作業療法

作業療法

―スキナー理論による―

Skinnerian Occupational Therapy

 すべてのリハビリテーションにおいて、動機づけ(motivation)は鍵であるから、Skinner によって発展せられたオペラント原理が研究され、この知識の基礎が、望ましい行動の強化とリハビリテーションプロセスの促進のために作業療法に応用されるべきである。リハビリテーションの最終ゴールは漸近法(successive approximations )によって求められている反応に似た行動を形成することにより到達され得る。各々のレベルで望ましい行為が完成されることで、適切な強化刺激が引き出される。

L.Irene Hollis,B.S.,O.T.R.*

 わずか10年前(1962年、フィラデルフィアでのWFOT会議に続く研究コースで)、Erie Haughton は「OTにおける形成化への参加」について述べている。Haughtonは序文で、行動主義者は、研究室での基礎的研究ではなくて、現実生活での問題とか状況に興味を持つようになってきた、と述べている。彼らは、明白な(何かを)表す行動と、そのような行動を刺激もしコントロールもする環境的な事柄との関係を詳述しようと試みていた。

 Haughtonは精神病患者の大グループ、小グループ、個人に用いられた強化法の数例を引用した。“強化(reinforcement )”の構成はかなり多様である。ポーカーチップ、休憩、実際のコイン、タバコ、社会的注意等、行動の割合を変えるものは何でも用いられた。社会的注意(social attention)が、入院したばかりの患者には意味を持ち、社会から隔絶している(慢性のあるいは長期のあるいは退行した)患者にはその意味を失うという事実に注目してほしい。食物のような、より基本的な強化子(reinforcers )が応用される必要がある。

 HaughtonはOTに対して、治療に応用できる強化としての受け入れられる方法を確立するよう要請した。その後の10年間、数々の試みがなされている。作業療法の臨床実践への色々な応用として、Skinner の原理を用いたいくつかの例を引用する。

装具訓練におけるオペラント条件づけ

 1966年刊のAmerican Journal of Occupational Therapyに、装具による訓練におけるオペラント条件づけの最初の文献が報告された。Catherine Trombly は、患者に治療用ディバイスを受け入れさせ使用させようと努力するときに、治療者が直面する悩みを報告した。OTが患者に設定するゴールは、これらの考案された種々の用具(equipment )の使用を通して自立することを含んでいる。月並みには、OTは患者を勇気づけ注意することで包容する。Trombly が述べているように「患者は、自立しようとする努力が少なければ少ないほど、自立することの利益を確信させようと(換言すれば、OTが設定したゴールに近づけようと)試みるセラピストから、より多くの注意(関心)を受けることになる。」

 患者が自立しようとし始めるとき、セラピストは彼から引き下がり、離れようとしがちである。セラピストの注意という強化は与えられなくなる。このことは患者にとっては喜ばしくないので、彼は用具の使用に失敗することで再び注意が得られるということを学ぶ。賢い患者はセラピストを巧みに操縦する。

 Trombly の報告は、工学デザインセンターとの共働により、クリーブランドのハイランド病院で開発された研究プログラムに関係している。この研究は、多種の脊髄損傷をこうむった四肢マヒ患者の、装具による訓練におけるオペラント条件づけの組織的研究に注意深く取り組んでいる。研究者たちはフレクサーヒンジ・ハンド・スプリント(flexor-hinge hand sprints )を使用するとき、どのような外力の加え方が実用的かを決定しようと試みた。

 訓練は、スプリントに加えられる外力の四型を調べること、そして色々なサイズや形や手ざわりのする物を、つまみ上げたり、置いたり、放したりする練習(時間が計られる)をすることから構成されている。注意深い観察と記録は、セラピストが選択した強化と共に、患者がそのディバイスを用いることに習熟する手助けとなる。その経験により、患者は自分の用いるスプリントの型を選ぶ客観的方法が分かるようになる。

精神医学からの報告

 行動変容の技法を用いた報告は、身体障害を扱っているセラピストより、精神医学分野でのセラピストの方が多く発表している。1968年、Adelaide Ryerson SmithとVincent Tempone とは望ましくない行動を治療するために、強化の原理を用いた。もしOTが、観察でき計測できる目的的な行動と、そのような行動を強化しあるいは本質的にコントロールするような事態との関係を明らかにできるなら、作業療法臨床の基本原理を明確にしていくステップになるだろう、と彼らは言っている。

 American Journal of Occupational Therapy誌は、この文献に関する三つの評論を載せている。Ethridgeは評論の中で、OTは行動変容の原理を受け入れるのに飽き飽きしており、また(これらの原理とか概念は長いこと作業療法の一部であったが)多くのOTは、行動の変化に関して自分たちの治療計画を明々白々に十分分析しているとは言えない、と述べている。Fairman は、OTは学習の原理についての実用知識とオペラント条件づけへの特殊な習熟とを、彼らの行動工学上(behavioral engineering)のレパートリーに含め持つべきであると同意している。彼は何年か前、学習理論に疑問を投げかけた専門の予言者を数例引用している。一つはAyres の忠告である。すなわち彼女は、学習理論とりわけ行動科学において発達した運動学習の法則(motor learning laws )の研究は、作業療法のプロセスの研究に有益であろうと。Ayres は考えられる三つの概念を示した。すなわち「学習は報酬(reward)と強化の函数として成立する;人は彼が行ったことを学習する;学習はそれが生起する目的のある所に起こる。」

 Fairman はまた、Reillyの1962年の「人は手の使用を通して、自分の健康状態に影響を及ぼすことができる」という記述を意訳して、学習理論の文脈では「人の適応性の特質は、手を用いてする強化の特性に影響される」と述べている。多くのセラピストは学習理論の原理を日常的に用いているが、直観的であるために、彼らが患者にアプローチし治療を実施する基礎となる科学的教訓にまでそれを関連づけられないでいる、とPeckは評論している。Peckは、新しい観点あるいは新しい出発を考えたときにもなお、古いものすべてを捨て去っていないことについて弁解し、OTが、発散し集中するアイディアの価値を認めるよう勧めている。

 1969年と1970年にEllsworth は、精神病患者を動機づけるのに役立つような種々のオペラント技法を組み込んだ実験を、軍隊でした経験を通して報告した。1970年には、Kalamazoo 州立病院での革新的なプログラム(チップを用いた)が、KayeとMackieとHitzing によって報告された。

CP児治療への応用

 1971年、Rugel 、Mattingly およびEichinger は、CPによる四肢マヒの8歳の少年の治療にオペラント条件づけを用いて報告している。彼はいつも前かがみになり、歩行器とか作業台によりかかっていた。著者たちはこの不適応行動を変化させたくて、彼の体重を足と後方の筋肉にもっとかけるよう教えた。そうすれば彼の上体の障害は軽減され、手をもっと機能的に使うことを可能にする、と考えた。

 彼らの治療方法には、体重計を用いそこに子どもを立たせることが含まれる。その体重計は、自動的にフィードバックするよう改善されていた。患者が彼の足に体重のほとんどを乗せたとき、電気の回路が閉じられ、電気がつくように金属片が設置されている。もし彼が10秒間電気をつけ続けたらベルが鳴り、更にレーストラック・ゲームでの遊びに移れるということで強化された。彼にとっての目標は、できるだけ早く自動車を軌道上で走らせることである。もし彼が前かがみになったり腕にもたれたりして、2秒間電気がつかないままでいると笛が吹かれ、彼の自動車は優位を奪われて1コマ下げられる。自動車が一周し終えたとき、彼には気に入ったオモチャで遊んだり、回転いすでグルグル回したり、彼にとって意味のある他のことに参加したりするチャンスを得る、という報酬が与えられる。

 患者が10秒間電気をつけていられる時間と、電気が消えている時間のパーセンテージについて綿密な記録がとられた。その記録によれば、訓練期間の初期には、電気がついているのはわずか5%の時間であった。訓練4週間後、トラックを何周もした後、そのパーセンテージは劇的に変化した。患者は80%の時間をつけていた。彼の立位バランスは大きく改善された。

 このチームはゲーム様の場面を作り、この特殊な患者に適当な強化を見つけ出した。この創造的なプランは実施されただけでなく、望ましい結果をもたらした。

 OTは患者にかなり似ているところがある。もしセラピストが治療法からプラスの強化を受けると、彼らはその方法を繰り返しがちである。臨床場面で日々フィールドバックを受けるので、セラピストは、望ましい結果をもたらす治療的接近法を用いることを続け、そうでない方法を取り止めにする傾向がある。

ハンド・リハビリテーションへの応用

 ハンド・リハビリテーションにおいては、スキナー流の接近は時折効果的に用いられ得る。しかし著者は、すべての他の方法を排して用いるべきだとの要求はしない。修正されたオペラント法を用いることで、他のどんな方法よりも効果をあげる場合があるが、これは多くの可能な治療法の一つにすぎない。

 著者は、重度の手の障害をもった患者たちの治療で、短期間とか到達できるゴールという点で満足し得る方法を紹介しようと思う。用いられた方法は「直観的」である。ひどく障害されているため手機能の十分な動きとはほど遠く、患者たちは、通常の方法でクラフトに参加しようとしていて失敗に会ったとき落胆してしまう。外科的治療を受けた部分へのダメージが起こり得る。患者が最終ゴールに到達するまで漸近法を用い、少しずつのステップで徐々に彼らの行動形成をする試みがなされている。求められている行動に段々近づく反応が強化されるのである。

ハンド・リハビリテーション・センターのプログラムからの詳論

 鷲手変形(claw deformity)は正中神経と尺骨神経マヒの混合から起こり得る。このような変形は、手が長屈筋と長伸筋のなすがままになっているとき起こる。正中及び尺骨神経に支配される固有筋の調和のとれた影響が欠けている。患者の中手指節関節(MP joints )をわずかに屈曲するよう作られた簡単なスプリントは、長伸筋群で指先の伸展を可能にするだろう。調整されたスプリントの装着で、過伸展する変形を予防する。彼の固有筋は再強化されるかも知れないが、筋組織を回復させるような再訓練のプロセスは中々立派な方法である。患者は、中手指筋関節を屈曲させ、指節間関節を伸展させるよう教示される。これは微妙で難しい動きであるから学習しにくいので、あるケースには工夫が必要とされる。( 図1、図2略)

 患者は、中手指筋関節をおおい隠し、近位の指節の上に広げられた硬いスプリントを装着する(図3)。近位の手指節の背とスプリントのおおいとの間に、色つきの液体で満たした袋をそう入する。中手指節関節の屈曲を自動的に引き起こしている彼の固有筋で指先を伸展させ、スプリントと指の間の空間を広げるよう患者を励ます。患者がその練習をうまく遂行したとき、細いチューブの中に入れられている色液には何の徴候も現れない。もし彼が長伸筋の使用に逆戻りしたら、筋組織の回復がうまく機能していないというサインを示すように、液体がチューブに流れ出ることになる。これは真の強化である。

図3

 患者を再教育する事例では、筋から(モニターしながら)電気的活動を取り出すために、エレクトロ・マイオモニターが使われることがある。電極は背側骨間筋の上にとりつけられ、患者は、プレートを越えて両手の指先を近づけ合うよう試みる。その機械は、固有筋が針の動きとか先とか笛の音によって活性化されているとき合図する。エレクトロ・マイオモニターはグラフを描かないで、患者への強化としてシグナルを発する。まさに“ティーチング”・マシーンである。

 母指の再訓練は別になされなければならない。母指球筋組織の神経再植法が施されているとき、あるいは対立筋の移植がなされているとき、この方法が用いられる。第2から第5の中手骨を支持するように、金属をひもでしばり、三角のアーチ状に形作る。手は、母指中手骨だけが自由に動くような位置に、マジックベルトで安定される。患者は母指中手骨を動かして、中手指節関節の周辺の特定の箇所に触れるよう要求される。その動きは中手骨を含むので、患者は、母指の先よりも中手骨の動きに注意を払わなければならない。最初の目的は、正しいパターンの動きを確立することであり、より大きな範囲と力が後にこなければならない。その目標は患者にとって十分可能なものである。

 三角形の支えを持ち、シグナルを送るディバイスが、患者に好結果を暗示するための補助として用いられる。シグナル・ライトの箱を作るには、圧力に敏感な細いテープを、乾電池でつくライトに接続し、それを小さな金属箱に入れる。テープが圧迫されたときライトがつく。このテープ片を、木製ブロックの適当な高さの所に取り付け、それを三角形の支えの下に置く。このテープは、患者が第1中手骨頭で十分に圧してライトをつけるよう努力する目標である。母指中手骨の動く範囲(R.O.M.)が増すにつれ、テープの取り付けられたブロックの高さは低められる。そうすれば、行動の形成化が実現される。

 手の中にペトリ皿を持つとき、母指の正しい位置を図が示しているように、母指の操作は他の方法でも発展させられる。母指の腹が皿の表面に触れるよう母指は回転される。対立筋移植をしたことのある患者に対するときは、ペトリ皿の代わりにびんのフタを代用して、母指の爪をフタと平行させて、それを回転させるよう患者を励ます。もし対立筋移植がなされると、母指は正しい肢位にあるかのように見える。もし内転筋と長屈筋が代用していると、母指は外観では正しい角度にあるだろう。この行動を形成し、観察できる強化刺激を与えるために、シグナル・ライト箱が使われる。シグナル・ライトからの1本のリード線を金属のフタに取り付け、二番目のリード線を母指の腹の橈骨側に、にかわづけされた電極を用いて取り付けられる。母指が回転すると、母指と金属のフタに取り付けられた線が接触し合うことになる。ライトがつくだろう。二番目のリード線を、母指の腹のもっと橈骨側に移動させると、中手骨の回転にはそれだけ改善が見られる。

南アフリカからのアイディア

 1966年ロンドンで、南アフリカPretoriaのToit夫人は、オペラント条件づけの凝ったプログラムに利用できる考えを提示した。Toit夫人とPretoria作業療法大学の学生たちがデザインし、組み立てた、様々に動機づけられる治療装具は、新鮮な接近法を提唱している。それぞれの治療装具は、特定の関節の動きを複写するよう選択されたコントロール機構から成るユニットである。もし肘とかひざが当該の関節であるなら、それに適合する装具が患者に合うよう調整され、位置を定められる。動く範囲と速さが、抵抗とか補助と同様に決められ、装具がそれに応じて反応するようセットされる。その機構は、電動の道具、ディバイス、オモチャなど、いかなる数量でも電流の供給をコントロールできる精密に考案されたスウィッチに接続している。

 もし患者が、彼の腕とか足を適当な範囲と選ばれた速さで動かせば、スウィッチが入り、電流が、彼の選ぶディバイス──子ども用のオモチャの列車、女性用のヘアドライヤーやミシン、男性用ののこぎりや旋盤、輸送用の小さい自動車さえも──を操縦する。

 この治療法は、患者にとって適当な社会学上の職業分野の典型となるアクティビティを、OTが選ぶ機会が与えられる、とToit夫人は信じている。このアクティビティは、患者の身体条件に応じて、それに合った簡単さや複雑さの望ましい程度によって調整されるとよい。この方法は人為的なものであるから、正常な道具の操作においては直ちに棄てられるべきである、と彼女は述べている。

結語

 行動変容に関するEthriegeの一つの評論は、精密な行動の様相は、全体として行動よりもむしろ注意の集中である、と多くの人が考えていることである。

 ハンド・リハビリテーションにおいては、手を機能的に使用するためには、指を協調させる以前に指の分離運動が完成されることを考えるのが普通である。この事項について、セラピストは、これらの分離された運動に注意を向けることをためらうべきではなく、また一本の指でさえも、その動きの強さと範囲を得させようと患者を援助するとき、この文献に述べられたのと類似したオペラント技法の利用をもためらってはいけない。我々はここに留まることはできない──混乱した指を正常な動きのパターンに統合できる意味あるアクティビティへと、患者をできるだけ早く導くことである。作業療法において、真に取捨選択的であることは、全く有利である。セラピストは異なったシステムを資源から自由に選んでよい。

(The American journal of Occupational Therapy April,1974から)

参考文献 略
参考文献(訳者紹介) 略

*ノースカロライナ大学ハンド・リハビリテーションセンターのOT主任


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1975年1月(第16号)13頁~18頁

menu