職業的評価と職務分析結果の合成について

職業的評価と職務分析結果の合成について

On Synthesizing Vocational Appraisal and Job Analysis Information

 本稿は、ある個人が、成功裏にその要請を充たし、幸福裏に機能しうるような職務を見い出すためには、その個人に関しての情報と、職務に関しての情報をどのように合成すべきであるか、について述べたものである。

W.A.Basinger *

池田 勗**

● 定義

 作業(Work)─何かを行なう、あるいは、作るという目的をもって、肉体的、精神的エネルギーを使用すること。

 課題(Task)─作業の一単位。

 職務(Job )─ある特定の作業、通常数個の課題で構成される。

 分析(Analysis)─種々の部分へ区分すること。

 職務分析(Job analysis)─一つの職務を構成する、種々の課題を遂行するのに必要とされる、肉体的、精神的その他の要因を見きわめること。

 職業(天職)(Vocation)─人がそれを行なうのにふさわしいと感じる職務。

 職業的評価(Vocational appraisal)─人が定業の選択を明確にするのに役だつ、医学的、心理的、社会的その他すべての情報。

 職業(定業)(Employment)─人の経常的作業。

 合成(Synthesis )─諸部分を一つのまとまったものに統合すること。

● 問題の指摘

 大部分の人は、自分の幼少時からの体験とか、入手しえた情報に基づいて自分たちの職業、定業あるいは職務の選択を行なっている。しかしながら、その職務によって、肉体的にあるいは精神的に必要とされるものには、他の側面と同様に著しい相違があるので、これらの側面において社会的な水準を下まわっているような人たち(クライエント)にとって、ある職務を選択するということが非常にむずかしい場合があることは、そう珍らしいことではない。このような状況であるので、人間と職務の双方についてこれらの側面をよく知っており、クライエントを援助できる人(カウンセラー)がたくさん必要なのである。

 前述の定義からわかるとおり、ここには二極対置が見られる。一方は、たとえば職業的評価であるとか、職業、定業などという言葉で、これらはクライエントあるいは人間を対象としたものと考えられる。他方、職務分析、職務、課題、作業といった言葉は、非人間的なことがらを対象としていると考えられる。職業選択に際して、クライエントとカウンセラーの双方に生じる最大の問題点は、この人間に関するデータと非人間的なデータとを合成することにある、というのが筆者の論点である。筆者は、このテーマを進展させると思われる三種の規準を提示したいと思うが、この議論をより明確にするために、最初に三つの話題、すなわち、職業的評価、職務分析、蓋然性体系(Probability systems )について詳述する必要があろう。

● 職業的評価

 人とその固有のニードがよくわかってくると、その人のための援助者群の中で主役が決まってくる。援助者群としては、医師、心理専門職、ソーシャルワーカー、職業担当官または職業カウンセラーがある。これらの人々は、各所に分散していようとも、あるいは同一建物の中に集まっていようとも、おのおのが障害者に対して大いに貢献しなければならないと感じている。かれらが作る報告書の長さから、その人がある問題に対してどのくらい重点を置いているか、あるいは、その問題について述べようということそのものが不適切だと感じているか、とかがよくうかがえる。

 職務は通常、リハビリテーション過程というはしごの最後の段に当たるので、これに関する種々のデータを集めるという仕事はカウンセラーに負わされることが多い。この時点で、カウンセラーにとって共通の問題となるのは、クライエントが職業の問題を解決するのに有意義になるよう、情報をいかに合成するかである。

 ここに、いろいろのソースから得た、職業的に有意義な情報をうまく分類するための、スリーポイントモデルを提案するが、これに当たっては、Donald SuperとJohn Crites に負うところがたいへん大きい。この三つのポイントを、個人面評価、問題点評価、予測点評価と呼ぶ。付録Ⅰにこれのモデルを示してある。ただし、このモデルに記載されている諸細目は、考察のための骨組にしかすぎない、ということを心に留めていただきたい。しかしながら、クライエントに関連した職業上有意義な資料は、どんな情報源からのものであっても、この三つの領域に分類され得ると思うし、もしはいらないものがあるとしてもごくわずかだと思う。

 このモデルはさらに、データというものは、それが記述的であろうと解釈的であろうとにかかわらず、ある特定時に取り扱っているものである、という特質を持っているということを、常にわれわれの気持ちの中で明瞭にさせるであろう。このモデルでは、新しい情報はいくらでも受け入れることができる。また情報を引き出すときは、その情報は権威あるものとなっており、要約であるかのように簡潔で明瞭なものとなっているであろう。

 要約についてひとこと自戒の言をつけておこう。われわれはしばしばこの時点で、大学で習った理論という力を発動させようと試みる。しかし、理論に反対論を唱えるのではないが、われわれはしばしば臨床的場面において理論を誤用するものである。臨床家(この場合はカウンセラー)にとって理論とは、目に見える行動を観察したとき、そこから観察そのもの以上のことを理解するための、いわば感受性を高めるためにのみ用いられるべきものであって、学術的場面におけるほどには、理論それ自体にすぐれた効力があるわけではないのである。

● 職務分析

 職業指導論の歴史の中で、初期のころには、「人と職務を合致させる」という思想がたいへんにポピュラーであった。この思想においては、少なくとも西洋社会では、重要な下位概念がある。それは、「人にはだれであってもその人に最も適した特定の職務がある」というものである。この下位概念に対し、われわれはもはやあまり価値を置くべき前提条件とは感じなくなっている。

 そのおもな理由は、各職務間の異質性が多種になってくるにつれ、クライエントのテストスコアと各職務の規準との相関関係が薄れはじめ、ついには、.50 から.60 にまでなってしまった、ということがわかってきたからである。この不確実性を補う方法として、職業領域で働くほとんどの人たちは、職務に関しての非常に厳密な情報をぼう大な量集めてみるという手段をとるようになってきてしまっている。

 この場合、職業的評価データ(これ自身合成によって得られたものである)を取り扱う際に直面したのと同じ問題が起こる。すなわち、職務を分析して得られた情報は、ある程度まで合成することができるが、それをすると、その過程で多くのことが欠落してしまうということである。筆者は、あるクライエントのために考慮したある職務というものは、できるかぎりそのままの情報で保存すべきだし、できるなら、最初に考えついたときのままの形で残すべきだと思う。もし職務が、最初に考えた形と異なったものとなることがあるとすれば、それはすぐクライエントにもかかわることであり、そのときは、たいへんにたいせつな函数である物心両面の報酬にも影響が出てくるのである。この時点でわれわれがやらなければならない問題は、入手できたあまたの職務分析情報をどのように用い、意味づけるかである。

 筆者の考えでは、職務分析情報を合成してしまうかわりに、その個々の部分のままにしておくべきである。しかしこのことは、新しい情報の受け入れや、また、必要な情報を引き出すことも容易になしうる、なんらかの整理のしかたを考案することを妨げているわけではない。

 実際の職務分析データを見ると、通常、①肉体的、精神的な機能要因、②作業条件、③手当・報酬という三つの主領域のどこかにはいることがわかる。付録Ⅱにこれらのモデルが示してある。この職業分析モデルも、職業的評価モデルのときと同様に、われわれがカウンセラーとして、クライエントにとって重要だと考える職務データをグルーピングするときの、ファイリングキャビネットだと考えるべきである。すなわち、細目は単に大分類を明確にするためにつけ加えられているだけである。

● 蓋然性体系

 クライエントが効果的に職業選択をするのに役だつように、職業的評価と職務分析のデータを統合・合成する、という本題に進むまえに、蓋然性体系について少し触れておくことが有用であろう。カウンセラーにとって「蓋然性」とは何を意味するだろう。

 カウンセラーはカウンセリングという相互作用の過程を通じ、クライエントに職業選択を考えさせる目的でデータを集めているのである。この場合、ほとんどの情報は蓋然性という観点から考察されているのである。将来何が起こるかは、確実にはほとんどわからないものである。「そのクライエントのひとの中での“落着きのなさ”は、職を失うほどまでは仕事に影響しまい」とはどうして確信できようか。あるいは、「クライエントの“盗み”という以前にあった問題点は再び起こるまい」というのも同様である。

 医学的データの場合には、比較的正確で決定的な予測ができる場合もあるかもしれないが、この種の問題の場合には、ソーシャルワーカー、心理専門職、カウンセラー、また、クライエント自身まで含めた、多人数のデータあるいは報告を検討しても、ほとんどの場合に“まずまず”いえることといえば、「これを考えると、このクライエントは多分…であろう(あるいは、なかろう)」ということだけである。したがって、この情報を解釈するときに用いているモデルは蓋然性モデルなのである。

 蓋然性がどのようにして得られるかを、標準テストの場合のように理解できれば、この点は少しはっきりしよう。われわれは、「もし私のクライエントがこのテストで24パーセンタイルのところにしかいないなら、成功のチャンスは乏しい」という論理は理解できる。しかし、「この人がまた雇用主から物を盗む可能性は…」といい出すと、にわかに体内のアドレナリン分泌が高まってくるのである。

 標準テストではわれわれは、蓋然性を相対的頻度として説明できる。盗みの問題のときには、臨床的直感とか、その仮説の蓋然性に対してどう“感じる”か、という方法を使っている。しかしほとんどいつでも、クライエントのチャンスを否定してしまうような際には、この種の直感にはあまり自信を持てないものである。このテーマに関連していう場合、蓋然性に関してわれわれの結論としては、クライエントは、蓋然性体系をくり返しながら“照合され”または評価されるべきである、ということになる。

 このようにすると、ある種の職務群、というような幅を持ったわくにだんだん凝固させていくということは、だれにでも少しはできるものである。したがって、クライエントが何か特定の職務を選択したときには、それは、このような体系での仮説からはなはだしくはずれてはいないはずである。そして、この際われわれとしては、同じくらいの成功度で選ばれ得た他のいくつかの職務が必ずあったはずだ、と認識しなければならない。

● 合成

 本稿で考察している問題は、クライエントと仕事の関係に関して、どのようにして仮説を作ったら、その仮説の蓋然性の見通しを最も明瞭になしうるか、である。この設問に対する回答の一部として、すでにわれわれは二つの項目に触れてきた。その一は、クライエントのデータをどう構成するとこのテーマに対して役だつか、二は、職務分析データをどう構成するか、であった。そして、ここで三番目のものとして、われわれの仮説を形成するためには、上記の二者をどういっしょにまとめ、合成するか、が出てくるのである。

 カウンセラーの大部分の人は、今でも人と職務を「マッチさせる」という思想を持っている。このことがもし、クライエントのデータと職務分析のデータをいっしょにするという意味でのみ使われているのなら賛成である。

 筆者は、障害者のための場合はことに、ある人のために予想される職務を、1)遂行(performance )、2)接近(accessibility )、3)報酬(reward)という側面を持つ蓋然性体系に反復照合してながめなければならないと考える。すなわち、われわれの二種のデータのセットは、これら三面に関する「当座の規準(Situational standards )」を通して観察されなければならない。私はこの当座の規準を、クライエントが職務についたときに行なわなければならない、その場面固有の一連の行動、と定義づける。

 たとえば、「平均知能」に関心を持つのでなく、もしクライエントが求められている規準にかなっているといえるならば、そのときになされていることそのものが何かに、より関心を寄せるべきだと考えるのである。われわれは、クライエントが、“理想”の姿から見てどう「うまい」かの判断に集中するのでなく、与えられた場面での規準にどううまくかなうか、を判断すべきなのである。クライエントと職務のデータから仮説を作るときに、このように行なえば、より自信を持てるものとなるのである。そのわけは、大づかみに一般論で行なうのでなく、事実により即して扱うことができるからである。

 この当座の規準について考えるとき、それぞれ三つの異なった体系としての、三つのカテゴリーを考え、その中に仮説を作って見ることが有利と思う。その三つとは、1)“遂行”面の当座の規準―職に“ついたとき”にクライエントが行なわなければならない行動。2)“接近”面の当座の規準―職を“得る”ために、クライエントが訓練を受けるのに必要な、精神的、肉体的行動。3)“報酬”面の当座の規準―クライエントがその職務“から”得るはずのもの、である。付録Ⅲでこれらのモデルを示す。前記の二つのモデルのときと同様、細目は、規準の大分類項をよりくわしく説明するという目的で述べた、骨組としての例にすぎない。また、これら細目は、社会事情に依存しているものであるという点も変わりない。しかし、モデルそのものは異文化社会でも共通に適切なものである。

 職業的評価と職務分析データの合成に、当座の規準を用いるときにはだれでも、できるかぎり具体的であり、かつ、事実に即していなければならない。この種規準の適用には、クライエントが与えられた場面でどのように活動を行なうか、に関してのできるだけたくさんのデータを必要とする。また同時に、職務にはどんな場面が実在するかを知らなければならない。

● おわりに

 人間に関係する仕事についている、多種専門職間にしばしば起こる問題は、かれらがクライエントについて述べることが少なすぎることではなく、むしろ、かれらがクライエントについて理知的に述べることの困難性である。このことは、異なる背景を持った多職種が、共通の問題に対して合同で当たる、というときに起こりやすいようである。筆者は、この問題は、これら多専門職が取り扱わなければならないいろいろのデータを、適切に構成することができないでいる結果であると考えている。

 障害者関係の仕事をしている専門職者中、職業に関するデータについて話し合う責任者は、クライエントが選ぶべきである。本稿では、この人をカウンセラーと呼んだ(カウンセリング技術とか、この相互作用過程でどんな職務概念が使われているかについては何も述べていないことを心に留めてほしい)。

 本稿では、カウンセラーが、クライエントや他専門職者と理知的に議論できるようにするために用いる、職業的データを構成するための三つのモデルを提案しようとした。三つのモデルは、クライエントすなわち人に関するデータ(職業的評価)、個人に関係ないデータ(職業分析)と、それらを合成するための当座の規準である。

 この領域での経験を持つ読者にとっては、筆者がここで述べたことには新しいものはほとんどないかもしれない。

 しかし、ここで述べたことを通じ、われわれは何を知っているかをよりしっかりと認識し、そしてそれを再構成したうえで応用することにより、もっと確信を高めることができるようになることを期待しているのである。

 付録Ⅰ

 職業的評価

Ⅰ.個人面評価(Person Appraisal)

 A.個人の現状と機能に関する“記述”。

1. 肉体的側面

2. 心理的側面

3. 社会的側面

4. 教育的側面

5. 職業的側面

注:これらの多くは、カウンセラーが、検討ないしは確認した、現存の諸報告から収集できる。

職業的評価サービスを置いていない場所では、カウンセラーが自らやらなければならない。

 B.クライエントの発達歴の“記述”。ここでは、上記五側面に関連し、今までの生活史の中で行なわれてきた適応のしかたに対して注意が払われる。

 C.“解釈”1)これらの“記述”は何を示しているか。2)リハビリテーションとのかかわりは何か。

Ⅱ.問題点評価(Problem Appraisal )

 A.職業上の問題は何かの“記述”。職業的な考え方の評価。職業をどう認識しているか。職業選択問題に対し一貫する思慮があるか。彼の考えには心理的錯誤があるか。彼は、未成熟、不適応を示すか、または単に、職業選択のすべを知らないだけなのか、等。

 B.職業の関連問題の“記述”。家族、職業選択に際してのパーソナリティー、経済的要因、学業への関心、責任能力等。

 C.“解釈”1)これらの“記述”は何を示しているか。2)リハビリテーションとのかかわりは何か。

Ⅲ.予測的評価(Prognostic Appraisal)(クライエントが、将来、カウンセリング過程中、または、職についてからどんな行動をとるかという予測)

 A.職業カウンセリング―クライエントは、カウンセリングにどううまく反応するかという“記述”。自分の問題に自分で当たろうとするか、カウンセラーにやってもらおうとするか。カウンセラーは、職業選択だけに焦点を当てるべきか、あるいは、起こってくるであろう他の職業的問題にまで視野を広げるべきか。カウンセリングは、職業的な性格にとどめるべきか、または、個人適応カウンセリングにまで進めるべきか。どうやったらカウンセリングは最も効果的か、どんなテクニックを用いるべきか、等。

 B.職業適応―クライエントの能力の限界内にはどんな広い職務群があるか、という“記述”。どんな職業に彼は最も満足しそうか。職場の仲間との関係、作業条件への適応、意欲の自覚等に影響するパーソナリティ因子。目前のまたは将来の起こりうる諸事件、たとえば、結婚、職業課題の転換、配転、昇進の遅さ等、に対する適応に影響すると思われる既知の要因。

 C.“解釈”1)これらの“記述”は何を示すか、2)リハビリテーションとのかかわりは何か。

要約と計画

 ここで、上記多領域の概観をし、将来の計画を述べる。

 付録Ⅱ

 職務分析

Ⅰ.機能要因(Functional Factors)

 A.肉体的機能―手、指、腕、足部、腿部、目、耳、体幹等の身体各部に関して考える。注)ここでは、「行なう、遂行する、補助する」というような表現でなく、「ねじる、まわす、引く、押す」等の具体的な表現を使うべきである。

 B.精神的機能―学業水準、資格、意志伝達、決定判断、上司や同僚の期待等。

Ⅱ.作業条件(Working Conditions)

 入口の条件、環境、広さ、温度、湿度、害毒、騒音等について考える。また、職務の改変、物理的設備の改変の可能性の程度等もここにはいる。

Ⅲ.報酬(Perquisites )

 賃金とか、休日、病欠、退職金、組合、昇給、昇進等の厚生・待遇条件。将来展望、会社の背景、そのほか報酬に関連ある諸要因。

 付録Ⅲ

 職業的評価と職務分析の情報を合成する際の「当座の規準」(Situational Standards )

A.「遂行」に関する当座の規準

1.上司や同僚と問題を起こしそうか。

2.朝早く起きられるか。

3.作業台に8時間ついていられるか。

4.のみ、ハンマー、機械をその通りに扱えるか。

5.等々。

B.「接近」の当座の規準

1.職業訓練所とか職場の、建物条件をうまくやりおおせるか。

2.職場への交通機関ではどんな問題がつきまとうか。

3.職務につくための訓練を受けるのにじゅうぶんな数操作や読書力があるか。

4.等々。

C.報酬に関する当座の規準

1.包装したボールペン袋を箱につめるという類の仕事に、あきたり、満足するだろうか。

2.この仕事にじゅうぶんなほこりを見い出すだろうか。

3.ニードに見合う、じゅうぶんな収入が得られるか。

4.待遇向上は可能だろうか。どのように可能か。

5.等々。

*東京都心身障害者福祉センター顧問。日本キリスト教団より派遣。
**東京都心身障害者福祉センター職能科。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1973年4月(第10号)8頁~13頁

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