音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

統合教育を受けている精神薄弱児のソシオメトリックな地位

Sociometric Status of Retarded Children in an Integrative Program

Richard P.Iano,Dorothy Ayers, Howard B.Heller, James F.McGettigan,Valaida S.Walker*

中司利一**

 ソシオメトリーによる研究(Baldwin, 1958; Goodman, Gottlieb, & Harrison, 1972; Johnson, 1950; Johnson, 1961; Johnson & Kirk, 1950; Rucker, Howe, & Snider, 1969; Thurstone, 1959)は、一般に普通学級に在籍している教育可能な程度の精神薄弱児2は、精神薄弱でない級友と比べてしばしば受容されることが少なく、拒否または孤立していることを見いだしている。筆者らは教育可能な精神薄弱児が普通学級で積極的に拒否されていると報告していない研究は二つしか見つけることができなかった(Lapp, 1957; Miller, 1956)。

 しかし、これらの研究のいずれでも、精神薄弱児はそうでない児童より受容されることが少ないと報告されていた。Lappは教育可能な精神薄弱児は寛大に扱われ、さがし求められず、より受動的な傾向があると結論づけていた。Millerは普通学級の児童は精神薄弱児を「優しく」受容するが、知能の普通の児童やすぐれた児童をそれ以上に受容する傾向があることを見いだした。

 多くの特殊教育専門家(Christoplos & Renz, 1969; Deno, 1970; Dunn, 1968; Iano, 1972; Lilly, 1970)は、最近、伝統的に行ってきた教育可能な精神薄弱児を、独立した普通学級(Self contained regular classes)または特殊学級に入れることの代わりとして、統合教育の必要性を主張している。こうした教育は通常児童を一日のうち(大部分でなければ)、少なくとも一部を普通学級に入れることや、特別な援助または治療を与えることを含んでいる。一般に研究によって児童が普通学級に入れられたとき、十分に受容されないということが示されているので、このような場合、大きな問題として次のような質問が生じてくる。

 「教育可能な精神薄弱児は、普通学級で特別な援助を受けたとき、精神薄弱でない児童からどの程度受容されるか?」

 1970年9月に、フィラデルフィアの学区と、Temple大学特殊教育学部は三つの小学校にリソースルーム方式3による統合教育を計画した。教育可能な精神薄弱児と情緒障害児のための独立した特殊学級はとりやめられ、特殊学級の児童は普通学級に入れられた。生活年齢、社会生活能力、および教科学習の能力が普通学級に入れるにあたって考慮された。三つの小学校のうち二校では、最小限の社会生活および教科学習能力を示した児童は「バックアップ」の特殊学級にそのまま在籍した。大半の児童の知能指数は50と60の間であったが、それは入級を決定するためには使われなかった。以前に特殊学級に在籍した児童と普通学級で適応または学習困難を示した児童がパートタイムの援助を受けるためにリソースルームにつれてこられた。リソースルームの原理、目的および運営については別のところで述べられている(Hammill, Iano, &  McGettigan, 1972;  Shotel, Iano, & McGettigan, 1971)。

 本研究の目的は、リソースルームで援助を受けており、前に特殊学級に在籍したことのある教育可能な精神薄弱児のソシオメトリックな地位を明らかにすることであった。第二の目的は、リソースルームのサービスを受けるが、以前に障害児であると診断されたことのないまたは特殊教育をすすめられたことのない生徒の地位を調べることであった。

手続き

 ソシオメトリーのための面接が、Temple大学のスーパバイザーによってリソースルーム計画の行われた三つの小学校で実施された。それは1972年の4月と5月で、リソースルーム計画が始まって2年目の終わり近くであった。この面接は、以前教育可能な精神薄弱児と診断され、特殊学級に入級していた児童の在籍する普通学級で個別に実施された。これらの学級で面接された児童のうち、40人は以前特殊学級に在籍していた生徒であり、606人は「通常の」普通学級の生徒であり、80人は特別な援助を受けるためリソースルームに行っていた普通学級の生徒であった。最後の80人は障害児であると診断されたこともないし、リソースルームに来る前に特殊教育をすすめられたこともなかった。

 ソシオメトリックな地位を明らかにするための手続きは、Johnson(1950)が使用したものに似ていた。それぞれの児童は次にあげる六つの質問を与えられ、一つ一つの質問に対して級友の名前をあげるよう求められた。最初の三つの質問は受容を示し、最後の三つは拒否を示した。

1. あなたの学級で一番好きな人はだれですか?

2. 席をかえるとしたら、だれの隣りにすわりたいですか?

3. あなたの学級で一番一緒に遊びたい人はだれですか。

4. 席をかえるとしたら、だれの隣りにすわりたくないですか?

5. あなたの学級で一番遊びたくない人はだれですか?

6. あなたの学級できらいな人はだれですか?

 児童が一つの質問に対して一人以上の名前をあげたら、採点では最初の三つの名前だけ数えられ、ほかは除かれた。受容と拒否の合計点は、それぞれを調べるための質問に対する答えの中にあらわれた名前の回数を計算することによって得られた。

結果

 受容と拒否の結果は表1に示されており、三群の平均の差の検定は表2に示されている。

表1 普通学級生徒、教育可能な精神薄弱児およびリソースルーム利用児のソシオメトリーの結果
被 検 者


受 容

拒 否

平均 SD 平均 SD

普通学級生徒

606

7.87 6.14 5.66 6.24
精神薄弱児 40 3.62 3.12 13.62 13.10
リソースルーム利用児 80 5.41 4.54 10.95 8.36

表2 普通学級生徒、教育可能な精神薄弱児およびリソースルーム利用児の平均点の差
被 検 者 受容平均 拒否平均
Z P Z P

普通学級生徒と精神薄弱児

7.73 <.001 3.81 <.001
普通学級生徒とリソースルーム利用児 4.32 <.001 5.51 <.001
リソースルーム利用児と精神薄弱児 2.52 <.02 1.44 >.14
(NS)

 普通学級生徒の7.87という平均受容得点は三群のうち最も高く、リソースルーム利用児の5.41はその次で、精神薄弱児の3.62は最も低かった。この三つの平均受容得点間の差はすべて統計的に有意であった。精神薄弱児は13.62という最も高い平均拒否得点をとり、リソースルーム利用児は10.95で次に高かった。両者の得点の差は統計的に有意でなかった。普通学級生徒の5.66という平均拒否得点は、三群で最も低かった。これは他の二群と統計的に異なっていた。

 三つの小学校のうち二つで、1970年―1971年と1971年―1972年のデータを手に入れることができた。40人の教育可能な精神薄弱児のうち16人は両年度ともリソースルーム計画に参加していた。これらの児童のそれぞれの年度のソシオメトリーの結果が表3に示されている。二つの年度の間には、平均受容得点も拒否得点も有意差がなかった。

表3 16人の教育可能な精神薄弱児の二つの年度(1971,1972)の比較
年 度

受  容

拒 否

平均 1 平均 2
1971 2.94 .31 7.43 .65
1972 3.25 8.12

1. t=.80, df=15, P>.80(NS)
2.  t=.56, df=15, P>.50(NS)

 教育可能な精神薄弱児と普通学級生徒の結果は、図1と図2にも示されている。二つのグループ間の比較を進めるために、図はある数の受容または拒否を受けた者が全体で何パーセントいるかを示している。普通学級生徒では、多くのパーセントの者が高い数の受容を受けており、教育可能な精神薄弱児では多くのパーセントの者が高い数の拒否を受けた。しかし、二つのグループの間には、受容でも拒否でもかなりのオーバーラップがあった。



図1 普通学級生徒と教育可能な精神薄弱児の受容得点の分布
図1 普通学級生徒と教育可能な精神薄弱児の受容得点の分布

図2 普通学級生徒と教育可能な精神薄弱児の拒否得点の分布
図2普通学級生徒と教育可能な精神薄弱児の拒否得点の分布


考察

 リソースルームでの援助が利用できたにもかかわらず、本研究で対象とした教育可能な精神薄弱児は、そのような援助を受けなかった子どもたちについての先行研究と比べて少しも多く受け入れられていなかった。

 恐らく、特殊教育の側で制度を変更すれば通常の教育における年齢-学年制4のネガティブな効果を克服することができるということを期待するのは非現実的である。

年齢-学年制の効果

 筆者らの一人(Iano,1972)は小学校レベルでの固定的な年齢-学年制は、必然的に教育可能な精神薄弱児の統合を困難にするということを示唆したことがある。もし彼らが年齢に応じて学年に配属されたら、彼らの学力や学級への参加は学級の大半の児童より劣るのが普通である。一方、もし彼らが年下の児童の学年に配属されたら、自分は落第生であると感じるであろうし、他の児童にもそう見られるかもしれない。その上、しばしば教育可能な精神薄弱児は、年齢は下であるが同じ精神年齢の正常児よりも身体的または社会的に発達している。

 さらに、無学年制5や柔軟なグルーピングを採用している小学校では、教育可能な精神薄弱児はソシオメトリックな地位がもっとよいかもしれないということが示唆された。(Iano,1972)。

 Goodman,Gottlieb,およびHarrison(1972)はこうした無学年制の小学校における精神薄弱児のソシオメトリックな地位についての研究を行っている。彼らは、教育可能な精神薄弱児は、しばしば精神薄弱でない児童よりも友だちとして選ばれることが少なく、きらわれることが多いことを見いだした。しかし、この研究の精神薄弱児は全員バスで通学しており、彼らが学区外の者であったという事実は、他の児童による受容に大きな影響を与えたかもしれない。

 こういうことがあり得るということは、中学校レベルの教育可能な精神薄弱児の社会関係についての研究(Fuchigami&Sheperd,1968)の結果から、ある程度支持されている。FuchigamiとSheperdは、近所の仲間と同じ学校に通学している精神薄弱児は、住んでいるところから離れた学校に通学している精神薄弱児よりも学校内の統合活動に参加したり、学校の内外で精神薄弱でない仲間と友だちづきあいをすることが多いらしいということを見いだした。

精神薄弱児と非精神薄弱児の地位のオーバーラップ

 本研究で、受容と拒否を受けた精神薄弱児と非精神薄弱生徒のパーセントに見られたかなりのオーバーラップは、ソシオメトリックな地位は精神薄弱という診断だけによって決定されるのではない、ということを示しているように思われる。精神薄弱と診断された児童のうちいく人かは、普通学級の仲間によってよく受け入れられているか、少なくとも拒否されていない。一方、精神薄弱と診断されたことはないのに、仲間から拒否されている普通学級の生徒がいる。その上重要なのは、精神薄弱児が得た受容と拒否と、前に教育可能な精神薄弱児または障害児と診断されたことはないが、特別な援助のためにリソースルームに来ている生徒が得た受容と拒否の間に、ほとんど差のなかったことである。

 二つの結論が下されよう。第一に、教育可能な精神薄弱児という診断ラベルは、必ずしも普通学級で生徒が受容されるか拒否されるかを決定しない。第二に、障害児であると認められたり、診断されているのに仲間から好かれている生徒が普通学級に多くいるようにみえるということである。

未解決の問題

 本研究の結果は、多くの興味ある問題を提起している。第一に、何によって受容される又は拒否されない児童と拒否される児童が区別されるか?Johnson(1950)とBaldwin(1958)は、普通学級生徒による教育可能な精神薄弱児の拒否の理由は、一般に精神薄弱児の反社会的な行動に関連していることを見いだした。BaldwinもJohnsonも反社会的行動は、普通学級における失敗に対する補償と不適切感であることを示唆した。しかし、多くの教育可能な精神薄弱児は、明らかに普通学級で拒否されていないという事実についての説明はみられない。これらの児童は、よりポジティブな社会行動を行っているのか?彼らは異なったやり方で失敗を処理しているのか?彼らはある未知の理由で適切感を感じているのだろうか?普通学級にいる精神薄弱でない児童の教科学習的又は社会的特徴は、精神薄弱児の受容又は拒否に重要な効果を及ぼしているのか?

 第二の問題は次のようなものである。孤立および拒否された生徒の地位は改善することができるか?Chennault(1967)は、特殊学級の中で仲間による受容の低かった生徒の社会的地位を、指導によって改善することができることを示そうとした。指導は地位の低い生徒を5週間にわたって、高い地位の生徒とともに演劇計画に参加させることから成り立っていた。Chennaultは、低い地位の生徒の受容は、指導が終了したとき増加したことを見いだした。

 RuckerとVincenzo(1970)はChennaultの研究を繰り返してみたが、低い地位にあった教育可能な精神薄弱児は指導後一か月たつと、その改善を保つことができないことを見いだした。彼らは、指導が終わると改善は減少し、こうした指導は補助者の援助がなければ実施しがたいと思われると結論した。こうして、これらの二つの研究の結果は多くの問題を未解決のままにしている。普通学級で拒否されている教育可能な精神薄弱児の社会的地位は、指導によって改善することができるか?効果的で持続的であるだけでなく、大半の学級で適度に実施することができるという三点で実際的な指導を見つけることができるだろうか?

 結論として、本研究はリソースルームによる統合教育の実施は、普通学級にいる教育可能な精神薄弱児の社会的統合を本質的に促進するということを明らかにすることができなかった。しかし、精神薄弱児と精神薄弱でない児童の間にみられたソシオメトリーの結果のオーバーラップは、教育可能な精神薄弱という診断は、それだけでは低いソシオメトリックな地位を予測しないということを示唆した。さらに、明らかに、普通学級には仲間から拒否されている又は孤立している生徒が大勢いる。多くの未解決の問題が残されている。拒否された教育可能な精神薄弱児と拒否されない精神薄弱児を区別するのは何か?普通学級にいる精神薄弱児のソシオメトリックな地位は指導によって改善することができるか?柔軟なグルーピングを持つ無学年制の小学校での精神薄弱児のソシオメトリックな地位はどのようであろうか?

 学校にいる多くの児童が級友から受容を得るのに失敗しているという事実は、決して無視することができない。教育者たちは、責任を持ってどうしたら低い地位の児童が仲間とよりよい統合を行えるよう援助できるかをさがし求めなければならない。

参考文献 略

*Richard P. Ianoはペンシルバニア州フィラデルフィアのテンプル大学特殊教育学部助教授、Dorothy Ayersは以前、同学部のスーパバイザーをつとめていた。Howard B.Hellerはニュージャージー州ヴァインランドにある American Institute for Mental Studies付属訓練校教育サービス長である。James F.McGettigan はテンプル大学特殊教育学部助教授である。Valaida S.Walker はペンシルバニア州フィラデルフィア南東地域精神薄弱コミッショナーをつとめている。
**横浜国立大学教育学部助教授。

訳注

1.ソシオメトリーによって測定された社会的地位のこと。ソシオメトリーとはモレノ(Moreno)が考えだしたもので、だれと交渉したいかとか、だれと交渉したくないかというようなことを調べ、その結果から集団の中での地位を測定する方法。地位の状態は数字で示され、また個人と個人の関係をグラフで表すことによって、孤立している、指導者、人気者、拒否されているなど、個人の集団内の地位や集団の構造が明らかにされる。
2.知能指数が50~70程度の軽度な精神薄弱児のこと。
3.普通学級に在籍し、特別な援助を必要とするときだけ資料室で指導を受けるやりかた。
4.age-grade system.6才になると小学校一年生になるというように、年齢と学年が対応したもの。
5.年齢でなく、学習の進度に応じて学級を編制したもの。

Exceptional Children,January 1974から)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1974年10月(第15号)2頁~7頁