トピックス 第11回世界ろう者会議の勧告

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第11回世界ろう者会議の勧告

 第11回世界ろう者会議の科学委員会は、(1)医学・聴覚学委員会、(2)心理学・精神医学委員会、(3)教育学委員会、(4)社会・職業・労働問題委員会、(5)芸術・文化委員会、(6)手話委員会、(7)通訳委員会、(8)精神的ケア委員会、(9)補助機器委員会が設けられ、活発な討議が行われた。

 それぞれの科学委員会で出された勧告は以下の通りである。この勧告は、4年後のオーストリアで開かれる第12回会議で評価されよう。

1.医学・聴覚学委員会

1.WFD(World Federation of the Deaf)は、常に充分な情報を持ち、ろう者にとって重要な医療領域に対して、影響力を駆使しなければならない。最も重要なのは次の2点である。

 a)内耳蝸牛移植

 b)遺伝とろう(聾)

 WFDは、この2点について討議し、合意に達しなければならない。しかし、医療専門家にろう者らの意見を知らせることもきわめて重要である。WFDは、国際FNTと言語病理学会に代表者を派遣するとともに、この2つの事柄に関する記事を医学雑誌に掲載するよう努めるべきである。

2.ろう者向けの公共医療施設を改善しなければならない。ろう者は病院、診療所などの公共医療施設に出入りすべきだが、医師やスタッフも通訳の活用方法を知らなければならない。医大その他の医療教育機関へのろう者の入学を促進すべきである。これは、医療分野におけるろう者の労働人口を増やすためにも必要な措置である。

3.医大におけるろう教育を改善しなければならない。また、ろう教育にはろう者の指導者/教師を関与させるべきである。

4.HIV/AIDSに関して、ろう者向けの社会教育プログラムを開発しなければならない。この作業には、ろう者の指導者を関与させるべきである。

2.心理学・精神医学委員会

1.WHOが発展途上国内での精神衛生のニーズを評定するための特殊部門を設立することを要請するため、WFDがWHOと話し合うことを、勧告する。

2.WFDは、全加盟国で、子どもが「ろう」と発見された時点で、ろう児の親に心理的カウンセリングをWHOが勧告するように説得すべきである。

3.WFDがWHOにろうの発見、精神衛生、ろう者にとって適当なコミュニケーション手段である手話に関心のある専門家の教育プログラムを設置すべきであると勧告する。

3.教育学委員会

1.各々の教育行政局が、議会にろうの代表者が出席できるようにし、その議会中に行政側負担で通訳の保障を提供すること。

2.WFD会議に参加するだけの余裕のない発展途上国のろう協会と協力しあい、助成する方法を検索すること。

3.国際ろう教育会議(ICED)を、WFDの教育学委員会と関連あるものとして、その役割を明確にすること。

4.ろうやその他の障害者教育10カ年を国連に提案すること。

5.自国の人たちや教育者たちを、教育学的ニーズやろうの実態に応じて教育することのできるろうの指導者を養成するセミナーの設立にむけて、WFDが資金面で運動すること。

6.就学前の健聴児向けの手話やろう文化についての教育プログラムを作成するよう働きかけること。

7.国際難聴者連盟に、ろう者や手話にさらに興味をもってもらい、共に活動できるように働きかけること。

8.ろう者やコミュニケーションのアクセスの必要性について自覚や理解が生まれるように、国連、ユネスコ、ILO、WHO、その他世界的組織との確固たるコミュニケーションを作ること。

9.全ての国における教育行政局向けのろう教育についての包括的なマニュアルを、WFDが作り上げること。

4.社会・職業・労働委員会

 先進国でさえ、健聴と比べて、ろう者の失業率がかなり高いという報告が多数あった。開発途上国ではさらに悪化すると考えられる。

 WFDが加盟国全てを調整し、どの位ろう者が失業しているか、その原因を調べて、深刻なこの失業問題の解決にあたることを勧告する。

 各国でろう者が教育を受け、就職するために、どのような援助が必要かについて話しあうために、WFDがILOと接触をとることを勧告する。教育、職業訓練および就職はろう者の人権のうちに入れるべきである。

 重複障害をもつろう者が、一般社会やろう者の社会にとけこめるように、最善の解決を見出すために、さらに研究をすすめ、訓練プログラムを設定する必要がある。

 WFDが、この分野の発展を綿密に追跡し、加盟国のろう団体に重複障害を持つ人たちに対する責任を負うようにすすめることを勧告する。

5.芸術文化委員会

1.ろう者としての自覚とろう者の文化

 各国のろう団体が、ろう者がろう社会とろう者文化を理解し認識するように運動をすすめることを勧告する。自分のアイデンティティを理解することしか自立心を高めることはできない。もうひとつの重要課題は、ろうのリーダーを支援し、リーダーの養成プログラムを企画することである。

2.文化活動における平等

 ろう者が文化芸術活動を行う可能性を保障しなければならない。ろう者の芸術文化の独自性をアッピールするのは、ろう者による文化組織が最適である。文化活動のためその組織に対して国が援助すべきだと勧告する。

 ろう者の文化活動のため、同時に健聴社会にも適用する芸術文化であれば、援助を受けるべきである。ろう者の芸術文化活動に新たな手話通訳の設置派遣、および映画とテレビ番組に字幕を付けることを勧告する。ろう者の芸術文化の推進、および手話についての情報とその普及にビデオがすばらしい効力を発揮する。ビデオ制作の推進のために著作権に関する法律の制限を除外するように努力しなければならない。

3.一般社会の意識変化

 ろう者の社会、その文化そして問題などを広く知ってもらうことが重要であるというのが当委員会の考えである。一般の人々がろう者のことをもっとよくわかるようになると、ろう者がより自立でき、誤解、偏見などがなくなって、健聴者となかよくやっていけるだろう。

4.養成プログラム

 ろう者を対象にした演劇や芸術における養成プログラムを展開することである。さまざまな芸術分野やメディアにおけるろうのプロデューサーや指導者をもっと増やす必要がある。

5.文化支援に必要な専門家

 WFDが、ろう者による文化組織、芸術家や芸術グループを支援する専門家と文化使節を任命することを勧告する。

 第3世界のろう者への支援対策を最優先事項とすることであり、すべてその国々の独自文化に基づいたものでなければならない。

6.手話委員会

1.WFDが手話や世界中の手話を使う権利に対する認識を呼びかけることを、我々は勧告する。

A.これは、各政府に対して、ろう者が自国固有の言語のひとつとして使う手話に対する公的な認識を持つことを提案する(すでに無効となっていても)。

B.これは、各国政府に対して、ろう者が手話を第一言語、日常の言葉として使用するのをいまだに妨げるものを廃止することを要請するものである。

2.ろう児が早いうちから充分に手話に浸かるという権利、読み書きに関してバイリンガル的ないしはマルチリンガル的(二言語的ないしは多言語的)に教育を受けるという権利を、WFDが呼びかけるよう、我々は勧告する。

A.手話はろう児の第一言語として認識され利用されるべきである。

B.ろう児は教育を受ける権利を持っており、特に読み書きについては、バイリンガル(あるいはマルチリンガル)の環境にいる。

C.手話指導プログラムを、ろう児と協同して両親や専門家向けに作り、さらに発展させるべきである。

D.ろう学校の教師は、その国の手話を第一言語として学び、使用することが望まれる。

E.上記のA~Dが実現するために、自国の手話は学科としてろう学生のプログラムやろう学校教員養成プログラムも含む、ろう者のプログラムのカリキュラム内に含まれるべきである。

3.その国の手話の研究に対する政府のサポートを実質的に強め、加えてそれぞれのレベルにおいて手話を使いこなせるろう児が顕著に増えるよう、WFDが呼びかけることを勧告する。

A.手話研究は、各国の大学、研究所、教育機関で始められるべきである。

B.ろう者は本来手話を使いこなせるものであるため、ろう者とその国のろう協会がその研究、普及に密接に関わるべきである。

C.研究結果は、国内のろう協会、ろう者に彼らの言語の研究について情報を与える他の機関を通して、世界中のろう者に広めるべきである。

D.手話研究の成果は、手話指導、通訳者養成、両親や専門家指導の手引きに使われるべきである。これらの目的を持った指導、養成プログラムは、指導、養成研究と結び付けるようにすべきである。

4.各国で、手話指導をしっかりと広めるようにWFDが呼びかけることを勧告する。

A.手話指導に関するプログラムは以下の人たち全てにとって有効でなくてはならない。

 (a)ろう児と関係するもの、友人

 (b)ろう児、ろう成年にかかわっている専門家全員

 (c)手話の知識を持たないろう者

 (d)読唇ができない中途失聴・高度難聴者

B.手話学習指導を広めるプログラムは、上記の人たち、すべてのろう児、ろう青年、ろう学校教師にとっても有効なものでなくてはならない。

 手話学習カリキュラムは、その国固有の手話の構造、その手話が使われているデフ・コミュニティの文化の学習も含めるべきである。

C.学習プログラムは、手話指導者にも有効なものであり、手話指導学習や手話研究のより学問的な学習も含むべきである。

D.盲ろう者向けにも特別なプログラムが提供されるべきである。

E.上記のプログラム全部は、まず初めに、プログラムの学術的性質を高めるために、その国のろう団体との協力関係を作るべきである。この協力、管理は、その国の慣例に応じて、政府・非政府的組織と共になされねばならない。

5.ろう者は、健聴者コミュニケーションでの話し言葉とデフ・コミュニティでの手話の間の質の高い通訳を受ける権利を持っているということを、WFDが呼びかけることを勧告する。

A.認めるべきなのは、手話通訳者は、ろう者が自分たちの住んでいる広いコミュニティでの施設、サービス、情報を受ける基本的な手段であるということである。よって、手話通訳者というのは、あらゆる社会にいる健聴者同様に、ろう者も平等に機会を受けるための重大な機関なのである。

B.手話と音声言語を通訳するということは、ふたつの異なる言語を充分に通訳することである。

C.上記A・Bを満たすために、手話通訳者は質の高い技術を持つ専門家であるべきであり、広範囲にわたる訓練、広範囲にわたり充分に資金のある雇用機関が必要となる。

6.WFDが、手話を通しての広義での有効なメディアを政府がサポートするよう呼びかけることを勧告する。

A.放送局はテレビニュースの番組、政治番組、そして可能であれば文化あるいは一般教養番組のうちのひとつに手話通訳をつけるべきである。

B.放送当局は、ろう青年、ろう児向けの手話番組、一般人向けの手話学習番組を作るべきである。

C.A.B.にあるのと同じようなタイプの文書(例:新聞、ニュースや政治資料、広報)を、手話に置き換え、ビデオ化できるようにすべきである。

D.手話がついている(例:手話物語、ドラマ、詩)、または手話に関する(例:デフ・コミュニティ向けの手話の情報資料あるいは、手話指導に使われる資料)テレビ、ビデオ、フィルム、本の普及のために、資金サポートがなされるべきである。

7.通訳委員会

 WFDは、以下のことを確立し、向上をめざす各国の試みを奨励しサポートせねばならない。

(a)通訳者養成プログラム

(b)通訳技術の評定

(c)通訳者にとって働きやすい条件

(d)指導・実践のきまり

 加えて、手話通訳を行う通訳者が繰り返して動かす手、腕、肩にさまざまな種類の炎症が生じるという頸腕障害について、また多くの手話通訳者のために、いかにこの問題を解決し、あるいは防止するかについて、各国が理解するようにWFDに働きかけを願いたい。

 以下のことを含む通訳サービスのための更なる準備を、WFDに至急行っていただきたい。

(a)音声通訳

・ある音声言語を別の音声言語に、またその逆に、通訳する

(b)手話通訳

・話し言葉からその国の手話、またその逆に通訳する

(c)ジェスチューノ/国際手話通訳

・ジェスチューノ/国際手話で自分の通訳者を持たぬ各国の人たちのために通訳する

8.精神的ケア委員会

 これらの提言の基盤となるものは、国連世界人権宣言第18条である。

1.帰属したい宗教(宗派)を選択し、自身の母国語での手話による、彼らの信仰に添った指示を得られる権利を有する。宗教界はろう者をグループの一員として受け入れ、ろう者にもそのサービスが入手可能なものであることを保障すること。

2.帰属する宗教グループにおいて、平等な機能(役割)を果たす権利を有する。宗教グループは、手話ならびにその他の視覚的手段を講じてサービスを提供しなくてはならない。ろう者はまた、グループ内にて、自分たち自身のグループ活動を行なう権利を有する。

3.帰属する宗教グループの運営に参加し、(役員等の)空席を埋める権利を有する。ろうであることを根拠に積極的な関与の機会が制限されるようなことがあってはならない。

4.宗教の祭礼時に、ろう者自身の独自の文化の形態(手話、マイム、視覚的な活動)ならびに関連する芸術的表現方法につき、認知される権利を有する。視覚に訴えるろう者の表現方法は、健聴者の宗教儀式を豊かなものにすることができる。

9.補助機器委員会

1.文字電話

 コミュニケーションを促進するために、文字電話の通信回路すなわち交信コードの標準化を推進する活動を強化するべきである。この際、日本、ヨーロッパ、アメリカ等で現在稼働中のシステムを基礎とすべきである。このために、国際的な作業委員会を設置し、国際通信連合、国連および関連標準化組織との緊密な協力の下に作業を進めるべきである。当面の間は、通信変換装置を既存の機器に接続することによって互換性を確保するものとするが、そのための費用は電話事業者または政府の負担によるものとし、余分の負担を利用者にかけるべきではない。

2.ビデオテックス

 情報検索および通信のためのデータベースの利用を奨励すべきである。この際、ろう者、盲ろう者、聴覚障害者、言語障害者がアクセスできるよう特別な配慮が必要である。端末には、文字電話との互換性を確保すべきである。

3.テレビ電話

 テレビ電話の研究開発、試行、評価にあたっては、ろう者、難聴者の利益となるよう配慮する必要がある。これらの結果を可能な限り速やかに利用して、関心あるグループに導入することを推進すべきである。

4.字幕

 録画番組やビデオテープのみならず、テレビの生番組の字幕放送が促進されるべきである。字幕コードの国際的な標準化の可能性についても研究すべきであり、このための国際的作業委員会を設置すべきである。

5.緊急警報システム

 ろう者や難聴者のための警報信号の国際的システムの合意をはかり、その標準化を行うべきである。これはWFDと関連標準化組織の緊密な協力が必要である。

 現在、ヨーロッパや他の諸国で進行中の作業がこのための基礎となる。また、ろう者や難聴者のための個人用警報システムは、現在稼働中のもの、将来開発されるものを問わず、普及が図られるべきである。

6.開発途上国

 発展途上の諸国におけるインフラストラクチュアや通信技術の普及を考慮して、これらの国におけるろう者や難聴者のコミュニケーションを促進するために段階的に対策がとられるべきである。発展途上国の実情を把握し、試行的なプロジェクトを勧告するための調査研究を行い、コミュニケーション技術の発展を推進すべきである。

(文責 編集部)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年11月(第69号)20頁~25頁

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