特集/アフリカの社会リハビリテーション 障害をもつ人のQOLを高めるために(抄訳)

特集/アフリカの社会リハビリテーション

障害をもつ人のQOLを高めるために(抄訳)

Quality of Life for People with Disability

G.K. Karugu,D.Ed

[要旨]

 本稿では、障害者のQOLに影響を与えている四つの主要要素について発表したい。四つの主要要素とは、「人間としての尊厳(human dignity)」、「社会へのインテグレーション(social integration)」、「仕事(work)」、そして「性的表現(sexual expression)」である。

 「人間としての尊厳」が守られるということは、教育、雇用、住宅、社会的・文化的・政治的活動などの領域において、障害者が自分自身の意志を発揮し、自分自身で選択肢を選択できる機会を与えられるということを意味する。

 「社会へのインテグレーション」とは、障害をもつ人々や障害をもたない人々に関わる諸活動について企画の段階から、障害者も参加するということである。政治活動においても、障害者が政治家になれるようにしなければならない。障害者が政治家に立候補できないと規定している国では、その法律を改正しなければならない。

 「仕事」については、人は誰でも働くことによって生計を立てなければならないということを認識し、人生の現実を本当に実感できるようなサービスを企画する必要がある。働く機会と生計の糧を得る手段が与えられないと障害者は、自分は人間として無価値であり、異常であり、子どものようであり、不用な者でしかないと感じてしまう。

 「性的表現」については、性の関わりによる暖かさ、親密さが、我々人間にとっていかに大きな幸福の源となっているかを認識しなければならない。性的に表現することを禁じられれば、フラストレーションがたまり、人間として精神的にみじめになってしまう。障害者も性的に表現することができ、結婚し、健康で元気な子どもをもつことができるということを、一般市民が認識することが重要である。本稿では、このような側面に関する社会啓蒙が必要であることを訴え、世界中の障害者のQOLを高めるために、我々一人ひとりが貢献できることを確認したい。

人間としての尊厳

 1982年8月、ナイロビで開催された「国際視覚障害者教育協議会会議」の基調講演において、シンガポールのチャンドラン・ダッドレー氏が、「1980年代およびその後の障害者に関わる重要な事項」をまとめて発表したので、その一部をここに紹介したい。

 「障害者は尊厳のある生活を求めている。その他のことはすべて、この目的を達成するための手段にしかすぎない。教育、職業訓練、雇用、医学的リハビリテーション、交通機関、歩行訓練、建築上のアクセス、情報、資料などはすべて、人間としての尊厳のある生活への道程なのである。ここで、「自然な方法(the natural way)」の概念を紹介したい。」

 チャンドラン・ダッドレー氏によれば、現代において個人の尊厳とは、教育、雇用、住宅、社会的・文化的・政治的活動などの各領域において、自分の意志と選択を行使できることや、地域社会の中で家族との生活を送る権利を行使できることを意味する。私はこのことを、人間援助サービスに従事している職員全員にとっての「チャレンジ」であるといいたい。何故ならば、我々従事者は障害者に代わって彼らのために選択をしがちだからである。従って、障害者に関わる決定を下す際には、「障害者とともに決定をしなければならない」ということを、常に肝に銘じていなければならない。

 「人間としての尊厳」とは、障害のあるなしに関わらず、QOLを高めるために考えなければならない基本的な視点である。親、教師、ソーシャルワーカー、ヘルスワーカーやその他のリハビリテーション関係職員が障害者のために何をしようとも、まず第一に「人間としての尊厳」を考えなければならない。チャンドラン・ダッドレー氏は、「自然な方法とは、すべての市民に社会福祉の恩恵をただで提供するという意味ではない」といっている。障害をもたない市民に提供されるサービス、すなわち、教育、訓練、保健サービス、経済活動、雇用などのサービスが、障害をもつすべての市民に提供されなければならないことを意味する。このような活動の中で「人間としての尊厳」が実現されるのだということを、私は主張したいのである。

社会へのインテグレーション

 人間としての尊厳を高めるためには、社会のメインストリームの中に障害者をインテグレートすることが非常に重要である。障害者に提供されるサービスは、障害をもたない市民がそのサービスを受けるのと同じ場所で提供されなければならない。数多くの先進諸国ではインテグレーション教育がかなり実施されているが、発展途上国では、まだほんの一部分でしか実施されていない。インテグレーションを成功させるには、障害者があらゆる生活の場面に参加できるように、社会の側が受け入れ態勢を整えなければならない。

 まず最初に重要なことは、企画の段階に障害者自身が参加することである。障害者とともにするということが大切なのであり、障害者のためにという姿勢は必ずしも良いわけではない。リハビリテーションの最終的目標は個人の自立を達成することであり、地域社会のただ中で生活することであり、サービスの受給者であるだけでなく、地域社会のニーズやサービスへの提供者ともなることである。例えば、障害者が学校の委員会などに役員として選出・任命されることなどが、いい方法ではないだろうか。しかしケニアでは、障害者は議員になることができないという法律があり、これらの改正が緊急に必要とされる。私自身の友人である盲人が議員選挙に出ることが阻まれているのである。彼は最近は非政府機関の職員となっているが、将来、政治家になる夢を実現したいと思い続けている。

仕事

 障害者のQOLを高めるために重要な三番目の要素は、成人になった時に人生の現実を教えることではないだろうか。生活の糧を得るために働かなければならないことに直面する時に、人生の現実を実感できるのである。人間のQOLに非常に大きな影響を与える要素として、「仕事」を取り上げたい。私のカナダ人の師であるヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger)は、次のようにいっている。「知的、身体的または情緒的障害をもつ多くの障害者にとって、働くことは彼らの人生の中心的課題となっている。仕事がなければ、彼らは自分たちの存在に意味を見出すことはできないだろうし、役立たずで、正常ではなく子どもっぽく見捨てられた存在であると感じるだろう。」と(『ノーマライゼーション』中園・清水訳、学苑社、1982.240頁参照)。

 障害者でなくても、仕事がない状態が数ヵ月続けば意欲がなくなり、価値がないように感じ、人生に対して前向きの姿勢をもてなくなることが研究によって実証されている。従って、障害者には教育やリハビリテーションと同時に職業訓練を受ける機会が与えられ、一般雇用や自営業を営めるようにしなければならない。我々が自分に価値があると思えるのは働いている時であり、それによってQOLが向上するのである。

性的表現

 最後に重要な要素は、「性的表現」である。人間としての欲求を実現するためには、障害をもっていようと障害がなかろうと、自分自身を性的に表現できなければならない。異性間の性、同性間の性、この二つを混合したかたちの性など、多様な性のかたちがある。障害者は法の下でも、神の下でも、障害をもたない人と平等でなければならないし、経済生活の面でも、性の表現においても、平等なパートナーとしてみなされなければならない。

 1987年に筆者は、障害者の親に対して、性的に表現できるような教育をしなければならないと提言した。性的表現や、性のもつ暖かさ、性による人間としての親密さは、我々にとっても大きな「幸福の源」であるといわれており、性に関してフラストレーションがたまれば、人間としてみじめな状況になる。障害者の親や地域社会の人々は、障害者が性的に表現すると不安になり、それを認め難いような反応をしがちである。ケニアでは障害をもつ男性の多くが障害のない女性と結婚し、幸せな生活を送っている。しかし残念ながら、障害をもつ女性の結婚率は非常に低い状況である。

 リハビリテーションの分野に働く多くの者たちが、次のようにいっている。

 「障害者にとっては、性の問題は身体的不自由と複合して、困難な問題となっているが、異性の側や社会の人々の理解、想像力、忍耐によって克服できる課題である。周囲の人々の無理解により、障害者自身が性をもつ存在でないような態度を取るようになっている。障害があろうとなかろうと、適切な援助と配慮があれば、一人ひとりのニーズをもっと敏感に理解できるようになり、性の営みにおいては、「障害をもつ者」はいなくなるはずである。」

 従って、障害者も異性との関係をもち、結婚し、健康で元気な子どもを産めるのだということを、社会の人々が理解することが重要なのである。遺伝的素因による障害をもつ者に対しては、子どもをもつかどうかについて、遺伝相談を受けられる場を用意しなければならない。一般の家庭で子どもに恵まれない場合に、養子縁組をして子どもをもつように、遺伝的素因のある障害をもつ夫婦の場合は、子どもを養子縁組によってもつ方法があるであろう。

 世界中のすべての障害者のQOLを高めるために、我々一人ひとりが何らかの貢献ができるように頑張ろうではありませんか。

(抄訳 奥野英子)

ケニヤッタ大学教育心理学部教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年3月(第75号)13頁~15頁

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