセントは少ない。

 GuiborとBreakleyは50%以上の脳性マヒ児が動眼障害をもっており、25%は視力が劣ることを報告している。Illingworthも25~50%の脳性マヒ児が重い視覚障害をもつと見積っている。

 発作

 Hopkinsと協同研究者たちは、脳性マヒ児の約3分の1が発作をもっていることを見いだした。脳性マヒの4つのおもな類型について報告された発作のパーセントは次のようである。痙直─28.2%、アラトーゼ─20.8%、強剛─41.9%、失調─36.3%。Illingworth もまた、脳性マヒの3分の1のケースが一過性けいれんをもつと見積っている。他の研究者による所見はこの意見を支持している。

 知覚、触覚、運動感覚および視―運動

 最近、脳性マヒ児における、(1)感覚刺激の運動発達におよぼす効果、(2)感覚剥奪の知的および知覚発達におよぼす効果、(3)感覚障害の性質に対する興味がしだいにふえてきた。McDonaldとChanceは、感覚刺激に対するこうした関心を次のようにうまくのべている。「今、はやっているしゃれはeveryone is now talking‘sense'(訳注─今ではだれもがもっともなことを言うのと、感覚について話しているとの2つの意味がある)である。初期の研究者やセラピストは、運動出力の性質に注意をひかれたが、今では彼らは出てくるものはかなりの程度はいってくるものによって左右されることを認めている。」

 Abercrombie,Ayres,Bexton,Hohman,Tizard,Wiedenbaker,Wedell およびZubek は、脳性マヒ児の触覚と触知覚の重要性を強調している。欠陥のある感覚機能は欠陥のある運動機能の原因の一部となるかもしれないし、知能や知覚に悪影響を及ぼすかもしれないことを示唆する証拠がふえているように思われる。Denhoff とRobinaultは、知覚機能不全に関する2つの研究結果を報告している。これらの研究は、肢体不自由のない脳損傷児だけでなく、肢体不自由のある脳損傷児の場合も、知覚および概念的弁別障害が、学校での失敗の少なくとも一部の原因となっており、それらの障害は以前は認められていなかったことを理路整然と示した。Williamsは合併した知覚障害をもつ脳性マヒ児が示す特殊な学習問題を記述した。

 脳性マヒは重複障害をもつ特殊児童がさしだす問題を、ほかの機能不全成分のどれよりも多くはっきりとさし示している。大半の脳性マヒ児は1つまたは2つ以上の合併した機能不全をもっているから、この状態をもつ児童の評価、治療、取り扱い、教育において、多くの専門家が必要なのは明らかである。Shepherdは次のように述べている。

「ときどきわれわれすべては、神のように全知全能で、あらゆる知識をもたないかぎり、医学、神経学、精神医学、心理学、社会学、および教育学のどれも、1つではこうした児童のニードに適切に対処することができないだろうと感じるのではなかろうか。しかしわれわれは、だれもこの知識についてごく一部しか持つことが期待できないという事実に直面しなければならない。多専門的アプローチ(multidisciplinary approach)ということばが、今日しだいに多く聞かれるのはこうした理由からである。」

(The Multiply Handicapped Child,C.C.Thomas,1969,pp.10-16より)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年10月(第4号)21頁~25頁

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