用語の解説 人工内耳 重症ハイリスク疾患による体力消耗状態(ハイリスク・体力消耗状態)

用語の解説

人工内耳

 人工内耳(Cochlear Implant)は蝸牛障害による聾または高度難聴者に対する聴覚補綴器で、1960年代から臨床応用が試みられ、1980年代に広く実用化された。

 蝸牛は音を分析し、聴神経のインパルスを引き起こす機能を持つが、人工内耳はこの2つの機能を代行するものである。現在使用されている数種類の人工内耳は音を分析するスピーチ・プロセッサと分析に基づいて聴神経を刺激する電極という基本構成ではいずれも同じである。

 現在世界で最も頻用されているコクレア社製の人工内耳について説明しよう。まず電極であるが、これは電磁波を受けて電気パルスを作り各電極に配分するレシーバ・スチミレータと、これに接続し蝸牛に挿入される22本の電極とからなり、側頭骨に埋め込まれる。揚帯用スピーチ・プロセッサはマイクロホン、音声分析、刺激用プログラム(個人毎に最適作動条件の設定可能)、電極用電磁波発振の各回路を内蔵している。

 言語を覚えた後の聾では、2ヵ月のリハビリテーションで、読話併用ではあるが会話可能となる。このとき言語理解上の主役はもちろん人工内耳である。幼児では一般の言語訓練と同じで、早期手術、早期訓練が重要である。

 人工内耳は正常蝸牛に比べ当然不十分な機能ではあるが、社会音は充分に聞き分けられ、また大脳の統語・統辞の活用で会話が可能となるものである。

船坂宗太郎(東京医科大学)

 

重症ハイリスク疾患による体力消耗状態(ハイリスク・体力消耗状態)

 疾患レベルと障害レベルの特徴の二重規定からなる概念である。すなわち、疾患レベルの特徴を示す「重症ハイリスク」とはリハ医療の場で従来いわれてきたリスクとは桁違いに高いもので、生命の危険と紙一重ともいうべき高度の危険をはらんだ状態であり、その原因疾患としては、癌や白血病・リンパ腫などの悪性腫瘍、および各種の重症臓器不全が多い。障害レベルの特徴である「体力消耗状態」とは、主たる機能障害が麻痺や拘縮などの運動に直結する障害ではなく、「体力」の著しい低下であることを示す。この体力消耗が主障害ということは、原因疾患自体が運動障害を起こしているのではなく、したがって歩行やADLも必ずしも動作自体ができないというのではなく、体力の著しい低下のために持久力が低下し、疲労が著しく、そのために実生活上では歩行やADLが行えないでいるという状態を指している。

 この「ハイリスク・体力消耗状態」は近年のリハ医療対象患者の(疾病レベルにおける)重症化、(障害レベルにおける)重度化の傾向を最も先鋭に示すものであり、特に大学病院を中心にリハ医療の対象として急激に重要性を増しつつある。

文献 略

(大川弥生/東京大学医学部付属病院)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1991年11月(第69号)35頁

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