第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」 健常正常人における求心性筋萎縮、遠心性筋萎縮時の肘関節屈曲力の検討

第16回リハビリテーション世界会議「ポスターセッション」

【医学リハビリテーション】

健常正常人における求心性筋萎縮、遠心性筋萎縮時の肘関節屈曲力の検討

DIFFERENCE IN FLEXION TORQUE MEASURED CONCENTRICALLY AND ECCENTRICALLY USING AN ISOKINETIC DYNAMOMETER

小西敏彦
真野行生**
高柳哲也**
森本茂***

はじめに

 筋収縮には等尺性筋収縮、等張性筋収縮とともにIsokinetic muscular contraction(等運動性筋収縮)があるが、近年人為的に関節屈曲伸展時の角速度を一定にする事により等運動性筋収縮時の筋力の測定が可能となり、動的な筋力の評価が可能となってきた。しかし、等運動性筋収縮時の筋力の検討の多くはconcentric muscular contraction(求心性筋収縮)時の筋力に対するものであり、eccentric muscular contraction(遠心性筋収縮)時の筋力に対する報告は乏しい。

 今回我々は、筋の収縮様式の違いによる筋力の変化を比較検討する目的で、GGT社製GGT3000を用いて健常正常人の求心性筋収縮、遠心性筋収縮時の肘関節屈曲力を測定した。

対象と方法

 対象は健常正常男子9例(平均年齢29.3±8.7歳)で、方法はGGT3000上に仰臥位となりGGT3000のブレースに右前腕を固定し肘関節屈曲、伸展時にブレースとずれの生じないようにした。測定は角速度10、30、60、120度/秒での等運動性筋収縮を行わせ、得られた筋トルク肘関節角度曲線(図1)より10度毎に筋トルク値を計測し、各角速度下での求心性筋収縮、遠心性筋収縮時の筋トルク値および求心性筋収縮時の筋トルク値に対する遠心性筋収縮時の筋トルク値の比を算出した。

 測定範囲は肘関節角度10度から110度とし、測定にあたっては各試行の毎に掛け声をかけ全力をだすように努めさせた。

図1:筋トルク―肘関節角度曲線
角速度30deg/sec下での肘関節屈曲トルクと肘関節角度の関係の一例を示す。縦軸は筋トルク値を、横軸は関節角度をあらわしている。

図1:筋トルク―肘関節角度曲線

結果

 各角速度下での対応する遠心性筋収縮力と求心性筋収縮力の最大筋トルク値の差異を検討したところ(表1)いずれの各角速度下でも遠心性筋収縮力は求心性筋収縮力よりも有意に高値であった(p<0.001)。

表1:各角速度下での最大筋トルク値
各角速度下での9例全例の最大筋トルク値を遠心性筋収縮、求心性筋収縮に分けて示す。危険率0.1%以下で有意な差異が認められた。
TORQUE (Nm)
deg/sec    
10 EMC 34 55 45 52 35 49 40 39 46
CMC 22 35 29 30 15 34 30 20 29
30 EMC 38 55 60 56 39 60 45 28 62
CMC 24 35 35 40 21 37 30 20 32
60 EMC 46 51 60 65 36 58 50 44 53
CMC 22 31 37 31 18 34 31 16 35
120 EMC 34 54 57 65 45 54 47 34 53
CMC 22 29 36 30 20 32 30 18 30

 EMC:Eccentric Muscular Contraction
 CMC:Concentric Muscular Contraction
  *:P<0.001

 遠心性筋収縮時についてのみ検討したところ、各角速度下で生じる9例の最大筋トルク平均値は、遠心性筋収縮時には10―60deg/secまでは角速度の増加とともに最大筋トルク平均値は増加するが、120deg/secでは60deg/secのものより低値をとっていた。統計学的には遠心性筋収縮力では、10と30、120deg/sec間には危険率2%以下、10と60deg/sec間には1%以下で有意な差異が認められた(paired t検定)が、30、60、120deg/sec相互間には有意な差異が認められなかった(図2)。

 求心性筋収縮時には角速度による変動が遠心性筋収縮時ほどに認められず、30と10、120deg/sec間で危険率2%以下で差異が認められたのみであった(図2)。

図2:角速度―求心性筋収縮(CMC)、遠心性筋収縮(EMC)時最大筋トルク値間の関係

9例の各角速度下での最大筋トルクの平均と標準偏差を示す。

EMCでは、10と30、120deg/sec間には危険率2%以下、10と60deg/sec間には1%以下で有意な差異が認められた。

30、60、120deg/sec間相互には有意な差異が認められなかった。

CMCでは30と10、120deg/sec間に有意な差異が認められたのみであった。

図2:角速度―求心性筋収縮(CMC)、遠心性筋収縮(EMC)時最大筋トルク値間の関係

 #EMC:Eccentric Muscular Contraction
  CMC:Concentric Muscular Contraction
   *:P<0.02
  **:P<0.01

 各角速度下での全例の求心性筋収縮時の筋トルク値に対する遠心性筋収縮時の筋トルク値の比の平均値を算出したところ比の値は0.9から2.48の値をとっており、危険率1%以下で10deg/sec時EMC/CMC比と高角速度群の60、120deg/sec時EMC/CMC間に差異が認められたが、60、120deg/sec間では有意な差異が認められなかった(図3)。

図3:角速度と遠心性筋収縮/求心性筋収縮筋トルク比との関係

9例のEMC/CMC平均値と肘関節角度との関係を示す。

各肘関節角度におけるEMC/CMC値は10と60、120deg/sec相互間で全関節角度にわたり有意な差異が認められた。

図3:角速度と遠心性筋収縮/求心性筋収縮筋トルク比との関係

*EMC:Eccentric Muscular Contraction
  CMC:Concentric Muscular Contraction
**:P<0.01

考察

 等運動性筋収縮は1967年にHislop、Perineらにより提唱された概念であるが、近年人為的に関節の角速度を一定にすることにより、等運動性筋収縮時の筋力の測定が可能な機器が開発され、動的な筋力の評価が可能となってきた。しかし、等運動性筋収縮における筋力の検討の多くは求心性筋収縮時の筋力に対するものであり、遠心性筋収縮時の筋力に対する報告は乏しい。遠心性、求心性筋収縮力を比較検討したものでは筋収縮様式の違いにより筋力に差異が生ずることを報告しているが、関節屈曲伸展時の腕長の変化(%arm length/sec)による検討であるため必ずしも等角速度下での検討ではない。

 今回我々が、健常正常人9例の求心性および遠心性筋収縮時の肘関節屈曲力の測定を行ったところ、角速度と最大筋トルク値との関係については遠心性筋収縮においては低角速度の10deg/secと高角速度群の30、60、120deg/sec間で有意な差異が認められたが、高角速度群内では有意な差異が認められなかった。求心性筋収縮力については30deg/secで最も筋トルク値は高値で、10および120deg/secのものと有意な差異が認められた。遠心性筋収縮力と求心性筋収縮力との関係では、いずれの角速度下でも遠心性筋収縮力は求心性筋収縮力よりも有意に増大していた。EMC/CMC比と角速度との関係では10deg/sec時EMC/CMC比と高角速度群の60、120deg/sec時EMC/CMC間に差異が認められたが、60、120deg/sec間では有意な差異が認められなかった。

 従来の報告では求心性筋収縮においては角速度増加とともに筋トルク値が低下し、遠心性筋収縮においては角速度の増加とともに筋トルク値が増大し、force-velocity relationshipは逆S字状となることが述べられている。

 Rodgers等の報告の一部においては、我々と同様に角速度と最大筋トルク値との関係では求心性筋収縮力では角速度変化により筋トルク値は遠心性筋収縮程に有意な変化が認められず、遠心性筋収縮では角速度の増大につれ筋トルク値は増大するが一定の角速度以上では逆に最大筋トルク値が低下し逆S字状とならない結果を示している。

 求心性筋収縮では角速度増加による筋トルク値の変化は乏しく、遠心性筋収縮では上限はあるが角速度増加により筋トルク値は増大し、いずれの角速度下でも遠心性筋収縮時のほうが求心性筋収縮時よりも筋トルク値が高値であったことは、筋伸張による筋紡錘への刺激が関与しているものと考えられる。またヒトの随意的筋収縮中に収縮筋に対して筋伸張をおこす方向に外乱負荷が与えられると、その筋の筋電図上に潜時の異なる3つの筋放電(M1、M2、M3)が認められる。最も短潜時のM1は経脊髄性であり、M2、M3は経皮質性のものであることが知られている。このような反射性サーボ機構は長潜時伸張反射と呼ばれており、関節位置を一定に保つように、またその抵抗に打ち勝って運動を続けるような働きをする。遠心性筋収縮においては随意収縮中に負荷の増大がおこり長潜時伸張反射により、多くの運動単位のrecruitmentが誘起され遠心性筋収縮時のほうが求心性筋収縮時よりも筋トルク値が高値であったものと考えられる。また遠心性筋収縮において角速度増大に伴う筋トルク値に上限の存在したことは、筋収縮に参加できる運動単位の数には上限があるためと考えられた。筋自体についても強縮中のカエルの単一筋線維に一定の伸張を加えることにより収縮張力が増強する機構の存在することが報告されており、遠心性筋収縮時の筋トルク値の増大に関与している可能性が考えられた。

 筋力増強訓練においては、等運動性筋収縮では遠心性筋収縮のほうが求心性筋収縮によるものより増強効果が大きなことが知られているが、今後等運動性筋収縮での遠心性筋収縮時と求心性筋収縮時の筋トルク値の相違の成因を明らかにすることにより、効果的な筋力増強訓練が行えるものと考えられる。

参考文献 略

奈良県立医科大学中央リハビリテーション部
**同神経内科
***奈良県心身障害者リハビリテーションセンター神経内科


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1989年2月(第58・59合併号)15頁~18頁

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