特集/教育とリハビリテーション デンマークの特殊教育

特集/教育とリハビリテーション

デンマークの特殊教育

Special Education in Denmark ─A Survey─

I. Shov Jφrgensen
小鴨英夫訳

 デンマークの人口は、500万人である。義務教育年齢の児童生徒数は80万人であり、そのうち、12万5千人の児童生徒に対し、特別の教育措置がとられている。

 初等・前期中等学校(義務教育)80万人

①補助的教育を受けている統合学級(integrated class)の生徒 10万人

②普通学校の特殊学級にいる生徒 1.5万人

③特殊学校の生徒 1万人

 障害児童生徒数(①+②+③)12.5万人

 (1)10万人の障害児は普通学級で教育を受け、特別な指導教具の提供をうけ、補助的な特殊教育を受けている。教師は、助言を含む広範囲にわたる学校心理学的サービスを必要としている。

 (2)1万5千人の障害児は普通学校の特殊学級にいる。学校長と教師は、特殊学級および普通学級の教師と生徒間に出来る限り相互作用が営まれるようにする責務を負っている。

 図1は、統合学級(integrated class)プランで、教師は特殊学級の生徒も指導することにより協力態勢がつくられている。

図1.統合学級(integrated class)プラン

図1.統合学級(integrated class)プラン

 すべての学校では、その学校に在籍している生徒の両親により、5~7名の委員が選出されているが、特殊学級をもつ学校には、更に、2名の委員が選出されている。(図2)

図2.学校教育及び余暇教育の地方行政

図2.学校教育及び余暇教育の地方行政

 障害児の学校教育上の問題についてこのように広範にわたり考慮が払われていることが、小・中学校と障害児の両親との間には、より密接な非常に価値のある接触がもたらされる結果となった。

 重度障害をもつ学齢児が家庭での生活が可能かどうかは、適切な教育施設はもちろん、医学的、社会的援助が得られるかどうかにかかっている。このような施設を提供するために、全国に重度児のための指導センターが存在している。(図3)

図3.特殊教育センター

図3.特殊教育センター

 センターは障害児が毎日通学できるぐらいのあまり遠くない距離に置かれている。月曜日から金曜日までの間の平日ホームは、通学できない障害児のために設けられている。センターの学級は普通学校におかれている。ある学校には聴覚障害児のためのクラスがあり、また他の学校には言語障害児や精神疾患児のクラスが存在する。これらのクラスは普通学級と並んで設けられている。学校には、教師や生徒の必要により理学療法や作業療法を実施する治療施設や障害のタイプと関連する医学の専門家がおかれている。

 (3)1万人の障害児は特殊学校に入学し、このうち、数千人のものは全国各地から寄宿制学校や治療施設に入っている。これらの生徒は殆んどの場合、重複障害児である。盲児の寄宿制学校では正常な知能をもつ少数の生徒しか受け入れていない。また、盲児は、国立盲人印刷工場・図書館や指導教具センターから指導教具が与えられるならば、それほど問題なく普通学級で指導できると思われる。将来は、寄宿制学校は大部分を観察の業務や他の施設に交代するものと予想される。

 特殊学校はすべて、今後「ツイン・スクールの原則」に従い「統合学校」に(integration school)付属されるであろう。(図4)

図4.統合のレベル

図4.統合のレベル

 特殊学校の生徒に対する二校の校長、教師の間の協力は少しも変わらないとはいえ、教師と生徒の交流の可能性は、指導環境によってかなり左右される。寄宿制学校では生徒がずっとそこに留まるべき場所とは考えていない。ただ、重症児が教育的、家庭的な理由により必要な場合は寄宿制学校に留まることになるのである。

 普通、指導センターに付設する「一時的ホーム」(temporary homes)は、もし家庭の事情で重症児を家庭の外に措置する必要がある場合には好ましいものである。

 子どもの毎日の生活環境と教育環境とは別々にすべきであることが原則である。

〔特殊教育の歴史〕

 デンマークの特殊教育は、ろう児の施設が1807年に、そして盲児の施設が1811年に設立されたことによって始まる。最初は民間の手により出発したが後に公的資金の援助を受けるようになった。

 1855年に、最初の精神薄弱児の学校がコペンハーゲンに創設され、1872年には肢体不自由の学校が開校した。

 普通小中学校の中に最初に特殊学級が設けられたのは、1901年で次の年には国の施策として、学校に障害児のための設備が拡張された。国は精神に特別の障害をもつ者を集め、財政的に援助するための特別の援護のシステムを発展させた。そして徐々に各障害者のグループにもモデルシステムの特長をとらえた。これは国が1933年以降、精神的および重度身体障害者の指導や援護をすべて実施するようになった際の重要な方針となった。

 1950年にはろう者の、1956年には盲者の、1959年には精神薄弱者の施策に関する法令が制定されるなど遠大な改革が導入された。これらの施策と平行して、小・中学校の中の障害児に関する法令も制定された。1937年には、普通教育では利益を得ることのできない生徒のために、小・中学校は、特殊教育を準備することとなった(暫定的―そして1958年には無条件で)。このようにして、教育時間、指導の際の教具や輸送に関しては、ある場合相当な経費を要したけれども、すべての児童に対し教育を通して彼らの全人格を発達させるためには慈善という考えから権利という考えに代わっていった。すべての経費は国により支出されたが経費の85パーセントは私立学校に支出された。

 1949年には、学校心理学サービス法が通過した。これによりクラスの中の個別化と特殊教育に対する十分な委任を増進させる基礎となった。小・中学校には、高度の特別指導ができる専門教師や相談員が配置されるようになった。1960年代には、小・中学校では教育的な試みを特殊化できるようになり、(図5)障害児は、障害児だけで囲われている場合よりも、同年齢の普通児と接する場面を共用した場合の方が、社会的にも教育的にもよりよく発達するという経験を獲得した。また、インテグレーションが進み、障害児の問題が世間に広まっていく段階の中で、彼らは社会の正常な施設や労務の場において受け入れがどんどん増加していることがわかった。

図5.

図5.

 1969年には、この傾向は障害児の指導に当たっては実行可能な限り、普通学校環境で指導ができるようにするという議会の決定を効果的に導き出すこととなった。

 政府は、1972年に収容施設や学齢前の幼児に対する特別な教育的援助を含む特殊教育施設をカバーする小・中学校のすべての特別な指導の全てを協調的な仕組みとすることを勧告する委員会を設置した。

 1978年6月8日に次の法令が制定された。

 1 小・中学校法修正法

 2 成人特殊教育法

 これらの法令により、すべての障害児は、彼らの特別のニーズや希望に合致するよう準備された生涯にわたる教育が保障されたのである。

教育 改革

1937年 初等・前期中等学校法

    特殊教育:仮定

1949年 学校診断法

    学校―心理学的カウンセリング

1950年 ろう者関係法

1956年 盲者関係法

1958年 初等・前期中等学校法

    特殊教育:無条件

1959年 精神薄弱者関係法

1969年 議会決議:統合教育の準備

1976年 初等・前期中等学校法:統合教育の規定

1980年 特殊教育の協調システム(coherent system)の制定:教育、社会、医療間の協力

〔行政的責任〕

 かかる改革で必要とされる弾力性と協調性の基礎は、特殊教育施策は共同の行政の下にあって、出来るだけ児童の家庭と密接に結びついていること、これはその責任は、地方教育当局にあるということを意味している。

 この結果として生ずる行政モデル(図6)は、障害児に対するすべての教育は文部省の管理下におかれる。文部大臣は特別な特殊教育施策に対する標準や必要条件を示し、関心のある団体と接触を保ち、調査のために法律を制定し、そして特殊教育の教員養成を準備する。また、文部省は拡張や改善を図るために総合的な調整や管理の責任がある。

 図6.特殊教育制度

図6.特殊教育制度

 これらの責務を解決するため省の組織は固定されていない。しかし、二つの目的に応じなければならない。その一つは、多方面にわたる、合法的な事例の取り扱い、第二は、決定は住民のために団体や協会を通して受け入れ、実行されねばならない。

 障害児の指導にあてる国の資金は、郡への地域補助金として移管されるが、これは将来、重度児のために適切な教育的指導を実施する場合に準備されるものである。一般に郡は、障害児学校の経営は行わないが、指導センターや特殊学校を含めた適切な施設を設立のために地方教育当局と協定が行われる。

 郡では特殊教育の拡充のために必要な資源を準備する。その資源は出来るだけ生徒を普通学校の環境と接近させるために、地方教育当局と協力し利用がはかられる。文部省の通達によると、もし小・中学校で行っている教育の平均的経費のおよそ50パーセントをこえた場合、郡は特殊教育施策の費用を支払うことを要求している。

 郡はこのように全般的な計画、財政、生徒の照会、そして特殊教育全体の管理に対し責任をもつことになる。地方当局は行政および一般的指導に対して責任をもつ、一地方当局の特殊教育施策と関連して、ある市行政機関では、他の市からくる児童に対する特殊教育の拡大制度が及ぶことを望んでいる。文部省より出されたガイドラインに従い、郡と地方当局間ではこの効果が認められた。

 もしこの同意が特殊学校経営に及ぶならば、郡はこの学校を援助するであろう。

〔市の間の協力〕

 障害児の教育施設を市と郡に配置したことで、共同計画を可能にし、その結果、教師と生徒が、ある教育から他へ柔軟的に移行されることとなった。特殊教育は、多くの資源を利用し、多くの考慮がはらわれなければならない。障害児や両親を援助するという一般的要請に従って、機能的分析に基づいて教育的施策は樹てられなければならないし、権威に関する伝統的なルールは無視されなければならない。大事なことは協力の方式を発見させることである。協力の例として職員の雇用について述べてみよう。特別な有資格教師と補助スタッフは市によって、相談員と校長は郡によって採用される。―すべては合同委員会の推せんである。

 市によって雇用されるソーシャルワーカーは、障害児が学齢に達する前に発見するよう努める。

〔照会〕

 両親は特別の教育的援助をうけるために種々の施設に申し出る必要はない。地方の学校へ行くか学校と接触するために社会サービス課へいくかである。市の学校心理学サービスセンターの職員は子どもにニーズがある限り措置変更にかかわらず子どもをフォローする。職員は、心理学者、臨床心理学者、ソーシャルワーカー、そして各障害ごとの非常勤の相談員である。学校心理学者(school psychologist)と相談員は夫々、心理学者として付加的な訓練をもつ教師であり、特別な有資格教員である。

 ケースを処理するケースワーカーを援助するために、関連分野にわたる専門家チームが常に設けられるが、助言は出来るだけ一人の者が伝える。

 デンマークでは、1学年から10学年まで教師が同じクラスを教えるシステムがとられている。クラスの教師は、学級内の生徒を管理し、生徒間の社会的課題を解決する。そして、両親や多くの学校サービス機関と接触を保つようにする。多くの場合、学校での心理テストや短期の特殊教育の結果について両親とクラス教師によって話し合いがなされる。

学校―心理学的カウンセリング

 5,000名の生徒に対し

主任学校心理学者(chief school psychologist) 1名

学校心理学者 2名

スクール・サイコロジストの用語は、デンマーク語「skole-psykolog」と全くの同意語であるので「教育心理学者(educational psychologist)」の用語より好ましい。スクール・サイコロジストは教員免許状を有し、心理学を専攻する前に教師として経験をもっている)。

臨床心理学者 1名、ソーシャルワーカー1名、児童心理学者(必要な場合)1名。

パートタイム

言語聴覚アドバイザー 1名、精神薄弱 1名、読字困難 1名、情緒社会的障害 1名、学習の遅れから退学した者への相談者 1名、特殊学級のアドバイザー 1~3名、成人障害者の特殊教育相談者(必要な場合)1名、精神疾患相談者 1名、盲と弱視の相談者 1名(郡をカバー)、教育センターの相談者 1名(郡をカバー)、精神病、運動障害、重度精神薄弱等の相談者(必要な場合)。

〔教員養成〕

 教師と相談員の間の専門的協力、そしてインテグレーションの理念を実現するためには、すべての教師に対して障害児に関する十分な知識を与えることが基本である。教師は3つのレベルで、特別な教育的援助を与える資格が与えられる。

 基礎的な教員養成のカリキュラムは、3年半から4年で取得するが、学生にいろいろな方法で、障害児の状態についての教師としての知識を与えるようにしている。特殊教育に関する学科としては、心理学、教育学、指導の理論と実際といったものの中で教えられる。

 なお更に、養成大学学生は、3つの教育専門家としての教科の一つを選択しなければならない。その一つは特殊教育でこの専門家としての教科を選んだ養成大学学生の3分の1の者は、224教科のコースを選ぶことになる。これにより特別な指導を行う資格が与えられるのである。―第一レベル。

 普通学級の中で、更に責任ある方法でインテグレーションが行われ、活動的に援助するために、

初等・前期中等教育の教員養成の際の教科および講義時数
教     育 98
心  理  学 168
方  法  論 140
現 職 教 育 112
デンマーク語 140
算     数 140
書     写 42
キリスト教研究 168
美     術 112
音 楽 と 歌 唱 98
体     育 140
裁     縫 112
現代研究(公民) 112
男 女 共 学 49
特 殊 教 科 1 364
特 殊 教 科 2 364
教育専門教科 224
合   計 2,583

 すべての教師は障害児に関する知識が与えられなければならない。

 最近、文部省内の委員会では、すべての養成大学では学生は150授業時間にわたり特殊教育の基礎が指導され、加えて各種教科の分野で実践的指導がなされるよう、勧告している。

 この委員会では、教育専門の教科を履習しなかった教師は、現職教育として関連コースを履習することを提案している。

〔専門的教員養成〕

 専門的教科の履習と2年の実践的経験により障害児の指導を行った教員養成に引き続いて、専門的教員養成が1年半実施される。

 最初の半年間は全般的な特殊教育学が指導されつづく半年間では、言語障害、視覚障害、聴覚障害、運動障害、精神的抑圧、読みの遅れ、そして社会的・情緒的障害の諸領域から二つの専門教科を選び、全般的理論が指導される。特別の分野では特殊コースが必修である。

 研究施設および教育養成の職員は、更に2年間研究が行われ、科学的研究を継続する機会をもつことになる。

〔成人に対する特殊教育〕

 法律上では、18歳以下の児童生徒に対する特殊教育と成人に対する特殊教育とは区別されている。

 教育は治療、改善することかも知れない。即ち援助とか障害の影響を少なくするとか適応をはかること、つまり生徒の障害が出来るだけ教科の学習を妨げないようにする方法で、職業指導を準備することがねらいである。

 成人に対する治療的な特殊教育は郡の責任である。輸送や指導教具を含めた一切の費用は郡により支出されている。このような教育は、特殊教育成人センター―聴覚障害、言語障害、精神薄弱そして社会的、情緒的障害のための部門よりなる―で実施される。しかし、センター外の障害者ホーム、病院、施設などで、個別指導とか小グループの形で実施されることもある。

 私立の教育協会では通信教育を行っている。最低2名の生徒が登録し、協会は有資格の教員を確保すれば、郡は費用を支出する。新設のクラスは5名以上の生徒の登録がなければ設置できない。

 施設での特殊教育は余暇教育法の下で実施され地方教育当局か私立教育協会により管理される。私立教育協会に対する補助金は、各クラスに出席する生徒が5名以上で、新クラスは12名以下の生徒の登録により設立された条件で授与される。

 地方及び国立の成人施設は、必要により特別なニーズに合致させるように設置されなければならないが、このことは寄宿制学校についても同様である。

 職業学校や大学では、障害者のニードの評価に基いて、教育的、医学的、社会的分野により協同して個人的な援助が与えられる。例えば、ろう学生の申し出により、通訳が採用されるし、盲や肢体不自由者には書記的援助が与えられる。

 特別の教育的援助は、障害者や両親に経費を負担させないで生涯にわたって行われる。この経費は、市、郡、もしくは国の財源より準備される。この制度の下で教育される人々の期待を満たすために、医学的、社会的そして教育的努力を統合させなければならない。地方レベルでの調整協力の例として、教育一心理学的助言サービスの組織が挙げられる。(図7)

図7.地域社会における協力プラン

図7.地域社会における協力プラン

 訪問教師は、診断が行われた後、実際的援助が伴ったかを追跡するためにこのサービスに付加している。

 基本的原則としては、該当するサービスを必要としている障害者の家庭と密接に十分な照会と適切な援助を行うことである。(図8)

図8.特殊教育サービス

図8.特殊教育サービス

 最善をつくしたつもりでも、もし地方、郡、国レベルで適切で十分な行政が行われなければ失敗するであろう。そしてそれは学齢前の子どもの場合、特に重要である。将来は、情報はメディアを通して拡まり、印刷物は、特別な教育的取扱いの必要から個人の家庭に送られることになる。

図9.成人及び児童の特殊教育の組織

図9.成人及び児童の特殊教育の組織

 第一次診断後の生徒分布

障害児の特殊学級(1977年)
言語障害児 578人
聴覚障害児 356
読みの遅れ 3,755
全般的な学習困難児 特殊学校 9,969 2,532
普通学校のクラス 7,437
運動障害児 330
精神疾患児 81
視覚障害児 50
観察学校 916
観察学校 592
全日制学校 288
16,915

 

普通学級内で障害児の補助的特殊教育(1977年)
移動言語訓練 12,209
移動聴覚訓練 1,369
移動観察指導 26,701
読みと観察的クリニック及び個別指導 31,051
グループ指導 37,089
108,419

 

障害児のための地域の学校(1977年)
精神薄弱児 約3,500
盲  児 100
ろう児(うち寄宿制学校115) 500
言語障害児 80
運動障害児 110
てんかん 30
読書困難児 80
4,400

これらに対しては、特に言語障害児に対して移動活動を付加している。

特殊教育を受けている生徒の総数

129,734

淑徳大学教授

(出典:I Shov Jφrgensen. Special Education in Denmark. Denmark:Det Danske Selskab, 1979)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1986年3月(第51号)18頁~26頁

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